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安倍晋三首相が年内の衆院解散・総選挙に踏み切るのではないかとの見方が広がっている。来年10月の消費税率10%への引き上げの先送りを首相が判断し、民意を問うというシナリオが取りざたされている。
政権与党が税率引き上げの環境を整える努力を尽くさず、しかも増税に慎重な世論に乗じて選挙にまで利用しようという発想が感じられる。民意を問う大義たり得るか、今の議論には疑問を抱かざるを得ない。腰を据えた国会論戦からはもはや遠い雰囲気だ。与党からは解散や選挙日程をめぐる観測が流れ、与野党は選挙準備に動き出している。
首相は解散について「(時期は)何ら決めていない」などと説明している。実際に解散するかは首相の胸三寸だ。解散説は臨時国会の終盤を控え、与党による野党のけん制が狙いとの見方も依然としてある。だが、本当に解散を検討しているのであれば、その理由が問われる。消費増税先送りについて政府高官は「増税の自公民3党合意をひっくり返すのだから(国民に)信を問う大義名分になる」と語っている。
国民の審判をもう一度仰ぐという理屈は一見もっともらしく聞こえる。だが、本当にそうだろうか。
10%への増税は本来、生活弱者の負担軽減策や、放置されたままの衆院定数削減など「宿題」を片付けて予定通り行うべきものだ。これまで与党がこうした課題の克服に真剣に取り組んできたとは言えまい。与党内で先送り論の根拠とされる景気動向への不安にしてもアベノミクスが想定通りに運ばない反映ではないか。増税を先送りするほど状況が悪いというのであれば、必要なのは経済政策の検証であろう。
さきの衆院選で自公民が増税実施の3党合意を掲げたのは国民に痛みを強いる責任を主要政党が分担する意味があったはずだ。政争と一線を画して税と社会保障の共通認識を得ようという政治の知恵だった。ところが合意をほごにし、増税先送りを選挙で掲げるようでは、こうした努力を台無しにしかねない。
経済動向が不透明なうえ、公明党との調整が難航必至の安全保障法制の整備も控えるなど、与党には来年以降の政権運営を危ぶむ見方があるようだ。増税先送りを奇貨として、世論の追い風をあてこんだ解散論とすれば、あざとさすら感じる。
消費税率引き上げをめぐっては民主党も社会保障拡充などとのパッケージ化が前提だと説明している。急な選挙が行われた場合、争点が定まらず、政策論争も深まらないまま有権者が選択を迫られる懸念もぬぐえない。民意を問うテーマと時期について、首相は慎重に判断すべきだ。
http://mainichi.jp/opinion/news/20141112k0000m070138000c.html
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