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原稿を片手に演説する大江健三郎氏 =6月10日、渋谷公会堂
大江健三郎氏も登場 祝!「九条の会」10周年講演会 ”神学論”の奥にのぞく底力
http://www.zakzak.co.jp/society/domestic/news/20140623/dms1406230858001-n1.htm
2014.06.23 夕刊フジ
国境の長いトンネルを抜けるとお花畑であった。夜の底が白くなった−。ノーベル文学賞作家、大江健三郎氏も登壇した6月10日の「九条の会発足10周年講演会」。3時間近くに及んだ講演では、緊迫する国際情勢などどこ吹く風の“内向き”の話が続いたものの、さいごの30分で「九条の会」の底力が垣間見えた。その実力はとうてい無視できないものがある。今回も長い報告になるが、最後まで(あるいは最後の部分だけでも)お付き合いのほどを。(溝上健良)
■韓国からの熱いエール
ちょっと待て、「田母神戦争大学の白熱講義(下)」はどこへ行ったんだと思われた方へ。大人の事情で(多分)次週に掲載の予定なので、しばしお待ちを。待ちきれない方は『田母神戦争大学』(産経新聞出版)をお買い求めください。ぜひ。
講演会は渋谷での開催なので、渋谷駅東口にある行きつけの青汁スタンドで青汁を飲んでから出撃することにする。実に形容しがたい味の青汁だが、イモムシになった気分が味わえる、といえば理解していただけるだろうか。この青汁は“フード左翼”御用達かも(詳しくは『フード左翼とフード右翼』速水健朗著・朝日新書をごらんください)。「九条の会」の皆様にもお勧めしたい。
さて会場はNHK放送センターに隣接する渋谷公会堂。ここで大集会を開けばNHKとしては無視するわけにもいくまい。会場の選定もなかなか巧みである。そういえばこの周辺では脱原発など各種デモがよく行われるが、狙いはNHKでの放映なのだろうか、とも思わされる。
平日の夜にもかかわらず2000人強が詰めかけ満員御礼の盛況で、九条の会の動員力を思い知らされる。司会者の開会あいさつに続いて登壇したのは、韓国からこの集会のために来日したという金泳鎬(キム・ヨンホ)檀国大碩座教授。金大中政権では産業資源相を務めた経歴をもち、東大でも客員教授を務めたことがあるという日本通で「私の日本語のミステイクをエンジョイしてほしいと思います」と前置きした上で、それなりに正確な日本語で講演を進めていった。
金氏いわく「いま、東アジアは敵対的相互依存の悪循環のわなに陥っていると思います。(日本は)中国という敵をつくって、こちらの民族主義を高めて、それで政権の安定を目指す。中国は民衆の民主化の要求を抑えるために日本という敵をつくって、イデオロギーで民主化の動きを抑える。そうして敵対的相互依存の悪循環がエスカレートしていると思います」。そして韓国も含めてその悪循環からどう抜け出すか、と問題提起し「成熟しつつある(日中韓の)市民社会を結合させなければならない。アジア市民平和の会議を開くべきだと思います」と述べて盛大な拍手を浴びた。さらには「日本の平和憲法をさらに拡大して、アジア全体の平和憲法をつくるべきだと思います」と発言し、これまた拍手を集めていた。ああ満開のお花畑!
ちなみにせっかく韓国から来られたものの、金氏は韓国の憲法には一切、言及しなかった。残念。ここで少しだけ引用しておこう。「第5条(1)大韓民国は、国際平和の維持に努め、侵略的戦争を否認する。(2)国軍は、国家の安全保障および国土防衛の神聖な義務を遂行することを使命とし、その政治的中立性は遵守される」。金氏は韓国の憲法も日本にならって「国軍は、これを保持しない」とでも改正すべきだと主張するのだろうか。さらには韓国憲法では「国防の義務」もすべての国民に課しているが、どう考えておられるのだろう。
この日、会場では「日本の平和憲法を守る『九条の会』発足10周年の講演会に熱烈な連帯感と敬意を表します」とする韓国からの「連帯のメッセージ」なるものが、来場者に配布された。6月民主抗争継承事業会、韓国挺身隊問題対策協議会(挺対協)など10団体によるもので、メッセージの中に「われわれは朴槿恵政権の民主化逆行と朝鮮半島危機の醸成を糾弾します」との一節があったことから、おおよその政治的立場は読み取れる。メッセージでは「集団的自衛権の行使は、北朝鮮や中国などを相手として米軍との連合戦争に参加することが目的です」と決めつけており、「『九条の会』の努力は、再び繰り返すかもしれないアジアの不幸を防ぐための偉大な『平和の防波堤』であることが明らかになりつつあります」とエールを送っている。自称「韓国の民主化と平和運動の市民団体」はこうして九条の会を絶賛しているが、北朝鮮、さらには中国の当局者も陰ながら同様に、九条の会の活動に拍手を送っているのではないかと思わされる。
■レッドカード発言
続いて登壇したのは翻訳家の池田香代子氏。「世界がもし100人の村だったら」をまとめた著者としても知られ、今年初めの都知事選では宇都宮健児氏の応援に駆けつけ、細川護煕元首相を破って2位となった宇都宮氏の善戦に貢献している。それだけになかなか弁が立つ。
池田氏いわく「(日本国)憲法をつくったのは誰か。GHQがかんでいるそうですね。そのGHQが叩き台に使ったのは皆さんご存じのように、鈴木安蔵らの憲法研究会による憲法草案だった。鈴木安蔵がその際に参考にしたのが、植木枝盛が書いた明治時代の私擬憲法だった。さらにそれが国会にかけられて、いろんな政治家のアイデアが盛り込まれて今の憲法になっている。何よりも忘れてはならないのは、歴史がこの憲法の生みの親であるということなんです(拍手)」。
ずいぶんと鈴木安蔵や植木枝盛、憲法案を議論した帝国議会の審議を過大評価しているような気がしてならない。帝国議会での議論は両院あわせてたったの3カ月半、単純計算しても1条あたり1日のハイペースで審議されたわけだ。また日本国憲法の人権条項、特に家族条項の原案を作成したことで知られるベアテ・シロタ・ゴードン女史(『1945年のクリスマス 日本国憲法に「男女平等」を書いた女性の自伝』などの著書がある)が平成24年末に亡くなったときには九条の会でも大々的に取り上げられていたが、女史に限らずGHQの面々が日本国憲法の制定に決定的な役割を果たしていたことはもはや常識のはず。その点がずいぶん軽視されているなあ、というのが率直な感想だ。
そして池田氏は96条改正論に言及した。「『日本の憲法は変えにくいのでずっと改正されずに世界で一番古い憲法になってしまっていて、民意を反映しにくくなっている。他の国をみてごらんなさい。民意を反映してこんなに変えています』って(改憲派は)言うんですね。『あらそうかしら』と一瞬、思ってしまいそうですが、そんなことないんですよね。だいたい世界の国の8割くらいが、いろいろ細かいところは違うので一概にはいえませんが、日本と同じ3分の2の(国会議員の)賛成で国民投票にかけられるとか、そういうふうになっています。数カ国、もっと厳しい、4分の3とかいうところもある。数カ国、もっと緩い、2分の1といったところがある。大半はもう日本と同じなんですね」。ずいぶんサバを読んだアジ演説という気がしてくる。そもそも憲法改正のために国民投票が必要な国というのは少数派である。西修・駒沢大名誉教授によれば「先進国から成る経済協力開発機構(OECD)加盟34カ国の憲法改正条項を調べてみると、日本国憲法のように憲法改正を必ず国民投票に付さなければならないという規定を持つ国は、日本以外にわずか5カ国しかない」のが現実だ。日本国憲法の改正要件が世界標準かといえば、とうていそんなことはない。これは断言していい。
池田氏の話には続きがある。「憲法の変え方(改正条項)を変えた国があるかなあ、と思うと、あるんです。でもそれは、すべて変えやすい方から変えにくい方へ変えているんです。だから日本が憲法を変えやすく変えたら、これは世界初の快挙です(会場ざわめく)。やります? もう本当に流されないようにしないと、とんでもないことになってしまいます」。言い切った! これはレッドカード(一発退場)発言だといえる。うそを言うことはなりませぬ(「什の掟」)。会場には憲法研究者が何人もいたのだから、誰か後で訂正すればよかったのだが、それもなかった。しかし会場がざわめいたということは、誤りに気づいた人もある程度いたのだろうか。
この事実誤認を正すために、少しお隣の新聞社の力を借りることにする。読売新聞政治部著『基礎からわかる憲法改正論争』(中公新書ラクレ)にはこうある。「たとえば、デンマークは1953年の憲法改正で、国民投票の可決ラインを有権者総数の45%超から40%超に引き下げた。インドネシアでも2002年、国民協議会における憲法改正の可決ラインを『出席議員の3分の2』から『定数の過半数』に改めた」。アジ演説の罪は重い。
■「自衛隊は憲法違反」
ここで10分間の休憩が入った。昨今の国際情勢をふまえて、九条の会としてどう日本の安全を確保すべきと考えているのか、もう少しリアリティーのある話を聞きたいものだと思えてくる。そういえば先日、田原総一朗氏の「リアリティがない朝日新聞や毎日新聞、それでも存在意義があるこれだけの理由」との記事を紹介したが、これを受けてニュースサイト「J−CASTニュース」が「朝日新聞や毎日新聞、存在意義はあると思う?」との読者アンケートを実施していた。20日正午現在の結果をみると約5800人が回答しており、選択肢ごとでは「(存在意義は)ない。偏向しすぎで社会にとって有害」が最多の63%。以下「ある。言論には多様性が必要」が16%▽「ない。別になくても困らない」が14%▽「ある。産経よりも取材力がある」が5%−と続いている。新聞が読者にどうみられているかが垣間見える結果で興味深い。存在意義のある新聞であり続けられるよう筆者も微力を尽くすことを、改めてここに誓う。
閑話休題。元内閣法制局長官の阪田雅裕氏によるビデオメッセージの後、いよいよ大江健三郎氏が登壇した。1年ほど前に大江氏の講演を聞いたときには殺人的につまらなかったので今回も期待はしていなかったのだが意外や意外、大江氏の講演はそれなりに聴衆の笑いをとっていた。前回と何が違ったのだろうかと考えてみると、大江氏は今回、原稿を用意していた。なるほど原稿があれば一応の話はできるのか、と妙に納得させられる。
大江氏は「こういう大きな集まりではさまざまな専門の人たちと一緒ですから、私はいつも『小説を書いている大江です』と自己紹介してきました。ところが私は昨年の暮れに小説を書くことを締めくくりました。そこで『小説を書いている…』とはいえませんから、どういういい方(自己紹介)をしようかと気にかけていましたが、しかし今ここに来て、自分に得心できたのであります。それは『九条の会の大江です』(拍手)」と自己紹介した。
そして大江氏は10年前に評論家の加藤周一氏に誘われて「九条の会」呼びかけ人になった経緯を振り返り、加藤氏の文章を引用しながら話を進めていった。大江氏の話を聞いていると、集団的自衛権の行使容認には反対の立場だということはわかるものの、全体的に意図をつかみにくい講演だった。大江氏発言について知りたい方は6月11日付の朝日、毎日、東京新聞朝刊でどうぞ。
続いて憲法学者の奥平康弘・東大名誉教授の講演があったが、省略。この日、参加した呼びかけ人で最後に登場したのが、ノンフィクション作家の澤地久枝氏だった。「この憲法はいろんなことをいわれますけれど、私は一歩も退かないでこの憲法を守りたい、憲法の原点に戻りたいと思います」「集団的自衛権がどうのこうのといっていますけれど、そんな言葉が憲法のどこにあるんでしょうか」と、澤地氏の舌鋒は鋭い。
ここまでの論者が触れたがらなかった尖閣諸島をめぐる情勢に言及したのも澤地氏だった。「いま尖閣列島のあたりで、中国と日本とがつばぜり合いをしていますね。どっちか一方が先に1発の銃弾を撃つと、撃たれた方は応戦して撃ち返すわけですね。そういう武力的な小競り合いがあったときに、だから集団的自衛権だといって自衛隊をそこへ投入して、小さな火花で終わったはずのものから戦争に行こうとしている、それが今の安倍内閣の姿勢であると思います」。澤地氏以外の論者が中国の脅威どこ吹く風で話を進めていたことに比べれば、現実に向き合ったこの発言ははるかに誠実なものであるように感じられる。
澤地氏はさらに続けた。「あの人(安倍氏)は内閣総理大臣になったときに『わが内閣のうちに憲法を変える』とハッキリ言いました。それからそもそも自由民主党は党是に『憲法を変える』というものを持っているわけですね。でも、最近の自治体の選挙では投票率が30%もいっていないところがありましたね。ここでは自民党と公明党と、あと何か野党がくっついた候補が勝っていますけれど、70%以上の人が棄権している選挙に意味があるのかと私は思います。例えば投票率が50%を割った選挙は無効にする、といった決まりをもっと早くつくるべきでは…(盛大な拍手)」。投票率5割以下の選挙を無効とする、というのはひとつの考え方ではあると思う。ただ法律の改正でそれは可能だろうか、と考えてみると、制度実現のためには憲法改正が必要な気がしてくる。「九条の会」の方々は、そのための改憲は支持するのだろうか。
フィリピンで終戦を迎えた作家、大岡昇平氏の言葉を引用しつつ、澤地氏はこう主張した。「私はいま、日本は小さな国になりたい(なったらいい?)と思います。なぜ金もうけをしなければならないのか。なぜカネ、カネという国になってしまったのでしょうか。武器輸出三原則も非核三原則もなしにして、という政治になっているのは、経済界の人たちがもっともっと金もうけをしたいという欲望の、そのお先走りをしているからですね。日本はこれ以上、大きな国にならなくていいんです」
「5年くらい前に、中国の防衛費が日本を抜いて世界第2位になったという小さな記事を新聞でみました。つまりそれまで、日本はアメリカに次いで世界第2位の防衛費を持っていたんですね。でも私はいいとは思いませんが、中国が日本を乗り越えて、いずれはアメリカも乗り越えるかもしれないけれど、あの国が1949年に新しく中華人民共和国としてスタートした国として、いま『大きくなろう、大きくなろう』としている、その現れのひとつが軍備の強化ですね。そして(中国の行動は)挑発的な行為だと思いますけれど、いまこそ私たちは憲法を守る国として、『私たちは武力は全部、捨てようと思います。武力を使っての解決はしません』と言うべきときです(拍手)」
中国の軍事大国化、そして挑発的な行為をしっかり認めた上で、澤地氏は日本は小さな国を目指すべきで、憲法の文言に従って一切の武力を捨てるべきだと訴えている。ここで必要とされるのは「日本は小さな国になる」という国民の覚悟だ。その覚悟が広く共有されるのであれば、憲法9条も安泰だといえるだろう。澤地氏は最後にこう訴えた。
「私は自衛隊は憲法違反で、あんな人たちは災害救助隊に改組すればいいと思っています」。ここで微妙な拍手があった。直後に澤地氏が「ありがとうございました」と一礼して降壇すると、万雷の拍手が沸き起こった。自衛隊は憲法違反で解消すべきだ、という意見に対しては、会場の参加者が必ずしも賛成ではないことが示された一幕だった。自衛隊の存在を認め、当面は活用すべきだと考える人も会場には相当いることがうかがわれた。
自衛隊が違憲だと考える人も合憲だと考える人も「憲法9条を死守する」との1点で団結しているのである。九条の会のこの結束力の高さは特筆されるべきであろう。しかも各地や各職域団体などにつくられた九条の会はその数、7500にもなるという。改憲派にはとうていまねのできない芸当だ。
続いてこの日、出席できなかった呼びかけ人2人のメッセージが読み上げられたが、哲学者・梅原猛氏のメッセージを代読したのは渡辺治・一橋大名誉教授だった。あの演説の名手である渡辺氏をこの集会で温存していたとは! 九条の会にはまだまだ余力があることを見せつけられた思いがする。
閉会のあいさつに立った九条の会事務局長の小森陽一・東大教授は、講演に先立って開かれた呼びかけ人会議での合意事項を報告した。「第2次安倍晋三政権が進めている解釈改憲による集団的自衛権の行使容認という、憲法そのものを壊してしまおうとする暴走を止めて、そして押し返すために、いまこそ九条の会がその持てる力のすべてを出し尽くすときだ、ということが確認されました」「日本国憲法9条の解釈改憲も、明文改憲も許さないためのかつてない運動を、全国の九条の会が力を合わせて一斉に行っていく必要があることが確認されました」
「7500を超える全国の九条の会が一斉に立ち上がっていることが多くの人にわかるような工夫をしながら、同じときに皆が集まって行動していることが目に見えるような行動形態を、全国の九条の会の皆さんと相談しながら、秋に向けての行動提起をできるようにしていきたいと思います。1週間あるいは10日間、または1カ月間、全国で統一した行動ができるように工夫をしていきたいと思います」。7500もある九条の会が総力を挙げて行動するとなれば、これは大変なことが始まりそうだ。ともあれ憲法9条をめぐって今後、リアリティーのある議論が展開されることを期待したい。
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