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T・J・ペンペル●カリフォルニア大学バークレー校政治学教授。同校東アジア研究所所長(2002〜2006年)。前歴はシアトルのワシントン大学国際研究ジャクソン校教授兼政治学非常勤教授。それ以前はコーネル大学東アジアプログラム部長(1972〜1991年)。主な研究および教育指導内容は比較政治学、政治経済学、現代日本、アジア地域主義など。著書は『東アジアの安全保障協力』、『東アジアの再計画』、『地域の建設』など。
「日韓対立の原因は、ほぼ安倍首相にある」 ペンペル教授、首相を歴史修正主義者と痛罵
http://toyokeizai.net/articles/-/45269
2014年08月13日 ピーター・エニス :東洋経済特約記者(在ニューヨーク)
――日本は集団的自衛権行使の容認によって劇的転換をしようとしているのか、それとも安全保障政策を“普通の国”並みに行うための段階的ステップに過ぎないのか。
安倍晋三首相の下で2つの変化が起こっている。第1に、安全保障そのものの変化と、自衛隊の用途をめぐる解釈の拡大だ。その大部分の変化は小泉純一郎首相時代にさかのぼり、おそらく何らかの意味では中曽根康弘首相時代にまでさかのぼるものだ。自衛隊のイラク派遣、アフガニスタンでの給油による米軍への後方支援、防衛庁の防衛省への昇格などの決定は自衛隊の役割拡大を含め段階的な変化だった。
第2に、そのすべての変化は安倍首相の歴史解釈変更を含むイデオロギーで包まれていることだ。これは問題を生む。安倍首相は集団的自衛権行使と同時に、村山談話(第二次世界大戦の責任)や河野談話(慰安婦問題)の扱いにも取り組もうとしている。これは一般の日本人の考えと大きな隔たりがある。また韓国で大きな反感を生み、中国では共産党指導部が唱える日本の軍事大国復活との宣伝を正当化させる。
安倍首相が経済に照準を合わせ、経済的利益を追求し、集団的自衛権の行使容認を日本の経済力、軍事力のアジア地域での役割拡大として取り扱っていれば、問題はここまで大きくならなかった。ところが、安倍首相は憲法9条に挑もうとしており、米国が“戦勝者の正義”として日本人に押しつけた憲法を退けようとしている。そのことは日本の一般大衆や東アジア地域の人たちにとって、集団的自衛権の行使容認を受け入れ難くしている。これらが、広範なナショナリストのパッケージのように思えるからだ。
■国防総省は安倍政権を支持
――オバマ政権は安倍内閣の閣議決定を支持した。米国の安倍首相支持は賢明なのか。
中国をどう扱うか、東アジア地域をどう扱うか、という問題に対し、米国内には相反する感情があり、それを反映しているように思う。国防総省は東アジア地域の安全保障問題を、軍事パワーのシフト、中国軍事支出の拡大、北朝鮮からの脅威というレンズを通して見ている。国防総省にとって日本が集団的自衛権を行使し米軍のサポートを得ようとすることは極めて論理的だ。彼らは、今後、自衛隊との協力関係がより緊密化するだろうと想定している。同地域での米軍の能力を高めることにもなると考えている。ただし、国防総省の望むように日本が動くかどうかははっきりしていない。
一方、米国のビジネスや経済界は、中国の経済成長は重要であり、両国のさらなる経済的関係の深化を重視すべき、と考えている。現在は、どちらかと言えば国防総省の意向が優先されているがために、米国は日本を支持している。その点、安倍首相にはプラスに効いた。
しかし、集団的自衛権行使を包んでいるイデオロギーは日韓関係にとって大きなハンディだ。これは米国にとっても大きな問題だ。韓国の朴槿恵大統領は安倍首相とは会いたくない意向を明らかにし、安倍首相の河野談話見直しや慰安婦問題検証に対し、怒りをあらわにしている。それは日本と距離を置きたい中国の習近平国家主席にも影響している。安倍首相はいくつかの点で米国が歓迎しない行動をとっている。
米国にとっての理想はこうだ。安倍首相が経済に集中し、段階的に安全保障面での米国との協力を進め、東アジア地域での米国企業や経済活動を考慮し、東アジアサミットなど地域における協調にもっと大きな役割を果たすことだ。安倍首相は、米国が望む理想的な戦略ゲームには与していない。
――日本が集団的自衛権の行使を容認する必然性はどの程度あるのか。
必然性があるとは思えないが、冷戦終了後、自衛隊の役割は確かに増大する傾向にある。集団的自衛権行使を容認することとした、今回の解釈変更は方向転換への分水嶺となる。
実際の行動によって集団的自衛権行使を既成事実化していけば、一般の人たちも、その必要性を感じて、受け入れやすかったかもしれない。しかし、安倍首相はわざわざ拡声器を使って声高に憲法改正を提案、その後、トーンダウンして憲法の解釈変更に転換、さらに内閣法制局に従来の解釈を変更するよう指示した。自分の意見を通すための人物を送り込んだりもした。
安倍首相は大きな旗を掲げて、「みなさん、われわれは大転換しようとしています」と不必要なことを言っている。本来、そういう変化は段階的に進めるべきものだ。たとえば、小泉政権下で自衛隊と米陸軍I軍団(東アジア地域の有事に重要な役割を果たす部隊)との共同作戦計画を拡大するため、同軍団の本部をワシントンからキャンプ座間に移している。これによって米軍と自衛隊の相互作戦計画は飛躍的に強化されたのだが、この変化には誰も怒りをあらわにしなかった。
ところが、安倍首相がやろうとしていることは違う。憲法の解釈変更などの発想は安倍首相のイデオロギーにくるまれている。安倍首相は日本が第一にすべきは、第二次世界大戦で誤ったことをしたという意識を克服し、愛国主義を再構築すべき、ということだ。いわゆる「戦後レジーム」を終わらせ、東アジア地域やグローバルな安全保障について正当な役割を果たすべき国家へ復活すべきだというのだ。
■日本国民は経済への関心が高い
――日本の世論調査では、集団的自衛権行使容認への反対意見が過半数を占めているようだ。
それは、どこが世論調査を行っているかによって違う。産経は安倍首相を支持している人たち向けの質問が作られている。朝日や毎日の質問は産経とは違う。いずれにしても、一般の人たちは安倍首相の安全保障政策に対する関心よりも、アベノミクスなど経済に対する関心のほうが高い。
アベノミクスは“第3の矢”の構造改革で行き詰っているように思う。安倍首相は経済に熱心ではないので、ここを乗り越えるのは難しい。防衛や安全保障問題、歴史修正主義にこそ、彼の関心はある。
一般大衆は経済がよくなることを望んでいるが、安倍首相がうまく舵取りできるかどうかに確信が持てない。そのこともあって、安倍首相が進めようとしているもう一つの施策について疑問を感じ始めている。
――集団的自衛権の行使容認により、自衛隊の役割や使命にどう影響するか。
自衛隊のオペレーションが短期的、中期的に大きく変わることはないと思う。自衛隊には、米軍との協力拡大について、装備購入、他のアジア諸国との地域的演習への参加など長期的な計画・戦略がある。このような自衛隊の使命には、大きな転換はないと思う。自衛隊の役割や使命の拡大に伴って予算を急激に増やせる情勢でもない。
米軍と自衛隊の相互協力としては、空軍と航空自衛隊との共同演習、海軍と海上自衛隊との共同作戦が増えていくと想定できる。しかし、その関係も、これまでと大きく変わるわけではない。尖閣諸島周辺に海上自衛隊の艦船が6隻出動し中国漁船や海底資源探査船を銃撃する態勢を整える、といったことは考えられない。
――朝鮮半島有事の際の情報システム統合はどうか。たとえば、北朝鮮の潜水艦や戦闘機の共同監視などは進むだろうか。
地域の安全保障環境がますます厳しくなっているときに、日本は「東洋のスイス」のようにおとなしくしている必要はない。北朝鮮の戦闘機やミサイルなど緊急事態や脅威に対する自衛隊の備えは、集団的自衛権の法制化がなくともできるものだった。まるで赤信号を守るクルマのように、危機に直面しても、地方自治体の規制に従わなければならないというバカげた議論がまかり通っていたが、これは過去のものにするべき。軍隊は危機に際してタイミングよく、すぐさま対応できなければならない。
多くの人たちが心配している日韓関係および日米韓関係の悪化については私も深く懸念している。
中国に対する安倍首相の言葉は、単純に白黒をつけすぎている。ニュアンス(深謀遠慮)がなさすぎるとでも言おうか。これは、米国の中国に対するエンゲージメント(関与)とヘッジ(リスク分散)という戦略にも役立っていない。彼は中国を敵とみなし、中国の軍備拡張を国内における政権支持率向上のための都合のいい道具にしている。環境問題、貿易・投資、人道的救援活動、その他共通の利害について日中協力関係を強化する努力をしていない。
安倍首相は中国を単純に脅威とみなし、それを一般大衆にアピールしている。まさにニュアンスを欠いたアプローチだ。
――日本と韓国との間で何が起こると思うか。
安倍首相は朴槿恵大統領と会談する重要性について、たびたび語っている。しかし、彼女が「ただ会うだけではダメ」と言っていることの意味を分かろうとしない。彼女は安倍首相をナショナリスト、歴史修正主義者と見ている。安倍首相はそこを理解していない。第二次世界大戦や韓国の植民地化など両者の歴史観の違いは大きい。安倍首相は自分の条件での和解を求めている。公平に言えば、朴大統領の側も自分の条件での和解を求めているのだが・・・。ただ、彼女の条件のほうが不合理さが少ないと思う。
安倍首相は慰安婦問題について、軍隊の関与があったことを認めてない。そのことが韓国との関係改善を非常に困難にしている。日本の戦前の歴史は非常に複雑であり、プラス面もあればマイナス面もある。ところが、安倍首相はいかなるマイナス面も認めたくないようだ。
■村山談話、河野談話を復唱すれば関係は改善
――日韓関係改善の動きはあるのか。
あまりない。先日会ったダニー・ラッセル国務次官補の話では、ケリー国務長官は日韓関係改善を切に望んでいる。ただ、現段階で日本と韓国との間を取り持つことは、ハマスとイスラエルの間を取り持つことよりほんの少しだけ容易ということだ。朴大統領は安倍首相の歴史観に応じるくらいなら、関係改善の必要はないと見ている。
安倍首相が靖国参拝を1年控えたくらいでは事態はよくならない。首相在任中は参拝しないと公式表明すれば少しはよくなる。さらに、村山談話や河野談話の内容をもう一度、復唱すればもっと効果的だろう。安倍首相がそういう行動をすれば、安倍首相と朴大統領との相互訪問も可能になるのではないか。
――安倍首相は北朝鮮とはどのように対峙しようとしているのか。
日本は韓国の対北朝鮮アプローチには束縛されていない。安倍首相は拉致問題を国内支持率向上のために利用している。同時に、安倍首相は北朝鮮の核兵器に関する6カ国協議の進展を阻害している。安倍首相は拉致問題をオ―バーに扱い過ぎている。横田めぐみさんが生きているとか、何百人もの日本人が誘拐されたとか、そういう厳然たる証拠があるとは思えない。
安倍首相のロシアに対する働きかけにも似た要素がある。安倍首相が北方領土交渉を前進させ、また拉致問題を解決させれば、国内での支持率は向上する。それは米国にとって混乱要因だ。米国はロシアの孤立化を狙っている。日本は対ロ制裁に参加しているが、日ロの交渉窓口は閉ざさなかった。北朝鮮に対する米国の優先政策は核廃絶。このためには、厳しい経済制裁が重要な役割を果たす。
日本は米国が懸念しているにもかかわらず、対ロシア、対北朝鮮についてわが道をいく構えを見せ続けている。オバマ政権は東アジア地域の安定を図るべく、かなり対ロシア、対北朝鮮について、ニュアンスのある対応をいくつか講じている。部分的な軍事力、部分的な危険分散、部分的なエンゲージメントなど多様な手段を講じている。安倍首相はそういうニュアンスに欠けている。
安倍首相は北朝鮮とロシアとの関係改善によって習近平国家主席や朴槿恵大統領の鼻をあかせると思っているようだ。彼の考えでは、それが正しいことなのだろう。
――安倍首相は習国家主席とも会いたがっている。
その通りだ。安倍首相はさまざまな外交問題を積極的に解決する人物として東アジア地域内だけでなくグローバル・コミュニティーの中で認めてもらいたいのだと思う。
しかし、習国家主席は安倍首相に会いたいとは思っていないのではないか。習国家主席の目からみれば、日本は大きな障害だ。日本が何かしでかすと中国国内ではインターネットの上で大騒ぎが起こる。たとえば、安倍首相の靖国参拝、南京大虐殺の真実に挑んだ教科書などだ。
習国家主席は韓国とのニュアンスのある関係を進展させるのに最善を尽くしている。習・安倍会談が近いうちにあるとは思えない。日中の経済関係は密接だが、習国家主席が日本を敵国扱いするのを諦めるほどのものではない。
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