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田原総一朗「滋賀県知事選の逆転を生んだ安倍首相の『国民軽視』」〈週刊朝日〉
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20140723-00000009-sasahi-pol
週刊朝日 2014年8月1日号
まさかの逆転が起きた滋賀県知事選。支持していた前知事の嘉田由紀子氏の指名も大きな勝因のひとつだが、集団自衛権問題で国民の説得を怠った安倍政権にも問題があると、ジャーナリストの田原総一朗氏は指摘する。
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7月13日に投開票が行われた滋賀県知事選挙で、嘉田由紀子知事の後継指名を受けた三日月大造氏が、自民党・公明党が推した小鑓隆史氏を破って当選した。
去年の7月に行われた参院選では、自公は滋賀県内の比例区票の約半分を獲得した。このため当初は小鑓氏が楽に勝つだろうと思われていたのだが、僅差ではあるが、三日月氏が逆転勝ちしたのである。
三日月氏を全面的に支持した嘉田氏は知事を2期務めていて、「卒原発」を訴え、県内ではがっちりと支持基盤を固めていた。嘉田氏の初陣のスローガンは「もったいない」。前任の国松善次元知事は、東海道線の草津のあたりに新幹線の駅をつくることをうたっていたのだが、嘉田氏は「もったいない」のスローガンで新駅の建設に反対したのだ。それだけでなく、計画されていたダムの建設中止など、「もったいない」の内実は「琵琶湖の環境を徹底して守ること」であった。
私の地元でもある滋賀県は近江商人を生んだ土地である。そして、近江商人の原理は、「三方よし」だ。お客さんにとってよし、つまり客に信頼されること。さらに、社会に信頼されること。そのことによって初めて、自分もよしとなる。自分は3番手で、できる限り質素に倹約して暮らす。この近江商人の原理に、「もったいない」の精神はぴったりとはまったのである。
そして、琵琶湖の環境を守ることが、「卒原発」を打ち出すことにつながった。滋賀県の隣の福井県には、全国最多の14基の原発があり、この原発がもし事故を起こせば、当然、滋賀県にも被害が及ぶ。だから、嘉田知事の「卒原発」は滋賀県の多くの県民に容易に受け入れられたのだ。
ところで、三日月氏は民主党の衆議院議員時代には、脱原発ではなかった。現に、民主党には脱原発議員もいるが、原発維持派議員もいる。そして三日月氏は嘉田氏の全面支持を得て知事選に出馬するために、民主党を離党して、「卒原発」をうたうことになった。しかし、6月の間は、小鑓氏が優勢であった。三日月氏の追い上げが勢いづいたのは、7月1日に安倍政権が集団的自衛権の行使容認を閣議決定した以後である。
閣議決定の後、いくつもの新聞の世論調査で、安倍内閣の支持率は4ないし5%落ちている。もちろん、集団的自衛権の行使容認には反対論が根強い。安倍首相は集団的自衛権の行使によって戦争に対する抑止力が高まる、つまり日本が戦争に巻き込まれる危険性が少なくなると強調しているのだが、少なからぬ国民は、逆に戦争に巻き込まれる危険性が高くなるととらえているのである。
こうした反応が生じる背景には、国民の多くが、集団的自衛権がどういうものなのかわかっていない、理解できていないという問題がある。安倍首相はなぜか行使容認の閣議決定を急ぎ、公明党を説得することに全力を挙げた。その半面、野党との国会審議には時間を割かなかった。言ってみれば、国民の理解を求めるためには、十分な時間を割かなかったのである。
理解できないゆえの不安と、国民に理解を求める努力を怠った安倍政権への不満が、滋賀県知事選で三日月候補への票数を増やすことになったのだろう。そしてもう一つ、元来、集団的自衛権に反対の創価学会票が、小鑓氏に思惑ほど集まらなかったのではないだろうか。
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