02. 2014年10月30日 07:31:31
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地方創生は成功するのか? 東京からは見えない地方の構造的問題とは 「MOT」も助成金も地方経済を救えない 2014年10月30日(Thu) 雑賀 憲彦 2020年の東京オリンピックに向けて、東京は建設業を中心に活況を呈している。それに対して地方はほとんど大きなイベントもなく沈滞している。一部では東京だけが盛り上がって、アベノミクス効果が表れてきていると言われるが、東京以外の地方は全くと言っていいほどその効果はない。 東京一極集中が言われて久しいが、地方経済はいっこうに上向いてこない。小職が地方の国立大学に勤務していた時に、MOT(Management Of Technology:技術経営)というテーマの専門教員を経験したが、地方の国立大学には経営を指導できる人材がほとんど存在しないために、残念ながら失敗に終わっている。 そもそも日本の大企業は地方の比較的安い人件費を活用して、市や県が開発した工業団地に大規模工場を建設し、そこで生産された製品を都会に流通するというビジネスモデルを形成していた。ところがグローバル化が進むにつれ、さらに安い人件費を求め、中国に進出し、ベトナムに進出するようになった。その結果当然国内の地方工場は空洞化が進み、分社化され独自で経営していかなければならなくなった地方工場は行き詰まった。 そこに誕生したのがMOTであった。地方の国立大学は工学部や農学部という地域の産業に合った学部が存在するため、従来までの地方の若者は地元の大学で学び、地元の産業に従事するというパターンが少なからずあった。地方の国立大学の工学部を卒業した人の多くは地方の大企業の工場に勤務するというケースだ。工場長は地元の国立大学の工学部出身の人が多く、いままで本社から受注があったのが、減少してきたために、工場長自らが経験のない営業や経営をしなければならなくなったのである。その時、彼らに経営を教えるということが急務となり、MOTが誕生したという背景である。 ところが、MOTを採用した大学の多くは、工学部が主体となっているため、経営を教える教員がいない。経営学部が主体となっているところはまだ良いが、直接企業に出向いて経営を指導した経験を持つ教員がいないため、机上の空論になりがちとなり、徐々に受講者が減少した。つまり、せっかく地方経済の救世主となるべく誕生したMOTも残念ながら失敗の様相を呈しているのである。 地方自治体の間違った評価制度 MOTと同時期に、地方都市の活性化が経済産業省でも重要なテーマとなっていた。その時の県の産業労働部のような部署の課長は、東京の霞が関に行き、地元経済の活性化のために予算を獲得することに全精力を傾けていた。そのことは自身の出世にもつながるため、予算獲得に奔走するのである。それは良いのだが、問題はそのあとだ。 獲得した予算を県内の企業に配分するのだが、規定通りの10ページ以上もある申請書に応募してくるユニークでかつ熱心な企業は、残念ながらそれほど多くない。そのため、県側がわざわざ予算消化のために、企業を物色してユニークな技術を持つ企業に申請書を書くように要請する。その結果、毎年ほぼ同じ企業に250万円とか300万円という助成金を配分するという愚行が生じてしまう。 企業側からすれば、県から要請を受けて助成金をもらえるのだから、こんなに楽してお金をもらえることはないという心理である。その結果、その予算の効果はほとんど表れず、課長の出世の手段に使われたに過ぎないということが起こった。 この税金の無駄使いの構造は、自治体の体質である予算獲得能力を重要視し、予算配分後の成果や結果を問わない評価システムが問題なのである。つまり、助成金を渡した企業のその後の成果を見ることをしない限りは、渡しきりの状態である。さらに成果を見ずに翌年も支給するという愚行を繰り返してしまっても、誰も注意することはない。 それは、評価体制が「予算獲得重視、予算配分後の効果軽視」になっているからである。この評価システムが改善されない限り、予算獲得ばかりに奔走し、無駄なバラマキをする職員は減らないのではないだろうか。その結果、地方創生で予算を十分に割り当てているといっても、結局は無駄なバラマキに終わる可能性はなくならないであろう。 地方創生を成功させる3つのポイント MOTが失敗し、地域活性化策もバラマキに終わってしまっている地方経済に、活性化の手段はあるのか、地方創生ができるのか、と言われればはなはだ疑問である。 現在の政府は地方創生のために数兆円という予算を充てる予定であると言われている。果たして再度のバラマキに終わらないか心配の種は尽きない。そのポイントは次の3点である。 (1)MOTの再構築 10年ほど前に始まったMOTが鳴かず飛ばずの状態で失速している原因は、一にも二にも地方国立大学の工学部主体の進め方である。工学部の教員が地元の工場経営者に経営を教えることができないのは自明の理である。それを無謀にもやってしまったことがそもそもの失敗であるのだ。 MOTに予算を配分して、経営学を教えることのできる学者か、シンクタンクのコンサルタントを2〜3年の任期付で雇用し、その人をリーダー的な立場でMOTを再構築すべきである。そうしないと地域経済の活性化につながらない。 (2)自治体の評価制度見直し 自治体の人事制度の鍵を握るのは結果重視の評価制度であろう。地域活性化のために予算を配分するのは良いことである。問題は配分後の効果、成果をしっかりと評価してみて、効果のあるお金の使い方だったかどうかを自治体の幹部が議論する体制が作れるかどうかである。 今の自治体には予算執行後の効果性を評価する体制がほとんどないと言っていい。それでは国民の税金が有効に使われているのか、無駄に使われているのか、誰も分からない。マスコミや市民オンブズマンたちが時々効果性の調査をして無駄を指摘しているくらいである。 (3)助成金から報奨金への変更 地方の良い企業、ユニークな企業というのは一体どういう企業なのか。その定義が怪しいため、主観的にならざるを得ないのであるが、いずれにしろ良い企業やユニークな企業に助成金を支給すると活性化するかということであるが、それは必ずしも保証できない。 そうした、「前渡金」としての助成金ではなくて、業績を拡大し、地元の雇用者を増やしたら、その年度の新規雇用者分の人件費を報償金として支給するとか、営業利益を前年度よりも50%以上増大させた企業には、売上の規模に応じて助成金を段階的に支給するとかというような、「報奨金」のような性格にしなければ、無駄なバラマキになってしまう。それでは国民の納得性が得られない。 そのためには、業績拡大が不可避となるのであるが、業績拡大のためのサポート費用の支援という観点も良い。いわゆるコンサルティング費用である。コンサルティング費用をかけてでも業績拡大を目指したいという企業は前向きな姿勢が表れているものと評価でき、その費用の50%〜75%まで支援するという制度はどうだろう。そうすると、業績の拡大した企業にだけ報奨金が与えられ、多くの企業は業績拡大を真剣に目指すようになるだろう。 その際にコンサルティング費用をかけてその費用を補てんしてもらったが、それでも業績が拡大しなかった企業はどうするのかという問題は残るが、それでも今よりは改善されるに違いない。 【もっと知りたい! あわせてお読みください】 ・「『地方創生』予算、1兆円超でも焼け石に水?」 ( 2014.10.17、JBpress ) ・「同じ愚を繰り返す『地方創生』の勘違い」 ( 2014.10.06、川島 博之 ) ・「『無能な経営者はどんどん廃業を』 地方経済を救う苦くて強力な特効薬とは」 ( 2014.08.27、鶴岡 弘之 ) http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/42055
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