01. 2014年11月18日 06:34:07
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相川俊英の地方自治“腰砕け”通信記 【第118回】 2014年11月18日 相川俊英 [ジャーナリスト] 地方創生の雄叫び空しく疲弊の一途を辿る地域社会 トランジション運動に託す“リエコノミー” の明日 急浮上した地方創生は空念仏か? トランジション・シンポジウムで考えた 夏頃から国政の主要テーマに「地方創生」が急浮上した。疲弊した地方の活性化を目指すものだが、具体策に乏しく目新しさも感じられない。てっきり来年の統一地方選を意識しての空念仏かと思っていたら、なんと解散・総選挙である。日本社会は一斉に師走選挙に向けて走り出している。 そんな状況下の11月16日、都内で開催されたあるシンポジウムを取材した。NPO法人トランジション・ジャパンが主催した「トランジション・シンポジウム」で、会場となった明治学院大学に足を運んでみた。アートホ―ルには120人ほどの老若男女が集まっていた。トランジションとは、「移行」や「移り変わり」「移行期」といった意味である。 イギリスのトットネスという小さな町で2005年、「大量の化石燃料に依存しきった脆弱な社会」から「地域をべースにした、様々な変化にしなやかに対応できる社会」への移行を目指す運動が産声を上げた。住民の創意工夫と地域資源の活用により持続可能な地域社会をつくろうというもので、地域に根差した活動はトランジション運動と名付けられた。 イギリスのトットネスで生まれた草の根運動は、瞬く間に欧州各国や北南米、オセアニアなど世界中に広がっていった。日本にも2008年に第一号が誕生し、現在、藤野や小金井、葉山、上田など47地域に増えている。太陽光や風力、バイオマスなどの再生可能エネルギーによる自給や有機・自然農法による農作物の地産地消、地域通貨やカーシェアリング、森の再生など様々な活動を展開している。 こうしたトランジション運動のキーワードは、「ひと」「地域」「つながり」「循環」「自給」「共存」「多様」「楽しむ」といったところだろうか。根底にあるのは、地域で消費する食料やエネルギーの自給率を少しでも上げていくべきだという考え方である。 シンポジウムはトランジション運動の説明や各地の活動事例の紹介、交流などを目的としたもので、今年で4回目。日本ではまだあまり知られておらず、主催者のNPO法人トランジション・ジャパンの吉田俊郎共同代表が参加者に改めて説明した。 「トランジション運動というのは、地域の人たちや地域資源とつながって、持続可能な地域社会を作っていこうというものです。石油資源や国・行政といった大きな組織などに過度に依存した社会から、地域に元々ある資源を最大限に活用する社会への移行です」 色々な人たちや地域資源をつなぐ 触媒のような働きを目指したい そして、こんな説明を続けた。 「トランジションは、社会の様々な変化に柔軟に対応できる力を高めていく実践的な活動です。こうありたいという願いを持ちながら、楽しみながら取り組んでいます。こうしなければいけないというものはありませんし、教科書もありません。色々な人たちや地域資源をつなぐ触媒のような働きもします」 続いて共同代表の小山宮佳江さんが、トランジション活動を始める手順をざっと説明した。どこでも始められること。メンバーが3人集まればできること。そして、立ち上げを宣言するというものだった。 シンポジウムでは続いて各地の活動事例が紹介された。4つのトランジション・タウンの担当者が1人ずつ、発表した。 「トランジション・タウン鎌倉」の鎌倉壱日無銭旅行、「トランジション・タウン浜松」のフォレストガーデン(暮らしの森づくり)、「トランジション世田谷 茶沢会」の地域を巻きこんだ市民発電と節電の取り組み、そして、「トランジション鈴鹿(アズワンコミュ二ティ鈴鹿)」の贈り合い経済と多種多様であった。 こうした日本での事例紹介の後、トランジション運動発祥の地であるイギリス・トットネスの最新の取り組みが報告された。マイクを握ったのは、「トランジション・タウン浜松」の斉藤隆之さんだ。 トットネスで展開されているのは、「リエコノミー・プロジェクト」と呼ばれるものだ。新しい経済の仕組みを生み出そうという実践的な試みだという。 経済活動を通じてコミュニティを強靭する 「リエコノミー」に希望の明かりは灯るか? リエコノミ―・プロジェクトは経済活動を通じてコミュニティを強靭にする運動で、新しい人や企業を他所から呼ぶのではなく、今ある地域の企業をトランジション的に変えていくものだという。他の地域に経済的に依存するのではなく、たとえば地域の持続可能性を高めるようなローカルビジネスの起業を支援することで、地域経済を成り立たせていくものだ。 そのために起業家と投資家とのマッチングを図るといった環境を整備する。また、地域内でカネが循環するようにカネの使い方を変えていくという。つまり、自分たちが住んでいる地域をきちんと守っていけるようにカネの使い方をスマートにするのである。こうしたことがリエコノミーの考え方だという。 斉藤さんは「日本に即したリエコノミーができたらと思っています」と語った。確かに、今の日本社会は地域で使われたカネが地域内に留まらず、中央に吸い上げられる構造となっている。公共投資も同様だ。日本の地方にはこれまで散々、国の補助金や交付金がばら撒かれてきたが、その結果、地方は活性化するどころか疲弊の一途を辿っている。 ここは発想と行動を大きく転換させない限り、地方創生などあり得ない。まずは依存心を断ち切ることだ。その上で住民同士のつながりを再構築し、地域資源を再点検するべきだ。閉塞感が強まるばかりの日本社会にトランジション運動は希望の明かりを灯すものではないだろうか。 http://diamond.jp/articles/-/62303
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