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内閣情報調査室が自ら法の問題点を指摘した文書(2012年7月17日)
<特定秘密保護法>人権侵害の恐れ、検討過程で官僚認識
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20140818-00000007-mai-pol
毎日新聞 8月18日(月)9時48分配信
特定秘密保護法案が政府内部で練り上げられた過程を探ろうと、毎日新聞が昨年5月に政府に情報公開請求したところ、1年以上かかって約4万枚の公文書が開示された。そこには法案の内容について政府内部でも議論があったことが記録され、官僚たちの「ホンネ」も透けて見える。【日下部聡】
◇「訓示的規定」入れる
<訓示的規定を入れなければならないほど、ひどい法律なのかという議論に陥りそうな気がする>
法案作りを担った内閣官房内閣情報調査室(内調)の「内閣法制局との検討メモ」によると、2012年7月9日の協議で、法制局はそんな疑問を内調にぶつけた。民主党・野田政権時代のことだ。
「訓示的規定」とは、国民の基本的人権を侵害しないよう戒める規定のことだ。
内調は法案の素案に、この規定を入れていた。その理由は、この日と同月17日に法制局に提出した別の文書に、内調が記している。
<万が一本法が不適切に運用された場合を仮定すると、国民の知る権利、思想・良心の自由、取材の自由といった憲法的権利との間で問題が生じる余地がないとは言えない>
<『本法の運用に当る者の良識に委ねた』部分がないと言い切ることは困難。「不安の念」が完全に払拭(ふっしょく)されたとは言い切れず、訓示規定を置かないことによる無用の誤解を避けることに合理性があると考える>
法の危うさを内調自身が認識し、批判をかわすために「訓示的規定」を入れたことが分かる。法制局は、政府提出法案に最初からそのような規定が入るのは異例だとして「よほどうまく説明しないと法制局内で引っかかってしまう」と難色を示した。しかし、それ以降、この件が議論された形跡はなく、昨年10月に国会に提出された法案には、「(この法律を)拡張して解釈して、国民の基本的人権を不当に侵害することはあってはならない」との規定が素案通りに入った。
◇外部の批判を意識
<「国際的な」ということを書くと、アメリカから言われて立法するのではないかと批判される>(12年3月12日)
<有識者会議の議事録問題はどうすることもできないのだろうか>(同27日)
いずれも「検討メモ」に残る法制局側の発言だ。前者は、素案の第1条に「国際的な情報共有の促進」が、法の目的として入っていたことへの懸念だ。
後者は、秘密保全法制を提言した政府の有識者会議の議事録が作成されていなかったことが、同年3月に毎日新聞などの報道で明らかになったことを指すとみられる。
官僚たちは常に外部からの批判を意識していたことが読み取れる。内調からも次のような意見が出た。
<(秘密の対象を)絞っているということをメッセージとして出さないと、いつまでもマスコミなどに何でも秘密だと言われ続けることになる>(12年2月20日「検討メモ」)
主要な新聞記事は協議のたびに内調から法制局に手渡された。12年8月には、日本弁護士連合会の反対決議(12年5月)や日本新聞協会の意見書(11年11月)をまとめた文書が作られた。それぞれの主な主張に下線が引かれ、日弁連の指摘と法案を対照した表も作られている。
しかし、国民の意見への反応は素っ気ない。11年に実施されたパブリックコメント「秘密保全に関する法制の整備に係る意見募集」の結果について「何か気づいた点はあるか」という内調の質問に、法制局は次のように答えている。
<反応としては、こんなものではないか。建設的な議論をしようとする人はあまりいないのだろう>(11年12月16日「検討メモ」)
法案の検討にパブリックコメントが反映されたことを示す記録は見当たらない。
◇政権交代影響なし
政治家や政党の主張に対する言及はほとんどない。数少ない例は次のような法制局の意見だ。
<尖閣ビデオが特別秘密(現特定秘密)に該当するというと、もともと(秘密保全法を)やれと言っている野党まで敵に回してしまうのではないか>(11年10月18日「検討メモ」)
民主党政権下で実質的な法案作りが始まったのは11年9月。きっかけは、10年に尖閣諸島沖で海上保安庁の巡視船が中国漁船に衝突された事件の録画映像が、ネットに流出したことだ。当時野党だった自民党は、国民に映像を公開するよう求めた経緯がある。
11年11月30日の「検討メモ」には次のように記されている。
<法制局幹部会では、尖閣ビデオが本法制の対象にならないということで意見が一致していた>
発端になった漏えい情報は、この時点で特別秘密には当たらないと判断されていたことが分かる。一方で法制局からは、こんなぼやきも出ている。
<この(野田)政権における法案の優先順位付けがよく分からない>(12年2月17日「検討メモ」)
にもかかわらず、法案作りは進んだ。開示された11年9月から昨年4月までの記録には、自民党が政権に戻ったことへの言及はない。
一度動き出した法案作りは、政権交代に大きな影響を受けることなく官僚主導で進められた実態が浮かび上がる。
◇内調と法制局、40回以上協議
特定秘密保護法の法案作成作業は、民主党政権が設置した有識者会議の報告書を受け、2011年9月に始まった。内閣情報調査室(内調)が担当し、次のような手順で進んだ。
内調が素案を作り、防衛、外務、警察庁など関係省庁に提示して意見を求める。各省庁からの要求を取り入れたり、断ったりしながら条文を調整する一方、月に1〜3回程度のペースで内閣法制局に素案や資料を持ち込み、憲法や既存の法律との整合などについて指導や助言を受けて修正する。この繰り返しだ。開示された11年9月〜昨年4月の文書で確認できるだけでも、法制局との協議は40回以上行われている。
協議は課長級の中堅官僚である参事官が主に担った。「検討メモ」によれば、この時期、内調側は警察庁出身の村井紀之参事官や外務省出身の橋場健参事官、課長補佐ら複数が参加した。法制局側は12年9月までは国土交通省出身の海谷(かいや)厚志参事官、以降は警察庁出身の太刀川浩一参事官が1人で対応しており、記録に残る法制局側の発言は両氏によるものとみられる。太刀川氏以外は既に出身官庁などに異動している。法案は昨年10月25日に閣議決定され、国会に提出された。国会では自民、公明、みんな、日本維新の会の4党による協議で一部が修正され、成立した。
毎日新聞は昨年5月、内調はじめ14の政府機関に、法案の検討過程を記録した文書の開示を請求。昨夏から今月にかけて断続的に文書が開示された。閣議決定前に開示されたものは、ほとんど黒塗りだったが、閣議決定後は多くの部分から黒塗りがなくなった。昨年5月以降の記録についても昨年12月に開示請求をしたが、まだ開示されていない。
政府は特定秘密保護法の年内の施行に向け、運用基準の素案や関連政令案についての意見公募(パブリックコメント)を今月24日まで受け付けている。
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