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今こそ法人減税
(上)老舗企業、祖国に戻る
「イギリスへ帰ろう」。出版業大手のインフォーマが5月下旬に開いた株主総会。英国への本社移転を問う議案に株主のほぼ全員が賛成した。
英、再び求心力
英国最古の週刊紙の発行元として知られるインフォーマ。実は2009年6月にスイスに本社を移していた。その理由は海外事業拡大に伴う二重課税の回避だ。創業300年近い老舗が逃げ出すほど、当時の英税制は競争力を失っていた。それからわずか5年。英国は再び求心力を取り戻しつつある。
英国最大のライバルは隣国のアイルランドだ。同国の法人実効税率12.5%は欧州屈指の低さ。「この税率はアイルランドのブランド」(ヌーナン財務相)。今でもアイルランドに税法上の本社を置く英国企業は多い。
危機感を覚えたキャメロン英首相は大胆な税制改革に乗り出した。「英国は再びビジネスにオープンな国になるというメッセージを送る」。10年に28%だった法人実効税率を14年には21%、15年には20%に下げる。特許収入の多い企業への税負担軽減など、これでもかと優遇措置を並べた。
その改革はインフォーマのような帰還組のほか海外企業の誘致という形でも結実しつつある。
「本社はロンドンになりそうだ」。5月上旬、自動車大手フィアット・クライスラー・オートモービルズのマルキオーネ最高経営責任者(CEO)は語った。統合後の新会社は、フィアットのトリノでもクライスラーのデトロイトでもなく、英国が勝ち取ったのだ。
翻って、法人実効税率35.64%(東京都)の日本。海外への本社移転はMBO(経営陣が参加する買収)に伴って07年にスイスにグループ本社を移したサンスターなど、ごく少数に限られる。
だが事業部門に目を凝らすと、日本離れはもはや珍しい光景とはいえなくなった。
5月、欧州重電大手の独シーメンスと製鉄機械事業を統合すると発表した三菱重工業。同社側が51%を出資して設立する合弁会社は来年1月、互いの生産拠点もない英国に設立される。統合で規模拡大を狙う両社にとって法人減税は英国を選ぶ理由の一つになった。
昨年、米アプライドマテリアルズとの経営統合を発表した東京エレクトロンも、親会社の設置先として英国を含む数カ国を検討した結果、税率の低さから「オランダが最適と判断した」(東哲郎会長兼社長)。
こうした流れは欧米のみならず日本企業が活路を求めるアジアでも広がる。シンガポールにはパナソニックや三菱商事、HOYAなど日本企業の部門移転が相次ぐ。日本の約半分、17%の法人実効税率は大きな魅力だ。
選ばれるために
もちろん移転先選びは情報の量や市場へのアクセス、物流の利便性など様々な競争条件を勘案したうえでの経営判断だ。なかでも法人税を含めた優遇税制が企業から選ばれるために有力な武器になることは間違いない。
ある大型M&A(合併・買収)で税務アドバイザーを務めた弁護士は「海外で作り海外で稼ぐ企業が増える以上、日本に残ってもらうには税率を引き下げるしかない」と話す。それがグローバル企業の活力を導くのか、引き下げ競争の消耗戦に陥るのか。行き着く先はまだ見えない。
◇
「日本経済が一変するとのメッセージを強力に打ち出す」。キャメロン首相に負けじと、成長戦略の切り札として安倍晋三首相が意欲をみせる法人税減税。Taxウオーズ最終回は、どう実現すれば日本経済の再生につながるのかを探る。
[日経新聞6月15日朝刊P.1]
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(中)偏る税負担、改革の時
「企業は税金を払って社会貢献するのが一番の使命だ。スタートラインに立てたことが素直にうれしい」。5月8日、東京都内で開いた決算発表会でトヨタ自動車の豊田章男社長は力を込めた。
トヨタは円安による輸出採算の好転や景気回復で2014年3月期の税引き前利益が倍増し、法人税の支払いを6年ぶりに再開した。08年のリーマン危機以降、法人税を払っていなかった。
「産業報国の実を挙ぐべし」を綱領に掲げるトヨタは、持続的に成長し税金を納めることを重視してきた。単体の納税額は法人税や地方税の法人事業税などを合わせて約5千億円。日本のなかでトップクラスだ。
税は企業の責任
日本経済新聞社が14年3月期の上場企業のうち単独決算で比較可能な828社(金融など除く)を集計したところ、納税額は2兆4500億円と前の期を5割上回った。
日本企業の多くはトヨタのように「税金を払うことが企業の責任」との意識が強い。欧米企業の過度な節税は国際問題にもなったが「日本の大手企業では聞いたことがない」(財務省主税局)。
しかし激しいグローバル競争で日本企業特有の意識は崩れつつある。海外投資家は「税金を払い過ぎていないか」と目を光らせ、税負担の低い企業を評価する。きちんと納税の義務を果たす企業を日本につなぎ留めるには、法人減税と同時に不公平な税制にメスを入れる改革が欠かせない。
法人税を払っている企業はわずか3割。5割超の米英より極端に低く一部の黒字企業に税負担が偏る。全体の1%に満たない資本金1億円超の大企業が法人税収の65%を支える。問題は7割を占める赤字法人の扱いだ。
「同族会社が家族従業員に給与を払って、極端な場合は法人所得をゼロにしている」。5月9日の政府税制調査会で一橋大学の田近栄治特任教授は、中小企業による節税策の一端を解説した。
わざと赤字を出し、法人税を逃れるような事態を防ぐため、政府税調では企業規模に応じて、赤字企業にも負担を求める外形標準課税を強化すべきだとの声がある。
政策目的に合わない行き過ぎた減税も問題だ。「多額の所得を得ている中小企業が適用を受けている事態は趣旨に沿わない」。会計検査院は09〜10年度、研究開発減税の割り増しなどで中小を優遇しすぎていると財務相らに意見書を出した。
検査院が中小1580社を調べたところ、92社が大企業の平均7億8000万円を上回る所得を得ながら減税を受けていた。資本金で区別する画一的な仕組みが問題だが、財務省や自民党税制調査会は中小に配慮して見直してこなかった。
課税範囲を拡大
法人税改革を議論してきた政府税制調査会は月内に「高収益をあげる企業の税負担を緩和し、広く薄く負担を求める」との報告をまとめる。税率引き下げと同時に課税対象となる企業の範囲を拡大するよう求める。
参考になるのはドイツだ。08年に法人税率を10%下げたが、課税範囲を拡大して減収分の8割以上を取り戻した。日本も減税で企業の活力を刺激して税収増を狙いながら不公平な税制をどう是正するかが課題となる。
「法人税改革は総論賛成、各論反対の世界」(政策研究大学院大学の大田弘子教授)。税の3原則「公平・中立・簡素」の一つ、公平を実現する道のりは険しい。
[日経新聞6月16日朝刊P.1]
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(下) 12年前の失敗に学ぶ
「あるべき税制とはどういうものか、予見を持たずに議論してもらう」。小泉純一郎首相(当時)の一言で始まった12年前の税制抜本改革。目玉の一つが法人税の実効税率引き下げだった。
外されたハシゴ
当時の実効税率は東京都で42.05%。経済協力開発機構(OECD)加盟国平均の31.4%より高く、日本の競争力を損ねていた。小泉首相は改革を前に自民党税制調査会の山中貞則最高顧問(当時)を自ら訪ねるほどの力の入れようで、引き下げは時間の問題ともみられたが――。
「経済界が途中で降りてしまった。ハシゴを外された感じだった」。経済財政相だった竹中平蔵慶大教授は本格的な税率下げが失敗に終わった舞台裏をこう振り返る。
政府・与党は代わりに研究開発や設備投資を促す1兆円超の政策減税を決めた。時限措置が中心で恒久的な税率下げより財務省の抵抗が小さい。経済界は確実に実現できる政策減税になびいた。
あれから12年。法人実効税率は民主党政権時代に1度下がったが、それでも35.64%と高止まりしている。OECD平均は24.11%。世界の背中はさらに遠のき、日本への投資が増えない。
「来年度から法人税の引き下げに着手する」。12年前の税制改革を官房副長官として見つめた安倍晋三首相。6月末にまとめる経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)の素案は数年で20%台に下げると明記した。
最大のハードルは財源だ。法人税率を1%下げると税収減は5千億円。欧州並みの20%台に下げるには最低でも2兆〜3兆円の財源が必要だ。財務省は政策減税の縮小などで課税対象を広げ、税率を下げても税収が減らない方法を思い描く。
経済界の腰はいまひとつ定まらない。榊原定征経団連会長は「(政策減税は)見直すものは見直す」と表明。だが何を見直すのかと問われると「非常に微妙な問題なので……」と言葉を濁した。減税賛成の企業も自らの税優遇廃止は嫌がる。
経団連には2つの試算がある。一つは法人減税の経済効果の試算。実効税率を10%下げれば国内総生産(GDP)は35兆円強膨らみ「引き下げから5年経てば4兆円以上の税収を取り戻せる」という楽観的な内容だ。
守りたい既得権
もう一つが減税財源の試算。減価償却制度の見直しで6千億円、外形標準課税など地方税改革で最大7千億円……。既存税制の見直しで2兆円を捻出できるとはじく。特定業界を優遇する「租税特別措置」は見直さないのが試算の大前提だ。
そこには既得権益を守ろうとする経団連の思惑がにじむ。全廃すれば法人税関連で1兆円の財源。むやみに切り込めば競争力を落とすリスクもあるが、経済界が腹をくくらなければ12年前と同じ袋小路に入り込む。
法人減税をきっかけに海外に逃げた企業が再び戻り始めた英国は、法人減税の一方で日本の消費税にあたる付加価値税率を20%に上げた。日本も法人減税をバネに成長力を高め、消費増税にも耐え抜ける強じんな経済をつくることが先決だ。
法人税以外に視野を広げる必要もある。各国は脱税や詐欺で取り損ねた税金を取り戻そうと懸命だ。日本も税金と社会保険料をまとめて集める「歳入庁」をつくれば徴収漏れが減る可能性がある。100兆円の歳出をどう抑えるかも課題だ。
12年前の失敗は、日本経済の停滞が長引く要因となった。アベノミクスで景気が上向いた今こそ、改革の先送りはもう許されない。
(おわり)
石川潤、植松正史、山田宏逸、黄田和宏、川瀬智浄、八十島綾平、福岡幸太郎が担当しました。
[日経新聞6月17日朝刊P.1]
- 経財相、経団連会長に協力要請:何かと思ったら、法人税減税:経団連は財源として租税特別措置などを廃止する動きにクギ あっしら 2014/6/19 02:54:06
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