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9月12日付朝日新聞
朝日誤報騒動の背後に読者不在の社内派閥抗争 「吉田調書」続報を社会部系幹部が潰す
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20140919-00010003-bjournal-bus_all
Business Journal 9月19日(金)6時0分配信
9月11日、朝日新聞社の木村伊量社長は記者会見を開き、「吉田調書」報道の取り消しを表明、それを前面に打ち出して謝罪した。同時に一連の従軍慰安婦検証報道で誤報を認めながら謝罪しなかった点と、それに関するジャーナリスト・池上彰氏のコラム掲載見合わせ問題についてもお詫びした。
一連の騒動勃発から謝罪に至るまでの経緯の裏側には、朝日社内における読者不在の反省なき権力闘争があり、今も続いている。
そもそも朝日社内では、この「吉田調書」報道をめぐっては、世間から批判を受ける前にも社内バトルがあったといわれる。それは、2014年新聞協会賞申請をめぐる争いだ。申請にはまず社内選考があり、「徳州会から猪瀬直樹東京知事への5000万円献金疑惑」と「吉田調書入手」の2つのスクープが候補となった。前者は社会部、後者は特別報道部の担当である。まだ歴史が新しい特別報道部は、権力の監視を主に行う「調査報道」が中心の部署で、最近は輝かしい実績を積み上げ、12年に「プロメテウスの罠」、13年に「福島第一原発周辺の手抜き除染」と2年連続で新聞協会賞を獲得した。どうしても、社会部は巻き返して協会賞を取りたく、「吉田調書」報道を潰したかったのである。朝日社内では、特別報道部と社会部が犬猿の仲であることを知らない者はいない。結局、社内選考は社会部が勝った。
特別報道部の「吉田調書」取材班が、発掘した調書や関係者の証言、他の資料などと突き合わせてわかった新たなスクープの続報を出そうとすると、社会部系の上層部から待ったがかかったという。
「社会部出身の上級幹部が続報を出させないように圧力をかけてきて、新聞協会賞が終わるまで待てとの指示だったようです。続報を出さないと全体構造がわからないと、みな悔しがっていました。そして、新聞協会賞の選考が終って9月初めに続報を出そうとすると、あれは誤報だから処分すると急に言われたそうです。社長の責任逃れのために、『吉田調書』の誤報が大きく強調されたのだと思います」(朝日中堅幹部)。
別の朝日関係者からは「外部の批判に乗じて、『吉田調書』が誤報であると広めたのは、特別報道部の解体を狙う社会部系幹部だ」との声も出始めている。
●社会部の責任逃れと特別報道部潰し
「吉田調書」報道が誤報だったのかどうかは微妙だ。世間では、従軍慰安婦検証報道で記事の一部に間違いがあることを認めたのに、それを謝罪しなかったことへの批判とごちゃ混ぜになってしまい、「朝日は誤報の巣窟」とのイメージが拡散しているが、冷静に見ていくと事実は異なる。
「吉田調書」報道では、東京電力職員が命令違反で逃げた事実がなかったとして謝罪したが、命令違反がなかったとは完全には言い切れない。本来、「吉田調書」報道の狙いは、原子力発電所が想定外の大きな事故や災害に見舞われると、作業に慣れた電力会社の社員の手でも制御不能となることを当事者が克明に語った生々しい記録を公開することで、国民的な議論を喚起し、原発再稼働の是非を問うことにあった。
だから「命令違反」があったのか否か、東電社員たちが逃げたのかどうか、がんばった東電社員たちを貶めるものなかどうかは、本質的な問題ではない。自分の命を懸けて働いた「美しい日本人たち」がいたかどうかも同様だ。「吉田調書」や他の資料・証言などと照らし合わせて、あの時、政府や東電はどのような判断を下し、何が起こっていたのかあぶり出し、問題提起していくことに意義がある。取材班は続報で、そのことを追及していくはずだったのに、内部の権力闘争に起因すると見られる嫌がらせによって、続報の出稿はストップされたという。
「命令違反」に関して行き過ぎた表現があったとしても、その報道姿勢は評価されて然るべきであり、国民の知る権利に応えようとする取材活動だったのではないか。誤解を恐れずに言えば、今回の対応を見ていると、「立小便で死刑宣告している」に等しい。
筆者は、読者ら外部から誤報ではないかと指摘されたことを隠蔽して逃げろと言っているわけではない。行き過ぎた表現があるとすれば、そこをお詫びして、本来の報道の意義や姿勢について理解してもらうのが筋ではないか。その対応をしないことの合理的な理由がない。それをしないのは、木村社長の責任逃れや権力闘争が背景にあるからだ。
木村社長は、「命令違反」はなかったと強調して謝罪することで、実は自分の判断ミス、具体的には従軍慰安婦検証報道後に謝罪しなかったことと、池上彰氏のコラム掲載を見合わせて批判を浴びたことの責任の大きさを相対的に下げて社長の座にしがみつこうとしているのではないか。そこに、社会部系幹部による特別報道部潰しの戦略がぴったり重なる。さらに言えば、従軍慰安婦報道の責任は社会部にあるので、社会部出身の上級幹部がその責任を目立たないようにするために、姑息にも「吉田調書」の謝罪を前面に打ち出すように画策した模様だ。
権力闘争に明け暮れ、最後はトカゲのしっぽ切りで幕引きを図ろうとする朝日は、このままでは本当にコア読者層からも見放されるであろう。筆者はかつて朝日記者として約13年間勤務し、同社が嫌になって10年前にフリージャーナリストに転じたが、「嫌になった」対象は私の周辺にいた幹部連中である。フリーでも活動していける力が付いたのは、朝日で諸先輩方に鍛えられたからであり、「元朝日記者」というだけで一定の信用があるからだと今でも思っている。今では「天然記念物」にも近い存在になったようだが、社内には志の高い記者たちもまだ残っている。今の朝日の経営層の判断は、そうした志までも潰そうとしているように思えてならない。
朝日は今、権力闘争という「内なる敵」に敗れて沈没寸前だ。今の苦境は、産経新聞や読売新聞、週刊誌などの批判によって生じたものでは決してない。言ってしまえば、自滅だ。ただ、朝日という会社には醜い点も多いが、良い点も少なからずある。過去に13年間お世話になった経験を踏まえて、朝日のことをこれから何回かに分けて語っていきたいと思う。
井上久男/ジャーナリスト
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