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黒田東彦・日銀総裁は安倍首相にとっての「黒田官兵衛」ではなさそうだ photo Getty Images
安倍首相唯一の活路は「消費税率10%引き上げ」先延ばしを今すぐ発表すること
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/40201
2014年08月21日(木) 山崎 元「ニュースの深層」 現代ビジネス
NHKの大河ドラマ「軍師 黒田官兵衛」を、ここ数週間つい見続けてしまった(筆者は、日本の時代劇では、信長の前後「だけ」が大好きなのだ)。
羽柴秀吉は黒田官兵衛の策に従って、毛利方の備中高松城を水攻めの奇策で攻め、本能寺の変で織田信長が没してからは即座に毛利と和睦を結び、いわゆる「中国大返し」で京に戻って明智光秀を討ち、天下人・豊臣秀吉となった。この間、官兵衛は冴えに冴えまくっていたわけだが、さて、今の日本の政治的な天下人である安倍晋三首相には、官兵衛のような優れた軍師がついているのだろうか。
■安倍政権の一大看板「経済」に翳り
安倍首相は、確かに目下天下人であり高支持率という戦力を持っているが、この戦力に衰えが見え始めてきた。歴代内閣の例から見て、現在の概ね40%台の支持率は、まだ危機というほどではないが、政権が盤石とはもう言えない。今後何らかの状況の悪化があって、10%程度支持率が落ちると、政局はいつ不安定化してもおかしくない。余裕を作るためにも、何か策が欲しいところだ。
形勢を見ると、集団的自衛権や原発の問題など議論が分かれて支持率を損ないやすい問題があったことに加えて、一大看板だった「経済」に翳りが出て来たことが何といっても痛い。
4-6月期のGDPが年率換算で6.8%と大方のエコノミスト達の想定以上に大きく落ち込み、ウクライナ情勢などの外的マイナス要因もあって株価が上げきれないなど、日本経済は冴えない状況に陥っている。物価はほぼ日銀の想定通りに上昇しているし、雇用が改善している。これらは安倍政権が成果として誇っていいのだが、建設業、サービス業などを中心に一部では人手不足が供給側の制約要因になって、公共事業支出は経済効果が出にくくなっている。
GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が運用する公的年金の資金に株式や外貨建て資産を買わせようという策が、善し悪しは別として今後実行されるだろうし、おそらく複数の自称軍師が授けたにちがいないが、効果のほどは未知数だし、あっても一時的なので実行のタイミングが難しい。しかも、相手は株価なので、その他の要因によって予定が狂う可能性がある。
一部には、日銀が追加緩和を行うだろうという声があり、これはオーソドックスで打つべき手の一つかも知れない。元財務官僚であり「消費税率10%への引き上げ」を実現したい(注;筆者の推測だ)黒田東彦日銀総裁は、やるかも知れないが、果たして、官兵衛さんではない黒田さんに頼っていて大丈夫なものだろうか。
■「消費税10%」を先延ばししても実行しても厳しい
将棋や囲碁のように、少し、先の手を読んでみよう。
GPIFが9月に新運用方針を発表するとする。株式市場的には、例えば日経平均を2,3ヵ月で3千円くらい上げる程度のまあまあの材料になるだろう。しかし、効果を待っている間に年末がやって来る。年末になると、消費税率10%を決断しなければならない。
関白ならぬ首相としては迷うところだが、誰が言うか知らないが霞ヶ関から官邸に来た側近は「殿、ここで税率引き上げを見送れば、経済の策が失敗であったと天下に認めることになりましょう」などと言うにちがいない。失敗を認めるのは嫌いなご性格だから、上げてしまうかも知れない。
するとどうなるか。
2年連続で合計5%も消費税を上げるのでは、最大のGDP構成項目であるところの個人消費が保つまい。経済は、実際の税率引き上げを待たずに失速するかも知れない。
分岐を読むのは面倒だが、策を練るには必要なことだ。GPIF買いに、所期の効果が無い場合のことを考えておかねばなるまい。経済は失速したし、株価が上がらない場合、消費税率10%への引き上げを見送ることが出来るコンディションが整うと見る事もできるが、この場合、それこそ、経済政策が失敗だったと天下に認めることになろう。
それが嫌だと、消費税率引き上げを強行すると、経済失速がさらに明確になり、城の外堀が完全に埋まって、与党内でいつ謀反が起ってもおかしくない状況となるだろう。
■長期政権への展望が開けない
では、GPIFの株買いに加えて、黒田日銀の追加緩和があるとどうか。追加緩和や「物価上昇率が2%を超えても、しばらく緩和を継続する」という追加的なメッセージは、市場のインフレ期待を引き上げる効果を持つので、例えば、対米ドルの為替レートでさらに10円程度の円安効果が見込めるのではないか。
仮に、「円安1円=日経平均300円高」とすると、GPIF効果と併せて、日経平均は2万円に乗るかも知れない。
この場合、安倍首相は気分良く消費税率再引き上げを決めることができるかも知れないが、その後、景気は後退する公算が大きい。来年には、大衆が「黒田さんはよくやったけれども、安倍さんが景気を台無しにした」と見る公算が大きい。不人気で損な役回りだ。
つまり、GPIFや日銀の動きに期待し、それらを待って、効果を見極めようとした場合、安倍首相はどのケースでも評判を落としそうだ。長期政権への展望など開けそうにない。
秀吉にとっての「官兵衛」が、安倍さんにとっては「“菅”兵衛」なのかどうかは存じ上げないが、効果を「待つ」策は、海外から大型の好景気が押し寄せるような余程幸運な場合を除いて、安倍の首相にとって、全て好ましくない結果が待っていそうだ。
ここまでの「読み」は、話を単純化しすぎたかも知れないが、こうした場合に起こる状況は大同小異ではないかと思う。
■「先手を打つ」のが安倍首相の唯一の活路
では、安倍首相は、どうしたらいいのか。活路はないのか。
筆者は、「先手を取って」打って出るなら、安倍首相に勝ち目があると考える。
具体的には、早い段階で(今月中でもいい)、4-6月期のGDPが悪かったことなどを理由にして、消費税率の10%への引き上げを少なくとも1年凍結するように指示し、発表してしまうのだ。
この場合も、先の手を少々読んでみよう。
現在の景気の少なくとも「足踏み」は、個人消費の大幅な後退が主因である。目下、供給側の制約に突き当たって公共事業による景気対策は効果が薄い。景気対策を考えるとすると、本来なら、広い範囲の消費者に、できれば消費性向の高い消費者層に向かって減税でもやるべきところなのだ。
「10%の先送り」は、増税する場合よりも消費にとってプラスなのはもちろん、8%のショックで自信を失い萎えかけた投資のマインドに対してもプラスだろう。発表するタイミングは、経済にまだ勢いがあるうちの方がいい。
国民に対する心理的な効果を考えると、先ず、タイミングが意外であるから「サプライズ効果」があり、同時に、いかにも「安倍さんが、果敢に決めた」という印象を与えよう。
仮に、この後、GPIFなり日銀なりの対策が出るとしても、「先頭に立ってアクションを起こしたのは安倍首相だ」という流れになる。その後に、経済が好転した場合、主たる手柄は安倍首相にあると国民は受け取るだろう。
■経済が本格的に悪化する前がいい
消費税率引き上げを目指す官僚(群)は慌てるだろう。「今決める必要はない」と言ったり、「税率引き上げの撤回は、経済政策の失敗を認めることになります」などと囁いたりして、税率引き上げ凍結の撤回を具申しに来るのではないか(あるいは、今既に、そう言っているのかも知れない)。
しかし、首相が決断を先延ばしした上ででは無く、「今の時点で」方針を決めて発表してしまえば、官僚は従わざるを得ない。官僚がサボタージュする場合は、かつての「小泉劇場」や民主党政権の初期のように、官僚と戦うポーズを取ることが出来る。国民は、理念としての「脱官僚主義」には今も共感している。
もちろん事前に「麻生さん、よろしく頼む」と財務大臣には一言根回ししておくべきだろうが、ここは果敢に攻める一手だ。
消費税率引き上げを凍結しても景気が上向かない場合はどうなるか。もともと成長戦略はじわじわ効く性質のものなので、当座の役には立たない。日銀による金融緩和を追加することになるが、この場合でも、国民は「安倍さんが先に動いて一所懸命やっている」と思うのではないか。
経済がどんどん悪化して、最後の最後に、税率引き上げ撤回に追い込まれるよりも遙かにいい。
官僚には「慎重を期して、税率引き上げは1年延ばした」と言っておけばいい。官僚が、安倍首相で1年待とうと思うか、安倍降ろしに動くかは微妙だが、安倍首相が長期政権を目指すには、この方法にしか活路はないように思う。
経済には国民の心理を通じた一種の慣性が働いている。繰り返すが、期待を改善する策を出すなら、経済が本格的に悪化する前の方がいい。
「サプライズ効果」、「果敢」、「先頭に立って」、そして「国民のために自ら動く」というイメージは、全て安倍首相の好むところではないかと思うのだが、いかがだろうか。
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