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第二章 事件現場・女記者
◆事件現場◆
「な、何なんだ、これは。」
警視副総監の村山が、到着するなり叫んだ。
全裸の死体がフロアの絨毯に転がっている。岡田事務次官だ。
後ろ手にした両手に手錠を掛けられ、口の中に靴下が詰まり上からガムテープを貼られた状態だ。左手には手錠のカギを握っていた。
そして肛門には花が差し込まれている。いや、差し込まれていたのは小型のバイブレーターだ。その柄の部分に薔薇が一輪、紐で括りつけられていた。
「官邸に速報を入れろ。だが、余り刺激するな。」
「はい。副総監。」
都内のマンションの一室。鑑識、検視官を含め警視庁の警察官が詰めている。エレベーター前からフロア全体に規制線が張られている。
「もしもし、こちら警視庁刑事部の前田警視正であります。」
「はい。こちら官邸。」
警察庁出身の山川秘書官へ電話が入った。
「杉並区のマンションで財務省の岡田次官が死亡いたしました。只今現場からです。」
「・・・了解した。詳しく状況を報告されたし。」
前田は、山川へ死体の状況を説明した。
「それで、死因と死亡推定時刻は何時だ。」
「はい、死因は窒息死、死亡推定時間は昨夜から未明に掛けてと思われます。」
「で、犯人の目処は?」
「まだ立っておりません。先ず岡田次官の女性関係を洗っているところです。」
「男関係も忘れるな。それでそのマンションは誰の名義だ。」
「はい、岡田次官が個人的に借りていた模様です。」
◆官邸◆
官邸の執務室で、山川秘書官から報告を受けた上田の眉間に皺が寄った。
「明らかに狙われたな。」
「しかし、SMプレイによる事故死の可能性も、また左手に手錠のカギを握っていたことから自慰行為中の事故死の可能性も捨てきれません。」
「そんな訳はないだろう!」
上田が珍しく声を荒げた。
「岡田次官にどんな趣味や性癖があったかは知らんが、消費増税を控えたこの時期に、目的達成にまっしぐらな財政省のトップが、死に至る程のSMプレイや自慰行為でリスクを冒す訳がない。」
「・・・」
「消費増税に反対していて、犯行実行能力のある組織を虱潰しに洗うんだ!」
「はい、既に暴力団、右翼団体、左翼、労組、業界団体についても洗わせています。」
「そうか。徹底的にやってくれ。」
上田は、窓の外に目をやった。
そして、今後の政局の展開い想いを巡らせた。
財政省は、弔い合戦として、マスコミを総動員し世間の情に訴えて、中央突破で消費税増税を図ってくるだろう。
「厄介な事になった。」上田は一人呟いた。
◆女記者◆
「はい。只今現場です。それについては、後程また報告いたします。」
四条玲子は、朝売新聞の女性記者だ。
デスクとの電話を切ると、マンションの外に停まっているパトカーの中で煙草を吸っている前田警視正に近づいて行き、窓越しに声を掛けた。
「前田さん、今日は。大分難しそうな事件に成りそうですね。」
「あっ四条さん、そうか、もう政治部記者も取材に入ったか。」
「で、どんな筋ですか?」
「いや、今は何も話せない。官邸から緘口令が敷かれた。」
「分かってる。でも、おいおい色々確認させてもらうわ。」
玲子は、8年前に大学を出ると社会部の事件記者となった。その時に警視庁の前田と面識が出来た。というか持ち前のバイタリティと東大理学部卒の理詰めのアプローチで前田に食い下がって色々な事件で情報を引き出した。
その取材姿勢が認められて、政治部に異動となり当時の矢部首相番となった。
玲子は、首相番となると公邸に入っていなかった矢部の邸宅の近くのマンションに引っ越して夜討朝駆けを掛けた。その取材姿勢から、記者仲間から矢部のストーカーともドーベルマンとも渾名されていた。
しかし、その後矢部の失脚とともに、社内抗争に巻き込まれ、政治部には残れたが今は一線を外され遊軍記者となっていた。
玲子の携帯が鳴った。デスクからだった。
「なんで、事件記者でもない君が現場にいるんだ?早く帰ってこい。これから会議だ。」
◆隠蔽◆
「総理、警視庁からは、今のところ事故死と推察されるとして記者会見を開きます。」
その日の夜9時、官邸執務室に入ってきた平田官房長官が、報告した。
「マンションの密室で、一体どんな事故が起こるんだ。」
「岡田事務次官は、書斎として個人的に借りていたマンションの寝室で転倒し脳震盪を起こしたまま吐瀉し、その吐瀉物により窒息死をしました。」
「そんな不自然な嘘が世間に通用するのか?」
「大丈夫です。マスコミには各社トップに全部手を打ちました。」
官邸の意図に沿った警視庁の記者会見の通り、岡田次官の死は書斎で勉強中に起きた事故死としてマスコミに一斉に発表された。
週刊誌メディアは、財政省自身のリークにより、消費増税反対勢力によるテロの可能性を強調した報道となり、不名誉な姿での変死については一部3流週刊誌記事に限られた。
果たして世論は、財政省の目論見通り、そして上田光次郎首相の懸念通りに岡田次官への同情へ傾いて行った。
テレビのワイドショーやニュースショーで、各局のコメンテーターや司会者達が「命を掛けた消費税増税」「国の財政を思う志を無駄にしてはいけない」という言葉を繰り返し、国内に消費増税に反対し難い空気が醸成されて行った。
(続く)
■序章 青年首相
http://blog.livedoor.jp/ksato123/archives/54230364.html
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