http://www.asyura2.com/14/senkyo169/msg/751.html
Tweet |
左:山口真由弁護士、右:弘中 惇一郎弁護士/撮影:阿部岳人
ロス疑惑、薬害エイズなどを担当した『無罪請負人』弘中惇一郎弁護士が語る「検察から無罪を勝ち取る方法」
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/40104
2014年08月13日 現代ビジネス
刑事弁護における第一人者であり、ロス疑惑や薬害エイズ、厚生労働省・村木厚子さんの冤罪事件など、数々の著名事件を担当した弘中惇一郎弁護士。4月に書籍『無罪請負人 刑事弁護とは何か』を刊行した記念として、著作やテレビ出演で話題を集める、弁護士の山口真由さんと対談を行った。検察組織の実態や若手弁護士が進むべき方向性とは――?
* * *
山口: はじめまして。今日は先生のお話を伺うのをすごく楽しみにしてきました。よろしくお願いします。
弘中: こちらこそ、よろしくお願いします。
山口: 先生は刑事弁護人として闘うイメージがあるので、きっと厳しい方なんだろうなと思っていましたが、お会いしてみて優しそうな方で安心しました。
弘中: 僕がテレビに出るのは記者会見のときが多いから、どうしても怖い印象をお持ちの方が多いみたいですね。
山口: 「カミソリ弘中」の異名もありますもんね(笑)。今日はまず先生に伺いたいことがありまして。今年、先生の事務所がリクルートのブースを出されたときに、企業法務に興味があるとチェックを付けた人は全員落としたと聞いたのですが、本当ですか?
弘中: うん、ほんと(笑)。
山口: 本当なんだ! 私が在籍している事務所は企業法務がメインなので、先生はこの法分野がお嫌いなんじゃないかってすごくドキドキしていたんです・・・。
弘中: いやいや、企業法務をやっている弁護士を嫌っているなんてことはありませんよ。ただ僕は企業法務をやらないし、うちの事務所にとっても中心テーマではないというだけのことで。
山口: そうなんですね。なんとなくホッとしました。
先生の著書『無罪請負人』を拝読しました。発見がたくさんあってとてもおもしろかったです。先生は、“人”を基準にして担当する事件をお選びになっているんですよね。被告人に寄り添って弁護されているのが印象深かったです。
弘中: 人を基準にしているというか、「この人と一緒に闘えるか」という点を重視しているだけのことなんですよ。本にも書きましたが、依頼人との信頼関係が弁護活動の大前提にあると思っています。私がこれまで弁護を務めた、三浦和義、安部英、小沢一郎、堀江貴文ら各氏は、世間的には悪人とされていましたけれど、すべて直接お会いして納得してから引き受けているので、彼らを疑ったことは一度もありません。それからもうひとつ、私にとって非常に重要なのが「おもしろい事件と思えるか」ということ。事件への純粋な好奇心や依頼人を助けたいという思いが、大きなモチベーションになって弁護の工夫やアイデアにつながるんですね。
山口: とても勉強になります。あと、この本にはスケールの大きな話が多いですよね。国策捜査にもかなり踏み込んで書かれていて、そこも非常におもしろいと思いました。大きな刑事事件で検察と対峙しているときっていうのは、やっぱり「国家」と闘っているようなお気持ちになるものなんですか?
弘中: それは少なからずありますね。
山口: 「事件は時代を映す鏡だ」という言葉がありましたけど、大きな刑事犯罪が国家権力によって作られるというのが印象的です。まず犯罪ありきで捜査を始めるという。
弘中: そうですね。鈴木宗男さんのときだって、「何かないか」と片っ端から疑惑といわれるものを捜査していたわけですからね。
山口: 「疑惑の総合商社」として、どれが犯罪にできるか探していたんですよね。
弘中: そうです。つまり鈴木さんをやることは最初から決まっていたということですから、全く逆転している。探せば何かあるし、なければ作ると。
山口: 小沢一郎先生の事件も、あれほどの大物なのに「え、これで立件するの?」という驚きがあったんです。でもこの本を読んで、なるほどなって思いました。それに、検察というのは大きな組織を背負っていて、その中でプレッシャーがあったり出世競争があったりで、逮捕したらもうノンストップなんですよね。不起訴はありえない。
弘中: まったくその通りです。今度の検察改革を見ても、公正取引委員や国税とタイアップして、いかに負けないようにするかという方向ではよく練られているけれど、「人権」とかそういう視点は皆無ですよね。
山口: 刑事弁護をしていると被疑者に人権はないと、やっぱりお感じになりますか?
弘中: はい。いろいろな場面でね。特に「人質司法」なんて言われていますけど、本当に身柄を取りますよね。それで、闘う姿勢を維持している限りは出さない。これは露骨にひどいですよ。
山口: 保釈はめったに認められないんですか?
弘中: いや、屈服すればすぐに出られます。それを餌にしているんですね。
山口: 検察に対して漠然としたイメージは持っていましたが、企業法務がメインだと、こういう現状は見えにくいので興味深いです。そもそも、私を含めて今の若い弁護士は、刑事弁護を志す人が少ないようにも思います。刑事弁護ってなんとなく「手弁当」みたいなイメージがあって、それが若手弁護士にとっては将来に対する不安につながるようにも見えて、それが関係しているのではないかと思うんです。そういうイメージは変わっていったらいいなと思うのですが、先生が若い頃はどうだったんですか? 最初から刑事弁護を志していたんですか?
弘中: 昔は企業法務とか渉外事務所なんてあまりなかったから、どちらかというと役所に行こうという発想だったんですね。役所に行けば留学できるし、大きいこともできそうだし、お金も保証されそうだと。実は僕も最初は役所に行こうと思っていたんです。
山口: そうだったんですか。でも、役所に行かずに弁護士になられたわけですよね。それって「在野」へのこだわりからですか?
弘中: いや、そういうのでもなくてね。僕らの時代は学園紛争があった時代ですが、同時に高度経済成長期なんですよ。だから、どこに行ったって食いっぱぐれるわけがないという気持ちがあって、みんな自信過剰だったんです(笑)。今のような「ジリ貧」の日本にいれば安定を求めるだろうし、若い人がとりあえず大きそうな組織を選ぶのは無理からぬことだとは思いますよ。とはいえ、渉外事務所がそんなに魅力的なところか?という疑問はありますけども。
山口: 大きな事務所になると、300人以上の弁護士がいたりするわけですよね。その中で、法律事務所が「会社」のようになって、本来は、組織ではなく個として判断すべき弁護士がサラリーマンっぽくなってしまうなんてことがあれば、それって、弁護士として違うんじゃないかとは思います。
弘中: やっぱり、イメージに騙されているんじゃないですかね。大きい事務所は設備がいいし、やっていることも大きそうだしっていうことで。しかし実際にそこで自分に与えられる役割というのは、決してクリエイティブなものではないでしょうし、全員が上に行ける構造ではないですからね。
山口: アメリカの法律事務所では、そういう傾向があると聞いたことがあります。弁護士を何十人も採用したとして、パートナーになれるのは一人で、それ以外は“労働力”になってしまうなんてことも。あとは、法律事務所にも「格」の違いによるヒエラルキーみたいなものがあるとか。法律事務所の格ではなく、依頼者が満足する仕事を誇りに思えれば、それでいいんじゃないかなと思うのですが。
弘中: 僕はそっちの方のことは詳しくないけれど、そうなんでしょうね。うちの事務所の仕事スタイルは、ある程度大きな刑事事件がくると、その都度、事務所を超えてリクルートするんです。どういうチーム編成でいくかと、サッカーの監督みたいでしょ。これがおもしろいんですよ。
山口: それはおもしろいですね! 刑事弁護は、人員も財力もシステムも揃っている検察が相手ですからね。大きな組織にネットワークで対抗するというのは正解なのかもしれない。
弘中: ネットワークは重要だと思いますよ。刑事弁護をやっている人が集まって情報公開をしたり、スキルアップの勉強会をするというような連携は今後もっと必要になってくると思います。
山口: 勉強といえば、今日は先生に勉強法のこともお聞きしたかったんです。昔の話になって恐縮ですが、先生は東大在学中に司法試験に通られていますよね。でも、それほどガリガリと勉強したわけではなかったと伺って。
弘中: そうですね。僕は大学の期末試験がクリアできれば通用すると思ったから、その勉強はしてましたけど。
山口: それだけですか!?
弘中: あとは、法学部の友人に勧められて、法律相談所というサークルに入って
、そこで一緒になった仲間と5人くらいでチームを組んで、順番に発表するような形の勉強ですね。だから授業とそういうサークルの範囲ですかね。
山口: なるほど。そのふたつが重なっているんですね。私は人と勉強するっていうより、基本書を何回も読むタイプなんです。
弘中: 基本書を一生懸命読むことは重要だと思いますよ。何回もって、どれくらい読むんですか?
山口: 「7回読み」というのが、私の勉強法です。簡単に言うと、サラッと3回、キーワードに注目して3回、仕上げに1回の計7回なんです。あ、先生の本はまだ3回しか読んでないですけど(笑)。
弘中: 私の本は7回も読まなくても大丈夫ですよ(笑)。私も当時のことを思い出すと、印をつけながら最初はゆっくり読んで、そのあともう一度読むと頭に入りやすい気はしましたね。
山口: それは先生がもともと知性と感性が鋭いからです。私が最初に読みながら印を付けると、だいたいポイントじゃないところに印を付けていることが多くて。最初からキーワードを見つけられるというのは能力あってのものだと思います。
弘中: そんなこと初めて言われたけどなあ。まあでも、弁護士という仕事は予定が立たないというか、不確定要素が非常に多いのでね、人から言われたからやるとか一生給料をもらうつもりではしょうがないと思うんですよ。若い人はそれこそ知性と感性を磨いて、どういう事件で自分は何をしたいか、何ができるかっていうことを積極的に考えて動いて行くべきですね。
山口: 先生が仰るように、人から頼まれた事件という気持ちではなく、“自分の事件”という気持ちで挑むのが大事なのですね。かなり前ですが、「30年後に弁護士としてどうありたいか」と問われて絶句してしまったことがあります。私は、最終ゴールを見るよりも、その時々に自分がベストだと思える判断を積み重ねていきたいなと思っていたからです。先生は目指す弁護士像みたいなものをお持ちですか?
弘中: ないですね。目指す生活や人生はあるけども、その一環として弁護士をたまたまやっているだけなので。
山口: そうなんですか! 先生は「弁護士とはこうあるべき」という揺るぎない理想をお持ちだと思っていました。なんというか、弁護士は弁護士らしくあることを何よりも優先しないといけない風潮がある気がしていて、それがけっこう重いなあと感じてもいたんです。
弘中: そういう思い込みにとらわれるのはやめて、「おもしろそう」とか「やってみたい」とか、そういう感覚を大切にした方がいいと思いますよ。
山口: 弘中先生がそう言ってくださると、とても心強いです! 自分が「おもしろい」と思える事件を選ぶから、“自分の事件”として思い入れが持てるんですね。すごくわかった気がします。今日は本当にいろいろ勉強させていただきました。ありがとうございました!
弘中: いえいえ。私も楽しかったですよ。お互い頑張っていきましょう。
<了>
(構成:熊坂麻美)
弘中 惇一郎(ひろなか・じゅんいちろう)
弁護士、法律事務所ヒロナカ代表。1945年、山口県生まれ。東京大学法学部在学中に司法試験に合格。70年に弁護士登録。クロロキン、クロマイ各薬害事件など多くの薬害事件で弁護士として医療被害と闘うほか、ロス疑惑をはじめ様々な著名事件で弁護を担当。2009年に起きた郵便不正事件では村木厚子さんの無罪を勝ち取った
山口 真由(やまぐち・まゆ)
弁護士。1983年、北海道生まれ。2002年、東京大学教養学部文科I類(法学部)に入学。在学中3年生時に司法試験合格。4年生時に国家公務員I種試験合格。2006年に東京大学法学部を首席で卒業後、財務省に入省し、主に国際課税を含む租税政策に従事する。2009年9月、弁護士登録。現在は企業法務と刑事事件を扱う弁護士として働きながら、テレビ出演などでも活躍。TOKYO MX「モーニングCROSS」コメンテーター。
▲上へ ★阿修羅♪ > 政治・選挙・NHK169掲示板 次へ 前へ
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。