http://www.asyura2.com/14/senkyo168/msg/593.html
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当該番組は、録画予約していたが、台風情報放送のためにオンエアされなかったという記憶があるが....
明け方4時過ぎの固い内容の番組だからほとんど視聴がないとはいえ、NHKが、「税金をまけて経済を成長させるというモデルは、もはや過去のもの」と信念をもって訴える井手慶応大学教授を使ったのはなかなかの英断である。
NHKが、学者を使ったかたちでも、政権の重要な政策に異を唱えるのは珍しい。
なかで使われているグラフは、最後のURLに移動して確認してください。
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視点・論点 「法人税減税をどう見るか」
2014年07月10日 (木)
慶應義塾大学教授 井手英策
安倍政権は、アベノミクスの第三の矢である「成長戦略」に、法人税の減税を盛り込みました。これからの数年間で、国と地方をあわせた法人税の実効税率を現在の34.6%から20%台に引き下げることが目標です。
減税のねらい、それは、企業の負担を軽くし、経済を活性化させることにあります。実際、日本は、法人税率がもっとも高い国のひとつです。また、アジア諸国への企業流出、産業の空洞化も進んでいます。政府が法人税を下げ、企業の海外流出を防ぎ、外国企業を日本に呼び込もうとすることは、当然の対応のようにも見えます。
しかし、私は、法人減税に対して三つの疑問を持っています。
ひとつめは、法人減税には、どの程度、効果があるのかという疑問です。今回の減税で企業は約2兆円の負担を軽減できます。これに対し、全体の人件費は170兆円です。アジアでは人件費が日本の一割、二割という国も多いですから、法人減税を行ってもなお、安い労働力を求めて、企業の海外流出は続くものと思われます。
別の観点から見てみましょう。この2兆円の利益は何に使われるのでしょうか。バブル崩壊後、日本では法人減税が何度も実施されました。ですが、それらは賃金や設備投資ではなく、企業の貯蓄である内部留保や、借金の返済に向かいました。減税が繰り返された一方で、私たちは「失われた10年」を経験しました。反対に、税率を下げなかった小泉政権期に戦後最長の好景気が実現しています。法人減税と成長の関係は必ずしも明確ではないのです。
法人税の大胆な引き下げで知られ、最近の議論でお手本とされているのがドイツです。確かにドイツではリーマン・ショックの後に法人税の減税を行い、いち早く、経済の再生に成功しました。ですが、日本と同じように、90年代以降、何度も法人税率を下げたにもかかわらず、経済の長期停滞に苦しみ、「欧州の病人」と呼ばれたのもドイツでした。
リーマン・ショック後のドイツ経済の再生の理由、それは、ユーロの下落に支えられた輸出の伸び、そして、2000年代に進んだ労働市場改革、グローバルな生産体制の構築といった努力の積み重ねにありました。法人減税がドイツを再生させたと見るのはやや単純な見方です。
次に、ふたつめの疑問です。日本企業の公的負担は本当に大きいのでしょうか?ここでグラフを見てみましょう。
※ URLで移動して確認してください
これは法人税収がGDPに占める割合を見たものです。確かに日本企業の負担は大きく見えます。
ですが、これにもうひとつの公的負担、社会保険料の事業主負担を加えてみましょう。すると企業の負担は先進国の平均並みに落ち着きます。
じつは、企業の公的な負担を測り、これを比較することは、簡単ではありません。例えば、法人税の税収を考える際、どこまでを法人と考えるかによって、この数値は大きく変動します。
ドイツでは、日本の法人税に含まれる合名会社、合資会社への課税を、個人所得税に分類しています。アメリカではS法人と呼ばれる法人からの税収を個人所得税とみなしています。これらを法人税の一部として計算すると、両国企業の税負担はだいぶ日本に近づきます。
企業がどの国に税を納めているかという問題もあります。アメリカ、ドイツ、イギリスなど、日本より海外への事業展開を進めている国では、外国政府に納税する額が大きくなります。その分、自国の税収が落ち、企業が少ない税負担しかしていないように見えるわけです。
あるいは、企業は税を消費者に押しつけているかもしれません。負担の転嫁と呼ばれる問題です。転嫁が大きいほど、企業の負担は小さくなりますが、それがどの程度なのかを正確に測定するのは至難の業です。要するに、実際の企業の負担は測定が難しく、正しい比較は容易ではないなか、企業負担の大きさばかりが先行して議論されているのが実態なのです。
最後の疑問は、税の公平性が実現されているか、という問題です。現在、法人税を払えない企業、いわゆる欠損企業は全体の七割を超えています。ですから、今回の減税は、法人税を払える、体力のある企業、つまり大企業への恩恵となるでしょう。
問題は続きます。今年の三月、復興のための特別法人税が、一年、前倒しで廃止されました。これに法人減税が加わるわけですが、復興のための特別所得税はあと20年以上続きます。また、低所得層に負担の大きい消費税は、8%、そして10%へと税率が引き上げられようとしています。こうした税のパッケージは公平でしょうか。政治的な勝者は明白なように見えます。
このような疑問の一方で、現在、政府の関心は、減税が生む税収の穴をどう埋めるかという点に集中しています。ただでさえ厳しい財政事情がいっそう悪化するのを恐れてのことです。
しかし減税のために増税を行うのはうまくありません。景気刺激のための減税が、景気を腰折れさせる増税とセットになるからです。また、税をめぐる勝者と敗者が明確ですから、負担を求められる人たちは将来の増税に反発するかもしれません。一部には、経済成長による増収が財源だという声もありますが、同じ理由で借金を累積させたのが90年代の日本です。
私たちは発想を変えなければなりません。経済界が減税を訴える理由、その一端は、行政サービスへの不満にあります。企業が高い法人税率を受け入れた時代は、道路、鉄道、港湾といった産業基盤の整備が企業の明確な利益となった時代でした。ところが整備が一巡した90年代以降、企業にとって、税は単なる負担と映るようになりました。
企業との合意形成のカギ、それは、労働者へ投資を行い、生産性を高めることです。実際、先進各国は、職業訓練の強化、保育や就学前教育、高等教育の充実など、長い目で見て労働者の質を高めるような政策を、経済政策の一部として、次々に打ち出しています。質の高い労働力は企業の受益そのものです。高い付加価値が生み出され、企業の国外流出が減り、同時に海外企業の流入も増える、そうアメリカやヨーロッパでは考えられているのです。
税金をまけて経済を成長させるというモデルは、もはや過去のものです。積極的に人間に投資し、その対価として企業に応分の負担を求め、税の公平性を強めながら成長を促していく、そういう新しいモデルへと切り替えていくことが求められています。
http://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/400/192663.html
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