53. 2014年11月14日 13:25:00
: m5nuTqwWzY
総力取材 ノーモア泥棒大国2014年10月5日朝、機関拳銃で武装した隊員がヘリで急降下。包丁やモリで抵抗する中国船員と”交戦状態”に 中国サンゴ密漁船を撃て! 戦慄スクープ 海保特殊部隊SST 中国漁船「急襲逮捕」現場 「海上保安庁は2014年10月以降、領海や排他的経済水域での密漁行為などで5人の中国人船長を逮捕しました」。無味乾燥に報じられたこのニュースの背後には、知られざる極秘任務があった。独自取材で初めて明らかになる、海保特殊部隊と中国の無法漁船との戦いの「記録」。 2014年11月10日昼。ようやく実現した約2年半ぶりの日中首脳会談。北京の人民大会堂で安倍晋三首相(60)と習近平国家主席(61)が握手を交わすに至るまで、様々な外交ルートで水面下の努力が繰り広げられていたことを、新聞やテレビは伝えている。 しかし、ここ1カ月の間、南の海で起こっていたことが、実は、今回の日中首脳会談実現に結びついた事実は、まったく公開されていない。 約1カ月前に遡る。 2014年10月5日朝、小笠原諸島のある港から出港した日本の漁船の船長は苛立っていた。 この日、気温は朝から上がり、28℃。波の高さは約3m。近づく台風18号の影響で、波は荒れ始めていた。 東京から南に約1000q離れた、広大な太平洋の海原。小笠原諸島の約22q周囲は日本の領海であり、さらに約370q周囲の海域は、漁業権など日本の経済的な主権が及ぶ排他的経済水域(EEZ)と呼ばれる。 ■船長は背筋が凍る思いだった だがここ数日、中国からやってきた多数の漁船が、EEZ内に入り込んでいた。 中国漁船たちの狙いは高価で貴重な「赤サンゴ」の密漁だ。乱獲されると、希少生物である赤サンゴへの打撃はもちろん、そこに卵を産み付ける魚もいなくなってしまう。 日本漁船の船長が、中国の密漁業者に取材したマスコミ関係者から聞いたところによれば、中国漁船は主に福建省から、1週間以上かけて小笠原諸島海域にやってくるらしい。1度来れば少なくとも3週間は海域に居座り、赤サンゴを採ってゆく計画だという。 往復にかかる膨大な時間と、台風などによって海難事故に遭うリスクの見返りとして、何としても赤サンゴを採ってゆくという意気込みは並大抵ではないなー日本漁船の船長は背筋が凍る思いだった。 その日、腹立たしく思いながら操舵をしていた日本漁船の船長は、ハッとしてその手を止めた。 ーあいつ、領海内に入っているじゃねえか! 彼方の海上に、1隻の中国籍らしい漁船が漂っている。しかしそこは明らかに日本の領海内だ。海に垂らしたロープを忙しく操作しているではないか。 ー領海内で、赤サンゴを採っていやがる! 素晴らしく育った赤サンゴが領海内にあることを知っているのだ。 ■「サーカスのようだった」 だが、その直後。激しい爆音が聞こえた。日本漁船の船長は急いで上方に目をやった。北の空から、白い機体のヘリコプターが猛スピードでやってくる。 ヘリコプターは、中国漁船へ凄まじい勢いで直進。直後、信じがたいことが起こった。 ヘリコプターの大きな機体が中国漁船に突っ込んだ。いや、突っ込んだように見えた。実際には中国漁船の上で突然停止して、主翼からの猛烈な風を叩きつけていた。 中国漁船の甲板上にた数人が吹き飛ばされたのと同時に、ヘリコプターからロープが放り出される。即座に、何人もの黒ずくめの者たちがロープを伝って中国漁船に降下してゆく。降下速度は信じがたいものだった。日本漁船の船長は、「サーカスのようだった」と後に証言している。 全力で逃げる中国漁船にーしかもこの高い波の中ー正確に降下したのだ。航行中の漁船に、下方からの銃器による抵抗などを恐れずに降下するのは、命懸けの特殊技術だったはずだ。 甲板に降り立った”黒ずくめの者たち”の動きは速かった。先の長い、銃らしきものを構えたまま、あっという間に中国漁船の至るところへ突入。信じがたいスピードとアクション映画のような技で、次々と船員たちをなぎ倒してゆく姿が見えた。 その光景に船長は快哉を叫んだ。 「海保(海上保安庁)がついにやってくれたんだ!」 ー数時間後、安倍首相を直接補佐する官邸の政府関係者に、1枚のメモが届けられた。届けた内閣官房スタッフは「極秘です」と付け加えた。そこには信じがたい言葉が並べられていた。 <海保の特殊部隊が、領海内で赤サンゴの密漁をしていた中国漁船を急襲、制圧。船員たちを現在、横須賀へと連行中> 同政府関係者は尋ねた。 「特殊部隊とはなんだ?」 「通称、SSTと呼ばれる、海保でも極秘中の極秘扱いの部隊のようです」 スタッフが知っているのはそれだけだった。 同政府関係者は、顔見知りの全国紙記者の携帯電話を鳴らした。 「海保のSSTという特殊部隊がこれまで実際の任務に就いたことはあるか?」 全国紙記者は「少なくとも報道されたことは1度もない」と答えた。 通話を終えた同政府関係者は、もう1度メモを手に、その重要性を思った。 ー極秘の特殊部隊が出動し、中国籍の漁船を急襲、制圧した事態は、日本の治安史上、極めて大きな出来事である。 SSTについて、軍事関係者の間で知られているのは、関西国際空港の警備部隊と、フランスからのプルトニウム運搬船警備部隊を合体し、1996年に創設されたという事実だ。 存在こそ明らかにされているものの、部隊の編成、技能、訓練、装備と隊員の名前に至るまでの一切が非公開。1998年の海保の観艦式で、リペリングとファストロープの訓練を披露したが、SSTについては詳しくは公表されなかった。 軍事関係者によれば、リペリングとは、ヘリコプターなどからロープを伝って降下すること。急速度で一気に甲板に降り立つのがファストロープという技術だ。 ■軽機関銃を構えて突入 日本には、特殊部隊と呼ばれる部隊が警察や自衛隊にもあるが、海上保安庁のSST(特殊警備隊、Special Security Team)は中でも、最も実戦に近いとされている部隊で、リペリングの他、海中からの秘匿突入などの技能を持つ。また、狭隘な船内においての近接戦闘の技能に優れ、ブリーチング(ドア破壊による室内突入技術)は世界の特殊作戦部隊と同レベルにあるとされる。 SSTの名を海外に知らしめたのは、2003年に行われた、PSI(大量破壊兵器阻止活動)の訓練で、オーストラリアなどの特殊部隊と合同訓練をした時だ、と語るのは海上自衛隊(海自)の幹部だ。 「急襲、武器使用、制圧、被疑者の選択といった一連の行動が洗練され、完璧であると高い評価を受けた」 ーメモの差し入れから数時間後、官邸の政府関係者のもとに、SST出動の概略が飛び込んできた。 <SSTは、中国漁船にヘリコプターからファストロープを使って降下し、MP5軽機関銃を構えて突入。船員たちが包丁やモリなどで激しく抵抗。SSTは相応の技能と手段によって制圧した> SSTの出動は、一切が極秘扱いである。海保を管轄する国土交通省の関係者や担当記者らの断片情報を総合して、出動がなされた系列を推測してみよう。 SSTが出動したのは、SST本部がある海保の大阪基地からだった。24時間待機態勢にあるSST隊員に緊急出動がかかったのは、2014年10月5日の早朝。海保の本庁から <中国漁船が領海内において密漁を行っている。直ちに急行の上、強行突入し、制圧の上、検挙せよ> こうした命令が届いたのだ。 MP5、拳銃、ショットガンなどで完全武装したSSTを乗せた大型ヘリコプターは、最高速度で南東へ向かった。 約2時間後、小笠原諸島近海で警備中の大型巡視船「しきしま」に大型ヘリコプターは着艦、降り立ったSST隊員たちは、短時間のブリーフィングを受けた後、ヘリコプターによって出動を行った。 取材班は、安倍首相を直接補佐する官邸の関係者に、SSTの事実をぶつけてみた。当初は躊躇していたが、彼は最後に重い口を開いた。 「恐れていたことが起こらなかったことに深く安堵している。なぜなら、今回の中国漁船への対応は、日中首脳会談の実現の成否を握っていたからだ」 密漁船などを検挙する時、一般的には、海保の巡視船が船体ごとぶつかって海上保安官が乗り込む。しかし、中国漁船はいずれも小型。巨大な巡視船がぶつかれば、中国漁船が沈没してしまう恐れがある。近接するには、ボートを用いるしかない。しかし、小さなボートでは逆に中国漁船に侮られ、凶器などで激しく抵抗される可能性がある。そうなれば巡視船側も交戦せざるを得ないー。 同政府関係者は「日中首脳会談実現への交渉を水面下で進める中、密かに『交戦』を強く危惧していた」と付け加えた。 実際、外交担当のある政府関係者は、人知れず脳裏に蘇らせていたことがあったと証言する。 それは、3年前(2011年)に発生した、韓国海洋警察と中国漁船との事件だ。密漁していた中国漁船に対し、韓国海洋警察が突入しようとしたところ、中国漁船側が刃物を振り回して抵抗。中国漁船の船長に腹を刺された韓国海洋警察官1名が死亡した。もし日中が衝突し、犠牲者が出れば、日中首脳会談は吹っ飛びかねないーそう危惧していたのだ。 中国漁船の問題は、単なる”密漁への対応”というレベルでは済まされない事態になっていたのである。 それを一気に解決したのが、SSTだった。 海保で長年、救難警備に携わったOBによれば、SSTは管理編成上は、大阪基地を管轄する第五管区海上保安本部の下にある。 しかしその出動は、事実上、海上保安庁長官の決断によってなされるという。 ”経済目的”だけではない そして今回、違法行為を確認できたことで、中国漁船に対し、最初から海上保安庁のSST(特殊警備隊、Special Security Team)を突入させる決断を行ったはずだ、と同OBは指摘する。 海保のトップの並々ならぬ意志があったことは想像に難くない。圧倒的な技能と火力(武装)を保有する、世界トップレベルの特殊部隊を突入させることで、抵抗を即座に封印し、犠牲者を出さない、という決断を行ったと考えられる。 船内を制圧する武装した特殊部隊の前に、荒くれた中国漁民らも抵抗の意志すら削がれたことだろう。 無法な中国漁船に対応するため、2014年11月6日に開かれた安全保障と外交政策に関わる議員たちを集めた合同会議に出席した大田昭宏国土交通大臣は、「(中国漁船は)領海内に今後入らせない」と語気強く語ったという。 しかし、2014年10月5日の海上保安庁のSST(特殊警備隊、Special Security Team)出動においては、一部で中国漁民の激しい抵抗があったことを、日本漁船の船長が目撃している。 「ヘリコプターから降下した黒ずくめの突入部隊と、中国漁民たちとの”戦い”は遠目からでも凄まじいものだと分かりました。刃物上のものを激しく振りかざす中国漁民たちに、突入部隊は銃を構えて果敢に飛びかかっては、次々となぎ倒していきました」(船長) SSTは、紛れもなく中国の船員たちとの”交戦”を行ったのであり、命懸けの任務だった。 しかもこんな話もある。 「SSTがヘリコプターによって中国漁船を急襲したのは(2014年10月)5日だけではないはずだ」(海上自衛隊の情報部門幹部) 赤サンゴを密漁していた中国漁船に対し、SSTが複数回出動して急襲、撃滅した可能性を、海上自衛隊の各種センサーの情報から指摘するのだ。 海上保安庁広報室は、SST出動に関する小誌の取材に「具体的な運用にかかわることについては回答を差し控えさせて頂いております」とした。だが、出動そのものが常に極秘扱いされているのがSSTだ。 10年以上たっても未だに極秘扱いされている「出動」がある。2001年12月、九州南西沖で、北朝鮮工作船と海上保安庁巡視船が銃撃戦を繰り広げた。報道では工作船が自爆したとされている。だが当時、近海に海軍部隊を密かに派遣していた米第7艦隊関係者によれば、実はその直前、ヘリコプターで緊急出動した完全武装のSSTが、工作船の真上に達し、今回と同じようにファストロープで突入する寸前だったという。 1999年の能登半島沖不審船事件。この時も、北朝鮮工作船を追尾していた海上自衛隊護衛艦「みょうこう」の艦橋にいた航海科員によれば、SSTは海上保安庁巡視船の中で突入寸前だったという。 SSTの果敢な活動は今後も続くだろうが、日本政府としての重要な課題が残っている。 海上保安庁OBは、海上保安庁が置かれた過酷な状況を訴えた。 「尖閣諸島を守る任務がある一方で、小笠原諸島にも対応しなければならない状況は緊急事態だ。全国から巡視船や保安官をかき集めている。しかも、毎日のように発生する海難救助という重要な任務もある。今の海保の体制では到底まかないきれない。相当無理をしているに違いない」 だが一方で政府情報担当者のもとには、別ルートから”看過できない情報”が寄せられていた。それは「我が国の安全保障上の問題」だという。 溢れかえる中国漁船の目的が、高値で売れるサンゴという”経済目的”だけではない可能性があるというのだ。 それは海上自衛隊の情報だった。 同幹部によれば中国側は、海上保安庁と中国漁船との衝突があった場合に備えて、巡視船を急派する準備を進めているという。「自国民保護」といういつもの大義名分を振りかざすはずだ、と。「そうなれば、中国の工船が、小笠原諸島に長期間、居座ることになる。そしてローテーションによって、常に中国工船がそこに存在する既成事実を構築する作戦を、現在計画中だという情報がある」 そう語った同幹部は、日本地図を広げた。 「もし、中国工船が小笠原諸島周辺に常駐したらー」 そこには、中国の工船や軍艦が多数展開する尖閣海域と、南の海の中国漁船や中国工船群に挟み込まれる日本列島があった。
|