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安倍改造内閣「支持」の背景は? 政治学者・中野晃一教授はどうみる?【フル動画&全文】
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2014.09.10 20:52 THE PAGE
■安倍改造内閣から考える、メディア、野党、選挙制度の問題点
安倍晋三首相は3日、内閣改造を実施し、第2次安倍内閣が発足した。メディアは、女性閣僚を5人に増やしたことについて「女性の登用を前面に打ち出した」と大きく報じた。これに対し、政治学者の中野晃一教授は「女性ではあるけれども、極めて保守的であるということが任命の要。そこに触れた新聞は、あまり多くはない」と指摘する。海外のメディアにコメントを求められることも多い中野教授は、内閣改造を通して見える日本政治の現状をどう考えているのか。政治を伝えるメディアや、対抗する野党はどのような状況にあるのかを聞いた。
■政治的なリテラシーが問われる内閣改造の評価
中野晃一(なかの・こういち)、上智大学教授
――内閣改造の印象は?
中野:政治についての知識や、興味・関心がどの程度あるかによって、受けるメッセージが違う組閣なのかなという感じがします。一方で、女性閣僚の登用は、表面的には、内閣として何をやりたいのか、何を優先事項に置いているかが、ある程度伝わってくる。他方で、もうちょっと「玄人」、例えば、女性と政治の問題や、女性閣僚の政治信条や政策についての知識があると、見えてくるものがかなり違います。
地方創生に関しても、より裏を見ていくと、いったいどこまで実効性があるのか、何ができるのかという、さまざまな問いが浮かぶ。そういう意味で、メッセージがぼやけていて、なんのための改造だったのかという疑問がある。一般的には、ある程度受けがいいことも理解できます。
――女性閣僚の登用といっても、過去の発言や資質は、なかなか分からないことです。
中野:そうですね。政治的なバックグラウンドを調べてみると、実際に登用された5人の閣僚のうち4人まではかなり右翼的なというか、復古主義的なジェンダー観や、さまざまな政治問題に関して特定の価値感を持つことがはっきりしている。その意味で、安倍さんに(価値観が)近いということで選ばれたことが分かります。色が付いていないのは小渕優子さん。それ以外の人たちは、一般的な知名度もなく、女性であることだけで期待しても、本当にうまくいくかどうかは、今の段階では分からないと思いますね。
――改造を発表した記者会見では、フィナンシャル・タイムズの記者が「入閣した女性の過去の発言や所属している政治団体を見ると、例えば、家族構造、女性と仕事、女性の家庭の中の在るべき存在などについて、かなり保守的な意見を持っている方が多くいる」と質問。安倍総理は「結果を見て判断してほしい」と答えました。
中野:そういう言い方は、昨年の参院選の前であれば、通用したと思うんです。だが、今は違う。安倍さんは、側近などから守られていて、やや現実が見えていない。参院選前までは、「アベノミクス」が内閣の重要課題、安倍さんはプラグマティストだということ海外メディアに向けて盛んに言っていた。それがある程度、信じられていた。しかし、その後の政策の方向はどうだったか。特定秘密保護法の内容と進め方、12月の靖国参拝、今年に入ってからは集団的自衛権と強権的な進め方。中国、韓国との関係。河野談話の見直し。(こうした流れを見て)安倍さんカラーが出てきたと受け止められている。アベノミクスの成果がそれほど見えていない、息をついてしまったという状況のなかで、当初は「アベノミクス」を歓迎したフィナンシャル・タイムズのようなメディアが、「あなたは、かなり復古主義的な保守思想の持ち主なのではないか」という質問をしたのだと思います。なので、(「結果を見て欲しい」という)開き直ったかのような答えは説得力がなかったと思いますね。
■経済重視のプラグマティストか、復古主義的な政治家か
――安倍総理は、経済重視のプラグマティストか、復古主義的な政治家か。海外メディアは、どう見ている?
中野:当初、政権に返り咲いた2012年の12月の段階では、両論がありました。第1次安倍政権、これまでのさまざまな発言や行動から、一方では、安倍総理は極右政治家だという極端な見方がある。もう一方で、彼はプラグマティストで、例えば第1次安倍政権のときも日中関係を小泉さんが壊したあとに立て直したのは安倍さんだ、現実主義的に行くに違いない、アベノミクスに集中するだろうという意見。両論があったんです。
それがしばらく続いたんですが、やはり昨年夏の参議院選挙をきっかけとして、「ねじれが解消したことで本性を出した」という受け止め方が広がっている。「アベノミクス」は1年ちょっと経過したが、株式市場が一時期、賑わったということ以外はあまり成果がない。消費税増税もあり消費も冷え込んでいる。雇用状況もあまり良くなっていない。賃金も特に低所得者層では上がっていない。いろいろなデータが出てきている。その意味で、ここのところは、安倍さんを見る目は厳しくなっていると思います。
――具体的に海外メディアとは?
中野:日本に対して一番関心を払っているのは、ある意味当然なんですけど、経済メディアです。フィナンシャル・タイムズ、ウォール・ストリート・ジャーナル、あるいはロイターとかブルームバーグのような通信社もそう。経済的な理由から日本に対する関心が強い。彼らは、構造改革路線であるとか、規制緩和のようなものは歓迎するけれども、それに反するようなこと、投資家が興味を持つことから気をそらすようなこと、政治的なエネルギーをそぐようなことに安倍さんが夢中になると困ると考えているのでしょう。
そんな彼らにとっては、今年に入ってからの通常国会では、法案はたくさん通ったけれども、改革が進んだというよりは、集団的自衛権が一大議論になっているので、このまま進むのであれば、やはり安倍総理は、復古主義的なアジェンダに興味が強い人だったと、ある程度、評価が定まってしまう可能性があります。
■支持の背景は?
――内閣改造により、支持率が上がったとも伝えられています。
中野:ねじれが解消し、第2次安倍政権に至ったのは、真空状況で起きたことではありません。これまでの「政治改革」以来の、もう20年ぐらいの流れの中で起きていることです。直近で言えば民主党政権の誕生と、政権からの下落があったところで安倍さんが返り咲いたという流れです。今の状況は、一強多弱とも言われるように自民党1人勝ち、自民党内も安倍さん1人勝ちで、これといったライバル勢力があるようにも見えない。そういう状況なわけですね。
同様にマスメディアと政治との関係、あるいは財界と政治との関係、官僚と政治家との関係、これらも全部、最近の歴史の中で形成されています。総じて、民主党の失敗、「ああいうのはもうこりごりだ」という総括を背景にして、今回の安倍さんに対しての、ラストチャンスのような期待感が、いやがおうにも高まっているのではないでしょうか。
それで、特に政権に近ければ近いほど、安倍さんを守るというよう動きが出てくる。官僚は、民主党政権が官僚に対して敵対的だったのでやらなかったことを、安倍さんの場合には親身にやってあげるという動きになり、大きなメディアには、安倍さんを守る、癒着に似た関係が生まれてきている。
――政治改革以降の流れ、そして、最近の民主党の失敗から生まれた、ある種の期待感が支持の背景ということか。
中野:あれもこれも、うまくいかないでここまで来てしまったという中で、期待が高まったということだと思うんですね。逆に言うと、これに期待しなかったら何に期待すればいいのか、(代わる何かを)、野党側も含めて提示できていないという現実があるのだと思います。支持が必ずしも実態を伴ったものではないということの傍証というか、証拠は、例えば、2012年12月の衆議院選挙、そして去年の夏の参議院選挙です。自民党は大きく勝っているわけですが、投票率はいずれも戦後最低レベル。衆議院選挙の場合には、民主党に大負けした2009年のときに比べ、得票数は減っているにも関わらず圧勝したのです。多くの人たちが自民党に熱心に投票に行ったというより、投票所に足を運ぶ人が減り、野党も多党乱立になって票が割れ、今まであれば「反自民」、オルタナティブの最大の受け皿であった民主党が、相変わらず崩壊した状況にあるということで、たまたま大勝ちしてしまったのです。
このように、支持は必ずしも実態を伴ったものではないので、何か1つ、やっぱり安倍さんでも駄目だったのかということが流布していくと、政権が急速な下り坂に差し掛かるという可能性はあると思います。
■内閣改造報道について
――今回の内閣改造や、政権についてのメディアの報道についてはどうか。
中野:もちろん会社にもよりますが、政治部のようなところは、従来であれば自民党が万年与党だったわけですから、自民党の派閥の領袖であるとか、黒幕のような人に近い人間が出世をして、「大政治記者」になって、その会社の論調を決めることがありました。そんなことが相変わらず続いている部分はあると思います。
政権との近さを踏まえてみてみると、典型的な例で言うとNHKの経営委員に、百田尚樹さんが任命されたときに、朝日新聞も含めて多くのメディアが百田さんを「ベストセラー作家」という紹介をしたわけですね。これは海外ではちょっと考えにくい。安倍さんが百田さんを任命したのは、ベストセラー作家だったから、あるいは、それ「だけ」ではなくて、むしろ百田さんの政治信条や歴史認識が安倍さんに似通っているからなのです。
その点に関してはほぼ触れず、人気のある小説を書いたとか、放送作家であるということで紹介するというのは、やはりミスリーディングですね。今回の女性閣僚の人事に関しても、女性であるとか、女性の政治参加に関心が強いとか、抽象的に女性政策に詳しいというような表現をすると、それはいいことだというふうに当然思うわけですね。
ただ、実際に見てみると、例えばジェンダー平等ということに対して非常に反対してきた人や、夫婦別姓であるとか、グローバルスタンダードになっている取り組みに関しても頭から否定するような人たちが少なからずいると。女性であるはけれども、極めて保守的であるということが任命の要だったわけです。自民党の中でさえ、もう少しリベラルな、進歩的な男女共同参画の在り方を思い描いている政治家がいるわけですが、そういう人たちを飛ばして、無名な人も含めて今回の人選を行った。そこにやはり安倍さんの狙いがあると言えますが、そこに触れた新聞は、あまり多くはないですね。すると、情報の受け手は、「女性が5人も入閣したのはいいことではないか」と素朴に受け止めます。これは、ある種、メディアの情報操作というか、きちんと有権者の知る権利を満たしていないという歯がゆさがある。その点、フィナンシャル・タイムズのような、政治性がそんなに強いというよりかは経済至上主義的な海外の新聞であるにも関わらず、そちらのほうが、むしろ鋭い質問をするということは、日本のメディアにとって正直、恥ずべきことなんじゃないかと思います。
■安倍政権のメディア戦略
――安倍政権のメディア戦略が長けているということか。
中野:安倍さんは、これまでにも、福島の東電の原発事故の汚染水に関しても「アンダーコントロール」と言ってみたりとか、消えた年金記録についても、「最後の1つまで見つける」、ということを言ったわけですけれども、その後どうなったのか。そういう花火を打ち上げる、メディアの操作をすることについては、師匠である小泉さんからブレーンを引き継いでいることもあり、かなり長けている。そして、メディアも一緒になって、「踊りを踊る」。これが日本の今の状況です。
ですので、5人の女性閣僚を登用したのは、もちろんいいことですが、その中身はどうなのか。そして、もっと大事な問題は、これを続けられるのか、ということです。小泉さんが最初に組閣したとき、2001年だったと思うんですが、田中真紀子さんが外務大臣になったほか、4人、閣僚を女性から登用しました。その後、田中真紀子さんは、更迭され、小泉さんが退任するまでには女性閣僚は元の2人に戻り、期待外れに終わった。
安倍さんも今回、同じような運命をたどる可能性が高い。その理由は、女性閣僚を維持できるだけの女性議員数というのを自民党は持っていないわけですね。特に日本の政治システムでは、民主党がそれを痛感したように、ある程度当選回数を重ねて国会議員としての経歴がないと官僚が政治家をバカにする。ほかの政治家も(女性を)認めない。そんななかで、仮に女性議員が、市民社会で多様な経験を積んでいたとしても、国政の経験が浅い人というのは閣僚として仕事ができないという、大きな難しい問題があるんです。当選回数は、衆議院では5回ぐらいないと据わりが悪い。男性議員で5回以上当選している人はたくさんいるので、ジェラシーもすごい。小泉さんがやったように、民間から登用しようとしても、国会議員で俺は選挙を勝ち抜いてきているのに、なぜ外から入ってくるんだと、反発がある。さらに民間から登用された閣僚は、最初は政治力が伴わない場合も少なくない。こうした客観的な状況を見た場合、5人の女性閣僚を維持できるような条件が整っているとは到底見えない。ましてや、自民党の側で女性議員を増やすという取り組みは、今のところは、議論さえほとんど始まっていない。今回は、トップの部分だけを変えた。そんな自民党で、閣僚の3割、5人も女性を登用し続けるのは、やはり無理ということになる。
■日本の政治報道の特徴は?
――日本の政治報道は、政権にどのように向き合っているのか。
中野:基本的なジャーナリストとしての職業倫理がどれだけ浸透しているのか問われる。アメリカの場合も、最近では共和党政権は特にそうだが、メディアにずいぶん「手を入れてくる」ので、同じような問題を抱えてはいる。しかし、伝統的にアメリカのジャーナリズムは、権力を監視する役割を担っている。覚悟を決め、権力側とのコンタクトに関してはかなり慎重に、批判的に対応することが前提としてある。
ところが、アメリカでも変わりつつありますが、日本の場合にはそういったような前提がそもそも弱い。極論すれば、朝日新聞も含めて、日本の大新聞は、明治にさかのぼれば、国家側から陰日なたに支援を受けてきた過去がある。読売新聞に限らず、そうした癒着からそもそも育ってきているので、アメリカなど西洋で見られるような対決型、監視型のメディアはそもそも歴史的に育っていない。そして、ここ最近のアメリカや日本では、一部の保守系のメディアが極めて直接的に政争に加わる状況にある。アメリカで言えば、FOXやマードックの帝国がそうです。はたして、本当に客観報道なのか、政治的な立ち位置を明らかにするにしても、明らかに一線を越えているのではないかという振る舞いがある。同じことが、日本でも、特に自民党政権を強烈に支持している産経グループや読売グループに少し見られる傾向だと思います。
それに引き換え、朝日や毎日は、ややおっとりしていて、旧態依然のアプローチをしているようなところがある。政党システムのバランスが壊れてしまっているのと同じような具合に、メディア状況においても、マスメディアを見る限り、ややバランスを欠いた状況になっているのではないかと思います。
――特に安倍政権のもとで、新聞の論調が賛成と反対に大きく分断されるようになったという指摘もあります。
中野:安倍政権が民主党政権の崩壊のあとに生まれた政権だということが重要です。ここ20年間の間、万年与党であった自民党がその地位を失って、政治改革の流れから政党間競争が激化した。やがて、民主党に野党勢力が収斂して、ついに2009年に政権交代を起こした。その間、13年、16年とかかった状況が全体として見ると失敗に終わった。そこからどう立ち直るのかもわからない。そこで安倍さんが政権に返り咲いたのです。安倍さん個人の資質もさることながら、「裸の王様」と言ったら酷かもしれませんが、こうした外的な条件が、安倍さんが国内で無敵な状況を作り上げたのだと思います。
保守系のメディアはこの時とばかりに安倍さんをもり立て、かなりゆがんだ報道を行う。その一方で、本来であれば国家権力をチェックするはずであったメディアの側は、しばらく安倍さん以外に何もないじゃないか、と考える。自分たちが、ある程度、親近性を持ってやってきた民主党があのような形で終わり、現状ではそれに代わる勢力が見えない、と落ち込み、自信喪失をしている。その結果、現在のような危機的な状況が生じているのだと思います。
■野党の状況は?
――対抗する野党についてはどうか。
中野:そもそも、日本語として、与党、野党という言葉を使っていますが、これらの言葉が適切なのかという議論が、民主党政権が誕生したときにありました。与党というのは「政権に与る(あずかる)党」という意味ですから、まず先に、官僚が作る「政権」というものがあって、そこに後から政治家が関わっていくイメージなのです。つまり明治憲法の認識なのです。しかし、国民主権の憲法で、政治家こそが「政権」を形づくるのだと考えると、「政権党」という言い方のほうが適切ではないか、という議論があります。官僚が「主」で、政治家が「従」なのではない。あくまでも政治家が「主」で、官僚は「従」だ。そう考えると、「与党」という言葉は、まるで政治家がお客さまであるかのような響きがあり、おかしいのではないか、と。
野党という言葉についても、民主党が誕生して間もないときに、「与(よ)党」でもない「野(や)党」でもない、「ゆ党」だ、揶揄されたことがある。現在も、例えば、特定秘密保護法、集団的自衛権に関する論議のとき、野党陣営が「一体になれない」とか「一枚岩になれない」からダメだという論調がおこる。安倍総理は、強行採決を乱発して、強権的な法律の制定をしたように見えたが、「建設的な野党とは協議をした、野党の一部とは話し合った」と言い逃れることができるような状況がある。維新の会、みんなの党、そして結いの党もそうかもしれないが、これらの政党は、本当に野党なのだろうか。
維新の会は、そもそも橋下さんが党首になる前、安倍さんが自民党で総裁に返り咲く前に、安倍さんに党首をやってくれないかと呼びかけた。石原慎太郎さん、みんなの党、結いの党のメンバーも多くも、もともと自民党にいた。政策によっては自民党とまったく重なっている、あるいはもっと右に触れている。そういう政党を果たして野党と言うべきなのか。私は、「衛星政党」と言ったほうが正確だと思います。
――衛星政党。
中野:ソ連などの旧共産圏の政党制は、野党が「実質的には」存在せず、与党と「衛星政党」の存在が許されていた。もちろん、今の日本はそこまでではないが、ある意味、現在は、万年与党と万年野党の対立構造であった「55年体制」よりむしろ政権与党にとっては盤石な体制です。野党と言うよりは自民党の別動隊、「衛星政党」と言ったほうが正確な政党が多々ある。自民党は「暴走はしてません、建設野党とは話し合っています」と言って、実際には「内輪の議論」をして法案を通していくことができる。この状況は、今の日本の政党システムが議院内閣制の下でバランスを失していて、チェック機能を果たしていない状況にあると言えます。
■何が問題なのか
――法的には政党間競争は許されていて、有権者は選挙で野党に投票することができる。現状は、国民の選択、「民意」なのでは。
中野:2つの大きな問題があります。一つは、メディアの争点の設定の仕方です。2012年の衆議院選挙が典型的でしたが、マスメディアはこぞって「第3極はどうなるか」と報じた。そのとき、第3の極として言われたのは、日本維新の会とみんなの党でした。
そこに注目が行くと、民主党への支持が割れ、結果的には自民党が勝って、維新の会は伸び悩んだという総括がされています。メディアが、結果的には、かなり偏って客観的な状況を伝え、第3の極をあおった。自民党との距離の近さを検証をすることなく、あおり立てた。第3の極は、本当に第3と言えたのでしょうか。
参議院選挙でも、具体的な政策についての争点を取り上げるより、「ねじれ国会が解消するか」を多くのメディアが争点として設定するという、かなり奇妙なことがあった。「決められない政治がいけない」、「ねじれは解消できるか」、と。当然、そうした争点設定は、有権者に対して一定の効果をもたらした可能性がある。「決められない政治」と「決められる政治」だったら、「決められる政治」のほうがいいじゃないか、と。そう考えた人は多いはずです。
今となっては、「決められる政治」が「決めすぎる政治」とも言われるわけですから、メディアの争点の設定に問題がないかどうか、本来はもっと議論の対象になっていいものだと思います。
もう1つ、選挙制度の歪みという問題がある。衆議院選挙においては、もちろん1票の格差の問題があります。そして、自民党の候補者の得票率は、全国的でみれば、比例では16パーセント程度しかない、つまり6人に1人ぐらいの日本人の有権者しか自民党に投票していないにもかかわらず、小選挙区制では圧勝できてしまうという状況がある。
参議院選挙では、地方区、1人区という問題がある。ここでは自民党は楽に勝てる状況で、制度として、底が上げられています(※事実上の小選挙区制である1人区で大勝すれば選挙に勝てる)。これは今回に限ったことではなく、2010年の参議院選挙もそうでした。菅総理大臣の消費税増税の発言があって民主党が負け、「ねじれ」てしまった。総得票数では民主党のほうが上回っていましたが、結果は惨敗。これも、選挙制度、地方の1人区の問題なのです。参議院は自民党が、放っておいてもある程度勝てるというシステムなのです。
メディアの争点の設定や、選挙制度の歪み。こうしたことにより、様々な争点が吸い上げられて利害の多様性が確保されるということがない。有権者は結果的に、まあ安倍さんしかいないのかな、と考える。ほかの政党もどうも頼りにならない、と。まあその通りなんですが……。いま、日本はこうした状況にあるのです。
<了>
※このインタビューは、テーマごとに5回にわけて分割した「ダイジェスト版」も掲載する予定です。
中野晃一(なかの・こういち)、上智大学教授
中野晃一(なかの・こういち)
1970年東京生まれ。政治学(日本政治、比較政治、政治思想)。
東京大学(哲学)および英国オックスフォード大学(哲学・政治学)卒業、米国プリンストン大学にて政治学の修士号および博士号を取得。1999年より上智大学にて教鞭をとる。著書に『戦後日本の国家保守主義―内務・自治官僚の軌跡』(岩波書店)、『集団的自衛権の何が問題か』(共著・岩波書店)、『街場の憂国会議』(共著・晶文社)など。日本再建イニシアティブ著『民主党政権失敗の検証 日本政治は何を活かすか』(中公新書)ではプロジェクト座長を務めた。
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