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本当に実現するとは思わなかった。
「うちの高校で講演してくれませんか」と言われたのが今年の7月だ。「いいですよ。でも、本当に出来るんですか?」と聞いた。「大丈夫です」と言っていたが、「無理だろうな」と思っていた。大学の講演だって、よく潰されている。昔は左翼に潰された。僕を呼ぼうとしたサークルの人間が脅される。「右翼・反動の鈴木を呼ぶとは何だ! 許せん!」と。「鈴木を学内に入れたらお前らを殺すぞ!」と脅されたという。それで中止になった。そんな事が何回もある。
今は、左翼はほとんどいないが、大学当局が弾圧する。ほとんどの大学で、もう左翼はいないし、自治会活動もない。政治的な立て看板もないし、ビラを配る人もいない。そんなことをしたら、大学側がすぐに止めに入る。あるいは機動隊を呼ぶ。昔は学内に機動隊を入れることに躊躇があった。教授たちの中にも、「学の独立が否定される。権力を学内に入れてはダメだ」と言う人も多かった。機動隊が学内に入ったら、逮捕者も出る。左翼とはいえ、大学生だ。「教え子を権力に売り渡すのか!」と断固反対する教授もいた。
しかし今は、そんなふうに「学の独立」「教え子を権力に売り渡すな!」と叫ぶ教授もいない。立て看板を立てたり、ビラをまいたくらいで警察を呼び、教え子を逮捕させている。堂々と権力に売り渡している。
学生だけでなく、教職員にも監視・弾圧の手が伸びている。外部から講師を呼ぼうと思い、届け出ると「この人はダメですね」「こんなテーマで話したら文科省からにらまれます」と却下されることがある。呼ぶのを認められた講師でも「反体制的な表現が多い」「中国を擁護している」…とクレームがくる。「これは偏向した授業だ」と文句が来る。私立大学はどこも助成金がほしいから、ともかく〈問題〉を起こさないようにする。学内に左翼がいるとか、左翼的な授業、ゼミが行なわれているというのが〈問題〉だ。そんなことはやっていない。正常にやっていると、上に報告しなくてはならない。
でも、これでは「学の独立」はない。東京はほとんどの大学がそうなっている。その点、愛知県は凄いと思う。自由な学問、学の独立はここにしかない。そうも思った。
「愛知県はかつて管理教育の嵐が吹きまくっていたんです。その反撥があるのかもしれません」と先生たちは言う。ともかく、愛知は凄い。ここから教育を変えられる。
そう思ったキッカケは去年の7月だ。「愛知サマーセミナー」に呼ばれて講演した時だ。愛知県の高校が加盟して、7月にやるこのセミナーだが、夏休みの小規模の集まりだと思った。ところが違う。大学や高校を会場にして、厖大な数の講演会、セミナー、展示がある。何と2000講座があり、会期中に6万人の人が来た。驚いた。高校生だけでなく、大学生も、父母も来る。こんなことが出来るのは愛知県だけだ。東京だってとても出来ない。
今年も愛知サマーセミナーに呼ばれて講演した。終わって高校の先生が数人で来た。「今度はぜひ、うちの学校でもお願いします」という。「嬉しいですね。ぜひ行かせてもらいます」と即答した。そして、10月25日(土)に実現した。安城学園高校の先生から話があったので、てっきり、そこの学園祭に行くのだと思っていた。ところが、もっと規模が大きい。10月25日は安城学園高校だが、11月6日まで県内38会場で行なわれる。「ふれ愛ときめき西三河フェスティバル」と銘打っている。正式には「地域別県民文化大祭典2014」と言うようだ。
10月25日(土)は、菊池桃子さんの記念講演を中心に、33の「夢の学校講座」がある。僕も、そこで講演した。他にいろんなイベントがある。生徒や父母で作る「波風劇場」がある。ダンスフェスティバルがある。歌がある。吹奏楽部の演奏がある。又、「ちびっこおたのしみフェラーリ模型試乗会」がある。ちびっこではないが、僕も自分の講演の後、フェラーリに乗った。高校生が作った模型だ。又、自衛隊の人が出張して「南極の氷」を持ってきた。それに触らせてくれる。僕も触ってみた。それにしても凄いイベントだ。タレントの菊池桃子さんが話す。左翼的な人の講演もある。市民グループの集まりもある。納棺師のお話もある。右翼の講演まである。
安城学園高校だけではない。いわば7月にやっている「愛知サマーセミナー」の地域版なのだ。東京だったら、この地域版だけでもやれない。講師だけは無理に集めたとしても若い人が聞きに来ない。今、東京の大学ではこんな集まりは持てない。やろうとしたら、機動隊を呼ばれる。ましてや高校では出来ない。他の県だって出来ないだろう。愛知県だけが出来る。
先生たちが熱心だ。生徒も熱心だ。生徒の企画だって、どんどんやらせている。それに父母の協力が大きい。父母の企画したものもあるし、僕の講演会もそうだったが、生徒だけじゃなく父母も多かった。普通は父母といえば、自分の子どものことしか考えてない。そう思ったが違う。生徒全体のこと、学校のことを考えている。心の広い父母たちだ。夜6時から打ち上げに出たが、教職員とそれ以上の父母が出席している。これは凄いと思った。父母の献身的な協力があって初めて出来るのだという。
「僕のこと知っていますか」と父母らしき男性に声をかけられた。「いや知りません。誰ですか」と聞いたら、20年前、僕がジャナ専(日本ジャーナリスト専門学校)で教えた生徒だった。「家にチラシが入っていて、先生の名前が出ていたのでビックリしました」と言う。今は、隣の町で飲食店をやってるという。子どもは二人だという。「じゃ、高校はここに入れなよ」と言った。「ジャナ専があったら子どもも入れたいんですけど」と言うが、ジャナ専はもうない。
そうだ、僕の講演だ。午前11時からだった。テーマは「愛国者の憂鬱」。1時間話し、そのあと30分間、質疑応答。生徒からも活発な質問が出た。高校で講演するなんて、生まれて初めてなので、緊張したし、興奮した。それにここの学校は生徒数が1500名。そのうち8割が女性だ。数年前まで女子高だったという。女子ばっかりの高校で講演したんだ。だから、緊張したし、大変だった。
http://www.magazine9.jp/article/kunio/15509/
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