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小泉元総理のカリスマ性はいまだ健在〔PHOTO〕gettyimages
あなたはどう思う?小泉純一郎「原発ゼロ」独演会90分を全文掲載!「おかしいと言う私が変人なのか」
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/39984
2014年07月30日(水) 週刊現代 現代ビジネス
7月7日、会場の東京国際フォーラムは4000人以上の聴衆で埋め尽くされた―。開催されたのは小泉純一郎元内閣総理大臣の講演会。一度口を開いたら、誰もこの男を止めることはできない。
■「頭の良い人」にダマされた
細川(護煕)氏を推した都知事選にも負け、もう「過去の人」と言われているんですけれど(笑)、まだ私の話を聞いてくれる人がこれほどいるんだと驚いております。
私、「総理のときになぜ原発ゼロと言わなかったんだ」とよく言われるんですよ。もっともな疑問です。でも当時は「原発は安全でコストが安くて、クリーンなエネルギーだ」という専門家の方々の話を聞いて―何せ頭の良い人たちが言うのですから―「なるほどな」と思っていました。
ところが、3年前の3月11日に福島の悲惨な事故があった。この時以来、自分なりに原発とはどういうものなのか、本を読んだり人に話を聞いて勉強してまいりました。そこで疑問を感じたんです。日本は本当は原発を造ってはいけない国なのではないか?と。
日本は核兵器の保有国ではありません。それに日本は国土が狭い。アメリカのカリフォルニア州程度です。その中に1億2000万人もの人がいる。しかも、他国に比べ、地震や津波など自然災害が圧倒的に多い。
原発は火力や水力といった他の発電方法に比べて、コストが一番高いということがわかってきました。単純に発電するだけなら安いかもしれないが、安全対策、事故が起きた際の賠償や廃炉にかかる費用や年月、作業員の確保を考えるとカネ喰い虫なんです。そして何より最終処分場の確保はいまだに出来ていません。しかも、これらの負担はいま生きている我々だけにかかるわけではない。50年、100年どころか、千年、万年という単位なんです。
ひと月程前だったか、NHKでアメリカ・バーモント州の原発を扱ったドキュメンタリーが放送されていました。住民が賛成派と反対派に分かれ、稼働を続けるか停止するかを争った。もちろん原発を認めれば補助金が出て、住民の生活が良くなる。日本と似たような状況です。そんな中、行われた州知事選挙は反対派の候補者が勝利。それに反発した賛成派が連邦裁判所に訴え、「原発の稼働に関する権限は州政府にはない」という判決が出た。
ところが、反対派ががっかりしているところ、思いがけない結果になったんです。それは……会社の名前を忘れちゃった。どうも最近物忘れが多くてね(笑)。ともかくその電力会社が記者会見で「原発から撤退する」と発表したんです。原発は住民対策や技術的な問題を考えると割に合わない。このまま推進していったら会社の経営は危なくなると。
日本でも経営者が賢明だったら、「原発は合理的ではないし、安全でもない。これから起こり得る事故を考えると、コストも安くない」と気付くはずです。ひとたび事故が起こったら取り返しがつかないんですから。
大体、原発の研究者とか技術者、電力会社の経営者、幹部たちはみんな学業成績優秀で頭脳明晰な、いわゆる「頭の良い」人たちです。でも、頭が良いはずなのに、判断力がない(笑)。洞察力もない。甘いっていうかね。国民に「税金をくれ、税金をくれ」ってよく言えると思う。
ああいう人たちは、国民の宝である税金をなんだと思っているのか。千年、万年にわたる税負担を負わせておいて、なおかつまだ原発を動かそうとしている。おかしいと言う私が「変人」なのかと問いたい。
いまCO2を削減する技術がどんどん進化しています。先日、清水建設の新本社に見学にいきました。このビルは省エネ技術がすごいんです。当初、CO2の削減目標を5割と立てた。それから1年経って、予想を超えて7割ものCO2排出を削減できた。いずれこういうビルが増えていくでしょう。日本にはこういった省エネ技術を実現できる技術力があるんです。
自動車だってそうですよ。トヨタ、ホンダもCO2を排出しない「燃料電池車」を実用化して販売しようとしている。かつては1台あたり1億円かかると言われていたが、今年売り出そうとしているのは700万円以下。日産は電気自動車で、寝ている間にコンセントで充電できる。各社、様々な努力を続けています。これから企業や家庭にどんどん普及していきますよ。
■人間は「変節」していい
いまだに原発をクリーンエネルギーだなんて言う人がいます。たしかに原子炉で燃料を燃やして、電気を発電するまではCO2を出さない。だが、原発施設内で動いている機械は石油を使っているからCO2を出している。ウソなんです。
原発は安全だと言われていますが、導入されてからたった60年の間にスリーマイル島、チェルノブイリ、そして福島と3回も大きな事故を起こしている。とてもじゃないけど、安全とは言えません。
私、自分なりに勉強して、こうしたことがわかったんですよ。無責任と言われるけど、人間の考えは変わっていいんです。ウソだった、過ちだったとわかって、そのまま何もしないでいいのか。総理はやめたんだけどね、黙ってりゃいいのか?と。そういう気持ちでこの前の都知事選は細川さんを応援したんです。選挙には敗れたんですが、多くの人が話を聞いてくれました。
政治が決めて原発を始めたんだから、廃止をするにしても政治が決めなきゃできないんですよ。小泉は対案を出さないから無責任だと言われる。しかし、原発問題は広くて深いんです。廃炉をするにしても、40年、50年は平気でかかってしまう。他にも廃炉のための技術者の確保・養成、原発をなくした場合に地域をどうやって発展させるのかなど問題は山積みです。だからこそ、こういう問題は政治が決め、国民の叡智を集めて、体制をつくるべきなんです。
いま原発はゼロなんですよ。昨年の9月以来、日本の原発は一基も動いていない。もうじき1年経ちます。「原発なしではやっていけない」と彼らは言うが、やっていけてるじゃないですか。
エネルギーの輸入が多くなったから赤字だ、と言われています。石油や石炭、天然ガスを輸入して、赤字が出ているのは国家の損失であると。しかし、食糧もほとんど輸入なのに、これを国家の損失なんて言った人がいるでしょうか。石油、石炭、天然ガスを輸入できるだけ、豊かになったんです。もう1年近く、原発ゼロでやっていけている。たとえ石油の価格が上がっても、それだけ代替エネルギーや省エネ技術の開発が進みますよ。
■国も変わっていいんです
専門家の間で、福島の事故を受けて、これから再稼働させる原発には世界で最も厳しい安全基準をつくらなければならない、と言われています。しかし、その基準が国民に示されていないのに、なぜ早く再稼働させようと準備を始めているのか。まったくわからない。
日本はいままでいろんな困難を乗り越えて、ピンチをうまくチャンスに変えてきたんです。人間は考えを変えることができますが、それは国もそうなんです。日本全体もこの200年あまりすごく考えを変えてきた。まず幕末は「開国はけしからん」という尊皇攘夷が幕府を倒した。それから明治政府になって、尊皇攘夷と言っていた人たちが政権を取った途端、すぐ開国した。
第二次世界大戦のときもそう。アメリカやイギリスは鬼畜生だと言われていた。英語は敵性言語だから使ってはいけないと言われていた。しかし、敗戦後、すぐアメリカと一緒にやっていこうということになった(笑)。変わったけれど、正しい方向に変えていたから良いんですよ。人間も国も変わります。その時々の変化をうまく捉えていった。
もう覚えている人は少なくなりましたが、いまから40年以上前は1ドル=360円でした。それが'71年に変動相場制になった。当時、輸出がメインの企業などから毎日為替が変わると商売がしにくくてたまらないと言われました。その頃は落選中ですから、よく覚えています(笑)。
落選中、選挙区でよく集会を開いていました。100人くらい来ているかなと会場に着いたら、4~5人しかいなかったということもよくありました。変動相場制の話をしましたね。1ドル=250円になったとき多くの企業は大変だ、と言っていた。1ドル=100円になったら、日本経済はもう壊滅だと言っている人は多かったんですよ。いまどうですか?1ドル=100円になっちゃった。それが妥当な相場だと言われている。困難な事態を日本はいつも克服してきた。
戦争も乗り越えました。猪瀬直樹さんの著書に『昭和16年夏の敗戦』という本があります。昭和16年にアメリカとの関係がきな臭くなって、4月に近衛内閣が総力戦研究所というシンクタンクをつくったんです。それで、各省からエリートを集めて、アメリカと戦った場合どうなるか?というシミュレーションをした。結果、日本は必ず負けると出ました。でも当時の陸軍大臣に机上の空論と却下された。そして12月に真珠湾攻撃を始めたんです。
当時、「満州撤退なんてとんでもない」「満州は日本の生命線だ」と言われていた。ところが、敗戦して満州も朝鮮も台湾も失った。でも発展できないどころじゃない。失ったけど、ここまで成長できたじゃないですか。ピンチをチャンスに変えることに成功したんです。
石油ショックも克服しました。'72年、私が衆議院に初当選した年です。'74年には2ドル前後の石油の値段が一挙に10ドル前後に跳ね上がった。当時、石油は90%以上輸入に頼っていましたから、やっていけないと言われていた。石油への依存度も70%を超えていた。狂乱物価が流行語になりました。
この前、石油に150ドルの値段がつきました。しかし、たいした混乱は起こらなかった。代替エネルギーの開発、省エネ技術が発展していたからです。石油への依存度は40%まで下げることができた。だから、これから原発の依存度もゼロにしていくことができます。太陽や風力や水力や地熱など様々なエネルギーが、日本にはふんだんにあります。まだ1~2%ですが、不可能ではない。
敗戦後、厚生(労働)省は日本を長生きできる国にしようという目標を立てた。そのために病院を建て医者を増やし、衛生環境を改善した。水もそうです。いまや水道水は飲めるのに、私もペットボトルの水ばかり飲むようになった(笑)。0・5ℓでどんなに安くても100円以上している。1ℓなら200円だ。いまガソリンは150~160円ですから、ガソリンより高いんです(笑)。水道水なら1ℓあたり1円もしないんですよ。考えてみれば良い国になったものだ。
いまは栄養が足りないから病気になるんじゃない。摂りすぎて病気になるんです。私が平成元年に厚生大臣になったとき、100歳以上が2000人を超え、そんなにいるのかと思ったことを覚えています。ところが、去年は5万4000人を超えました。24年経って、もう20倍だ。ごまんといるんです(笑)。
■まだ死ぬには早い(笑)
原発はクリーンで安全だと思っていたらそうではなかった。でも、いまや原発ゼロが国民のなかで多数派を占めるようになってきました。民主主義国家ですから、国民のことを考えている政府のもとでならば、(原発ゼロに)変えられる日が必ず来ると思っています。
実際、私は総理をやめて以来、のんびりやっていこうと思っていたんです。朝寝坊して、講演もしないで。ところが、あの都知事選で、毎日毎日、街頭に出ちゃって。人間の考えは変わるなと思っていましたよ。しかしね、原発ゼロ運動を進めてから、私は若返ったような気がします。もう古希を過ぎて、昔なら引っ込んでいろと言われますよ。いまでもたまに言われるけどね(笑)。
それがあの都知事選の演説中にふとクラーク博士の「少年よ、大志を抱け」という言葉が頭に浮かんだんです。大きな志は少年でも持つのが大事なんだけど、年をとっていてもいい。老人が大志を持ったっていいじゃないですか。原発ゼロで自然とともに生きるという大きな志、夢のある事業に少しでも力になれればと、今日もこうして喜んでやってきたわけです。
私のオヤジは病気で65歳で亡くなっています。だから65歳で死んでもいいやと思っていましたよ。でも70歳過ぎたら、まだ死ぬのは早いかなと思うようになりました(笑)。もう総理をやめたんだから、表に出る必要はありません。それが福島の事故があって、寒空の中、街頭演説に出るようになったんです。
人間の考えは変わる。自分の能力を社会のために役立てたいと思っております。
「週刊現代」2014年7月29日・8月2日合併号
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