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安倍首相は、最悪の選択をしてしまったのか(日本雑誌協会代表撮影)
安倍首相は、解散をするべきではなかった 「負けない戦い」の目論見が外れるとき
http://toyokeizai.net/articles/-/53917
2014年11月20日 小幡 績:慶應義塾大学准教授 現代ビジネス
解散はするべきではなかった。
なぜか?安倍首相自身にとって、最悪だからだ。
■安倍首相は行くところまで、行くしかない
万全を期すれば、結果は破滅となる。例えば、競馬で馬券を買うときに、来る可能性のある馬をすべて網羅的に買ってしまうと、どの馬が来ても儲からない。当たっても配当は買った額よりも少なくなるから、万全のギャンブルとは破滅あるいは勝つ可能性ゼロとなるのである。波で言えば、最大限まで高くなれば、あとは崩れるしかない。バブルの理屈と同じだ。
同時に、バブルの理屈で言えば、いったん膨らみ始めれば、あとははじけるだけであって、はじけないようにするには、現状維持では駄目で(それは即時の破裂となる)、膨らみ続けるしかない。
金融バブルへの政策的対応としては、そのスピードと上昇幅を制御し、他の領域にバブルが移転しないようにし、そして崩壊に備えるということだが、政権の人気というのは、なかなか制御手段が限られていて、いったん人気が膨らんでしまえば、崩壊するのを防ぐためには、行くところまで行くしかなくなる。それが、今回の解散だ。
金融市場と同じで、首相ですら、人々の期待がコントロールできないばかりでなく、政権内、党内の期待値すらコントロールできなくなり、自分の意思では自分の動きですら決められなくなる。安定した場所に収まるわけにはいかなくなるのだ。
バブルも一度始まれば、その中にいる投資家はもう逃げる道はない。とことん、効率的に儲けて、崩壊しても差し引きプラスとなるように、十二分に儲けることしかない。
このコラムは政治分析ではないから、解散が安倍政権にとって損得があるのか、どういう背後関係で解散することに追い込まれたのか、ということは議論しない。単に、解散により、安倍政権とアベノミクスバブルが最後の膨張を目指し、それに成功しても失敗してもバブル崩壊を早めるだけであることを指摘するにとどめる。
選挙に圧勝すれば、解散に追い込んだ側は、自滅するか、分裂、離脱するしかない。一方、負ければ、当然、これまでの人気上昇は支持率の急落となって返ってくる。そしてバブルは普通に崩壊する。
しかし、社会の群集心理の分析として興味深いのは、ここに、GDP成長率が予想外に2期連続マイナスとなった瞬間に解散することとなったことだ。これは事態をどのように変えるのか。
当初は、「増税延期の是非を問う選挙」という打ち出し方だった。多くの国民は消費税8%の引き上げにある程度の痛みを感じているから、それに反対する理由はない。だから、選挙に負ける可能性はなかった。
■「景気後退」で、増税延期が「ふつうの出来事」に
増税延期は無責任だとか、財政が、というのは、他人事としてはそうだが、自分の家計やレジの前で消費税を上乗せされたときの意外な最終支払額の膨らみように毎日直面していれば、増税は無責任だとして絶対反対するのは難しい。
つまり、中途半端な八方美人の民主党政権と違って、徹底したポピュリズムにより勝利を収め続けてきた安倍政権戦術としては、今回も負けのない戦いを仕掛けてきた、あるいは、そのつもりだったのだ。予想通り、民主党はこれに反対できず、争点のない選挙になり、解散をわざわざする大義がない、政局遊びだといういかにも野党的な負け犬の理論で反論するしかないところに追い込まれていた。
しかし、GDP成長率がいまいちなのではなく、マイナスとなれば、景気循環の定義的には景気後退となり、景気動向により増税時期の判断を変えるという考え方ならば(個人的には、消費税増税の時期を景気判断と連動すべきでないと考えているが)、ここで増税を延期するという判断は当然あり得る。だから、増税延期自体は「ふつうの出来事」となったのだ。
「ふつうの出来事」を普通でない重大事件と位置づけるため、重大事件とは、実際に起きた「GDPのマイナス」という事件ではなく、増税延期という行為自体である、とした。増税を延期することを税制の大きな変更として、議会なくして課税なし、という文言を持ち出したのである。
これは群集心理を動かす。
まず、人々は戸惑う。増税する、という行為に対して、議会なくして課税なし、なのであるから、課税なしなら議会なし、なくてもいい、となるのではないか、と思う。
さらに、混乱するのは、1年半の延期は確定で、3年後には、必ず課税をする、増税をするという。それなら、単なる1年半の延期であり、課税でも課税なしでもなく、わずかな先送りに過ぎない。社会保障改革の先送りはかれこれ20年以上続いているが、1年半、そして必ず課税するのであれば、たいした先送りですらなく、重大事件どころか、出来事ですらないのではないか。これが人々の印象だ。だから、何が起こったのか狐につつまれたようになる。
このとき、エコノミスト的な、3年後の増税には景気条項がないから、どんなに景気が悪くても延期しないのか、それならば、いま延期するのは、今後想定される中で、景気が最悪の状況だからということになり、足元は最悪でアベノミクス失敗という議論になるのか、という理屈っぽい議論は関係ない。
■疎外感を感じた人々が動き出す
人々は、何も起きてないが、選挙は起きるのだな、と思う。
そして、メディアが解散の大義云々、野党がそれを政局のためだけだと非難し、与党は国民の声を聞くことが重要だと叫ぶ。人々は疎外感に陥る。われわれと政治、選挙は関係ないのだなと。
大義のない選挙をする与党は許せん、と息巻くのは、政治好きな有権者であり、そのような人々はもともと群集心理で動かず、政治について自分の立場がある。今回分析する群衆有権者は、そのような人々とは全く違った発想、いや心理に陥る。
ここで、「だから投票率は下がり、各党の構造から行くと・・」、という分析をし始めるのは選挙アナリストで、プロの罠にはまっている。群衆はもっと曖昧で気まぐれで、しかし、必ず動くのだ。
そう。バブルと同じで、群衆は動き始めれば動き続けるのだ。止まっている群衆は止まり続け、それを動かすには、大きなショックが必要だ。それが大恐慌時にケインズが主張したことであり、2012年末に、アベノミクスが起こしたことなのだ。
それが2012年の解散総選挙にも当てはまった。つまり、群衆は動き始めたのであり、動き始めた群衆は止まることを嫌う、というか、止まっては後ろからの群衆につぶされてしまうから、動き続けるしかないのだ。だから、今度も動くだろう。
問題は、狐に包まれたまま、動き続けるとなるとどうなるのか。まったく予想不可能な状態に陥る。それはカオスとなるか、あるいは、逆に予測不可能だか、結果としては、気まぐれな、しかし強い流れができることになろう。
気まぐれな強い流れは、アベノミクスをもう一度、2年前と同様に爆発的に成功させるであろうか。それは難しい。なぜなら、一度膨らんだバブルと同じで、いったん狐につままれ止まった心理は、同じ方向にさらに爆発的に進む、ということは確率が非常に低いからだ。
■安倍首相は、現局面を相当不利だと認識している?
バブルが踊り場に入り、そこからもう一度同じ上方向に爆発することはあるが、それは、バブルの最後の急膨張であり、破裂を早めるだけである。そのときは、一部の過激な人々がバブルに残り続けるのであり、大多数は置いて行かれる状態になる。
同様に、今回、人々の心理に急上昇が起これば、それは一部の極端なグループの行動に過ぎず、多数派の凡人は置いて行かれるだろう。そしてバブルは崩壊するのである。したがって、流れは反転あるいは別方向に行くことになろう。現在の政治環境から見ると、それを受け止める野党は存在せず、安倍政権にも野党にも向かわないとなると、流れはできないことになる。そうなると、やはり、カオスとなる、という確率が高いだろう。
政治家たちは政治のプロであり、選挙のプロであるから、これをあえて仕掛けたということは、このくらいのストーリーは読んでいることになる。そうなると、今回の仕掛けは、小泉郵政解散のように、2段ロケットを狙ったものだ、という政治のプロの解釈もあり得るが、一方で、カオスとなることを狙ったものだ、という説も有力説となる。
後者の戦術はあり得る高等戦術だ。将棋でも、少し不利な局面に陥り、このまま普通に指していくと、プロ同士であるから、確実に負けるということがわかれば、あえて局面を複雑にし、紛れが生じるのを誘う、ということはよくある。今回、支持率が下がってきたので、下がりきる前に解散に打って出るという解釈は、これと共通する考え方である。
しかし、そうだとすると、現局面を相当不利な局面だと認識していることになる。ダメージコントロールとして、カオスにするのは最終手段だからだ。
狐につつまれた群衆を誘導するためであろうか。安倍首相の演説では、解散の理由は、いつの間にか、増税延期の是非から、アベノミクスをこのまま続けていいかどうか、ということに変わっていった。
そこで演説を締めくくったことにより、いざ解散、争点はアベノミクス、と自ら打ち出したのである。増税延期の理論、実は黒田日銀追加緩和も同じ理屈なのだが、現行の経済政策は成功している、経済は基本的に問題はない、しかし、ちょっとだけ黒い雲(蜘蛛?)が出てきたから(原油下落によるインフレ率低下、あるいはGDP増加率マイナス)、万全を期すために、デフレマインド脱却を完全に達成するために、ダメ押しのために、追加緩和、増税延期が必要なのだ、というロジックだったはずだ。
それなら、アベノミクスを続けていいか、と問う必要はない。2年前、4年間の任期の衆議院議員を選ぶ選挙で勝ったのだから、そして、それが、政権運営を任された首相がうまくいっているとおもっているのだから、一部の小さい不安、問題に対処するなら、国民に問うことなく、手早く速やかに掃除をすればいいだけのことなのだ。
■2段ロケットを狙ったのか、カオス戦術なのか
こう考えると、私の思考もカオスに陥ってしまうが、やはり、郵政解散のような2段ロケットを狙ったか、局面が相当不利と読んでカオス戦術に出たか、どちらかとなる。
ただ、前者を狙ったとしても、それが実現する確率は低いのではないか。なぜなら、消費税率引き上げの判断を行うための有識者会合では、経済の専門家たちは、いわゆるアベノミクスブレーンと呼ばれる人たちだけが先送りを強く支持し、普通の専門家たちは、増税は延期するべきでないと言ったのだ。そして、前者のグループこそ、アベノミクスが大成功していると主張している人々で、消費税だけが悪いという主張なのだ。
株式市場であれば、この一部の強気の人々が、最後のバブルを作るところであるが、群衆誘導ではそうはいかない。群衆は置いて行かれる場なのであり、行き場に困って戸惑うしかない。
これが選挙中、選挙後の姿となろう。この結果、景気対策の打ち出しに反応して、株式市場は乱高下する展開となるが、実体経済は混乱した流れとなり、景気刺激策の部分を除けばマイナスの影響がもたらされるのではないか。
そして、カオスとは不透明性であり、将来不安ということにもなり、実は、この20年のデフレマインドの根源的な理由であった将来の不透明性、つまり、政治、社会保障制度、雇用、期待生涯所得などにたいする不透明性を、もう一度復活させることになる。
せっかくアベノミクスによるデフレマインド脱却という呪文により、人々の不安を一掃したのに、自ら不安を復活させる戦術に打って出たのは、やはり理解できない。カオス戦術は、私の思考をカオスにすることだけには成功したが、群衆は私ほど素直であるかどうかはわからない。
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