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安富歩いわく ピンキリと云う二つの立場を設えた安倍晋三(世相を斬る あいば達也)
http://www.asyura2.com/14/senkyo169/msg/136.html
投稿者 笑坊 日時 2014 年 7 月 27 日 09:30:27: EaaOcpw/cGfrA
 

http://blog.goo.ne.jp/aibatatuya/e/f55b12267b86b01ca4783f475f17d87c
2014年07月27日

 以下の“安富歩”のインタビュー記事に物申すつもりはない。必ずしも、すべて同感とはいわないが、異なる視点で物事を見ることの大切さも教えてくれる。彼と、現役東大生のすれ違いが滑稽にさえ見える授業風景は、時折IWJで愉しむことがある。安富教授の講義内容は理解していても、その授業には同化せず、おのれ独りの知恵にしようと云う雰囲気が、東大生気質を観察するようで面白い。

 ところで、欧米各国が、嫌にガザ地区のイスラエル殺戮テロ国家の仲介に必死なフリをしている。充分に殺すだけ殺したから、これ以上は、国際世論上も拙いだろうから、矛をおさめたらどうか。今なら、人道的見地から停戦を受け入れる姿勢を見せることで、湧きあがりつつある「反イスラエル機運」を覆すことが出来る、等とでも思っているのだろうか。米国務長官ケリーやEUや英仏独伊が善人の真似ごとに興じている。殺させるだけ、殺しておいて、仲介だとか、和平交渉だとか、そんな理屈が成り立つ世界自体が奇異だろう。生活のロジスティクスである、トンネルを全部破壊は、休戦中もOKなんて、キチガイ染みた仲裁案など、糞のようなものだ。

 最近筆者は陰謀論とは関係なく、イスラエルロビーと云う言葉は、ヤラセなのではないかと疑うに至っている。奴らは、覇権国アメリカのメッセンジャーであり、何を隠そう、アメリカがイスラエルを指導してるようにさえ思えてくる。たしかに、アメリカの指導層にユダヤ人が多いのは事実だが、彼らがシオニストだとしても、現在のイスラエルと云う国家と同質ではない感じも持っている。つまり、イスラエルは完全なアメリカの暴力装置であり、国際世論上、Wスタンダード過ぎるきらいのある事柄を、イスラエルに実行させているだけのように思えてきてる。モサドやイスラエル軍は、CIA、米軍の支店に過ぎない。そういう見方をしておく方が、より正解に近いと考えるに至っている。まあ、きな臭い話はこの辺にして、安富教授のモノの見方考え方をお愉しみあれ。


≪“立場主義”が日本を破滅させる 「魂の脱植民地化」の必要性を訴える安冨歩・東京大学教授に聞く

 【 東日本大震災と福島第一原子力発電所の事故をきっかけに、東京大学関係者を中心とする日本の専門家や権威には共通する欺瞞に満ちた話法=「東大話法」が あると指摘して注目を集めてきた東京大学教授の安冨歩氏。背景には、何にも増して「立場」を重視するという世界的にも特異な日本社会の在り方が大きく影響 してきたという。
 近著『ジャパン・イズ・バック 安倍政権に見る近代日本「立場主義」の矛盾』では、安倍晋三政権はもはや機能しなくなりつつある「立場主義」を何としても維持したい「立場ある人たち」のものでしかない、必要なのは安倍首相が繰り返し強調する「強い日本」ではなく、状況の変化に柔軟に対応できるしなやかさを持った社会の形成だと強調する。
 その安冨氏に安倍政権の本質と、今、日本社会が進むべき方向性とその考え方について聞いた。(聞き手は石黒千賀子) 】

――安倍晋三政権は昨年末、特定秘密保護法案を衆参両院で可決、この7月1日には、憲法の解釈変更による集団的自衛権行使容認も閣議決定しました。強引な手法から支持率はさすがに低下してきていますが、久方ぶりの長期政権となりそうです。

安冨:経済政策のアベノミクスも国家主義的動きも基本的には政策としては間違っています。しかし、高い支持率はこの間違った政策を国民が望んでいる、ということを意味します。国民はだまされているわけではありません。なぜそういうことになるのか。
 私の考えでは、多くの日本人は「立場主義者」であり、「立場」をなくせば生きていけない、と思い込んでいます。日本経済が行き詰まったのに伴って多くの 人の立場が失われつつある中で、安倍政権は人々の立場を無理矢理にでも作り出すという機能を果たしています。だから多くの人が自分の立場が守られるような気がして、支持している。

◆「立場」のない人にも「立場」与えた安倍政権

  まず、もともと固い「立場」を持っている既得権益者たちに対しては、財政赤字を拡大させてでも景気刺激策だの、医療費、年金といった形で彼らのパイを守るための資金を提供しているので、当然支持されますね。
 ただ、実際には既得権益者のパイを守るために資金を出しているのではありません。エリート官僚が自分の立場、つまり天下り後の何千万円という自分の年収を維持、確保するために、古賀茂明氏の言葉を借りれば彼らの「生活設計」のためにやっているのです。ただ、それに対して人々が文句を言わないように、財政が破綻しているというのに、既得権益者たちに小金をばらまき続けて黙らせている、というのが実態です。  
 一方、すべての立場から排除された人には、「日本人である」という「立場」を与えることで、パイを与えずして支持を獲得しています。ご存じのように、デ フレもあって20代、30代の年収は近年下がり続け、非正規雇用者比率は、2013年は36.2%と、バブル最中の1990年の20%から倍近くに増えています。そこそこの大学を出たり、能力を持っていても、ひとたび正社員のレールからはずれると、右肩下がりの経済と雇用不安から結婚や家族を持つこともままならない人が少なくありません。
 そんな人たちにとって唯一残された立場が「日本国籍」です。安倍さんが連呼する「強い日本を取り戻す」によって、彼らは自分たちの「日本人」という立場 が強いものになると感じ、惹かれるのでしょう。中国との対立を煽ることで、その立場の感覚はリアルなものになっています。もし徴兵制が始まれば、それこそ 本物の立場が得られるわけです。

――この2つのグループの人々が安倍政権を支持しており、両方を合わせれば日本国民の過半数を占める、ということでしょう。 通常、保守政権は体制派、既得権益層の支持を重視し、革新政権は左派、あるいは非体制派の声を代弁するものですが、双方の支持を掴んだという点ではイノベーティブな政権とも言える…。

安冨:そうですね。日本は敗戦へ の反省から、ナショナリズムを政権安定のためには使わない、という不文律があったように思います。それが変わったのです。いつからなのか。確かに小泉純一郎首相も靖国神社に参拝して一定の支持は得たと思いますが、それは高い支持率を背景にやったことで、ナショナリズムで支持を獲得した、とは感じませんでした。安倍首相の場合、明らかに風向きが変わって、右傾化することで支持を得ています。

◆安倍政権の支持構造はナチスに似ている

 安倍政権の支持構造は、この意味でナチスと似ています。ナチスは、第1次大戦の敗戦により背負った莫大な賠償金でドイツ経済が疲弊している時に、軍拡の ための積極的な産業政策を展開して資本家や産業界を取り込む一方、反ユダヤ主義を掲げることで何も持たない人に「アーリア人の誇り」というものを生み出し、支持を獲得していきました。

――そういうことを意識してやっているのでしょうか。

安冨:どうなんでしょうね。ヒトラーも安倍さんも無意識にやっていると思います。それがたまたまうまく当たった、という感じではないでしょうか。
 安倍さんも、自分の「立場」に完全にはまっている。ご存じのように安倍氏の母親は岸信介の長女。つまり、彼女は日本で初めて父親と息子が首相になった女性なわけで、安倍氏は基本的にその母親のコントロールの下にあると私は見ています。
 経済政策のアベノミクスは、「革新官僚」で「満洲国」の実力者だった岸信介の推進した満洲産業開発五カ年計画*ばりの資金のばらまきです。見てくればかりの空虚な計画に莫大な資金を無理矢理投入し、あたかも何か成果があったかのように振る舞う、という点で全く同じです。さらに、ナショナリステイックな政策は安倍氏にとって本丸。いわば岸家の家訓のようなもので、それに従ってやったら時代と呼応したということでしょう。

* 1933年に関東軍と満鉄調査部部員が満州国を建設するため、20の分野の産業について重点的に開発目標を定め総額26億円を投じるとした「満州産業開発5カ年計画」のこと。

 岸信介も、岸の実弟である佐藤栄作も、日本も核武装すれば米英に並ぶ超大国になれると真剣に考えていた、と思います。特に佐藤は首相時代、中国が核武装するなら日本もそうすべきだと考えていたことが、NHKのドキュメンタリーでも明らかになっています。結局、米国に反対され、アメリカのジョンソン大統領と会談して、自らの核武装を放棄する代わりに米国の「核の傘」によって防衛してもらうという確約を取り付けたうえで、非核三原則を打ち出してノーベル賞を貰ったわけですが、当時は外務省上層部にも核武装すれば超大国の仲間入りができるという発想があったようです。

◆脱原発をドイツができて日本ができない理由

 それどころか福島であれだけの原発事故を起こしても、いまだに日本の政府関係者の間では核武装しているか、いつでも核武装できる国が一流国家で、そういうことができない国は二流国だとわけの分からないランキングが支配しているのではないでしょうか。だから、原子力技術を放棄すれば、それは二流国家に転落することを意味すると思う。彼らが口に出すことは稀ですが、そのような古い枠組みを解体せずに思考しているのです。
 ちなみにドイツは、国が立派であるかどうかの基準は核武装とか核エネルギーとは何の関係もないということをちゃんと理解しています。だからこそ脱原発に明確に舵を切ることができたのです。
 恐ろしいのは、こうした日本の動きが、米国が今後採用すべき安全保障戦略として、最近よく話題になっている「オフショア・バランシング」と妙に合致しつつあるという点です。

――オフショア・バランシングとはどのような戦略を言うのでしょうか。

安冨:イギリスは18〜19世紀 に、安全保障戦略として、フランスとドイツなどの大陸諸国の対立関係を利用して、常にいずれかの弱い方を支援してバランスを維持することで漁夫の利を得て いたとする分析です。この戦略が破綻して第1次世界大勃発につながったということになります。
 米国では20年ほど前から、アジアにおいては日本を中国に対抗できる勢力にすべく核武装させ、常に状況を見ながらいずれかの弱い方に付くという戦略により、東アジアの安定を図るべきだ、と提唱する安全保障関係者がかなり出てきています。

――中国が激怒しそうな戦略ですね。

安冨:アメリカにとっては、それがちょうどいいわけです。中国の習近平国家主席はオバマ大統領に、「太平洋は十分に広いから米国と中国で半分に分けよう」と提案していますが、戦後ずっと太平洋すべてににらみを効かせてきた米国としては、中国に半分譲るのは嫌なわけです。ならば日本に核武装をさせて、アメリカの代わりに日本に西太平洋を管理させれば、アメリカは中国に対してカードが切れるようになる。日本が台頭しすぎれば「日本はやり過ぎだね」と中国側に寄り添えばいいし、中国が強くなりすぎれば日本側に付けばいい。

◆ラテンアメリカ系人口急増で内向きにならざるを得ない米国

 こうした案が浮上してくるのは、どんどん人口が膨張していく世界のすべてでアメリカが警察官の役割を続けるのはもう無理だという認識が米政府にあるからです。背景には莫大な財政赤字と米国の人口構成の変化があります。米国では、白人の次に多いのは今やラテンアメリカ系で、既に人口の15%を突破しています。黒人や白人は増えていないのに、ラテンアメリカ系は年齢構成も若く凄まじい勢いで増えている。大統領選挙のたびに人口構成比で1〜2%増えていて、 2050年には人口の半分を超えるとされています。 米国は早晩、白人の国ではなくなるということです。つまり、米国の政治家にとっては今後、ラテンアメリカ系の票をいかに獲得するかが選挙戦で勝つカギを握るようになるわけで、そのためには社会保障や学校教育の充実が求められていく。つまり、ますます財政支出を拡大せざるを得ない。アジア太平洋の防衛に資金をさく余裕は一層なくなり、政策面でも米国はどんどん内向きになって行かざるを得ないということです。「アジア重視」というアメリカの声明は、掛け声だけではないか、と私は疑っています。

――それが奇しくも、安倍氏をはじめとする日本でタカ派の安全保障政策を追求する人たちの立場と合致して、今の右傾化に拍車をかけている…と。

安富:日本における今の米軍基地は貸座敷というか、日本は米国の植民地みたいなものですが、安倍さんたちにしてみれば、集団的自衛権も行使できて、かつ日本が核武装できるとなれば、彼らのイメージする「立派な独立国」に近づくわけで、米国との関係ももっと対等な関係になる。これは自民党を中心とする保守層の長年の悲願だったわけです。
 こうした動きの背景に、米国の核の利権をベースとした軍事産業の動きというものも同時に強く感じています。ロッキード・マーティンといった軍事産業の巨大企業は米政府の軍事費が削減される中にあっても莫大な費用を投じて、米政府に対してロビー活動を展開しています。しかしそれに絶対的限界があるとすれば、日本などの東アジア諸国も核武装させてマーケットの対象にしたい、という思惑が働いても不思議はありません。
 日本の安全保障にかかわる政策ならば本来、国家を挙げて議論をすべきです。ところが、重大な問題であればあるほど、ごく一部の人間だけが情報を握って動かす。こういうことが世界中で近年、構造化されているように思います。ここでいう一部の人間というのは、いわゆるエリートです。

◆エリートにとっては「奥さんに怒られないこと」が重要

 そして特にエリートというのは、基本的には頭がどこか狂っていて、自分の立場のこと、自分の給料のこと、自分の奥さんが怒らないかどうか、といったことしか考えていないんじゃないか――こう考えるといろんなことが理解できるようになります。
 特に奥さんにいかに怒られないようにするかというのは日本のエリート男性には相当、当てはまる。例えば、何年か前に(2007年11月)、守屋武昌氏と いう防衛事務次官が収賄容疑で逮捕されましたね。あの時は配偶者の幸子氏も同じ収賄容疑で逮捕されました。公務員の収賄罪で配偶者まで逮捕するのは異例中の異例ですが、ゴルフの接待に同伴するだけでなく、確か単独でも接待を相当受けていたことを検察が重視、刑法の「身分なき共犯」に当たるとして逮捕に至ったと記憶しています。この事実は守屋氏が奥さんのためにどれだけ収賄していたかを表していると思います。 守屋氏は「防衛省の天皇」と呼ばれるほどの実力者でした。その「天皇」が奥さんの命令で汚職をしながら、防衛政策を決めていたわけです。奥さんに沢山貢ぎ物を持ってくるやつに都合のいいように日本の防衛政策が決まっていた、という事実の恐ろしさを我々は深く認識せねばなりません。
 嘆かわしいのは、こんな事態を招いているのは何も守屋氏一人ではないことです。90年代後半(1996年)にやはり収賄罪で逮捕された厚生事務次官(岡光序治氏)も、確か奥さんが贈賄側に自宅キッチンのリフォームまで要求していたことで当時、話題を集めたものです。彼らは例外ではなく、やり過ぎただけなのです。
 ことほど左様に国家政策など、ごく一部の役人(というか、その奥さん)の都合によって決められているというのが実態ではないでしょうか。古賀茂明氏が、電力政策は経産省の役人の生活設計のために行われている、と言っておられたのは、単なる事実だと思います。

◆日本のガラパゴス化も夫婦関係が原因

 こんなこと言うと、「またそんな〜」と思われるかもしれませんが、日本が「ガラパゴス化」している、というのも、この夫婦関係が原因なんです。

――ええっ?!どういうことですか?

安冨:大企業の決定権を握る連中はエリート男性です。守屋氏の小型みたいなもの。そこには、やはり、幸子氏の小型がくっついているわけです。こういう夫婦関係を大阪大学の深尾葉子准教授は「タガメ女/カエル男」と命名しました。そういうカエル男は、組織の意思決定をする際に、組織の将来のことなんか考えません。タガメ女のご機嫌を伺いつつ、意思決定するのです。つまり、自分が将来に貰う給料と年金のことしか考えません。
 それはつまり、自分の立場を守る、ということです。自分の立場を守るためには、構造的変化はよくありません。会社内で誰かが全く新しいイノベーションを起こしてしまったら、たとえ会社にとっては良いことでも、自分の相対的地位が下がってしまうのは困ります。
 そういう連中が往々にしてやるのは、(1)部下のイノベーションを邪魔する、(2)もしイノベーションが成功してしまったら、その部下を追い出して、成果を横取りする、です。(1)の場合、イノベーションは起きません。(2)の場合はイノベーションは単発で終わって続きません。日本中の大企業でこういうことが起きているので、国内企業でイノベーションは起きません。そうなると、日本市場を海外市場から切り離してブロックしてしまう以外に、利益を出す方法 はないわけです。
 そんなことしたら、短期的には利益が出ても、長期的には「iPhone」の例のように良い商品は必ず海外から侵入してくるのだから、不合理だろう、と思うかもしれませんが、カエル男にとっては関係ありません。自分が権力を握っている数年間が問題なのであって、そこを逃げ切ってしまえば、あとは退職金を貰って企業天下りをして子会社でブイブイ言わせ、また退職金を貰って年金生活に入れば勝ちです。逃げ切ることしか考えていないのです。 かくして日本はガラパゴス化するのです。立場を守りたい人間にとって、日本市場が国際化するのは非常に怖いことです。ガラパゴス化は、いわば立場主義者によるラッダイト運動です。熟練工によるラッダイトは、機械の導入という技術革新を阻止して生産過程を守ろうとするわけですが、立場主義者によるガラパゴス化は、いわばネットワーク化とボーダーレス化とを阻止して立場の生態系を守ろうという動きです。かくして立場は守られ、日本の競争力は失われていっ たということでしょう。

◆プラザ合意という転換する好機を逃した日本

――バブル崩壊以降、低迷を続けているわけですが、日本の転換点は一体どこにあったとご覧になりますか。

安冨:随分昔の話になりますが、プラザ合意で変わるべきだった、と私は考えています。あれは立場主義の成功によって発展した日本社会へのメッセージでした。カエル男たちが、立場を守るために命がけで役を果たし、タガメ女が銃後の守りを固めると、組織が機能してうまくいった時代がありました。それが60年代〜80年代の日本の繁栄をもたらしたのです。
 しかしコンピューターが本格的に生産過程に導入され、オートメーションが工場からオフィスまで押し寄せ、さらにマーケティングにまで広がるようになり、そういう生産集団は非生産的になったのです。特に、円高になってしまえば、そういったシャカリキになって働く集団は、全く意味がなくなりました。
 それゆえ、その段階で立場主義による製造業を放棄して、生産拠点をアジアへと積極的に移転させねばなりませんでした。ただ、それには戦後補償という問題を片付ける必要がありましたが、我々に戦時の愚行がもたらした悲劇に直面する勇気がなかったのです。
 生産拠点を海外に移転させた後には、日本が東アジアのイノベーションと金融のセンタ―となり、富裕層の観光地・隠棲地となるべきでした。それには大学に 在学する学生の半分くらいをアジアの留学生とし、彼らを大企業が採用し、日本社会に受け入れる必要がありました。しかし、四年制大学卒業の日本人男子学生がヨーイドンでスタートして出世競争をするという立場システムを、日本企業はいささかも変更しなかったので、そういうことは起きませんでした。
 東大の内輪向けの学生名簿に、女性には名前の後に(女)と書いてあり、外国人には(中国)とか国籍が書いてあったのを思い出します。日本人の男子学生だけが「正常」であり、それ以外はまるで「異常」だという認識が、21世紀になっても東大生の脳裏にしっかりと刻み込まれていたのです。これで国際競争力を維持するのは不可能です。
 また、地域社会も、外国人を受け入れる必要がありました。そうしなければ不動産を買ってくれる人がいないんですから。しかし、日本の町内会は、不動産価値が下がることよりも、ゴミ当番や掃除当番や自治会役員をしっかりできない「外人」がやってくることを憎悪しました。それでは立場の秩序が乱れるからです。
 かくして日本社会は、プラザ合意のメッセージを受け止め損ね、あの愚かで破壊的なバブルを引き起こしたのです。そのありあまった金でアメリカやヨーロッパの不動産や財宝を驚くべき高値で買い取り、後に、驚くべき安値で売り払ったのです。もしこのお金を、中国や東南アジアやインドに投資していれば、今頃、 一体、いくらになっていたでしょうか。

◆魂に傷を負ったことがすべての原因

――日本はなぜ発想の転換をできなかったのでしょうか。なぜここまでの事態に至っているのでしょうか。

安冨:それは、人々が子供時代に受けた魂の傷が原因だと私は考えています。

――た、魂、ですか? 安冨さんは名刺に研究分野として「魂の脱植民地化」と書かれていますね。

安冨:こういうことを言うと、オカルトだと思われるかもしれませんね。しかし、私はそれが根本問題だと考えています。子供時代に理不尽な扱いや暴力を受けると、人間の魂には深い傷が刻まれます。その傷は悪いことにその人の「性格」となり、隠蔽されてしまうのです。何か変なことをしても、性格だとか個性だったら、仕方ない、と思ってしまいますよね?でも、そうではないのです。
 さきほどの守屋氏にしたって、配偶者の幸子氏にしたって、あんな風にしようと思ってやっているのではなく、そういう風に「してしまう」のだと私は思って います。そしてそれは、彼らの魂につけられた傷を隠蔽しているからだと思うのです。傷を隠蔽すると、それに向き合って治癒する、ということができません。 だからものすごく痛い。その苦しみを誤魔化すために、何かの刺激が必要だったのだと思います。  どうして幸子氏は、毎週毎週、ゴルフに行かなければならなかったのか。そうしないと気が狂いそうだったのでしょう。だから止められない。自腹でやっていたら、公務員の安月給では破綻してしまう。守屋氏は山田洋行に何とかさせるしかなかった。彼は彼で、自分の魂の傷の痛みを何とかするために、権力を握り、それを振り回して他人を支配し、暴力を振るうという衝動を抑えられなかったのではないでしょうか。

◆まともな人間が権力を握れないのが今の社会

 そういう人々は、権力欲や上昇志向が強いので、そうでない人が我慢できないことを我慢できます。それが彼らの出世エネルギーです。そういうエネルギーの強い人が成功する社会では、まともな人間が権力を握ることはまずありません。
 そうすると、彼らはその権力を利用して、他人の魂を傷つけようとするのです。かくして社会が傷ついた魂によって満たされてしまうとうわけです。これで世の中がうまくいけば、私は驚きます。
 東小雪(ひがし・こゆき)さんという方が、最近、重要な本を出されました…。

――元タカラジェンヌの方ですね。

安冨:そうです。6月に著書『なかったことにしたくない』 を出版したわけですが、日本人で実父に自分が強姦されていたということを告白した初めての人ではないかと思います。でも日本にも実際、そうした人は何千人、何万人、あるいは何十万人、下手をすると何百万人という数できっといます。で、その人たちはみんな、受けた傷を隠蔽して暮らしている。彼女自身もそうでしたが、「それ」を忘却することで隠蔽して暮らしていた。ただ、魂に負った傷は消えていないので、何らかの形で暴力として表れる。 彼女の場合は、向精神薬をずっと飲んだり、リストカットなど何度も自殺も試みている。つまり、彼女の場合、自分を傷つけるという暴力だったわけですが、往々にしてそれは他人を傷つけるというところに出ます。  この点については、アリス・ミラー*という心理学者が30年ほど前に、児童虐待とその社会的悪影響について分析した著書『The Drama of the Gifted Child(邦題:才能ある子のドラマ)』が有名で、この本は心理学の古典とされており、今も欧米などでは非常に読まれています。

(* 1923年ポーランドに生まれ、46年スイスに移住、2010年に死去。元精神分析家で、臨床の豊富さとその質の高さ、著述の多さで世界的に有名な心理学者。『The Drama of the Gifted Child』は、初版から30周年を記念して、ドイツでは2007年、米国では2008年にハードカバーで出版されている。)

 東さんは、自分の過去を思い出し、告白するまでに長い年月が必要だったとのことです。それでも「『暴力』と『否認』はとても密接な関係にあると実感する ようになった」と書いているように、実態にふたをするのではなく、自分の体験を言葉にすることで、同じような生きづらさを抱える人に「生きる力」を取り戻してもらえたらとの願いからあの出版を決めたようです。私はその勇気に敬服しています。

◆中国の人々の怒りを日本に向けて爆発させたいのか

――人が傷を負うというのは、児童虐待だけではないですよね。戦争によって傷つく、戦争で大事な人、家族を失う、あるいは最近ならウクライナにおけるマレーシア航空機撃墜事件で突然、家族を失う。イスラエルのガザ侵攻ではたくさんの子供が殺されています。…様々 な悲劇によって傷を負う…

安冨:そうです。あの中国だってそうです。アヘン戦争、日中戦争、国共合作とそして内戦、そのあげくの果てにハチャメチャな経済政策で膨大な餓死者を出した大躍進に、人類史上にまれに見る暴力が吹き荒れた文化大革命…。あの文革は、いわば中国の国民全員がリンチに参加したようなものです。リンチに参加しなかったら、リンチされるという事態です。全国民にそんなことを強いたらどうなるか。こうした長年にわたり負ってきた精神的傷というものに中国は今も全部ふたをしたままです。

――どこかで爆発せざるを得ない…

安冨:だから日本が変なことをすれば、日本に向けて爆発してくる。確かに中国政府がそう仕向けているところもあると思います。ただ、私は日本は自ら積極的に右傾化していくことで、中国の人たちがこんなに負ってきた傷を日本への怒りとして爆発させたいのか、と聞きたい。
 それよりどうしたら中国の人も、日本人も、自分たちの負ってきた傷を少しでも治癒できる方向に進むことができるのかを、共に考えることが必要ではないでしょうか。まず日本人が人を癒やせるようになるまで自分を癒やさないとだめで、それによって中国人が魂に負った傷を何とかしない限り、世界は崩壊します。 間違いなく。
 とにかく、1人の人間が変わると、それは5人なり10人なりに影響します。5人なり10人に影響すれば、さらに5人なり10人に影響していくわけだから、そうした連鎖が5回くらい起きたら社会は変わっていく。私はそう思っています。

◆私が女性の服を着るようになったのは…

――おっしゃることはよく分かりますが、残念ながら今の日本から「変わりそう」という印象は受けません。いわんや「日本人が癒やされる」までというほど、もはや時間がないのでは、と感じてしまいます。そして、それ以上に気になるのはこのインタビュー記事に対する読者の反応です。安全保障や日中関係については、一部の読者、特にネトウヨと思われる方々が強烈に反応してきます。特に本日の安冨さん、前回、この欄に登場して下さった時とは見た目も少々異なりますし…。

安冨:おっしゃること、よく分かります(笑)。まず、自分のことから説明しましょう。
 私は身体的には男性で、しかも性的対象は女性限定です。しかし、もしかしたら、性認識は自分のことを女性だと思っているのではないか、ということに1年ほど前に気づいたんです。東小雪さんが本に書いていますが、性別を考えるには3つの物差しがあるそうです。生まれた時に医師が判断する身体的な性と、自分のことを男と思っているか、女と思っているかという性認識と、そして女性を好きになるか男性を好きになるかという性的指向の3つです。これらはしかも明確に二分されるのではなく、グラデーションを持って分布しています。
 私はいわゆるストレートですが、何か内面的には女性であると…。50年間も気づかなかったのですが、気づいた。なぜ気づくに至ったかというと、1年前に やったある健康法によるダイエットがきっかけでした。それで体重が10キロ以上減った。それだけ痩せると、それまでの服がすべて着られなくなりました。 で、新しい服を買いに行くわけですが、体に合うズボンがない。太腿と腰が太い割に、自分で言うのもなんですが、ウエストが細くて、どうも合わない。そこで パートナーの彼女に勧められて、女物のズボンをはいたらぴったりだった。驚いたのは、体に合うだけでなく、それまでにない異様な安心感を覚えたんです。
 最初は体にフィットした服のせいかと思っていたのですが、しばらく考えるとそれだけではないな、と感じるところがあって、ほかにもいろいろ女性の服を着てみたらますます自分の心が安定していく、ということが分かったのです。

◆不満や怒りが表出することは社会にとって大事

――東大ではその装いで授業をしていらっしゃる?

安冨:はい。昨年秋にやった授業のビデオがネットで見られますが、そこでは女物の服を着て化粧しています。今後も当然、この格好でやります。ちなみに教授会はこうした格好で行っています。
 最初は人前に出る時は、あまり人を驚かさないようにしていたんですが、だんだんそれが自分にとってストレスになって、コミュニケーションに出てしまう。 つまり、敵対的になったりして、悪影響が大きいことに徐々に気づいたので、こうした服装にしたいと感じた日には素直に着ることにしたわけです。
 自分が『東大話法』といった攻撃的な本を書いたりしていた理由も無意識にこうしたストレスを感じてきたからではないかと気づきました。そのせいか最近はこうした格好をしていると、エリートたちの実態を責め立てるようなことも言う気もなくなってきました。

――失礼ですが、そうした服装にされていて攻撃されたりしたことはないですか。

安冨氏:ないですね。三橋順子さんという歴史学者で有名な女装家がおられますが、彼女が書いているように、日本は男性で女性でもあるような「双性」の人に寛容な社会なのです。攻撃と言えば、このインタビュー記事に対して読者が強烈に反応するかもしれない、という点、ウエルカムですよ。
 不満、怒りが「出る」というのは非常に大事なことなんです。日本が右傾化しているかどうかということではなく、これまではそうした不満が表に出てくることはあまりなかった。基本的に最も虐げられている人たちの力はすごい。この「虐げられている」というのは経済的な意味というより、精神に傷を負った人たちのことで、そういう人たちの傷というものの力はすごい。そういう傷がいわゆるファシズムや差別や戦争といった集団的暴力を生み出すからです。傷というのは、隠されていればいるほど力が強くなる。だから例えば、この記事に反応することで怒り、不満が露呈する方がおられるとすれば、それは大変ありがたいことだと私は考えています。

◆怒りの表出の仕方は時代によって異なる

――品のない表現ですが、「ガス抜き」になるということでしょうか。

安冨:というより、傷が存在する ことが明らかになることが大事だという意味です。ああいう人たちが、リベラリストの仮面をかぶる方が怖い。「こんな風に反応をする人がいるんだ。日本は一体どうなるのだろう」とみんなが感じることが大事なんです。みんながリベラリストの仮面をかぶって、ちゃんと振る舞っていたら、何も心配する必要はない、ということになる。そうなる方が危険です。
 それぞれの魂が負っている傷が吹き出す「表出の仕方」というのは、時代によって異なります。1970年代の連合赤軍みたいなのもあれば、労働争議、あるいは最近増えている若者によるホームレスの人たちに対する暴力沙汰など、様々に形を変えて出る。大事なのはその表出した現象に対応するのではなくて、その根本にある原因を考えることです。
 だから、今の時代も、いろんな痛み、悲しみ、苦しみ、怒り、憎しみが、社会のすべての側面で、個々の家庭の中でもうごめいているという、つらい事実をま ず認識する。その上でどうしたらいいのかと考えることがまず第一歩です。そのために言論の自由が保障されているわけですから。  ≫(日経ビジネス:マネージメント:キーパーソンに聞く・安富歩)


 

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コメント
 
01. 北の零年 2014年7月27日 11:56:55 : pi7eKAjFENWsU : O5KRxcOhdg

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