05. 2014年8月26日 16:08:40
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既得権の壁は厚い パチンコで換金、警察庁「存ぜぬ」 課税狙う議員は反発 秋山惣一郎2014年8月25日21時42分 写真・図版 パチンコ3店交換 日本オリジナルの大衆娯楽・パチンコに換金行為はあるのか、ないのか。そんな議論が今、政治の世界で熱く交わされている。
「パチンコで換金が行われているなど、まったく存じあげないことでございまして」と警察庁の担当官。「建前論はやめましょう」。うんざり顔の議員ら。 高村正彦・副総裁、野田聖子・総務会長、野田毅・税調会長ら大物議員が発起人に名を連ねる自民党の「時代に適した風営法を求める会」で、そんな堂々巡りが続いている。 2月に設立された議連の目的はパチンコ課税。安倍政権が進める法人税減税の減収分の一部をパチンコで補おうというもくろみだ。客の換金額に1%をかけて年2千億円の税収を見込む。 そのためには、パチンコの出玉は換金しないという建前を崩す必要がある。出玉と交換されるのはボールペンやライター石、金地金などの「特殊景品」。これを客が店と無関係の交換所に持ち込んで勝手に換金しているだけ。店は換金に関与していないのだからパチンコは「賭博」でなく「遊技」であり「直ちに違法ではない」というのが警察庁の理屈だ。パチンコに換金はないのだから換金額に課税するという議論は成り立たないというわけだ。 しかしパチンコの出玉が換金されることを知らない日本人は少ないだろう。議連側は「実態に即して、分かりにくい現行方式の整理を」と要望するが、警察庁の担当官は「そういうこと(換金)もあるという話は聞いております」と官僚答弁に徹し、議員らをいらだたせた。 警察庁にも白々しい答弁に徹せざるを得ない事情がある。店と無関係な交換所を通じて換金する現在のシステムは「3店交換方式」と呼ばれ、1960年代に大阪で始まったとされる。当時、客が出玉と交換したたばこやお菓子を暴力団員が現金化していた。この交換業務は戦争遺族に任せ、暴力団排除と戦争遺族の雇用確保を両立する公益事業という側面が強かった。以後、警察庁は「直ちに違法ではない」として黙認してきた。 だが警察はパチンコ以外の業種には同様の方式を絶対に認めない。「どんな理屈をつけても、換金するなら賭博とみなす」のが正論だからだ。換金を前提とした議連側の論理だとパチンコの実態が賭博だと認めることになる。公益目的で始まったとはいえ、全国1万2千店もある民間賭博場を50年も黙認してきたのか、と警察は不作為責任を問われかねない。 秋の臨時国会で見えてくるカジノ解禁への動きも影を落とす。カジノ推進法案は不正や犯罪防止、依存症対策など運営に厳しい規制や制約を課す。カジノ経営に外資が乗り込んでくれば、カジノほどの制約を受けないパチンコとの整合性を問われるのは間違いない。 フリーライターのPOKKA吉田さんは「警察とパチンコ業界はずぶずぶと見られがちだが、実際は『支配と被支配』の関係だ。今度の議論でそれが変わるのか。また、本気で税金を取りにきた政治と業界の関係はどうなるのか、注目に値する」と話す。 安倍晋三首相が前のめりな法人税減税は来年度から始まる見通し。議連ではこれまでこの問題は3回議論されているが、「換金はある」「いや、ない」では財源確保の議論は進まない。先月24日の会合で、ついに議連側は警察庁に通告した。「少額なら換金可能な遊技があってもいいだろう。そこは政治が整理する。警察も知恵を絞り、法整備に協力しろ」。次の会合は9月に開かれる予定だ。(秋山惣一郎)
パチンコと警察の関係は? POKKA吉田さんに聞く 2014年8月25日21時42分 写真・図版 POKKA吉田さん パチンコ業界に詳しいフリーライターのPOKKA吉田さんに、パチンコ業界と警察、さらには政治との関係について聞いた。 ◇ パチンコ業界と警察は「ずぶずぶの関係」としばしば言われます。確かに天下りはたくさんいます。パチンコ業界団体にはキャリア、ノンキャリア問わず警察OBが幹部として就任しています。警察は、他では認めないグレーな換金もパチンコに限って黙認しています。外から見ればそれだけでもずぶずぶじゃないかということになるのかもしれません。 しかしこれは違います。ずぶずぶというと持ちつ持たれつの癒着した関係を連想しますが、もっと強い「支配と被支配」、あるいは「親分と子分」の関係と言った方が正確でしょう。警察が業界の言うことを聞くことはほとんどありません。警察は天下りのメリットは受け取るが、あくまで取り締まりの対象です。 こうした関係になったきっかけは、1985年の風俗営業法改正にさかのぼります。同法改正で、警察は積極的にパチンコ業界を所管する方針をとりました。警察はさっそくプリペイドカード機(CR機)の導入を推進しました。90年代前半です。 旗振り役は、当時、警察庁保安課長だった現衆院議員の平沢勝栄氏。脱税と北朝鮮への送金が問題になっていたパチンコ業界の売り上げの把握が目的でした。CR機を一気に普及させるため、警察は確変(確率変動)という爆裂仕様をCR機に限って認めます。しかしこの頃、現金機(CR機ではない)のシェアも依然大きいものでした。 90年代後半に「のめり込み」が社会問題化しました。警察は対応を迫られます。しかし約70万台にものぼる型式を「社会的不適合機」として「業界が自主的に撤去する」形で問題を決着させました。しかも自主的に撤去された型式の多くは現金機でした。おかげでCR機のシェアが急拡大しました。以後、警察はパチンコ業界へ積極的な関与をやめます。問題が起きたときに、社会から「パチンコを何とかしろ」と言われるのが嫌なので「問題になりそうなとき」に厳しく所管するだけの方向になりました。 厳しいだけで言い分を聞いてくれない警察に対し、パチンコ業界は政治にすがって警察の支配を何とかしたいという思いを強く持つようになります。しかし警察の絶対的な支配の前では政治も無力です。2000年代初め、パチスロ爆裂機が問題になり、警察が規制を強める方針を打ち出しました。爆裂機はパチンコ店の稼ぎ頭だっただけに、規制による経営面の打撃は大きい。業界が頼ったのが大臣や政務三役も務めた当時の政権与党、自民党大物議員でした。議員はさっそく警察庁に出向いたものの、門前払いだったといいます。 政治との関係では、もう一つ、興味深い話があります。3年前の東京都知事選でのこと。東日本大震災の直後で世の中は自粛ムードのもと、節電がしきりに叫ばれていました。4選を目指し立候補した石原慎太郎氏は、電力を無駄遣いしているとしてパチンコ業界を名指しで批判します。しかし東京のパチンコ店の業界団体は、選挙で石原氏を推薦していたのです。推薦したのに批判されたんです。結局、都合よく使われただけでした。 今、パチンコの換金合法化と、それに伴う課税の議論が始まっています。政権与党の議員が、議員連盟までつくって業界に関与するという事態はこれまでもありましたが、政治の本気さで言えば今回が初めてです。これまで疎遠だったパチンコの政治の関係はどうなるか。長年、圧倒的に支配してきた警察との関係は変わるのか。そういう意味でも注目すべき問題だと思っています。 ◇ 〈POKKA吉田さん〉 71年生まれ。業界紙記者、遊技機メーカー系シンクタンク勤務を経て、04年からフリーに。ネットや講演などでタブーなき批判を展開し、業界からも一定の支持を得ている。著書に「パチンコのすべて サルでもわかるここだけの話」「石原慎太郎はなぜパチンコ業界を嫌うのか」など。 |