01. 2014年11月18日 06:39:09
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【第523回】 2014年11月18日 松井雅博[現役国会議員政策担当秘書] 解散総選挙!「正しい選択」のために押さえたい 永田町に蔓延る政治“屋”ビジネスモデルの全貌 ――松井雅博・現役国会議員政策担当秘書 突然の解散総選挙は 不祥事の「ミソギ」か? 解散総選挙の憶測が流れたのが11月11日。そこから「解散風」が吹き始め、永田町の空気は一変した。 自公政権の言う選挙の大義は「消費増税の先送りについて信を問う」だが、筆者にはまるで、内閣改造して以来続いた政治とカネの問題を洗い流すことが目的のような気さえする。 二人の女性大臣が辞任した後、次々と閣僚たちから不祥事が発覚した。小渕優子議員の後任として経済産業大臣に就任した宮沢洋一・参議院議員は、自身の収支報告書にSMバーへの支払いがあったことが明らかになった。望月義夫環境大臣は10月27日の24時、真夜中に突然記者会見を開き、自身の収支報告書に記載されたゴルフ大会などの収支が合わない点について謝罪し、「経理を担当していた亡き妻のミス」と釈明した。江渡聡徳防衛大臣は、法律で禁止されている政党交付金から本人への寄附を行っていたとして追及された。 次々と発覚する閣僚の不祥事に、うんざりしていた有権者も多いと思う。冷静になって振り返ってみれば、「政治とカネ」が騒がれるのは今に始まったことではない。民主党の小沢一郎元代表、自民党の橋本龍太郎元総理大臣、非自民8党連立で戦後初めて政権交代を実現した細川護煕元総理大臣、リクルート事件にロッキード事件、と数々の大物政治家が「政治とカネ」の問題で表舞台を去って行った。 しかし、なぜ有権者は、「政治とカネ」の問題でがっかりさせられる政治家を国会へ送り出してしまうのだろうか。 筆者はマッキンゼーでコンサルタントとして働いた後、国会議員政策担当秘書として政治の世界へ飛び込んだ。与野党の国会議員事務所で働き始めて早二年以上。政治の現場や裏側を見た経験から、「政治とカネ」の不祥事を起こす政治家たちには共通項があると確信している。それは、彼らは「政治家のビジネスモデル」ではなく「政治“屋”のビジネスモデル」を確立している。そして、その“事業”の綻びが、不祥事として表出するのだ。 「政治家はみんな悪いことをしている。だから、選挙なんて馬鹿らしくて行かない」というのは思考停止であり、有権者としての義務を放棄していると思う。 総選挙を前にした今、「政治“屋”」を選ばないために、「政治“屋”のビジネスモデル」を解説し、本来あるべき「政治家のビジネスモデル」との違いを明らかにしたいと思う。 政治家の本来の仕事は何か 政治理念を提供する「サービス業」 「政治家の仕事とは何か――」 どれほどの有権者がこの問いに答えられるだろうか。政治家と言えば、朝、駅前で中身の無い話に自分の名前を付け加え、連呼している人――。そんな姿を見かけるたび、「あの人たちの仕事って何なんだろう」と感じる方は、正常な感覚の持ち主だと筆者は思う。 政治家という職業をビジネスの世界に当てはめると、業種は「サービス業」に分類されるだろう。「国をこうしたい」「この地域はこうあるべきだ」という政治理念に基づき、具体的な政策を「商品」として、「顧客」である主権者(有権者や選挙区外の人、未成年者などの選挙権が無い人も含む)に提供する。その対価として、政治家は税金によって歳費を受ける。 その政策は、政治家だけが作り出すものではない。政策を考えるために必要なさまざまな情報を提供してくる人や企業、団体がおり、その情報をもとに最適な政策を考える。政治家に情報提供することを一般的に「ロビー活動」と言ったりする。たとえば、エネルギー政策を考える際には電力会社や経済産業省の官僚、大学教授やNPOなどの団体などがそれにあたる。 ビジネスの世界にこの構図を当てはめて考えると、政治家にとって情報提供者は、政策という「商品」を考えるのに必要な「サプライヤー」だ。当然だが、「サプライヤー」と言っても、政治家は情報を買うことはしない。だが、自分にロビー活動をしてきた人や団体には、対価として、一般では得にくい情報を提供したり、いろいろと有利になるように計らったりする。つまり、便宜を図るということだ。 政治家を保有しているのは、有権者である。政治家はビジネスの世界と同じように、定期的に自分が行ってきた成果を説明し、投票という形で「投資」をしていただかなければならない。ビジネスの世界では株主総会で経営陣が株主から経営を付託されるのを同じだ。そういう意味では、政治家にとって有権者は政治を付託する「株主」なのである。 もし政治家が票を得られないということは、民間企業で言えば経営者失格を意味しており、落選という形で責任をとる。 これが、大雑把ではあるが、政治家の仕事である。ただ、ここにはいくつか欠陥がある。最大の問題は、政治家は「顧客」(主権者)よりも「株主」(有権者)を重視してしまいやすいという点だ。 政治家に対して支払われる歳費の原資は、顧客が強制的に徴収される「税」によって支払われる。強制的に税として徴収されるため、顧客は政治家が考え、提供する「商品」(政策)を選択する自由が無い。つまり、自らが希望していない「商品」(政策)を提供されてしまう顧客(主権者)が、必ず一定数存在するということだ。したがって、政治家は「商品」(政策)の質に関わらず、とりあえず「株主対策」(有権者対策)だけしておけば、とりあえず「経営」(任期をまっとうする)を続けることができることになる。 筆者の言う「政治“屋”」の代表的な特徴が、この「商品」(政策)の質に関わらず、とりあえず「経営」している点だ。「政治“屋”」は、ほぼ間違いなくこの発想を持っている。 政治“屋”にとっては 政策なんてどうでもいい 日本には選挙があり、そんな「政治“屋”」を株主たる有権者が黙って見過ごすはずがないと思うかもしれない。だが、ここもうまく機能しない。 なぜなら、昨今の日本は投票率も低く、社会全体の政治に対する関心が薄れているからだ。有権者は関心の無さから熱心な情報収集を怠り、限定的で浅い情報しか持ち合わせていない。 そのような状況で、適切な投資(投票)判断ができるだろうか。有権者の投票基準は、単なる政党の勢いやキャッチコピー、ポスターの写真映りや候補者の学歴・職歴などになってしまう。 その結果として、競合との競争は「サービスの質」ではなく、より有権者に訴求しやすいスキャンダルなどの暴き合いが始まってしまう、ということになるのだ。 拡大画像表示 次に「政治“屋”ビジネスモデル」のカネを捻出する仕組みを説明しよう。
まずは、直接的に「有権者」や情報を持ってくる「サプライヤー」のためだけに働く「政治“屋”」のビジネスモデルだ。 たとえば一番よくあるパターンが「公共事業を地元に引っ張ってくる」というもの。その見返りとして、「有権者」であり「サプライヤー」である地元の企業から金をもらう。与党や大物議員だからこそできる芸当でもある。 たとえば、民主党の小沢一郎・元代表と西松建設をめぐる疑惑などが記憶に新しいだろう。さらに時を遡れば、2007年10月2日、福田康夫政権の閣僚、渡海紀三朗・文部科学大臣(当時)は閣議後の記者会見で、自身が代表を務める自民党兵庫県第10区選挙区支部が国の公共事業を受注している県内の建設会社から2000年衆院選前後に計478万円を受領していたことを明らかにした。 2003年と2005年の衆院選でも公示日などに国の公共工事を受注していた建設会社から同支部に計200万円の寄付があったことも判明した。渡海紀三朗元文科大臣は、「疑義が生じるのは不本意なので返金する」としたが、選挙の公示日に何度もカネを受領していたのでは、疑惑の目を免れなくとも仕方がない。 財政難で地方に配分される公共事業への予算を確保するのは非常に難しいことだ。有権者は国会で審議される予算の中で、絶対に削って欲しくない部分を陳情でその政治“屋”に伝え、守ってもらう。このビジネスモデルが成立し蔓延るからこそ、1000兆円を超える借金があるにも関わらず、公共事業の予算は削られるどころか膨らんでいくのである。 一方、野党の議員でも成立するビジネスモデルはある。たとえば、選挙区内での顔の広さを利用したコーディネーターの仕事だ。コーディネートするのは、土地や仕事、時には結婚相手だったりとさまざまだ。 他にも、筆者が実際に受けたことのある有権者からの要望を例示すると、「大学への入学願書を提出するのが1日遅れてしまったが、なんとか受け付けてくれないか」とか、「子どもを保育園に入れたいのだが、定員がいっぱい。なんとかねじ込むことはできないか」、「固定資産税が払えないのだが、役所に言って免除してもらうことはできないか」などがある。どれもできるはずがない要求なので丁重に断ったが、実際にはなんとかしてしまう議員もいるのだろう。今でもこうした要望を国会議員にもちこんでくる有権者は後を絶たない。 こういった「個人的な陳情」にばかり対応する議員というのは、民間企業で言えば株主対策ばかりやって肝心のサービスが疎かになっている企業だと言えるだろう。民間企業がそうならないのは、株主がしっかりとサービスが疎かになっていないか見張っているからだ。政治家が有権者だけを顧客として捉えてしまう背景には、上のような陳情をしてくる有権者の存在と、それを断れない政治家の弱さが原因だ。 あくまで政治家にとって「顧客」は「主権者」であり、「有権者」や「サプライヤー」だけではないということを肝に命じるべきだ。 政治“屋”が、どのような「有権者」や「サプライヤー」を重視しているか、実は簡単に想像できる。参議院議員選挙の比例区で当選している議員たちのバックグラウンドを見てみるといいだろう。 全特会、農協、防衛、歯科医師会役員、オリンピックメダリスト、医師会、国土交通事務次官……。彼らは当選前に所属していた団体からの要望・陳情を受け、その内容を国会質問などに反映させていくことが常だ。民主党政権の時代にも、労働組合や業界団体からの要望をそのまま国会質問の原稿に写し、読みあげるだけの議員も存在した。その見返りとしてパーティ券を大量に購入してもらうなどの対価を受け取る。 こういう美味しいビジネスがあるからこそ、国会議員であることはそれだけで旨味があるのだ。政党の形も、たとえ所属する議員の政策がバラバラでも、議員であることが重要なので、一つの政党として成り立つ。 有権者からすれば、消費増税や原発などが選挙の争点になっているように見えるが、実は政治“屋”からすれば、「どうしたら議員でいられるか」の方が大事であり、政策なんて柔軟に変えてしまうのである。 まだまだあるぞ! 政治“屋”の錬金術 政治“屋”ビジネスモデルはこれだけではない。 国会議員になれば、3人の公設秘書を雇うことができる。彼らの給料は国から直接支払われるため、直接ポケットに入れることはできない。だが、抜け道はある。秘書から「寄附」という形でバックさせたり、事務所間をクロスして寄付させればいい。かなりグレーな方法だが、筆者の“秘書ネットワーク”で囁かれている話から、実際にそうしたことをしている議員はそれなりにいることが分かっている(議員名は伏せるが)。 また、国会議員の知名度を生かして、在職中に本を出版したり講演活動をしてお金を稼ぐ人もいる。たとえば、大山昌宏・元衆議院議員は、在職中に「超高速英単語センター1800−ゴロで一気に覚える」という英単語の本を発売している。政治とはまったく無関係な著書ではあるが、国会議員という知名度が加わることによって、売上の大幅アップにつながっている可能性は高い。つまり、議員という身分は宣伝広告の道具として使えるのである。ある意味、あっぱれな商売人根性である。 さらに言えば、「選挙」とは、一発逆転の成り上がりを狙えるチャンスでもある。売れなくなってきたタレントなどが政治家を目指すのも「一発逆転」を意味している。ただ、政党名を掲げて名前を連呼すれば「先生」と呼ばれて年収1000万円以上の高給を得ることができる。次の選挙は負けてもいい。そんな“小物”政治“屋”にとっては、議員という職業は、当たる確率の高い宝くじのような極めて旨味のある職業なのだ。 政治“屋”絶滅は あなたの一票にかかっている 政治“屋”商売のビジネスモデルを紹介してきたが、最後に言いたいことは、722人の国会議員の中で大抵の政治家は「政治とカネ」の問題など抱えておらず、真面目に活動している人が大半ということだ。そして、さまざまな手段でお金を捻出している政治家も、大抵の場合は私腹を肥やすためにやっているわけではなく、「政治活動を賄うため」にやっている場合がほとんどだ。 だからこそ、私たちは「政治家はカネに汚い」という安易な思い込みを捨て、冷静な目で「政治とカネ」の問題を見つめなおすことが必要である。 お金のかからない選挙を実現するためには、チラシやポスターといったアナログなメディアから脱却することが大事だろう。たとえば、現在の制度下では公営掲示板のポスターを貼るのも本人が貼らなくてはならないが、役所が公費で貼ってくれる制度をつくるとか、改善策はいくらでもあるはずだ。 サラリーマンが選挙に出ても仕事に戻ってこれるような雇用の流動性を確保することも大切だろう。 しかし、何より大切なのは本稿を読んでくださっている有権者の皆様自身が、自分の選定眼を鍛えることだ。政治家本来のビジネスモデルに従い、しっかりと良い「サービス」(政策)を提供してくれる政治家を選び、投票することが何より大事である。 では、今回の選挙で、具体的にどうやって投票先を選べばよいのか。おそらく判断基準とする情報は3つあると思う。 ひとつは「政党名」。政党選挙が根付きつつある今、小選挙区においては候補者名よりも「政党名」が得票数に直結する時代となっている。今は、「あなたの考えに近い政党」をクイズ形式で選んでくれるアプリもある。 次に「候補者の属性」である。なかでも今回、一つの選択のポイントとなるのは、「世襲」を許すか否か、という点かもしれない。小渕優子元経産大臣も宮沢洋一現経産大臣も世襲であり、前述の小沢一郎・元民主党代表も渡海紀三朗・元文科大臣も世襲である。 実は今の安倍内閣の閣僚の過半数は世襲で構成されている。特定の「家」に対して政治家という職業を独占させることが、「政治“屋”ビジネス」を横行させる一つの要因となっている可能性はある。権力は一か所に集中すれば、必ず淀むのである。 そして、最後に「争点となる政策」である。今回の選挙では、何が争点なのか不明瞭だ。争点が不明確であるが故に、投票率が大幅に下がると危惧されている。ただ、それは与党の思うツボだろう。原発の再稼働や財政再建など、待ったなしの国家課題に対して、自分の選挙区の候補者が何を考え、どのような違いを主張しているのか。演説に足を止めてみたり、チラシを読んでみたり、ブログを読み比べてみるといいだろう。 民間企業をチェックしているのが株主であるのと同じように、政治家をチェックするのは有権者であるあなた自身である。政治“屋”を永田町から追い出し、本物の政治家を育てるのは、あなたの一票でしかない。 ちなみに、解散総選挙とともに秘書も職を失う。間もなく筆者も無職だ。議員がきちんとした「サービス」(政策)を「顧客」(主権者)に示し、再び永田町に戻ってこられるように精一杯努力したいと思う。 http://diamond.jp/articles/-/62299
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