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http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20140718-00032840-playboyz-pol
週プレNEWS 7月18日(金)6時0分配信
集団的自衛権の行使容認への反対意見として「徴兵制につながる」という声をよく聞く。しかし、今の日本で戦前のような国民に無理強いする形での徴兵が行なわれるとはどうにも考えられない……。では、海外ではどうなっているのか?
そもそも徴兵制は、軍事的な緊張状態が続いている国々を中心に、現在、約50ヵ国が採用している。それ以外の国々は、自らの意志で入隊を希望する人材を募る志願兵制だ。
兵役の義務は国によってさまざまだが、ほとんどの場合、18歳から20歳以上の成人男性がその対象。数ヵ月から数年間の軍隊生活を送り、平時は銃撃などの訓練、戦時は自国の職業軍人の後方支援業務が中心だが、国によっては紛争地帯に派兵されることもある。
しかし、近年では欧州を中心に徴兵制廃止の動きが急加速。ロシアや台湾でも志願兵制への移行が検討されている。
この理由を、軍事ジャーナリトの世良光弘(せらみつひろ)氏がこう説明する。
「兵器や通信機器が高性能なものとなり、多数の兵士を動員する総力戦が起こりにくくなった。また、それらの技術を扱う軍人の専門職化も進み、兵士は数よりも質が求められている。そのため、一般の若者を大量に集める徴兵制はもはや時代遅れで非効率と見なされるようになっているのです」
だが、世界的に主流になりつつある志願兵制にも問題は存在する。『すぐにわかる 集団的自衛権ってなに?』(七つ森書館)の著者のひとりで、名古屋大学准教授の飯島滋明(しげあき)氏がこう話す。
「志願兵制の場合、派兵先での戦死者の比率は地方出身の低所得者や、移民などのマイノリティに偏る傾向があり、アメリカはその典型。同国では貧しい家庭にいる学生に高校の段階から目をつけ、『軍隊に入れば衣食住を無償で提供し、大学の授業料もこちらで負担する。危険な地帯に行くこともない』などと誘惑し、入隊を促すリクルート活動が行なわれています。移民には市民権を餌(えさ)に勧誘する。イラク戦争開戦時には、そうやって入隊させた大勢の若者がその最前線に送り込まれました」
そのため、国民の平等性という観点から、人種も階層も関係なく一律に兵役を課す徴兵制のほうが望ましいとする考え方もある。
では、今も徴兵制を維持する国々の内側はどうなっているのか。まず、兵役拒否者に懲役刑を科す、厳格な韓国。満18歳の男性全員が19歳になるまでに徴兵検査を受け、合格すると30歳になるまでに約2年間の兵役を務めなければならない。
そんな韓国の徴兵制で今、深刻な問題が浮上している。『コリア・レポート』編集長の辺真一氏がこう話す。
「近頃の韓国の若者は豊かで自由な環境で育ったため、規律が厳しい軍隊生活に耐えられなくなっています。『できることなら早く大学に戻りたい』というのが彼らの本音。そんな士気の低い“新世代兵士”の存在が、軍全体の質を低下させています」(辺氏)
今年6月、38度線付近の軍施設で兵役中の若手兵士が銃を乱射する事件が発生。犯人は同僚5人を殺害して逃亡した挙句、山奥で自殺を図ったが未遂に終わった。
「そんな人物を入隊させたことも問題ですが、韓国軍はその兵士を追跡するために約4000人を動員し、ヘリまで出動させたのに、逮捕に50数時間もかかってしまった。兵器は立派だけど、それを扱う兵士の質が著しく低下しているという、韓国軍が抱える問題を象徴する事件でした」(辺氏)
次は、イスラエルの徴兵制。『兵役拒否』(青弓社)の著者で各国の徴兵制に詳しい、鹿児島国際大学教授の佐々木陽子氏がこう説明する。
「イスラエルでは周辺のアラブ諸国との戦闘状態が長く続いているため、現在も“国民皆兵”を謳(うた)い、厳格な徴兵制を敷いています。女性に兵役を義務づけている点が最大の特徴といえますね」
兵役期間も長期に及び、18歳になると男性には3年、女性には2年の兵役が課され、その後も男性だけは予備役として最長40歳まで、毎年30日前後の軍役につかなければならないという厳しさ。しかし、イスラエルの徴兵制はこんな副産物を生んでいる。
「高校卒業時の成績が上位数%の成績優秀者を対象に、競争率10倍程度の選抜試験が実施され、これをパスした人は軍の情報機関や軍事技術の開発部隊に配属されます。最初の2、3年の兵役と、その後の予備役で彼らは軍の最新兵器や通信機器に触れながら、サイバー攻撃などに関する最先端の軍事技術を習得、これを民間転用する形で除隊後にハイテク分野で起業する動きが盛んになっています。今やイスラエルのハイテク企業は世界で注目される存在になっていますが、その原動力になっているのが徴兵制なんです」(IT関係者)最後はスイスの事例を紹介しよう。同国では、男性は18歳から34歳まで、毎年約十数日間の兵役義務が課されている。
「昨年9月、スイスでは徴兵制撤廃の是非を問う国民投票が実施されました。地元の平和団体が『徴兵制に多大な金を費やすのは無駄だ』と主張し、署名を集めて実現させたのですが、スイス国民が出した答えは徴兵制廃止に『NO』。有権者の73%が徴兵制存続を支持したのです」(前出・飯島氏)
その背景には、スイス人の意外な国民性があるという。前出の世良氏がこう話す。
「スイス在住の知人宅に招かれたとき、床の間のようなスペースに実弾入りの軽機関銃が置いてありました。『スイスで一家に一丁(軽機関銃)は当たり前』とのこと。各地域に約1カ月分の水と食料を備蓄した地下シェルターが備えられているとも。スイス人には“自分のことは自分で守る”という自衛意識が根づいているのです」
他国間で戦争が起きても、どこの国にもくみしない“永世中立国”スイスならではといえよう。徴兵制廃止の流れにある欧州にあって、国民が徴兵制を支持しているのも、こうした背景があるためだ。
国によっても実態はさまざまだが、そこには時代背景とともに現実的な対応も求められる。徴兵制が「絶対にあり得ない話」ではなくなってきている我が国は、他国の実状から何を学べるのか……。
(取材/興山英雄)
■週刊プレイボーイ30号「心配する前に読む!徴兵制各国事情」より
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