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安倍首相も5月に視察したシンガポールのマリーナ・ベイ・サンズ photo Getty Images
官邸主導「カジノ解禁」の最大の壁は「オール霞が関軍」
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/40814
2014年10月18日(土) 歳川 隆雄「ニュースの深層」 現代ビジネス
『朝日新聞』は、10月16〜18日まで上中下3日連続で「深層カジノ」と題した連載記事を大々的に掲載した。その第1回は、一面トップに「『カジノ効果』追う日本―首相『成長戦略の目玉』」との見出しを掲げたうえで、二面1頁も割いた大特集であった。
■カジノ解禁を阻む「ギャンブル依存症」問題
記事を読むと、安倍晋三首相が5月末に視察したシンガポールの統合型リゾート(IR)のマリーナ・ベイ・サンズ(MBS)内にあるカジノの現地ルポを始め、成長戦略の目玉とする首相官邸が先の通常国会に議員立法で提出された統合型リゾート推進法案(通称、カジノ解禁法案)の今臨時国会中の成立に前のめりになっている現状が詳述されている。
それだけではない。むしろ連載記事の主眼がカジノ導入による「マイナス効果」の指摘に力点が置かれていることに気が付く。所謂「ギャンブル依存症」問題である。
奇しくも連載開始の前日の15日午後、衆院内閣委員会で共産党の佐々木憲昭衆院議員は、13年10月にアフリカの在コンゴ日本大使館勤務のノンキャリア外務省職員が約2000万円の横領隠蔽のため大使館に放火した事件を取り上げ、同職員がカジノで作った借金返済に困り放火したのではないかと質した。
新聞各紙はどこもこの国会質問を記事にしなかったが、官邸と外務省は、実は佐々木質問への対応をめぐり慌てふためいていたのだ。斎木昭隆外務事務次官は14日午前と15日午前の2日連続で官邸を訪れ、差しで安倍首相と協議している。分けても15日には官邸訪問直後、急きょ上月豊久官房長を伴い自民党本部を訪れ、佐藤勉国対委員長と答弁内容を詰めたほどだ。
「カジノ解禁法案を成立させるべく全力で取り組んでいる」(菅義偉官房長官の3日の記者会見)官邸サイドは、カジノ=ギャンブル依存症のイメージ定着を極度に心配しているのだ。連立のパートナーである公明党の太田昭宏国土交通相が、先の改造内閣発足に当たってカジノ構想推進の特命を受けているにも拘わらず、議論が未成熟だとして法案成立に慎重論を唱え始めたこともある。
■公営ギャンブル利権を分け合う省庁は大反対
一方、推進派の声は日増しに大きくなっている。超党派で統合型リゾート(IR)立地の推進を目指す「国際観光産業振興議員連盟」(通称、カジノ議連。会長・細田博之自民党幹事長代行)は16日に総会を開催した。細田会長は冒頭、「一気呵成に成立を目指したい」と発言するなど、同議連は気勢を上げた。
しかしカジノ議連側もこの間、「ギャンブル依存症の指摘などから、解禁対象を当面外国人に限定する」「日本人も入場制限の設定などを条件に解禁対象とする」など修正を繰り返し、まさに論議の“未成熟ぶり”を露呈した。
そこで次は、カジノが解禁されればギャンブル依存症が増えるというネガティブ・キャンペーンがそれなりに周知徹底したのは何故かである。それも特に霞が関で。警察官僚の抵抗説が指摘されているのだ。
カジノ解禁はギャンブルに対する規制や課税を明確化することにつながるが、そうなると実質的なギャンブルであるパチンコにも影響が及ぶ。パチンコは警察の定義では「遊戯」だが、出玉を景品交換所で換金するのを黙認している。法的にグレーゾーンに置くことでパチンコ利権を握る警察官僚がギャンブル解禁法案に抵抗しているというのだ。
農林水産省は競馬、経済産業省は競輪とオートレース、国土交通省は競艇、総務省は宝くじ、文部科学省はサッカーくじといったように所管する各省は利権を分け合っている。公営ギャンブルを脅かすカジノへの民間参入、それも米ラスベガスのサンズ社やMGMリゾーツ・インターナショナルなど米国資本が背後に控えている民間企業群の参入を阻止したいというのが本音である。
つまり、官邸主導のカジノ解禁に立ちはだかる高くて厚い壁の実態は、実は共産党など野党の一部や識者の反対ではなく、オール霞が関なのだ。官邸と議連が前のめりになっているカジノ解禁法案の今臨時国会中(11月30日閉会)の成立は容易ではない。
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