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◇「首相によるクーデター」と警告
今、戦後民主主義体制下のシステム、理念、法体系が音を立てて崩れている。本書を一読しての率直な感想である。単に一内閣が政治改革を目ざしているのではない。
「歴代の自民党政権の憲法解釈を否定し、独自のトンデモ解釈を閣議決定する行為は立憲主義の否定であり、法治国家の放棄宣言に等しい。『首相によるクーデター』と呼ぶほかない」との著者の指摘は、まさに歴史的警告といっていいであろう。
本書は安倍晋三首相の言動を丹念に追いかけながら、その不安定さ、不気味さ、そして錯誤を挙証していく。もっとも象徴的だったのは2014年2月12日の衆院予算委員会での発言である。解釈変更だけで集団的自衛権の容認ができるのかと野党が内閣法制局次長に問うたのに、「最高の責任者は私」であり、選挙で審判を受けるのは内閣法制局長官ではないと答えた。
それを著者は「国会で憲法解釈を示すのは法制局長官ではなく、首相である私だ。自民党が選挙で勝てば、その憲法解釈は受け入れられたことになる」との発想だと理解する。まさにルイ14世の「朕(ちん)は国家なり」を彷彿(ほうふつ)させると見る。この種の現実をとり違えた発言がいかに多いか、69年の戦後史に対する真っ向からの挑戦である。
安倍首相は集団的自衛権の行使によって、日米の軍事上の「血の同盟」を画策しているのだが、しかしオバマ大統領を始めアメリカ首脳は、安倍首相自身がつくりだしている政治・軍事上の危機についてどこまで同調するかはわからない。著者の分析のようにオバマ大統領にも冷遇されている状態で、この首相は、この国を軍事主導体制にと企図しているのかもしれない。
自衛隊幹部が著者に語った「勇ましいことをいう政治家やマスコミは、シビリアンコントロールの自覚をしっかり持ってもらいたい」との言に、この国の歪(ひず)みを見る。
評・保阪正康(ノンフィクション作家)
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岩波新書・799円/はんだ・しげる 55年生まれ。東京新聞編集委員兼論説委員。『「戦地」派遣 変わる自衛隊』など。
http://www.asahi.com/articles/DA3S11203103.html
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