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リベラルな言動で知られる/(C)日刊ゲンダイ
精神科医・香山リカ氏が安倍首相の「言動」を一刀両断
http://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/152980
2014年9月1日 日刊ゲンダイ
「いいね」を支持だとする恐るべき勘違い
安倍首相は果たして、マトモなのか。多くの人が漠然と抱いている不安ではないか。国民が頼みもしない解釈改憲に突き進み、野党に突っ込まれるとブチ切れ、暇さえあればゴルフをし、しかし、広島の土砂災害では、のんきに別荘に戻っていた。仰々しい言動、独善的な振る舞い、その裏に見え隠れする不安。得体の知れない最高権力者をリベラルな言論活動で知られる専門家が一刀両断――。
■自分への批判は聞こえない
――香山さんは安倍首相が集団的自衛権の行使容認を閣議決定し、記者会見を開いたとき、欺瞞的と切り捨てましたね。
情緒的な部分に訴えたでしょう。邦人の保護とかNGOの駆け付け警護だとか。誰もが「それは救うべきだ」と反応する事例を持ち出し、しかも子供やおばあさんが描かれている絵を見せて、「助けなくていいのか」と。あの瞬間、集団的自衛権の議論は、次元の違う話にすり替わってしまったんです。
――安全保障や平和憲法の話ではなく情緒論に?
そうです。国民は踏み絵を踏まされたような感覚です。特に絵を使ったことが欺瞞的だったと思います。小泉政権のときにワンフレーズポリティクスの是非が問われた。ワンフレーズでも言葉があった分、マシだったと思います。死刑廃止論者にあなたの家族が殺されていいんですか、と問いかけ、そういう映像を見せるのと一緒です。誰でもそれは困る、と言うでしょう。
――狡猾な心理学的手法、トリックですね。
ただ、私は安倍首相がそこまで意識、計算していたか、というと違うと思います。
――というと?
こういう絵を見せれば、国民をだませるということでもなく、自分自身も「こうなったら困るな」と、この程度の理解じゃないのかなって。
――そう見えますか?
安倍さんて、フェイスブックなどSNSを利用して、「いいね」が何万件もあると、それだけで支持されていると単純にうのみにしちゃうようなところがある。ストレートにそう思える精神構造っていうんですか。
――えらく単細胞というか、アバウトですね。
国会答弁でもこういう場合はこういうことが起こって、だからこうするんだということを論理的にきちんと説明するのではなく、私には国民を守る責任があるんだ、という大きな話にして、すり替えてしまうでしょう。
――野党がそれでも突っ込むと、感情的になってブチ切れる。
聞かれたことに答えるのはコミュニケーションの基本だと思いますが、それをしない。なんだか、自分に都合のいい声ばかりを聞いて、批判的な声には耳をふさいでしまう、見なかったことにしてしまう。そういうところがありますね。
――子供じゃないですか?
2世3世の政治家は多いけど、批判的なことを言う人がいない環境で育ったのではないか。そんなふうにも見えますね。確かに、第1次政権では政権を投げ出し、大きな挫折を味わったとは思います。でも、その後、本当の意味で苦汁をなめて、あらゆる批判も全部受け入れて、這い上がってきたというより、「安倍さん、あなたしかいないよ」という人々が周りにいっぱいいたわけですよね。批判を受け止めるというより、そういう人の慰めの声だけを聞いて、励みにしてきたんじゃないでしょうか。
――いわゆるお友達ですね。
安倍さんって、奥さんが家庭内野党とかいわれていますよね。昭恵さんは原発再稼働にも批判的だし、社会的弱者にも寄り添っています。ここまで考え方が違う夫婦は珍しい。本来であれば、徹底的に論じ合うか、あるいは一緒にいられなくなるか、だと思いますが、あの夫婦はお互いの自由を認めているというか、外遊の時には何事もなかったかのように仲良く手をつないでいる。信頼関係があるというより、安倍さんは会話をしていないのだと思います。自分に批判的な言動は見たくないし、考えたくない。だから、たとえ昭恵さんが話しかけても遮ってしまうのではないか。ゴルフとか外遊とか楽しいことだけ、一緒にやる。
「安倍首相はオイディプスコンプレックス」
■広島への対応で分かったお友達優先
――なるほど。野党に対する態度もそうですね。批判には聞く耳を持たない。説明する気もない。そんな感じを強く受けます。こういう人を精神分析すると、どうなるんですか?
一般論ですが不安が強い人です。気弱な方です。バリアーを広げ、虚勢を張って、痛いところを突かれても、聞かなかったことにしてしまう。ただし、国会答弁では聞かなかったことにはできませんから、感情的に反発する。
――となると、安倍さんも相当、不安なんですかね?
だと思いますよ。今度の改造でも、石破幹事長を外すといわれていますよね。切り捨てて、いなかったことにしたいんですよね。自分と考え方が違う人も取り込むことができない。抱き込み、取り込めば、強力な政権ができるのに、そうしない。半ば恐怖だと思いますね。
――これをやりたいという信念があれば、取り込めるんでしょうが、それがないような気もします。ところで、安倍さんは、そういう不安が見え隠れする一方で、えらく強気というか、自信があるように見えるときがありますね。
特殊な家柄じゃないですか、安倍さんは。おそらく、総理をやったことで、父親、晋太郎氏は超えたという自負があるのでしょう。安倍さんの中では祖父を乗り越え、新しい憲法を作った総理大臣として、歴史に名を刻みたい。そういう野心はあると思います。オイディプスコンプレックスですね。
――それで改憲にシャカリキなんでしょうね。まずは解釈改憲と。
そうでしょうね。でも、これって政治的テーマというより、安倍さんの家庭内のテーマですよね。母親の洋子さんからの刷り込みも大きいような気がします。
――広島の土砂災害の時の対応は、どう見ましたか?
国民の命は守る。こういう大きな話はするけど、土砂崩れの実情や、自衛隊の人がいかに大変かとか、そういう細かい想像力が欠けているのだと思う。だから、目の前にいる人の関係を優先してしまう。一緒にゴルフをやっていた森元首相だったり、翌日、会う予定だったJR東海の葛西名誉会長だったり。
――弱者への想像力が欠落し、エスタブリッシュメントの仲間のことばかりを優先するわけですね?
そうです。逆にそういう鈍感力があるからこそ、リアリティーのない大きな話ができるところもある。それが一部の支持者にはビジョンに映っているのかもしれません。
――気のせいかもしれませんが、安倍政権になって、世の中、凄惨な事件が増えたように思うんですが、どう見ていますか?
隣の人に対する想像力、ちょっとした多様性、自分とは違う考えを受け入れる寛容さがなくなっているような気がします。SNSで「いいね」と言ってくれる人しか受け付けない。100%の「いいね」はないのに、100%だと勘違いする。そんな人が増えていて「いいね」じゃない人を排除する。
――1億総安倍化?
そうですね。安倍さんが言う美しい国とは何なのでしょうか? 謙虚さ、人を立てる心、勝ち組負け組にしない社会。そういうものが日本的美徳であるとすれば、安倍さんがやっていること、安倍さんの周囲が叫んでいることは、それとはずいぶん矛盾しているように思います。
▽かやま・りか 1960年生まれ。東京医科大卒。立大教授。「劣化する日本人」(KKベストセラーズ)、「弱者はもう救われないのか」(幻冬舎)など著書多数。
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