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朝日新聞はまだ懲りないのか!?「米国のシリア空爆」でも「ねじ曲げ」報道
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/40547
2014年09月26日(金) 長谷川 幸洋「ニュースの深層」 現代ビジネス
朝日新聞はまだ懲りないのだろうか。
なんの話かといえば、米国のシリア空爆をめぐる報道である。米国がシリア空爆を正当化した根拠について、朝日の報道はとても正確とは言えない。朝日は「米国は集団的自衛権行使に基づいてシリアを空爆した」と印象付けようとしているが、事実は違うのである。
■書き出しに「集団的自衛権などを行使」
朝日新聞9月25日夕刊一面より
まず朝日の報道ぶりをみよう。朝日は空爆開始直後の9月24日夕刊で、パワー国連大使が潘基文国連大使に送った書簡の内容について「『空爆は自衛権行使』 シリア領攻撃 米が国連に文書」という見出しで次のように報じた。
〈(書簡は)テロ組織の攻撃にさらされているイラクの要請を受けた米国が、他国が攻撃された場合に反撃する「集団的自衛権」などを行使したという説明だ〉
書き出しのこの部分だけ読むと「そうか、米国は集団的自衛権に基づいてシリア攻撃をしたのか」と理解してしまう。本文はどうかというと、次のように書いている。
〈…シリアのアサド政権について、自国の領土を過激派がイラク攻撃の拠点に使っているにもかかわらず、攻撃を効果的に防ぐ「能力も意思もない」と指摘。この場合、攻撃下にあるイラクは、国連憲章51条が定める自衛権に基づき自国を防衛できると説明。自国の脅威にもなっている米国も自衛権を行使した、とした〉
お分かりのように、本文では「米国は自衛権を行使した」と書いていて、集団的自衛権という言葉は出てこない。記事には「米国が国連に出した文書の骨子」という横書きのメモが付いているが、そちらにも集団的自衛権という言葉はない。
■翌日朝刊でも「シリア空爆は集団的自衛権行使」と報道
同じ24日夕刊で読売新聞はどう報じていたかといえば「シリア空爆 米『自衛権を行使』 国連総長、一定の理解」という見出しで本文はこう書いている。
〈国連加盟国が攻撃を受けた際の個別的・集団的自衛権を定めた国連憲章51条に触れ、「今回のように、脅威が存在する国が、自国領土を(テロ組織によって)使われることを防ぐことができず、その意思もない時には、加盟国は自衛できる」とした〉
これを読んで、書簡が国連憲章51条に言及していたことが分かる。この時点で私は頭が「???」だった。こんな重要な問題で、本当に朝日が書いたように「米国は集団的自衛権の行使だ」と明言したのだろうか、と思った。だったら、読売はなぜそう書かないのか、と思った。
そのうえで翌25日の朝日朝刊を開いてみると、問題の論点についての記事は「シリア空爆、自衛権を主張」という見出しで本文はこう書いていた。
右がアメリカのサマンサ・パワー国連大使
〈オバマ氏の国連演説に先立ち、米国のパワー国連大使は23日、「イスラム国」への空爆をシリア領内で実施したことについて、「国連憲章51条に基づく自衛権行使」だとする文書を国連の潘基文事務総長に提出した。
…文書によると、「イスラム国」の攻撃にさらされているイラクから空爆を主導するよう要請を受けたとして、他国が攻撃された場合に反撃する「集団的自衛権」を行使したとしている〉
ここでも前日夕刊の線を維持している。前段は国連憲章51条の行使と読売夕刊と同様に書いているが、後段の「集団的自衛権を行使した」というくだりは記者の地の文章だ。これは本当だろうか。本当なら、米国は集団的自衛権の行使でイラクを空爆したという話になる。
■事実は国連大使の書簡を読めば明らか
事実を確認するには、パワー国連大使の書簡そのものを読めばいい。検索すると15分もかからず、すぐ見つかった。書簡は潘基文事務総長に送られた後、安全保障理事会のメンバー15ヵ国に回覧された。国連憲章で加盟国が51条の自衛権に基づく軍事行動を起こした場合は、直ちに安保理に報告するのを義務付けられているからだ。各国に出回っているのだから、ちょっと取材すれば入手できるのだろう。
全文は以下のとおりである(この全文はhttp://www.businessinsider.com/the-syria-strikes-and-international-law-2014-9というサイトでも読める)。
パワー国連大使の書簡
お読みいただければ、あきらかなように、書簡は次のように書いている。
〈今回のケースのように、脅威が存在する国が(注:イスラム国による)こうした攻撃で自国領土を守ることもできず、また意思もないときに、国家は国連憲章51条に反映されているように、個別的かつ集団的自衛権の固有の権利に従って自衛することが可能でなければならない〉
パワー国連大使は「集団的自衛権に基づいて空爆した」とは言っていない。「憲章51条の個別的かつ集団的自衛権に基づいて自衛する権利がある」と主張しているのだ。この部分は憲章51条そのものの言い回しを引用している。51条は個別的自衛権と集団的自衛権を明白に区別していない。両者をセットで「固有の権利」としているのだ(http://www.unic.or.jp/info/un/charter/text_japanese/)。
■「吉田調書報道」と同じ「ねじ曲げ」ではないか
ところが、朝日はそこから集団的自衛権だけを記者が抜き出して報じたのである。あえて個別的自衛権の部分を落としたと言ってもいい。それだけではない。朝日は個別的自衛権について先の朝刊でどう書いたかといえば、次のようだ。
〈米国人記者2人が「イスラム国」に殺されたことや、シリアにいるアルカイダ系武装組織「ホラサン・グループ」の米国などへのテロ計画が最終段階に入っていたとの情報を踏まえ、米国は自国民を守る「個別的な自衛権」を行使したと主張している〉
これも書簡の原文に当たると、次のようになる。最後の部分だ。
〈加えて米国は、ホラサン・グループとして知られるシリアのアルカイダ系組織が米国や友好国、同盟国に与えている脅威に対処するためにシリア領内で軍事行動を始めた〉
ここで「個別的な自衛権を行使した」などという説明はない。ようするに、米国はあくまで憲章51条にある固有の権利として個別的かつ集団的自衛権に沿って軍事力を行使した、という立場を述べているにすぎない。べつに「この部分は集団的自衛権で、あの部分は個別的自衛権で」などとは説明していない。
そういう説明は朝日が勝手に付け加えたのである。これは吉田調書報道と同じような「ねじ曲げ」ではないか。
こういう勝手な解釈に基づく報道は慰安婦問題や原発事故の吉田調書の訂正謝罪でいやというほど懲りたはずだ。にもかかわらず、まだやっている。これを単なる書き飛ばし記事として見逃せないのは「イラク空爆の根拠」は国際社会で大きな論点になっているからだ。
ロシアやイランは安保理決議がなければ空爆は国際法違反という立場である。米国は安保理に空爆容認を求めれば、常任理事国であるロシアが反対するのは分かっている。だからこそ、そんな安保理決議手続は踏まず、憲章51条に基づく自衛権の発動という形で空爆を実行した。
■「集団的自衛権=悪」のスタンスありき?
空爆に賛成であれ反対であれ、まずは米国の主張と51条の趣旨を正確に理解することが、今回の事態を理解する第1歩である。ところが出発点で歪んだ報道をされてしまえば、全体構造の理解が間違ってしまうのだ。朝日はいったい問題の重要性をどう考えているのだろうか。
朝日がなぜ「米国の空爆は集団的自衛権行使」と強調したかといえば、読者に「ほら、だから集団的自衛権というのは怖いんですよ」と宣伝したかったからではないか。集団的自衛権=悪というスタンスが先にある。だから絶好の事例として「それで米国は空爆しました。空爆は悪です。だから集団的自衛権も悪です」と強調したかった。私はそう思う。
個別的自衛権と集団的自衛権の違いについていえば、政党間でも学者間でも実は意見が分かれている。両者は実際には重なりあう部分があるから、厳密に区別しようとしても無理だという意見もある。ここで議論に深く立ち入る余裕はないが、そういう意見の違いがあるからこそ、報道は安易に「これは個別的、あれは集団的」などと決めつけるのに慎重であるべきではないのか。
米国はそんな意見の違いも承知しているからこそ、あえて個別的と集団的自衛権を併記している51条の言い回しをそのまま使った、と解釈することもできる。むしろ、そういう立場こそが国際常識とさえ言える。そういう微妙さを理解せずに、記者が勝手に自分の判断を混入させて記事を書けば、読者はますます国際常識からも真実からも遠ざかってしまう。朝日の病根は、ますます深いと言わざるをえない。
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