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著書がマーケットで話題沸騰/(C)日刊ゲンダイ
注目の人 直撃インタビュー エコノミスト加藤出氏 「ルビコン渡った日銀に出口はない」
http://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/152798
2014年8月24日 日刊ゲンダイ
アベノミクスの異次元緩和について、誰もが不安を抱いている。中央銀行が毎月、新規発行の7割に当たる国債を買い占めるなんて、どう考えても異常だからだ。この不安に対して、真正面から正確に答えたエコノミストが「日銀、『出口』なし!」(朝日新書)の著者、加藤出氏だ。異次元緩和の正体と今後を、余すところなく語ってもらった。
――この本、市場ですごく評判ですよ。なぜだかわかりますか?
本当のことを書いちゃだめだよ、と言われました。
――そうです。ここまでハッキリ書いて、大丈夫かなあって。
確かにそういう声もありました。
――やはり、本を書かれた動機はこれ以上、見ちゃいられないから?
金融政策というのは痛み止め、あるいはカンフル剤の域を越えられないんですよ。構造的な問題を解決できるものではない。しかし、そこに安易に依存してしまうと、ホテルカリフォルニアになってしまう。
――イーグルスのヒット曲?
そうです。長い歌詞ですが、ようこそ、ホテルカリフォルニアへ。なんてすてきな場所。あなたは好きな時にいつでもチェックアウトできる。でも、あなたは二度とここから離れられない……というものです。
――日銀も同じですか?
日銀だけの話でなく、ダラス連邦銀行のリチャード・フィッシャー総裁は米FRBの金融政策について「我々はホテルカリフォルニア的金融政策のリスクに瀕している」と語っています。怖いのはFRBよりも日銀の方がはるかに危うい状況だということです。異次元緩和のために毎年、長期国債の保有高を50兆円増やしている日銀は、どんどん資産が膨らんでいる。FRBの資産は対GDP比24%(2013年末)で、BOE(英中銀)は25%、ECB(欧州中銀)は24%ですが、日銀は14年末には6割弱になります。日銀はインフレ率が安定的に2%になるまで、この政策を続けると言っている。15年末まで続けると、GDP比は71%になるのです。
――もう日銀の国債直接引き受け、中央銀行による財政下支えと同じですね。モラルハザードが見透かされ、国債利回りが急騰する可能性もありますよね。
悩ましいのはもう、始めちゃった政策であるということです。急にやめようとしてもショックが大きすぎてできない。かといって、モルヒネを打ち続けると、そこから抜け出せなくなる。日銀はルビコンを渡ってしまったんですよ。国民はアベノミクスに期待するだけでなく、そういう危機意識を自覚しなければいけません。
――海外も、アベノミクスについては奇異の目で見ていると聞きました。
ヘッジファンドのような投資家はもっとやれと言いますが、昨年あったドイツの会合では、彼らはアベノミクスの前に枕詞のように「危うい」とか「維持可能性に不安がある」という言葉をつけるんです。欧州の大きな悩みは若年層の失業率の高さ(ユーロ圏の25歳以下の失業率は24%)です。日本はそれほどでもないのに、「どうしてそんなイチかバチかのギャンブルをするんだ?」という声をよく聞きます。
――米国もやっているじゃないですか?
英米に比べて、日本は抱える債務の規模、比率がずぬけて大きい。そんな国の中央銀行が国債を買い続けている。出口戦略は最も深刻になるはずです。
■エコノミスト加藤出氏 「事実上インフレ課税が進行している」
――そもそも、日銀・黒田総裁が目指している2%の物価上昇が実現したとして、庶民の暮らしはよくなるのですか?
仮に日銀の言う通り、2%のインフレが実現し、なおかつ消費税が来年秋に10%になると、2013年春に比べて、2016年春の物価は9・2%上がります。給料が上がる人はいいが、そうでない人は実質所得が相当減ることになります。ゼロ金利ですから、貯金、貯蓄も実質的に9%以上目減りする。庶民にとっては大変、厳しいことになります。
――9・2%という数字にも驚きますが、すべてのものが9%上がるわけじゃなくて、上がるものもあれば、下がるものもあるわけですよね?
そうです。コンピューターやスマホ、テレビ、自動車などグローバル競争が激しいものはあまり上がらないか、値下がりするでしょう。そんな中、消費税による上昇を除いても2%のインフレを続けるには食品や光熱費など生活コストに直結するものや、さまざまなサービスが大幅に上がっていく必要があります。ニューヨークでは2002年以降2014年まで年平均のインフレ率が2・3%ですが、個別に見ると、タクシー料金は累計で73%、地下鉄は67%、マフィンは120%、ステーキは63%、「オペラ座の怪人」のチケットは84%も上がっています。
――とてもじゃないが生活できませんね。
英米の中所得者層にとっては生活コストの上昇が大きな問題になっています。ところが、日本ではインフレが進むと中央銀行が自慢するという世界的にも珍しい現象が起こっています。日本では雇用を維持するために賃金が抑制され緩やかなデフレが続きましたが、それは無意識のうちに我々が選択した社会ではないのか。企業収益が改善して多くの人々が賃金が増えて、結果としてデフレから脱却できれば望ましいわけです。単にインフレになればいいというものではない。
――庶民の生活は直撃を受けるのに、なぜ安倍政権はインフレ政策をとるのでしょうか? もっと言うと、国債暴落という財務当局にとっても絶対に避けたいリスクがあるのに、財務省出身の黒田・日銀総裁がなぜ、それをやろうとするのか? この辺についてはどうですか?
緩和策は一時的なカンフル剤であるという認識を持たないと、インフレによって国の借金を目減りさせる、いわゆるインフレ課税に傾斜していく恐れがあります。
――むしろ、それが目的であると?
ハイパーインフレはさすがにできないでしょう。それをやったら、次の選挙で政権が吹っ飛んでしまう。しかし、ジワリとしたインフレであれば、国民の貯蓄をインフレという形で収奪し、財政赤字削減に使える。そういう方向に進んでしまう可能性はありますね。
――可能性というか、意図的にでしょ?
ここが難しいんですよ。当人たちはハイパーインフレにしたくなくても、意図的にコントロールできるのか。制御が難しくなるリスクがあるわけです。
――ハイパーインフレまではいかなくても、数%のインフレになるかもしれません。
2%じゃなく、もうちょっとやろうかと。3%、4%でもいいじゃないかと。米国ではそういう議論が出ています。そこを締めていかないといけません。
――結局、日本はホテルカリフォルニアから出られるんですか?
金融機関の人と話して、どういう出口戦略があるかを議論するんですが、難しいという結論になることが多い。米国経済が力強く回復する。米国の利上げが何年も続く。こういうラッキーな展開になれば、日本も短期金利を上げることができるかもしれない。それでも、長期金利が上がれば、ショックが大きすぎますから、日銀は保有国債を売れません。バランスシートは膨張したままです。一番まずいのは日本のインフレ率が適度に上がる前に米国の経済回復が終わり、FRBが再び金融緩和に転じる場合です。日銀は円高阻止のために新たな追加緩和が必要になる。出口どころじゃなくなります。
――恐ろしいことになっていますね。
結局、インフレで一番困るのは一般庶民の方ですからね。金融政策は一見、タダに見える。でも実際は違います。庶民の生活を直撃する。よしんば、インフレにならなくても、その場合、日銀は国債を買い続けるのですから、どんどんリスクが膨らんでいく。そういう危うい状況にいることを我々は肝に銘じるべきなのです。
▽かとう・いずる 1965年生まれ。横浜国大卒。東短リサーチ社長、チーフエコノミスト。「日銀は死んだのか?」(日本経済新聞出版社)、「バーナンキのFRB」(ダイヤモンド社)など著書多数。
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