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四年前を思い出させる現下の軍事的緊張
http://bylines.news.yahoo.co.jp/tanakayoshitsugu/20140720-00037565/
2014年7月20日 23時27分 田中 良紹 | ジャーナリスト
ウクライナでマレーシア航空の旅客機が撃墜される一方、中東ではイスラエルがガザに侵攻して世界に軍事的緊張が走っている。これを見て私は韓国哨戒艇の沈没とイスラエルのガザ支援船襲撃事件が相次いで起きた2010年を思い出す。
それより前にアメリカ合衆国大統領に就任したバラク・オバマは09年4月にチェコのプラハで「核廃絶」を訴え、6月にはエジプトのカイロでイスラム社会との「和解」を訴えた。
プラハは東西冷戦を象徴する場所である。オバマは冷戦構造からの脱却を深化させ、核安保サミットを招集して米ソ核軍縮の枠内に中国を組み込む姿勢を見せた。またイスラム社会との和解は選挙公約であるイラク、アフガンからの米軍撤退を確実にするためのものである。
これらの動きは「テロとの戦い」を叫び世界を軍事力で一極支配しようとしたアメリカが、国際協調と平和外交の姿勢に転換する可能性をうかがわせた。しかし私は事はそれほど簡単ではないと考えていた。アイゼンハワー大統領が退任演説で語ったように、大統領がどう思おうが軍産複合体の力を侮る事はできないからである。
冷戦後のアメリカ大統領が歴史に名を残す偉業と考えるテーマは二つある。一つは地球上に残された唯一の冷戦の遺物、朝鮮半島の分断を解消する事、もう一つは中東和平の実現である。
クリントン大統領はほんの一瞬、朝鮮半島の分断解消を考え、北朝鮮を国際社会に組み込むコストを日本に支払わせる計画をした。しかし分断のままにした方がそれ以上の利益を得られると計算され、結局クリントンは中東和平の方に力を入れた。
アジアの冷戦は終わっていないとの理由で、アメリカは10万の兵力をアジアに常駐させ、役割を終えたはずの日米安保条約を再定義して日本にこれまで以上の負担を負わせ、アジアをアメリカの思い通りに管理する方針を採用した。
一方で世界の冷戦は終わっているので米軍再編は世界規模で行う必要がある。その一環としてアメリカは沖縄の海兵隊をグアムに移転させる事にした。問題はその費用である。アメリカは米軍が国内に移転する費用を日本国民の負担にしようとする。
自民党政権時代にもこれは大問題であった。ところがオバマ大統領が就任し、それまでの外交方針が転換されそうになり、一方の日本も初の政権交代が実現して状況は様々に変化した。民主党の鳩山政権はオバマの政策転換に期待をかけたのだろうか、普天間基地の国外、県外移設を主張した。
それをアメリカから見ると対米自立の方針となる。アメリカは方針を撤回させるため朝鮮有事の危機を煽って日本を脅す事にした。アメリカのポチと言われた韓国の李明博政権がしきりに朝鮮有事を言い始め、さらには米軍幹部が「沖縄の海兵隊には北朝鮮の核探索の使命がある」と発言した。
当時私は「朝鮮戦争のためなら沖縄の海兵隊を韓国に配備すべし」とブログに書いたが、2010年の年明けは朝鮮戦争必至の情報が飛び交った。そうした中で3月末に韓国の哨戒艇が沈没し46人の生命が失われた。すぐに北朝鮮の関与が取りざたされ、しかし韓国国内にはアメリカの謀略説や韓国の機雷説が流れた。
鳩山総理が普天間問題で結論を出す事になっていた5月下旬、韓国、米国、英国、オーストラリア、スウェーデンの国際調査団は、北朝鮮潜水艦の魚雷攻撃によるという結論を出す。これに北朝鮮は強く反発し、ロシアや中国も同調せず、真相は今も不明である。
そして5月末にはトルコからガザに向かう支援船が突然イスラエル部隊の急襲を受け、活動家10人が死亡した。イランの核開発疑惑が注目されていた時期だけに、イスラエルがイラン攻撃にエスカレートする懸念が現実味を増した。1年前のオバマ演説による緊張緩和ムードは吹き飛び、鳩山総理は普天間問題の方針を全面撤回する醜態をさらした。
私はオバマの緊張緩和路線を喜ばない勢力の存在を感じないわけにはいかなかった。いつでも火を付けようと思えば火のつく地域が、冷戦構造が残る朝鮮半島であり、パレスチナ問題を抱える中東である。この二つで同時に火が付きそうになったのだから何かがあると考えざるを得ない。
私はオバマの選挙公約であるイラクからの米軍撤退も難しくなるのではないかと思った。すると7月に元ワシントン・ポストのボブ・ウッドワードが『オバマの戦争』という本を出版した。それを読むとオバマは軍とCIAの力関係を利用し、軍を撤退させるためにCIAの活動に比重を置いている事が分かる。
「テロとの戦い」をやめるわけではない事を示すために、軍は撤退させるがCIAの情報活動に力を入れる。それがウサマ・ビン・ラディンの暗殺につながった。かつてCIAを重用した大統領はケネディであり、ニクソンは徹底してCIAを嫌った。それがオバマの意識にあるのかもしれない。
ところが昨年、元CIA職員エドワード・スノーデンがNSA(国家安全保障局)の諜報活動の実態を暴露して世界を驚かせた。テロとの戦いを口実にアメリカ政府が各国要人や一般市民の通信記録まで違法に収集している事実が暴露された。始めたのはブッシュ政権だが、オバマは黙ってそれを引き継いだ。この暴露はCIAを活用してきたオバマの武器を無力化した。オバマは致命的な傷を負った。
そのスノーデンの亡命をロシアが受け入れた。ここにウクライナを巡る米ロの対立が容易ならざるものになった原因がある。これまで欧州はアメリカ寄りの姿勢を見せながらも裏ではアメリカと一線を画し、それがアメリカをイラつかせてきた。しかしオランダ発の航空機が撃墜され、欧州にはアメリカ寄りにならざるを得ない状況が生まれた。
この撃墜はどちらが発射したのか、誤射なのか、謀略なのか、おそらく真相は明らかにされない。そうした中で各国は知略を尽くして自己の生き残りをかける。09年の緊張緩和ムードが嘘のような複雑で謀略に満ちた戦争屋の時代が続いている。
そうした時にアメリカにひたすらすがりつきながら、一方で集団的自衛権を個別的自衛権のように言いつくろい、プーチン大統領との対話継続を主張し、足元を見られているのが明白なのに北朝鮮と交渉しようとする安倍外交に私は首をひねってしまう。これでは北朝鮮だけでなくすべての相手から足元を見られてしまう。
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