17. 2014年10月23日 10:42:02
: EHcxUFTfsw
日本軍が済州島で「慰安婦狩り」を行ったという吉田清治の証言を、朝日新聞が虚偽だと断定し、初めて紙面で紹介してから32年ぶりに吉田清治に関する記事を取り消した。そこで注目され始めたのが、1996年に国連人権委員会(当時)に提出された「クマラスワミ報告」である。なぜなら、同報告は慰安婦を性奴隷制と定義するなど、日本の名誉を著しく傷つけるものだが、その事実認識において吉田証言が採用されているからだ。実は同報告が出るに当たって、日本人活動家の執拗な働きかけがあったこと、同報告の内容の荒唐無稽さ、外務省が一度出した反論文書を取り下げて、事実に踏み込んだ反論を放棄したことなどについて、朝日新聞の記事取り消しに対するクマラスワミ女史の反応なども含めてその主要部分を紹介したい。 慰安婦問題を国連に持ち込んだ日本人弁護士 国連人権委員会に初めて慰安婦問題が持ち込まれたのは、1992年2月である。実は、持ち込んだのは日本人だった。戸塚悦朗弁護士が1992年2月25日、国連人権委員会で慰安婦問題を国連が取り上げるように要請したのだ。韓国の運動団体などがその頃、国連に要請書や資料を送っていたが、戸塚悦朗は国連人権委員会の協議に参加できる資格を持つNGO「国際教育開発(IED)」代表の資格を持っていたため国連人権委員会で発言できたのだ。これが、国連での初めての慰安婦問題提起だった。 この時、戸塚悦朗は慰安婦を「性奴隷」だとして、日本政府を攻撃した。アメリカの連邦議会下院の慰安婦決議や各地に建てられた慰安婦像などに出てくる「慰安婦=性奴隷」という奇抜な主張が初めて国際社会に出たのがこの時だ。 国際社会に慰安婦問題を訴えるためには、貧困による身売りへの同情を求めるわけにはいかない。戦前の国際法の枠組みの中でも、日本が犯した、許せない悪業だと言わなければならない。戸塚悦朗はその時の自分の思いをミニコミ誌「戦争と性」第25号(2006年5月)でこう回想している。 <それまで「従軍慰安婦」問題に関する国際法上の検討がなされていなかったため、これを法的にどのように評価するか新たに検討せざるをえなかった。結局、筆者(戸塚悦朗)は日本帝国主義の「性奴隷」(sex skaves)と規定した。たぶんに直感的な評価だったが、被害者側の告発が筆者の問題意識にもパラダイムの転換を起こしていたのかもしれない> この戸塚悦朗の「直感」論は、当然、当初は国連でも相手にされなかった。ただし、国連人権委員会は国家代表以外に、一定の条件を満たすNGOが討議に参加できた。この制度を利用して、戸塚悦朗らは韓国の運動団体などとともに毎年、国連人権委員会、その下にある「差別防止少数者保護委員会」(通称・人権小委員会)、そして人権小委員会の下で活動する「現代奴隷制作業部会」に執拗に働きかけた。 国連の人権関係者にすれば、日本人が会議のたびにわざわざ出かけてきて、自国の政府を糾弾するのであるから、慰安婦問題はとんでもなく酷い行為だと思うようになったのだろう。 報告書の呆れた内容 1994年、戸塚悦朗の最初の提起から2年が経って、国連人権委員会は「女性に対する暴力に関する特別報告官」としてスリランカのラディカ・クマラスワミ女史を任命した。 クマラスワミ女史は1995年7月に、日本 、韓国、北朝鮮で実地調査を進めた(北朝鮮はクマラスワミ女史本人ではなく民間NGOが訪問調査)。翌1996年4月、国連人権委員会は、彼女が提出した「戦時の軍事的性奴隷制問題に関する報告書」を採択した。 その内容は驚くほど出鱈目で、根拠薄弱な決め付けに満ちている。概要を紹介しよう。(外務省人権難民課の仮訳を一部補正) 序 第一章 定義 第二章 歴史的背景 第三章 特別報告者の作業及び活動 第四章 証言 第五章 朝鮮民主主義人民共和国の立場 第六章 大韓民国の立場 第七章 日本政府の立場:法的責任 第八章 日本政府の立場:道義的責任 第九章 勧告 まず、「第一章 定義」で慰安婦は「性奴隷」であるという、報告書の基本的立場が示される。戸塚悦朗が2年前に直感的に言い出した「性奴隷」説が、ここで国連の公的文書として採択されたのだ。 《特別報告者は、本件報告の冒頭において、戦時下に分隊の使用のために性的奉仕を行うことを強制された女性の事例を、軍隊性奴隷制(military sexsual slavery)の慣行であると考えることを明確にしたい。(略) 特別報告者は、「慰安婦」という語句が、女性被害者が戦時下に耐えなければならなかった、強制的売春ならびに性的服従および虐待のような、毎日行われる複数の苦痛を、少しも反映していないとの、現代的形態の奴隷に関する作業部会委員ならびに非政府機関代表および学者の意見に全面的に賛同する。したがって、特別報告者は、「軍隊性奴隷」という語句の方がより正確かつ適切な用語であると確信を持って考える》 このような立場から報告は第九章で、日本政府に次の6項目を勧告している。 (a)第2次大戦中に日本帝国軍によって設置された慰安所制度が国際法の下でその義務に違反したことを承認し、かつその違反の法的責任を受諾すること。 (b)日本軍性奴隷制の被害者個々人に対し、人権および基本的自由の重大侵害被害者の原状回復、賠償および更生への権利に関する差別防止少数者保護小委員会の特別報告者によって示された原則に従って、賠償を支払うこと。多くの被害者がきわめて高齢なので、この目的のために特別の行政審査会を短期間内に設置すること。 (c)第2次大戦中の日本帝国軍の慰安所および他の関連する活動に関し、日本政府が所持するすべての文書および資料の完全な開示を確実なものにすること。 (d)名乗り出た女性で、日本軍性奴隷制の女性被害者であることが立証される女性個々人に対して書面による公式謝罪をなすこと。 (e)歴史的現実を反映するように教育カリキュラムを改めることによって、これらの問題についての意識を高めること。 (f)第2次大戦中に慰安所への募集および収容に関与した犯行者をできる限り特定し、かつ処罰すること。 なぜ、日本は国連からここまで酷い勧告を受けなければならないのか。それは、報告が慰安婦を貧困を原因とする身売りの被害者と見ず、権力による強制連行の犠牲者だと決めつけていることから出ている。戸塚悦朗らが懸命にそのような認識を国連人権委員会で吹聴して回った結果だろう。その認識に立つからこそ、報告書は、慰安婦制度を第二次世界大戦当時の国際法に違反する行為と見るのだ。 そしてその根拠は、実は、日本国内の論争ですでに慰安婦強制連行の根拠としての信憑性を完全に失っていた、挺身隊制度による慰安婦募集説と吉田清治証言なのだ。 報告書の慰安婦募集に関するくだりを引用する。 <3通りの募集方法が確認されている。1つはすでに売春業に従事していた婦人や少女たちが自ら望んで来た者。2つめは軍の食堂料理人あるいは清掃人など高収入の仕事を提供するといって誘い出す方法。最後は日本が占領していた国で奴隷狩りのような大規模で強制・暴力的連行を行うことだ(註7:G Hicks, "The Comfort women, sex slaves of the Japanese Imperial Forces, "Heinemann Asia Singapore, 1995) より多くの女性を求めるために、軍部のために働いていた民間業者は、日本に協力していた朝鮮警察といっしょに村にやってきて高収入の仕事を餌に少女たちを騙した。あるいは1942年に先だつ数年間には、朝鮮警察が「女子挺身隊」募集のために村にやってきた。このことは、募集が日本当局に認められたもので、公的意味合いを持つことを意味し、また一定程度の強制性があったことを示している。もし「挺身隊」として推薦された少女が参加を拒否した場合、憲兵隊もしくは軍警察が彼女らを調査した。実際、「女子挺身隊」によって日本軍部は、このようにウソの口実で田舎の少女たちに「戦争に貢献する」ように圧力をかけるのに地方の朝鮮人業者および警察を有効に利用できた。(註8:前同 その他慰安婦本人の証言) さらに多くの女性が必要とされる場合に、日本軍は暴力、露骨な強制、そして娘を守ろうとする家族の殺りくを含む人狩りという手段に訴えた。これらの方法は、1938年に成立したが1942年以降にのみ朝鮮人の強制徴用に用いられた国家総動員法の強化により容易となった(註9」前同)。元軍隊性奴隷の証言は、募集の過程で広範に暴力および強制的手段が使われたことを語っている。さらに、吉田清治は戦時中の経験を記録した彼の手記の中で、国家総動員法の労務報国会の下で1000人におよぶ女性を慰安婦とするために行われた人狩り、とりわけ朝鮮人に対するものに参加したことを認めた。(註10:吉田清治『私の戦争犯罪 朝鮮人強制連行』東京、1983年)> ヒックス著『従軍慰安婦』のお粗末さ クマラスワミ報告は1996年に発表されたものだから、時期的には、日本における論争の成果を十分活用できたはずだ。クマラスワミ女史は、秦郁彦、吉見義明の2人の学者から研究成果を聞いている。しかし、秦郁彦教授によると、米陸軍が捕虜とした20人の朝鮮人慰安婦と業者を尋問した記録などを示して、慰安婦は日本軍とは雇用関係がなく業者に雇われていたと説明したにもかかわらず、クマラスワミ報告書では、「秦博士は『大多数の慰安婦は日本陸軍と契約を交わしており・・・』と話した」と全く反対に書かれてしまい、外務省を通じて抗議したという。秦郁彦教授は、吉田清治についても詳しく根拠を挙げて、「職業的な嘘つき」と指摘したのだが、クマラスワミ女史は報告書で吉田証言を事実と扱って議論を展開している。 クマラスワミ女史は慰安婦問題の事実関係に関して、ジョージ・ヒックスの著書『従軍慰安婦』(THE COMFORT WOMEN)にほぼ全面的に依拠している。報告書で事実関係を扱っている「第2章 歴史的背景」では11の註が付けられているが、そのうち10がヒックスの著書を、残り1つが吉田清治の著書を典拠として挙げている。 となると、報告の信憑性とも直結する。そこで、改めてヒックスの著書の邦訳(三一書房刊)を通読してみたが、お粗末なものだった。 香港在住のオーストラリア人経済学者ヒックスは日本語、韓国語とも読むことができない。つまり1次資料や研究論文の大部分を読めないのだ。それで、ある在日朝鮮人女性に資料の8割を提供してもらったという。 例えばヒックスは、吉田清治証言を事実としてそのまま引用しているが、「済州新聞」の吉田清治批判記事についてその存在すら知らないのだから話にならない。 在日朝鮮人著述家の金一勉の本からの引用が多数ある。しかし、金一勉が著書に断定調で書いている様々な事実関係は立証されていない噂話の類が大部分で、日本の専門家たちは、金一勉の主張を相手にしていない。 ヒックスは日本における慰安婦問題研究の成果を全く勉強せず、提供された噂話の類を英訳して無批判につなぎ合わせて著書を書いた。 クマラスワミ女史も日本語、韓国語ができない。女史が報告書を書いた時期、慰安婦問題に関する英文の資料は大変乏しかった。ヒックスの著書がほぼ唯一のまとまった英文資料だった。だからといって、国連の調査官が、日本の専門家が激しく論争を繰り返している問題について英文の本1冊だけに依拠してよいのか。 慰安婦問題での日本の責任追及に理論面で中心的役割を果たしている吉見義明教授でさえも「クマラスワミ報告には事実誤認がある」として、ヒックスの本と吉田清治の証言は削除したほうがよいと勧める手紙をクマラスワミ女史に出したという。 女史は、このような杜撰なやり方で権力による強制連行を一方的に事実と決めつけ、その上に立って慰安婦を「軍隊性奴隷」と定義して、日本政府に国際法違反認定、個人補償実施、関係者処罰まで堂々と勧告するのだから、呆れるしかない。「性奴隷」という結論が最初からあって、それに合致する資料を集めてでっち上げた報告と言ってもいい。 北朝鮮プロパガンダを鵜呑み クマラスワミ報告でもう1つ、見逃すことができないのは、北朝鮮政府が積極的にクマラスワミ女史に情報提供していることだ。実は、1992年6月頃から、北朝鮮に住む元慰安婦が名乗りを上げだし、北朝鮮政府も日本に対して、韓国だけでなく北朝鮮の元慰安婦に謝罪と補償をせよと要求するようになった。日程の関係で訪朝できなかったクマラスワミ女史に対して北朝鮮政府は多数の文書資料を提供して「日本は、20万人の朝鮮人女性を軍隊性奴隷として強制的に徴集し、過酷な性的迫害を加え、その後そのほとんどを殺害した」。これは「人道に対する罪」「ジェノサイド条約2条の集団殺害」にあたると非難し、それが、クマラスワミ報告書にも北朝鮮政府の立場として記述されている。「日本が20万人の慰安婦のほとんどを殺害した」など全くのデマだが、それが国連の公的文書に書き込まれてしまうのだから深刻だ。北朝鮮にとっては歴史研究も外交も、すべて事実より政治宣伝が優先する。 クマラスワミ報告には次のような荒唐無稽な北朝鮮の元慰安婦の証言がそのまま記載されている。 《チョン・オクスン氏(74)の証言 私が13歳の時・・・村の井戸で1人の日本の駐留兵に連行された。トラックで警察署に連れて行かれ、そこで数名の警察官に強姦された。・・・警察署長が泣き叫ぶ私の左目を殴り失明させた。 ・・・日本軍駐留兵舎で毎日、40人に対して性的奴隷として犯された。約400人の若い朝鮮女性がいた。・・・一緒にいた朝鮮人少女が、なぜ1日に40人も相手をしなければならないかと尋ねたら、山本中隊長がリンチを命じた。皆が見ている中、衣服をはぎ、手足を縛り、針の出ている板の上に転がし、釘が彼女の血や肉片で覆われるまで止めなかった。最後に首を切り落とした。ヤマモトは私たちに向かって「お前らを全員殺すのなんかわけない。犬を殺すより簡単だ」と言った。「こいつら朝鮮人女は空腹で喚いているいるから、この人肉をゆでて食べさせてやれ」と命じた。 ある朝鮮人女性はあまりに強姦されたので性病にかかり、そのため50人以上の日本兵が感染した。感染を防ぎ、少女を「殺菌消毒」するため性病にかかった彼女の陰部に熱い鉄の棒を突き刺した。 数名の朝鮮人少女を水と蛇でいっぱいになったプールに突き落とし、土を入れそのまま埋めた。 兵舎にいた400人の少女のうち半分以上は殺されたと思う。 ・・・逃亡に失敗した後、拷問を受け、唇の内側、胸、腹などに入れ墨をされた》 書き写すだけで気分が悪くなるが、クマラスワミ女史はこのチョン・オクスン氏の証言を裏付け調査など一切なしで無条件に信じている。 女史は報告書で、 「これが間違いなく彼女らの人生において最も屈辱的で苦しい時間を思い出すことになるにもかかわらず、勇気を持って証言をしてくれた全ての女性被害者に心から感謝したい」 「これらの証言により、特別報告書はこのような軍隊性奴隷は日本帝国陸軍によりその指導者も承知の上で組織的かつ強圧的に実行されたと信じるに至った」 と記している。 その上、もう1つ見逃すことのできない問題は、日本政府がクマラスワミ報告に対して、事実関係に踏み込んだ反論を全くしていないことだ。 実は、1996年3月、クマラスワミ報告が国連人権委員会で採択されるかどうかの審議が行われた時、外務省は40頁にわたる反論文書「日本政府の見解」を国連人権委員会に提出した。 反論文書では、報告が依拠しているヒックスや吉田清治の著作、元慰安婦の証言を「日本政府は、以下のとおり、付属文書1がその立論の前提としている事実に関する記述は、信頼するに足りないものであると考える」 「本件特別報告者の事実調査に対する姿勢は、甚だ不誠実である」 と明快に批判した。 以下その主要部分を引用する。 《「本件付属文書第2章「歴史的背景」において、特別報告者は、旧日本軍の慰安所に関する歴史的経緯や、いわゆる従軍慰安婦の募集、慰安所における生活等について記述しているが、同章の記述は、ほぼ全面的に、日本政府に批判的な立場のG.Hicks氏の著書から、特別報告者の結論を導くのに都合の良い部分のみを抜粋して引用しているに過ぎない」 「特別報告者がこのように一般刊行物に依拠する場合、特別報告者がHicks氏の著述内容について、自ら十分な裏付け調査を行わなければならないことはその職責上当然のことである。しかしながら、本件付属文書の場合、何らそのような検証が行われた形跡がない。その上、引用に際し、特別報告者は、随所に主観的な誇張を加えている。このように無責任かつ予断に満ちた本件付属文書は、調査と呼ぶに値しない」 「第2に、本件付属文書は、本来依拠すべきでない資料を無批判に採用している点においても不当である。例えば、特別報告者は、従軍慰安婦募集のためslave raidを行ったとする吉田清治氏の著書を引用している(パラ29)。しかし、同人の告白する事実については、これを実証的に否定する研究もあるなど(秦郁彦教授「昭和史の謎を追う(上)」p334,1993)、歴史研究者の間でもその信憑性については疑問が呈されている(パラ40)。特別報告者が何ら慎重な吟味を行うことなく吉田氏の「証言」を引用しているのは、軽率のそしりを免れない」 「また、特別報告者が、恐らく旧日本軍の残虐性を意図的に誇張するために第4章の「証言」の中心に据えたのであろう。北朝鮮在住の女性の「証言」は、特別報告者が直接聴取していない「伝聞証言」である。これらの「証言」は、人権センターの職員により聴取されたとのことであるが、疑問点があれば特別報告者自ら問い質して確認するなどの努力もなしに、いかに供述の真実性を確認することができたのか、全く不明である」》 ところが、突然、反論文書は撤回され、非公開となってしまう。そして、歴史事実に踏み込まない「いわゆる”従軍慰安婦”問題に関する日本政府の施策」と題する形式的な文書に差し替えられて提出された。 国連の特別報告官が「性奴隷」などというおどろおどろしい語句をわざわざ用いて、日本政府の姿勢を糾弾した。それなのに、日本政府は、内容にまで踏み込んだ反論文書を撤回し、河野談話で道義的責任を認めて謝り、アジア女性基金で被害者へのお詫びを示しているなど縷々述べただけだ。 反論をしなければ認めたと見なされるのが国際社会なのだ。 北朝鮮はこの間、国連などの場で拉致問題での日本からの批判に対抗して「日本は戦前、20万人の朝鮮女性を性奴隷にした」などと言い募っているが、それに対して外務省はいつも「数字が誇張されている。日本はすでに謝罪している」という2点でしか反論しない。 このやり取りを聞いた他国の外交官らは北朝鮮の主張は数字が誇張されているのなら話半分で10万人くらいの女性を戦前日本は性奴隷にしたのだろうと思っても不思議ではない。 吉田清治記事取り消しへのクマラスワミ女史の反応 朝日新聞が吉田清治記事を取り消した2014年8月5日直後、クマラスワミ女史は日韓のマスコミの取材を受けた。まず、8月9日、韓国記者らと面会した。韓国政府がアレンジして韓国外交部合同取材団がスリランカのクマラスワミ女史の自宅まで訪問したのだ。韓国記者は朝日新聞の記事取り消しを彼女に伝えていない。彼女は報告書で慰安婦を「性奴隷」と定義した理由について「被害者の証言では明らかに奴隷の状況にあったため」「女性たちが自身の意思に反し誰かによって統制されていた」と強調した。日本政府が「河野談話」を検証し「強制連行は確認できない」とする内容を公表したことについては、「明らかに大部分で強制性があった」と批判したという(コロンボ発聯合ニュース)。 その後、クマラスワミ女史は9月4日までに共同通信と会見した。その中で朝日新聞の記事取り消しがあっても報告書の内容について「修正の必要ない」との考えを示した。「クマラスワミ氏は独自に行った元慰安婦への聞き取り調査などに基づき『(慰安婦の)募集は多くの場合、強制的に行われた』との主張を繰り返した」という(コロンボ発共同通信)。 クマラスワミ女史が行った元慰安婦への聞き取り調査は、一切裏付け調査を行っていない。そのため、北朝鮮の元慰安婦のチョン・オクスン氏のあり得ない話をも事実として受け取っている。 さらに、クマラスワミ女史は共同通信のインタビューで吉田清治証言について「証拠の1つに過ぎない」と主張している。しかし、吉田清治証言は、「加害者」側のものとしては報告書に採用された唯一の証言である。その重みは「被害者」証言と同様に大きいはずであり、「証拠の1つに過ぎない」などという理屈は成り立たない。 国際社会では反論しなければ認めたことになる。事態をここまで悪化させた外務省の責任は重い。 2007年3月31日、米下院本会議で慰安婦問題で日本を非難する決議が採択されてしまった。この決議は、クマラスワミ報告を大きな根拠としている。決議は日本政府に以下の4項目を求めた。 <(1)日本政府は、1930年代から第二次世界大戦中まで、アジアと太平洋諸島の植民地支配と戦時占領の期間に日本帝国の軍部隊が、「慰安婦」として世界に知られているところの性奴隷制を若い女性に強要したことについて、明瞭かつ曖昧さのない仕方で公式に認め、謝罪し、歴史的責任を受け入れるべきである。 (2)日本政府は、日本国首相の公的な資格でなされる声明として公式の謝罪を行うべきである。 (3)日本政府は、日本帝国軍隊のための「慰安婦」の性的奴隷状態と人身売買はなかったといういかなる主張に対しても、明瞭かつ公然と反論すべきである。 (4)日本政府は、「慰安婦」に関わる国際社会の勧告に従い、現在と未来の世代にこの恐るべき犯罪について教育すべきである> この日本政府への要求(1)にある「性奴隷制」という語句はクマラスワミ報告が「正確で適切な用語」として使ったsexsual slaveryという語句そのままだ。 要求(4)で言われている<「慰安婦」に関わる国際社会の勧告>には当然、クマラスワミ報告が含まれるはずだ。 このように見ていくならば、決議が<慰安婦は「性奴隷」である>というクマラスワミ報告書の基本的立場を継承していることが分かる。 クマラスワミ報告は性奴隷制という語句を使って、今回朝日新聞が捏造と認めた吉田清治証言と挺身隊制度での連行などを全て事実と認定していた。となれば、要求(1)にある<性奴隷制を若い女性に強要したこと>も、同じ事実認識を背景にしていると考えるべきなのだ。議会調査局報告書にも一時、吉田清治証言が採用され、米国下院決議審議のために議員たちが参考にしたとされる。 朝日新聞の罪は度し難く非常に重い。
|