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告発状、提出
昨日、私を含む4名は、安倍晋三首相の資金管理団体「晋和会」が総務大臣に提出した2011年分、2012年分の政治資金収支報告書に虚偽記載があったと判断し、8名の弁護士を代理人として、晋和会の会計責任者××××氏を政治資金規正法第25条1項3号(政治資金収支報告書の虚偽記載)で、同会代表者の安倍晋三氏を同法同条第2項(会計責任者の選任と監督に係る注意義務違反)で、それぞれ東京地方検察庁に告発した。
告発に至った経過
本件の発端は、安倍首相の資金管理団体「晋和会」がNHKの一職員(チーフプロデュ−サ−・小山好晴氏)から2011年、12年に受け取った寄附を、「NHK職員」という身分を隠し、「会社役員」からの寄附と偽って記載をしていた事実を『サンデー毎日』7月27日号が報道したことにある。
私は、この件で同誌から取材を受け、問題の所在を知ることになった。同誌にも記載されているが、晋和会は、『サンデー毎日』から小山好晴氏の献金について取材を受けた日(本年7月10日)の翌日、小山氏および同氏の妻・小山麻耶氏の職業を「会社役員」から「会社員」に変更済みと回答したという。しかし、小山好晴氏の職業は「NHK職員」または「団体役員」とするのが正しいから、「会社員」と記載することも、なお虚偽記載である。
ところで、本件を調査していく中で、総務省のHPに掲載されている「晋和会」の2011年分、2012年分の「収支報告書」を閲覧していくと、7月18日付で寄附者の職業名が多数箇所にわたり、再度、訂正されていることがわかった。
合計16箇所(2年分につき重複を除くと9名分)に及ぶ寄附者の職業名の訂正の中には、著名な作曲家を当初「会社役員」としていた例や、「会社役員」を「無職」と訂正した例、「会社役員」を「弁護士」と訂正した例などが含まれていた。こうした訂正がなされたこと自体、晋和会の政治資金収支報告書がいかにずさんなものであったかを物語っており、政治資金規正法第27条第2項が定めた重過失による虚偽記載に該当すると判断される。
また、NHKのチーフプロデュ−サ−の職業を「会社役員」「会社員」と記載したのは寄附者の実の職業を隠蔽する意図を強く推定させるものであり、刑法第38条第1項が定める故意犯に該当する可能性が高い。
そこで、前記4名は晋和会の会計責任者××××氏を政治資金規正法第25条1項3号(政治資金収支報告書の虚偽記載)で、同会代表者の安倍晋三氏を同法同条第2項(会計責任者の選任と監督に係る注意義務違反)で、それぞれ東京地方検察庁に告発するに至ったのである。
「職業」も国民監視のための重要な情報
「たかが肩書の誤記を何で」という議論がある。しかし、例えば、国政情報センター編著『政治資金規正法違反事例集』(2012年、国政情報センター刊)を調べると、「国交省関係者らから寄附を受け、職業を『会社員』と記述」したことが違反事例の一つとして取り上げられている(82〜83ページ)。この事例は参議院議員A氏が代表を務める資金管理団体が2006年の政治資金収支報告書の中で、個人献金をした国交省の現役局長や外郭団体トップらの職業を「会社員」と記載していた事実を違反事例として解説したものである。
A氏の政治資金報告書では寄附者のほとんどの職業が「会社員」と記載されていたが、その中には、上記の現役国交省局長や同省の外郭団体の理事長のほか、旧建設省OBの市長、元技監なども含まれていたという。また、寄附者の中には、国から出資、補助金を受けていた公益法人などのトップも含まれていた。
A氏は旧建設省出身で、2007年の参院選で初当選した。個人献金をした人物の多くはA氏と親交が深かった国交省関係者と見られている。
この事例からもわかるように、寄附者の職業は、寄附者、若しくは個人を装った団体献金者と政治団体との癒着、不明朗な政治過程を国民が監視し批判するうえで重要な情報となりうる場合があるのである。
今回の晋和会の例でいうと、「プロジェクトX」、「プロフェッショナル」、「ファミリーヒストリー」など人気を博した番組の制作に携わったNHKチーフプロデューサーが時の政権トップの政治団体に献金をした事実は、NHKの放送の政治的公正、不偏不党、自主・自律の原則を定めた「NHK放送ガイドライン」、「職員の服務準則」に反する行為であり、NHKはそうした原則を堅持しているという視聴者の信頼を失墜する行為である。しかも、この「自主・自律の堅持」を定めた「NHK放送ガイドライン」の冒頭の節で定められた「放送の公正、不偏不党」、「信用失墜行為の禁止」、「兼職の禁止」はNHKの「全役職員」が遵守すべき規範として設けられたものである。
また、NHKが定めた「行動指針」では「私生活でも公共放送の信用を損なう行為をしません」と謳っている。
以上から、小山好晴氏の「晋和会」に対する献金はこれらガイドライン、服務準則、行動指針のいずれにも反する公算が大である。
このような文脈でいうと、「晋和会」が小山好晴氏の職業を「会社役員」と偽って記載したのは小山氏の上記のようなコンプライアンス違反行為を隠蔽する故意犯に該当する可能性が高いと言わなければならない。
さらにいうと、晋和会への寄附者の中にある小山麻耶氏は小山好晴氏の妻であり、麻耶氏の母は安倍晋三氏の熱烈な支援者として知られる金美齢氏である。このことからすると安倍氏、あるいは主たる事務所が安倍氏の国会事務所となっている「晋和会」の会計責任者・××××氏が小山好晴氏の実の職業を知らなかったとは考えにくい。こうした事情を勘案すると、小山好晴氏の職業を「会社役員」と虚偽の記載をした事実は故意犯に該当する可能性がいっそう強まるのである。
後で訂正しても違法性は消えない
「すでに当事者が訂正したものを告発するのはいいがかり」という議論が見受けられる。しかし、事後の訂正は虚偽記載の罪責判断において情状酌量の要素になることはあっても、処罰の認否に影響するものではないというのが法曹界の定説であり、政治資金規正法第27条第2項後段でその旨の定めが置かれている。
前記の政治資金規正法違反事例の解説でも、「処罰対象となるかどうかは行為を行ったときを基準に判断するため、事後に訂正しても処罰対象から逃れるというわけではない。あくまでも行為時(この場合は記載時)に故意、あるいは重過失があるかどうかが問題となる」と記されている(83ページ)。
告発状全文は次のとおり。
http://sdaigo.cocolog-nifty.com/shinwakai_kokuhatuzyo.pdf