01. 2014年9月24日 07:22:38
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海外メディアからも出る消費増税「先送り論」2014年9月24日(水) 上野 泰也 個人消費は「消費税ショック」からの立ち直りがきわめて鈍い。内閣府が発表した7月の消費総合指数は、3カ月ぶりに前月比で低下した。指数の水準は大幅に切り下がっている<図表>。8月の消費関連指標も、弱いものが目立つ。足元の消費不調の原因を天候不順に求める見方もあるが、説得力に乏しい。やはり、消費税要因を含む物価の上昇に賃金など所得の増加がいっこうに追いつかないことによる、実質可処分所得の減少が主因だろう。 ■消費総合指数 (出所)内閣府 こうした中、安倍晋三首相は9月14日のテレビ出演で、2015年10月の次回消費税率引き上げを予定通り実施するかどうかについて、「経済は生き物だからニュートラルに考える」と言明。7〜9月期の経済指標などを踏まえて慎重に判断する姿勢を示した。「経済成長と財政健全化の2つの道を追っていくしかない」としつつも、「経済がガクっと腰折れすれば思惑通りに税収があがらない」とも述べた。 これより前、「アベノミクス」の司令塔である甘利明経済再生相は9月5日のインタビューで、消費税率の再引き上げについて安倍首相は現時点で「全くニュートラル」だとした上で、1年半の間に消費税率が2倍になるので、8%への引き上げ判断の時よりも「総理は相当慎重に判断する」とした。 10%への引き上げ判断の方が「ハードルは高い」ということである。「(消費税率引き上げで)デフレに戻っては何のためのアベノミクスかとなる」「経済規模が縮小にならないように慎重に判断し、対処する」とも、甘利大臣は述べた。 注視すべき甘利大臣の発言 上記の発言内容の比較から、安倍首相と甘利大臣の息はぴたりと合っていることがわかる。消費税率引き上げ問題の決着点を探る上でその発言をウォッチすべき人物として、決定権者である首相の次に来るのはやはり、甘利大臣だろう。 その甘利大臣が、仮に消費税率引き上げを先送りする場合に何が必要になるかについても整理して発言している点は、もっと注目されてよい。 5日の上記インタビューの中で甘利大臣は、「いろいろ手を尽くしても、経済が縮小に戻る危険性があるときは(消費税率の引き上げに)相当慎重になる」「仮に上げることが選択できなかった場合、財政再建の見通しがなくなるようなことは絶対避けなければならない」と発言。引き上げが見送られた場合の課題として、@増収分の使途として定まっている社会保障充実のための予算手当て、Aいつまでに引き上げるか明確にする必要性などを指摘した。 なお、@については共同通信が9月15日、消費税率引き上げによって確保するとしている子育て支援の財源7000億円のうち3000億円程度の不足が15年度に生じるという厚生労働省の試算を報じている。 一方、自民党幹部からは、消費税率引き上げは予定通り15年10月に実施すべきだという声が複数出ている。 高村正彦副総裁は9月10日、この問題について「環境が整って、上げられることがベストだ」と記者団に語り、予定通り引き上げるべきだとの考えを重ねて強調。「市場の信認を失って国債暴落、金利高騰となれば、政府としても、日銀としても打つ手がほとんどない。経済失速の場合は、それなりに打つ手がある」と述べて、黒田東彦日銀総裁が唱えているリスク認識(後述)に同調した。 谷垣禎一幹事長は9月13日にテレビ番組で、「大きな方向はあまり先送りしないでやっていかないといけない」「(税率を)上げた時のリスクは、まだいろんな手で乗り越えられるが、上げない時のリスクは打つ手が難しい」と発言。同日、記者団に対して「織り込み済みのことをやらないというリスクは、よく考えないといけない」とも述べた。 政治、政策当局に微妙な温度差 リスクについての谷垣幹事長の考え方は、高村副総裁(および黒田日銀総裁)と、基本的に同じである。幹事長に就任した直後よりも、増税容認論に傾斜した印象がある。 だが、谷垣氏は首相を支える姿勢を明確にしているだけに、「首相が引き上げ延期に傾いたときに、温厚で波風を立てることを嫌う谷垣氏がそれに強く異論を唱えることはない」との財務省幹部の発言も報じられている。そして、安倍首相は9月19日の講演で、幹事長への谷垣氏起用が「消費増税シフト」ではないかとの指摘は誤りだと明言した。 日銀の内部はどうか。ことさら報じられていないが、財務省OBである黒田総裁と「リフレ派」の学者出身である岩田副総裁には、消費税率引き上げ問題を巡って微妙な温度差があるようにうかがわれる。 黒田総裁は9月4日の記者会見で、15年10月の消費税率引き上げについて最初に質問された際、「政府、国会がお決めになることであり、私から何か特別なことを申し上げるつもりもありませんが、財政の健全化が着実に進むことは、財政にとっても重要ですし、日本経済全体にとっても極めて重要であると思いますので、政府が決定した中期財政計画に従って、財政の健全化が進んでいくことを期待しています」といった返答にとどめた。 だが、再度の質問に対しては、「(消費税率引き上げが)行われない場合には、それによって仮に政府の財政健全化の意思や努力について市場から疑念を持たれると――確率は非常に低いとは思いますが、そのような事態が起こってしまうと――、政府・日銀としても、対応のしようがないということにもなりかねません」 「他方で、増税した場合に、予想以上にあるいはその他の内外の経済状況如何で経済の落ち込みが大きくなる事態となれば、財政・金融政策で対応できると思われます」「行った場合のリスクに対しては対応のしようがあり、行わなかった場合のリスクが顕現化した場合には、なかなか対応し難いところがあります。後者は、確率は低くても、その影響は甚大なものになる可能性があるという意味では、リスクが大きいと思っています」と述べて、予定通りの増税実施を政府に事実上促した。 一方、岩田規久男日銀副総裁は9月10日に出張先の金沢市で行った記者会見で、「消費税率の引き上げについては、政府・国会が、経済状況に応じて総合的に判断されると認識しています。安倍総理も、冷静に分析を行いながらしっかり対応していくと述べられておりますので、私もそれが大切だと思います。経済情勢を慎重に見極めたうえで、適切な判断をされると思っています」「税については、中立を守るというのが私の立場です」とするにとどめた。リフレ派の中では現在、再度の消費税率引き上げには慎重な意見が少なくない。 この間、世論調査では、10%への税率引き上げに対する反対論が引き続ききわめて強い。たとえば、9月12日に公表された時事通信の世論調査(調査実施:9月5〜8日)では、「予定通り10%とすべきだ」が20.9%にとどまる一方、「当面見送るべきだ」が39.2%、「引き上げに反対」が37.6%になった。 「日本の景気回復の勢いはこの数カ月で失われた」 これより前に実施されたNHKの調査結果とほぼ同じ意見分布である。15〜16年に参院選を含む重要な選挙がいくつかあり、衆院の解散総選挙も行われる可能性が高いことを考えると、7割以上が反対しているこのままの世論の状況では、予定通りの増税は政治的にかなり難しいだろう。 そして、筆者が最近注目度を高めているのが、この問題を巡る「外からの声」である。 英経済紙フィナンシャルタイムズは8月29日の社説で、「アベノミクス」による景気の回復が危うい状況に陥る中、首相はこれまでの軌道から外れず、経済政策に集中すべきだとし、15年10月に予定される消費税率引き上げの延期や日銀による追加緩和などを求めた。 米紙ニューヨークタイムズは14年9月11日の社説で、日本の景気回復の勢いのほとんどがこの数カ月で失われたとした上で、15年10月の消費税率引き上げは延期すべきだとの見解を示した。 米格付会社スタンダード&プアーズでソブリン格付けを担当している小川隆平氏は米通信社のインタビューで、15年10月の消費税率引き上げについて、マクロ経済に悪影響を与える可能性があれば「必ずしもソブリン格付けにプラスではない」と言明。 財務省内でも不安視の声? 先送りした場合の国債市場への影響について、「多少ボラティリティーが出たり、国債の利回りが上がったりするかも知れないが、今のベースで日銀が買い続ける限り、需給関係だけで見ればそんなに大きく国債が売られるとは考えにくい」との見通しを示した。市場への影響については、筆者も同意見である(当コラム2014年8月19日配信の「次回消費税率引き上げに『先送り論』」ご参照)。 このほか、米財務省の匿名の高官が9月12日、日欧の景気減速に懸念を示す中で、日本について「需要や実質賃金の低迷が新たな懸念だ」と発言。19日にはルー米財務長官がG20(主要20カ国)財務相・中央銀行総裁会議を前に、欧州に加えて日本の景気停滞にも言及したことが伝えられた。世界経済の短期的な浮揚を望んでいる米国の意見が今後、日本の消費税率引き上げ問題に何らかの影響を及ぼすことがないかどうかも、注目点である。 15年10月の消費税率引き上げは結局先送りされるだろうと、筆者は引き続き予想している。この問題で強気一辺倒だった財務省内で「7〜9月期も(景気の)回復が鈍ければ、引き上げ判断できないのでは」(官房幹部)、「正直、かなり危うくなったと思っている」(主計局中堅)といった不安視する声がささやかれ始めたと、時事通信が伝えている。 このコラムについて 上野泰也のエコノミック・ソナー 景気の流れが今後、どう変わっていくのか?先行きを占うのはなかなか難しい。だが、予兆はどこかに必ず現れてくるもの。その小さな変化を見逃さず、確かな情報をキャッチし、いかに分析して将来に備えるか?著名エコノミストの上野泰也氏が独自の視点と勘所を披露しながら、経済の行く末を読み解いていく。 http://business.nikkeibp.co.jp/article/opinion/20140922/271547/?ST=print 「永濱利廣の経済政策のツボ」 4〜6月期GDPが示す消費増税のハードルの高さ 2%成長復帰には7〜9月期に年率5.8%成長が必要 2014年9月24日(水) 永濱 利廣 最終需要ベースでは年率16%以上の落ち込み 9月8日に今年4〜6月期のGDP(国内総生産)が改訂され、年率換算で7.1%のマイナス成長となった。概ね事前予想に近い結果となったものの、前回増税時(1997年4〜6月期)の反動減が同3.5%であったことからすると、今回の反動減は大きかったといえる。 さらに、今回はヘッドラインの数字がこれだけ落ちているにもかかわらず、民間在庫品増加と外需が大幅に押し上げていることには注意が必要だ。つまり、GDPから在庫品増加をのぞいた最終需要で見れば、年率12.6%のマイナス成長となり、さらにそこから外需をのぞいた国内最終需要で見れば同16.9%のマイナス成長となる。 この落ち込み幅はリーマンショック直後の同6.8%を大きく上回る。1〜3月期に消費税率引き上げに伴う駆け込み需要で同6.0%のプラス成長を記録した後の反動の要因が大きいとする向きもあるが、1〜6月期で均しても前年7〜12月期から年率1.0%成長にとどまっており、経済成長の勢いが弱まっていると評価せざるを得ない。 経済成長率の要因分解 反動だけでは説明できない個人消費の落ち込み 中でも、個人消費は実質で前期比5.1%減と7四半期ぶりのマイナスとなり、落ち込み幅は現在の統計で遡れる94年以降で最大となった。駆け込み需要とその反動を均すために今年1〜6月期と昨年7〜12月期を比較しても前期比0.4%減となっている。 背景には、基礎統計となる総務省「家計調査」のサンプルが少なく、実態以上に下落している可能性もあろう。ただ、それを割り引いても、消費税率引き上げに伴う購買力の低下によって消費水準が下がった影響は無視できない。実際、消費税率引き上げを含めた物価の上昇に賃金の伸びが追いついておらず、実質賃金の大幅減などを通じて実質雇用者報酬は前期比1.7%も減っている。デフレ脱却道半ばの日本経済に3%の消費税率引き上げ幅は影響が大きかったといえよう。 個人消費と雇用者報酬 回復持続の設備投資も勢いは鈍化か 一方、今後の日本経済のけん引役として期待されている設備投資も前期比5.1%減とマイナスに転じた。背景には、前期にOS(パソコン用基本ソフト)のサポート終了に伴う更新投資や一部駆け込み需要も含まれていた反動がある。 とはいえ、前期の同7.8%増からの反動が比較的軽微だったことや、工作機械受注統計の内需が堅調なこと、さらには日銀短観や日本政策投資銀行の設備投資計画調査が設備投資のさらなる拡大を示していることからすれば、設備投資は引き続き今後の景気のけん引役として期待されよう。ただ、設備投資の先行指標である機械受注(船舶と電力を除く民間需要)が4〜6月期に大幅減となったことは気がかりだ。設備投資の勢いは下方修正せざるを得ないだろう。 設備投資と機械受注 今後の景気を大きく左右する輸出の回復 他方、外需は前期比年率4.3%増と大幅にプラス寄与したものの、うち4.7%分は輸入が駆け込み需要の反動から大幅に減少したことによるものである。むしろ、輸出が依然として低迷していることに注意が必要であろう。 事実、日銀も8月の金融政策決定会合で、輸出の見方を「横ばい圏の動き」から「弱めの動き」へと引き下げた。日銀が公表する7月の実質輸出を見ると、4〜6月期対比で1.2%増加しており、世界経済の循環的回復を踏まえれば、7〜9月期の輸出はプラスに転じる可能性が高い。ただ、海外生産へのシフトなどを背景とした輸出の弱さが続けば、景気の大きな懸念材料となることには注意が必要だ。 GDP輸出入と実質輸出入 1〜6月期比横ばいでも7〜9月期は3.8%成長 7〜9月期のGDP見通しについては、個人消費を中心にリバウンドが期待されよう。GDP個人消費の月次指標である消費総合指数によれば、7月以降が横ばいで推移したとしても、7〜9月期の実質個人消費は0.9%増となり、これだけで7〜9月期の実質成長率を年率で2.3%程度押し上げることになる。また、先述の通り設備投資や輸出、さらには昨年度補正予算の顕在化が期待される公共投資の反転も予想されることから、プラス成長に復帰することはほぼ確実だろう。 個人消費と消費総合指数(季節調整値) しかし、そもそも駆け込みと反動を均した1〜6月期の水準に戻るだけでも7〜9月期は年率3.8%成長に達する。一方、来年10月に控えている消費税率引き上げの判断材料の観点からすれば、前回の判断時には実質2%程度の成長が目安となっていた。このため、今回の駆け込みと反動を均した実質GDPで年率2%成長を維持するためには、7〜9月期の成長率が前期比年率で5.8%となることが必要と試算される。 ただ、4〜6月期に年率でGDPを5.5%も押し上げた民間在庫品増加が在庫取り崩しで7〜9月期にはマイナス寄与になる可能性が高いことも加味すれば、次回の消費税率引き上げを決断するための7〜9月期の経済成長率のハードルはかなり高いといわざるを得ない。 消費増税に必要な7〜9月期の経済成長率 注目は補正予算の中身 アベノミクスでは、大胆な金融緩和に伴い異常な円高・株安が是正されたことで企業収益が改善し、昨年度は雇用や消費の拡大にも結び付いた。今年度にかけて設備投資の拡大にも波及しつつある。また、機動的な財政政策で公共事業が増えたため、地方経済も20数年ぶりの景況感回復が実現した。政府の賃上げ要請も功を奏し、15年ぶりの賃上げ率も実現した。 しかし、現状は家計所得増加が追い付かない幅で消費税率を引き上げてしまったことと、円安に伴う副作用(輸入物価上昇)により、消費のところで好循環が途切れてしまっている。消費税率を3%も引き上げるわりに補正予算で家計向けの対策が手薄だった面がある。今後は家計の負担増を軽減する政策を重視すべきだろう。 そもそも、消費者の実感ベースとなる持家の帰属家賃を除くCPI(消費者物価指数)の上昇率が7月に前年比4%を超えている一方で、同月の名目賃金上昇率が2.6%と17年ぶりの伸びを記録したものの物価上昇に追いついておらず、国内景気にとって大きな購買力の低下につながっている。 従って、日銀や政府の今年度の経済成長率見通し(それぞれプラス1.0%、プラス1.2%)も下方修正は必至の状況だ。こうなると、市場では日銀の追加緩和や政府の追加対策の期待が高まりやすくなろう。 ただし、日銀は労働市場やインフレ率の悪化が顕在化するまでは追加の金融緩和の可能性は低い。むしろ、年末の消費税判断や来春の統一地方選挙、さらには秋の自民党総裁選控えている政府の方で、今月にも補正予算の議論が高まる公算が高い。補正予算の内容が注目される。 特に足元では雇用者報酬の増加率以上の消費税率引き上げと、世界情勢や天候不順などによる食料・エネルギー価格高騰により、個人消費のところで好循環が遮断されている。昨年度の補正予算で家計向けに6000億円程度の減税しか行われなかった影響も大きい。 一方で、公共事業の増加が人手不足などにより震災復興や民間投資の足を引っ張っていることからすれば、公共事業の抑制や予備費を財源に、一刻も早く家計負担を軽減する支援策を打つべきだろう。最も即効性が高いのが、より低所得者や地方経済への効果が大きいトリガー条項の発動である。ガソリン価格低下による直接的な家計負担軽減に加えて軽油も下がるため、輸送コスト低下を通じて食料品価格の抑制にもつながる。 物価と雇用者所得 このコラムについて 永濱利廣の経済政策のツボ アベノミクスの登場で経済政策から目が離せなくなりました。政府や日銀の動き方次第で仕事や暮らしは大きく変わります。独自の経済分析に定評のあるエコノミストが、常識や定説にとらわれない経済政策の読み解き方を伝授します。 http://business.nikkeibp.co.jp/article/opinion/20140919/271484/?ST=print |