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2014年08月27日 板垣 英憲(いたがき えいけん)「マスコミに出ない政治経済の裏話」
◆ロシアのプーチン大統領が、東ヨーロッパの国であるウクライナを主軸に「地政学的な軍事・外交戦略」を精力的に展開している。ウクライナは、東にロシア連邦、西にハンガリーやポーランド、スロバキア、ルーマニア、モルドバ、北にベラルーシ、南に黒海を挟みトルコが位置しているということだ。
その東の果て「極東」に日本がある。西側は、EU諸国があり、北方は、「最後のフロンティア」と言われている「北極」である。南方には、中東諸国があり、イラク、シリアなどに強い影響力を及ぼしている。プーチン大統領が、地政学的中心的であるウクライナ・クリミアを手離すはずはない。ソ連東欧諸国が崩壊するまでソ連領であったウクライナをやすやすとEU諸国陣営に組み込ませるわけがない。
プーチン大統領は、英国の地理学者のハルフォード・マッキンダーが「ユーラシア大陸の中央部(ハートランド)を制するものが世界を制する」と主張した「ランドパワー理論」(英国の立場からロシアへの対抗を説く理論を構築)を逆手に取って現代に応用し、「米国・EU諸国」に対抗しようとしている。これは、明らかに「ロマノフ王朝復活」の戦略的意図を実行しつつある。
◆ウクライナは16世紀以来「ヨーロッパの穀倉」地帯として名高く、19世紀以後は、産業の中心地帯として大きく発展してきた。とくに天然資源に恵まれ、鉄鉱石や石炭など資源が豊富で、鉄鋼業を中心として重化学工業が盛んである。また、金の産出国としても知られている。
このため、ロシアとEU諸国から引っ張り合いが行われてきた。ウクライナは2013年に欧州連合との政治・貿易協定の仮調印を済ませた。これに対して、ロシア寄りの姿勢を見せるヤヌコーヴィチ大統領が、ロシアからの圧力もあり調印を見送っていた。
これが起因となり、ウクライナの首都キエフで2万人ものユーロマイダンが2014年2月18日、大統領の権限を制限する2004年憲法の復活を求め、ウクライナの国会に集結し、デモが暴動に発展し、警察との間で武力衝突が発生し、数日間で13名の警察官を含む、少なくとも82人が死亡し、1100人以上が負傷した。このデモ・暴動を背後で仕掛けて扇動していた「張本人」は、何を隠そう米国オバマ大統領であった。
ヤヌコーヴィチ大統領は事態収拾のため2014年2月21日、挙国一致内閣の樹立や大統領選挙繰り上げなどの譲歩を示した。だがデモ隊の動きを止めることはできず、22日に首都キエフを脱出した。
ロシア議会は2014年3月1日、ロシア系住民の保護を理由にウクライナにロシア軍を派遣するというプーチン大統領の要請を是認した。ウクライナ南端のクリミア半島に部隊を派遣し、事実上、支配下に置き、ロシアに編入した。さらに親ロシア派住民が多数を占めるウクライナ東部に食指を伸ばしている。これらプーチン大統領の行動を欧米は軍事介入として非難し、米国政府はロシアに対し経済制裁に踏み切り、欧州諸国や日本にも同調を促してきた。
◆安倍晋三首相は2013年2月14日に森喜朗元首相に特使としてロシアを訪問するよう正式に依頼。森喜朗元首相は2月20日に訪ロ、プーチン大統領と会談した。その際、プーチン大統領は、平和条約締結後に歯舞、色丹2島を引き渡すとした「日ソ共同宣言」の法的有効性を確認した「イルクーツク声明」(2001年の会談)に触れて、領土問題に取り組む姿勢を表明した。農業分野、エネルギーや極東・東シベリア開発などでの日ロ間のさらなる経済協力の拡大に意欲を見せている。
日本はいま、プーチン大統領の「ロマノフ王朝の復活」戦略に巻き込まれている。ロシアと米国・EU諸国」の狭間に立って、米ソ東西冷戦とは異次元の「覇権争い」の最中に位置しているのである。
安倍晋三首相は2013年4月29日、ロシアを訪問した。小泉純一郎首相(当時)以来、10年ぶりの首相公式訪ロであった。安倍晋三首相訪ロには、経団連会長やJBIC総裁ら118企業・団体、383人が同行している。
その後、安倍晋三首相は2014年2月7日、ロシアのソチオリンピック開会式に出席、その際、プーチン大統領との首脳会談に臨んでおり、就任以来5回、訪ロシアしている。
しかし、その直後、ウクライナで政変が起きたのである。この政変以降、オバマ大統領の対ロ経済制裁強化に同調してきた安倍晋三首相は、プーチン大統領に試されて続けている。
その1例が、ロシア軍による北方領土の軍事演習であった。一種の恫喝である。ロシア軍は8月12日、北方領土の国後、択捉両島を含めた地域と千島列島で、1000人以上が参加する軍事演習を開始した。日本政府はロシア政府に直ちに抗議している。
また、ロシア外務省8月22日、原田親仁駐露大使に、ロシアへの渡航を制限する措置の対象となる日本人のリストが手渡した。これは日本側の措置に対する対抗措置であった。
日本人のリストには、安倍晋三首相訪ロ(2013年4月29日)に同行した経団連会長やJBIC総裁ら118企業・団体、383人らの名前が含まれているという。
ロシアの声(ラジオ)が8月25日午後2時41分、「日本政府、ロシアのビザ制限に遺憾」という見出しをつけて、次のように配信している。
「日本政府はロシアが一部日本人のロシアへの渡航を禁止する措置を発動したことについて、遺憾の意を表明した。ロシアの措置は日本の制裁への応答として取られたもの。菅官房長官の言葉を共同通信が伝えた。具体的な人名について問われた官房長官は『ロシアは情報を公開しなかった。だから日本側も公表を控えたい』とした。22日、駐露大使原田親仁氏に、ロシアへの渡航を制限する措置の対象となる日本人のリストが手渡された。これは日本側の措置に対する対抗措置。日本は5日、ウクライナ情勢を理由にロシアに対して導入した制裁の対象者となる人・機関40件が記されたリストを公開した。また日本はクリミアで製造された商品の禁輸措置も発動している」
さらにロシアのラブロフ外相は8月25日、モスクワで記者会見したなかで、今秋にも予定されているプーチン大統領の日本訪問について、「大統領は招待を受け入れ、時期について日本側と合意している」と発言して、安倍晋三首相の反応を見ている。
【参考引用】NHKNEWSwebが8月25日午後8時29分、「ロシア外相『プーチン大統領訪日に変更なし』」というタイトルをつけて、以下のように配信した。
「ロシアのラブロフ外相は、ことし秋にも予定されているプーチン大統領の日本訪問について、ロシア側としては、ウクライナ情勢の影響で変更するつもりはないとの考えを示しました。
ラブロフ外相は25日、モスクワで記者会見し、この中で、ことし秋にも予定されているプーチン大統領の日本訪問について、『大統領は招待を受け入れ、時期について日本側と合意している』と述べました。
そのうえで、『ウクライナ情勢は大統領の日本訪問と関係はない』と述べ、ロシア側としては、ウクライナ情勢の影響でプーチン大統領の日本訪問の時期を変更するつもりはないとの考えを示しました。安倍総理大臣とロシアのプーチン大統領は、ことし2月、ロシア南部のソチで首脳会談を行った際、プーチン大統領がことし秋にも日本を訪問することで合意しました。
しかし、そのあとウクライナ情勢を巡って日本がロシアに対して制裁措置を発表したのに対し、ロシアも先週、複数の日本人の入国を制限する対抗措置を発表していました。このため、両国関係が冷え込み、予定どおりの訪日が難しいのではないかとの見方も出ていました。
今回のラブロフ外相の発言は、ロシアが欧米諸国と対立を深めるなか、大統領の日本訪問の準備を予定どおり進める考えを示すことで、日本側の出方をうかがうねらいがあるとみられます」
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