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【コラム 山口一臣】集団的自衛権に関する本当にコワい話
http://www.sakurafinancialnews.com/news/9999/20140718_2
【7月18日、さくらフィナンシャルニュース=東京】
●小児性と自己愛の強さ
さる7月14日、15日の両日、国会で集団的自衛権に関する集中審議が行われた。
コラムニストの矜恃として2回続けて同じテーマで書くことには躊躇があるが、あまりにひどい(ヤバイ?)内容だったので、続けて書くことをお許し願いたい。集団的自衛権ーーというより安倍晋三首相のリーダーとしての資質について、である。
2日間の答弁を聞いてつくづく感じたのは、この人の小児性と自己愛の強さだった。よく言われることだが、やはり子どもの頃から何不自由なく、甘やかされて育ったのだろう。自分と意見の違う人間とは正面切って対峙しないで、逃げまくる。面と向かって批判されることを極端に嫌う。そのくせ自分の主張だけは通そうとする。まるで、子どもだ。
この2日間は安倍サンにとっても絶好のプレゼンテーションの場だったはずだ。国会での議論を通じて、なぜいま集団的自衛権の行使が必要なのか、自衛隊は具体的にどのような動きをするのか、ひとつひとつを丁寧に、国民に説明をするチャンスだった。
自らの施政と決断に自信があるなら、何を聞かれても怖くないはずである。ところが、質問者の質問にはまともに応えず、前回コラムで指摘した、
■現行の憲法解釈の基本的考え方は変わらない。
■海外派兵は一般に許されないという従来の原則も変わらない。
■自衛隊がかつての湾岸戦争やイラク戦争での戦闘に参加するようなことはこれからも決してない。
■外国を守るために、日本が戦争に巻き込まれるという誤解があるが、ありえない。
という4点セットを、まるでテープレコーダーのように繰り返し語るだけだった。
生活の党から質問に立った村上史好議員からは、
「私が聞いてないことをおしゃべりになられても、充実した審議にならない」
と言われる始末。
同じく結の党の柿沢未途政調会長も審議後の会見でこんなふうに語っていたという。
「総理の答弁が意味不明だから、もう一回質問をする。また分からない答弁が返ってくる。しかも、長い。総理は集団的自衛権を行使したいのに、その言葉をなるべく使わないようにしている。閣議決定の時の記者会見の文章だけを頭に入れて、誰に対してもそれを引っ張り出して話すから応用がない。だから質問と噛み合わない。この繰り返しだ」
この「意味不明な答弁」ってヤバくないか?
野党の質問だけではない。安倍サンにとっては身内も身内、与党協議の座長として散々汗をかいてもらった自民党・高村正彦副総裁の、
「シーレーンの機雷掃海ができる場合とできない場合の具体例をご説明ください」
という質問に対しても、お得意のホルムズ海峡封鎖による日本経済への悪影響について延々と語り始め、結局、具体例についてはいっさい触れずじまい。
高村氏が「よくわかりました」と引き取り、議場の失笑を買った。
これまで終始一貫、安倍政権と寄り添ってきた“身内同然”のあの産経新聞でさえ、さすがに見るに見かねたのか、7月15日付の社説(主張)で〈集団的自衛権 首相は堂々と意義を語れ〉というタイトルのもと、〈国民にわかりやすい議論だったかといえば疑問が残る〉〈集団的自衛権がなぜ必要か、自衛隊はどんな行動をとるのか。それこそ国民が聞きたい点であるはずだ〉と書いたほどだ。
閣議決定後の安倍サンの記者会見を見て書いた前回のコラムで、私はこれを「国民を欺く詐術である」と指摘した。「詭弁だ」と書く新聞もあった。だが、この2日間の答弁を見て、どうも安倍サンを買いかぶり過ぎだったのではないかと思い始めている。
●テープレコーダーのような答弁
なぜなら、意図して質問者の質問をはぐらかしたり、国民を欺こうとするのはそれなりに知的な作業だからだ。しかし、安倍サンの答弁には応用がない。何を聞かれてもテープレコーダーのように同じ話を繰り返すだけ。「詐術」というより、本人の能力を超えた「限界」といった方がいいかもしれない。
でなければ、あれだけ支離滅裂で論理矛盾な言葉を語り続けることは無理だと思う。
国民を欺こうとしているのではなく、自らの意味不明な答弁を、「正しい」と本気で信じているのではないか。もし、そうだとしたらちょっと、いやかなりコワイ。
しかも、である。テレビではよくわからなかったが、朝日新聞(16日付)の報道によれば、野党議員の質問にまともに答えていないにもかかわらず、質問者に挑発的な言葉を浴びせ返したり、自席に戻ってからからヤジを飛ばすこともしばしばだったという。どんな精神構造をしているのか。
同紙はこんな解説を載せている。
〈「アイドル政治家症候群」などの著書がある臨床心理士の矢幡洋氏は、首相の答弁には質問者の弱点を突く「攻撃型」と、用意した文章を読み上げる「官僚型」があると指摘する。「いずれも首相の深い自己愛から生じているのではないか。目の前にいる質問者に負けたくない感情が強いように見える(後略)」〉
自己愛が強く目の前にいる質問者に負けたくない、というのはその通りだと思う。
私はこう分析している。冒頭でも書いたとおり(1)自分と意見の違う人間とは正面切って対峙しないで、逃げまくる、(2)面と向かって批判されることを極端に嫌う、(3)そのくせ自分の主張だけは通そうとするーーー姿勢の表れではないか。
安倍サンが本当にやりたいことは、安倍サンの著書『美しい国へ』(文春新書)を読めばよくわかる、と前回書いた。
日本の安全は日本独力で守ることはできず、日米同盟に頼るしかない。米国の国際社会への影響力や軍事力を考えると、日米同盟はベストの選択だ。その日米同盟を強化するためには、日本が攻撃を受けた時は米国に守ってもらうが、その逆、つまり米国が攻撃を受けた時に日本が出ていくことはできない、ということでいいとは思えない。日米同盟の双務性を高めるということは絆を強くするだけでなく、対等な関係を築くことにもなる。双務的な同盟関係の実現は、基地問題を含めて日本の発言力を高めることにもなるーーーというものだ。
安保法制懇のメンバーでもある外務省OBの岡崎久彦氏との共著書『この国を守る決意』(扶桑社)にもこう書かれている。
〈軍事同盟は血の同盟だ。アメリカの若者は血を流す。しかし、今の憲法解釈では、日本の自衛隊は血を流すことはない〉
要は、日米が対等な関係で同盟を結び平和を維持していくためには、自衛隊も血を流す覚悟が必要であると説いているのだ。
●お友達だったはずの公明党も・・
私はこの考えを頭から否定するものではない。議論の土台として十分に機能すると思っている。だが、安倍サンは正々堂々と議論することから逃げた。意見の違う人を説得したり、面と向かって批判されることが極端に嫌いだからだ。
安倍サンの最終目標は、日本の平和を守るために、憲法9条を改定して正式な軍隊を創設し、対等な日米軍事同盟を結ぶことだ。しかし、憲法改正に必要な国会議員の3分の2の賛成を得るには内外からのさまざまな批判を受けつつ、自分と意見の違う人たちを説得しなけばならない。そこでとりあえず「9条」には触れず改正要件を2分の1に緩和するため、まず「96条」を改定しようとした。だが、これについても予想外の批判が起きたために、またもや逃げた。でも、どうしてもやりたい。
そこで思いついたのが“身内”だけで決められる閣議決定による憲法解釈の変更だった。
ところが、“お友だち”だと思っていた公明党から強い批判が起きた。とくに山口那津男代表は厳しい姿勢を崩そうとしなかった。
同党の支持母体である創価学会も異例の反対意見を表明した。
でも、安倍サンはどうしてもやりたかった。そこで今度は、「集団的自衛権行使といっても限定的なもので、これはいわゆる解釈改憲ではありません」という屁理屈を持ち出した。それが、前出の4点セット筆頭の「現行の憲法解釈の基本的考え方は変わらない」である。またしても、正々堂々の議論から逃げたのだ。
一般に今回の閣議決定は「憲法解釈の変更により集団的自衛権の行使を認めたもの」と伝えられている。しかし、公明党の山口代表は閣議決定後の会見で「憲法上、いわゆる(一般的な)集団的自衛権の行使を認めるものではない」と述べた。
わけがわからない。
しかし、だからこそ山口代表は記者会見には十分な時間をかけ、記者から質問が出なくなるまで、質問に答え続けたという。安倍サンが4点セットを繰り返し、わずか25分で会見を切り上げたのとは対照的だ。
批判を極端に恐れる性格が、こんなところにも表われている。自らの施策と決意に揺るぎない自信があれば、記者の質問に何時間でも答えられるはずだが、それはしないし、できないようだ。
話は少し横道に逸れるが、私は911テロ直後、アフガニスタンの隣国パキスタンで取材をしたことがある。当時、米国は本当にアフガニスタンを攻撃するのか、その際、アフガニスタンのタリバン政権とも近かったパキスタンはどう出るのか、に注目が集まっていた。結論を言うと、パキスタン政府は米国に基地を貸し出し、米空軍がそこからアフガンのタリバン政権に対する空爆を始めた。
その直後、パキスタンのムシャラフ大統領(当時)の記者会見が開かれた。ムシャラフ大統領は、米軍によるタリバン攻撃の意義、パキスタン政府の立場を懇々と説明した。その後、質疑応答の時間になった。当然、空爆反対の立場からの質問も多く出た。外国人記者からは容赦ない質問が飛んだ。日本人の感覚からすると、一国の大統領に対して失礼ではないかという質問も少なくなかった。
だが、ムシャラフ大統領は嫌な顔ひとつせず、すべての質問に答えていた。時間が経ち、記者が一人去り二人去り、まばらになっても会見は終わらなかった。私も途中で退席したが、後で聞いた話では、それこそ記者の質問が出なくなるまで4時間以上もやっていたようだった。ムシャラフ大統領に対する評価はさまざまだが、一国のリーダーが重大な決断をするということは、こういうことなんだと深く心に刻んだものである。
翻って安倍サンは……なんて話をしても詮無いことはわかっている。しかし、これはどうだろう。
内閣総理大臣はいうまでもなく自衛隊の最高指揮官である。端的に言うと、自衛官の命を預かる存在である。当然、先の集中審議ではその点についての質問も繰り返された。
「(集団的自衛権行使によって)戦後初の戦死者を出すかもしれない」
「自衛隊員のリスクが高まることを認め、総理自らが国民の前で説明すべきではないか」
「自衛隊が戦闘に巻き込まれて、隊員が犠牲になることはないのか」など。
ところが、安倍サンはまた逃げた。
「めったにそういう判断はしないし、そうしなくていい状況をつくっていくことに、外交的に全力を尽くしていく」
「現に戦闘が行われているところではやらないわけだから、危険はないのは明確だ」
オイオイ、大丈夫か? 戦地へ赴く自衛隊の最高指揮官に、まったくその覚悟ができていない。げに恐ろしき話しである。【了】
やまぐち・かずおみ/ジャーナリスト
1961年東京生まれ。ゴルフダイジェスト社を経て89年に大手新聞社の出版部門へ中途入社。週刊誌の記者として9.11テロを、編集長として3.11大震災を経験する。週刊誌記者歴3誌合計27年。この間、東京地検から呼び出しを食らったり、総理大臣秘書から訴えられたり、夕刊紙に叩かれたりと、波瀾万丈の日々を送る。テレビやラジオのコメンテーターも。2011年4月にヤクザな週刊誌屋稼業から足を洗い、カタギの会社員になるハズだったが……。
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