01. 2014年11月11日 06:52:17
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【第517回】 2014年11月11日 陳言[在北京ジャーナリスト] 習・安倍会談、中日関係の悪化に終止符 戦略的互恵関係確立は依然として“茨の道” ――在北京ジャーナリスト 陳言およそ3年ぶりに正式な首脳会談に臨んだ安倍晋三首相(左)と習近平国家主席(右)。両者の表情は硬く、特に習近平国家主席から笑顔は見られなかった。だが、この後に行われた韓国の朴槿惠大統領との中韓首脳会談の際は、別人のような満面の笑みで握手をした Photo:REUTERS/AFLO 11月10日昼過ぎから、習近平国家主席・安倍晋三首相会談のニュースは中国の各ポータルサイトのトップに掲載された。およそ3年ぶりの中日首脳会談は、中国でも大きな注目を集めていた。会談の開催はこの3日前の7日、両国政府が4項目からなる合意文書を発表して決定。会談は事前に予測されていた10〜15分程度よりも長い約25分間に及び、中日関係のこれ以上の悪化に終止符が打たれた。本当の戦略的互恵関係の構築には時間はかかるだろうが、関係が正常化していくことは間違いないだろう。習・安倍会談について中国メディアはどのように報道し、また中国の専門家たちはどのように反応し、今後の展望を予測したのだろうか。(在北京ジャーナリスト 陳言) 不可能を可能にした 4項目の合意文書 まず、中日関係を悪化させた要因を整理しておこう。要因は二つあり、一つは領土問題であり、もう一つは歴史問題である。 領土問題については、日本国民もここ数年、尖閣諸島(中国名:釣魚島)の領有権問題について中日両国が争っていることから、その概要については広く知られている。尖閣は日本が実質支配しており、中国、台湾また香港の人がその島々で暮らすことは起こり得ない。 2012年の日本政府による尖閣諸島の国有化は、それまで中日関係のなかであまり問題ではなかった事項、すなわち領土問題を顕在化させることになってしまった。この問題は両国のナショナリズムを大きく刺激し、両国民の感情の対立などをもたらした。 領土問題は存在しない、また存在しているとそれぞれの主張が正面衝突し、領土問題で鋭く対立する中日の現実が世界中に知れ渡った。こうした状況が、中日関係を大きく後退させたことは間違いない。 歴史問題については中日の間で認識の差があった。国家のために戦死した国民に尊崇の念を表すことはどの国にもあり、中国も同様である。しかし、靖国神社にはA級戦犯が祀られており、日本の現役の首相がそこへ参拝に行くことは、中国の一般市民が理解できることではない。 首相の靖国参拝によって、中日関係がどのような影響を受けるか。それは小泉政権時代、小泉首相が靖国神社参拝を行った後に起こったことを思い出せば、誰でも分かることだ。ところが、2013年12月26日、安倍首相は正式に靖国神社を参拝した。 その4日後の30日、中国外交部の記者会見で秦剛スポークスマンは、「安倍首相はA級戦犯を参拝し、東京裁判をひっくり返そうとしている。日本軍国主義の対外侵略戦争と植民地支配の歴史を讃えている。そのような日本の指導者に対して、中国人民は当然歓迎せず、中国の指導者も彼と面会することはありえない」と発言した。当時の中国のテレビでは、繰り返しこのコメントを放送していた。 その結果、2014年の上半期は、中日政府間の交流はほとんど途絶えた。在北京の日本各省庁の官僚も、中国政府との連絡の多くは途切れた状態が続いた。 安倍首相が靖国神社に参拝する目的が、本当にA級戦犯のためなのかなどについては議論の余地が残るが、近隣諸国にとっては、秦剛スポークスマンが述べたような思いを与えたことは事実であった。 この二つの問題をきちんと整理することが、習・安倍会談を実現するためには不可欠だった。ただ、この二つの問題はお互いが譲歩できるような問題ではなく、乗り越えることは不可能だとも思われていた。 その困難な状況を打開させたのが、7日に発表された4項目の文書だ。かつての「戦略的互恵関係」の立案者、また現在の「地球儀を俯瞰する外交」=「価値観外交」などのアイデアを積極的に出している内閣官房国家安全保障局の谷内正太郎局長は、中国で外交を担当する楊潔チ(チの文字は竹かんむりに「褫」のつくり)国務委員との間で、4項目の文書について合意した。歴史問題、領土問題、東シナ海での不測の事態に備えるための海上連絡メカニズムの設立、戦略的互恵関係の再確認ができた。こうしてほぼ1年前に中国外交部が発した「面会せず」の発言を、撤回させることとなった。 日本の譲歩を喜ぶ中国世論 互損関係からやっとの脱却 どちらの国が譲ったのか――。中国のインターネット上での関心は、この1点に絞られていた。 11月9日、ハンドルネーム「占豪」による「三つの原因で日本は中国に屈服せねばならなくなった」というブログは、多くのポータルサイトに掲載され、また中国版ツィターである微信(Wechat)でも多く読まれていた。 占豪は、安倍政権が中国政府に屈服したと見ている。中国主導のAPECは、日本に大きなプレッシャーをかけ、日本外交の孤立はすでに国家政策に影響しているという。また、中米関係が順調に発展するのを横目で見て、日本としても中国との緊張関係を緩和しなければならなくなったことが、屈服の原因だと分析している。 自称投資家の占豪は、日本問題の専門家ではなく、国際問題については的外れの発言も多い。しかし問題は、なぜそのような的外れな発言をするブロガーの記事を多くのポータルサイトが掲載し、さらに微信でも読まれ続けたのかということだ。 日本問題の専門家の論考が掲載されたのは10日からだ。なかでも、中国人民大学東アジア研究センター長の黄大慧教授の論考は、中国の学者の意見を代表するものだろう。黄教授は安倍政権が中日関係の改善に向けて動き出した要因を、次のように分析している。 第一に、「地球儀を俯瞰する外交」は、わざと近隣諸国を見て見ぬ振りをして、中国・韓国・ロシアとの関係を悪化させ、今は改善の時期に来ているという。第二に、アメリカの意向だ。日本が領土問題と歴史問題であまりにも中国と鋭く対立することは、「アジアシフト」を進めるアメリカの東アジアでの戦略を撹乱するために、日本に「圧力」をかけた。第三に、日本は世界で広まりつつある東アジアでの“トラブルメーカー”というイメージを変えたいということだ。第四に、アベノミクスを成功させるためには、中国を含む外部の力が必要だということだ。 中国では「日本が譲歩した」という主張しか存在しない。7日に合意した4項目の合意文書には、靖国参拝については具体的に触れていない。これは中国が譲歩している証拠であるが、研究者も含めて、それについては触れる勇気はないのだ。 「今、日中間は戦略互恵関係というより戦術互損関係になっている」。5月に自民党の高村正彦副総裁は、日中友好議員連盟を率いて中国を訪問する際、こう懸念を中国に伝えている。合意文書や首脳会談の意味についての議論は、これから行われるだろうが、少なくとも10日の習・安倍会談は、国交正常化以来の最悪の状態から脱却する契機となり、「戦術互損関係」から脱却するきっかけになったことは間違いない。 インフラ銀行や韓国とのFTAから見て 中日関係の好転はまだ道い遠のり 同じ10日、安倍首相との会談が終わってから、習近平主席は満面の笑みで韓国朴槿惠大統領を迎えた。その表情などは安倍首相の時とはまったく違う人のようだった。 中韓のFTA交渉は相当に困難であり、簡単に結論をつけることなどできないと両国は考えていた。しかし、今回の北京APECで基本合意に漕ぎ着けた。両国は政治的な決断をしたということだろう。 中国と日本のFTA交渉も同じように政治的な決断で大きく前進させることができるかと言えば、それは無理だろう。なぜなら、依然として中日間には、経済面も含めて多くの問題があるからだ。 中国が打ち出したアジアインフラ投資銀行について、今のところアメリカと日本は反対している。日米の反対によって中国が最終的にその銀行の設立を断念することはないだろうが、日本は反対することで、中国主導のアジアインフラ投資銀行が行う関連工事には、有利な立場で関わることはできなくなるだろう。 こうした経済的な実利をめぐる問題は、領土問題や歴史問題以上のぶつかり合いを生み出すかもしれない。 中国も、安倍政権が価値観外交を止めるとは見ていない。価値観外交を通じて中国を牽制するという日本のメディアの論調は、中国でもそのまま報道されており、中国人民にも広く知られている。 2006年に打ち出された中日「戦略的互恵関係」という説は、安倍首相の辞任によって1年足らずで終わってしまった。今回、その再確認をしたことになるのだが、果たして実行可能となるのだろうか。 安倍政権には領土問題や靖国問題、さらに今後ますます明確になるであろうアジアインフラ投資銀行に反対する態度など、中国側を刺激しうる案件が多く存在する。さらに、中日FTA交渉の困難さや日本の対中国投資の減少もある。 習政権も中国漁船による珊瑚の密漁など、日本側を刺激しうる案件を抱える。中日には乗り越えにくい、解決困難な問題が山積しているのだ。以前にも増して、日中関係改善の道は、“茨の道”となることは確かだ。 http://diamond.jp/articles/-/61964
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