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動く巨象GPIF 株価こそ政権の命綱 (ルポ迫真)[日経新聞]
2014/6/16 2:06
「成長のエンジンとするための具体策を打ち出していく」。5日、ベルギーのブリュッセルで開かれた主要7カ国首脳会議(G7サミット)。首相の安倍晋三(59)は議長役の英首相のキャメロン(47)から経済問題の最初の発言者に指名され、成長戦略を説明した。
安倍が具体策の柱としてあげたのは、自身が旗を振る法人実効税率の引き下げと、約130兆円の国民の年金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の改革だ。6月中にまとめる新しい成長戦略への自信をアピールした。
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サミットへの出発を控えた3日、安倍は首相官邸で厚生労働相の田村憲久(49)に年内を予定していたGPIFの基本構成の見直しを9〜10月に前倒しするよう指示した。
同日、GPIF運用委員長に就任して以来、市場の注目を集めていた早大教授の米沢康博(63)がインタビューで、日本株の比率を引き上げる意向を示したと伝えられ、日経平均株価は1万5000円台を回復した。「GPIFの話ってこんなに関心があるんだね」。安倍は周囲にこう漏らしている。
世界最大級の機関投資家であるGPIF。巨象が少し動いただけでも、周囲は大きく揺れ動く。
4月、資産運用業界に衝撃が走った。GPIFが日本株の運用委託を見直し、大半の国内運用会社との契約を解除。日本株運用にもかかわらず、外資系運用会社が10社と委託先の7割を占めることが決まったためだ。
「公的年金がこれほど思い切った選抜に踏み切るとは」。米ディメンショナル・ファンド・アドバイザーズの日本代表、ジョン・アルカイヤ(58)は採用されたことを喜びつつ、カタカナの社名が並ぶ委託先リストを見て目を丸くした。
公的年金の運用改革は実は2度目だ。最初は1995年。当時は年金福祉事業団だったGPIFが、信託銀行と生命保険会社に「お任せ」の運用を見直し、日本株や海外株に特化した投資顧問会社を初めて採用した。
当時を知るアルカイヤは、GPIFの「名付け親」でもある。2001年、米モルガン・スタンレー資産運用子会社の日本法人社長だったアルカイヤに政府関係者が英語名を相談。「分かりやすい名称がいい。ガバメント・ペンション・インベストメント・ファンドでどうか」と即答した。
「(国内勢中心の)ホームカントリーバイアスを断ち切り、世界で最も強い会社を選ぶようになった」。アルカイヤの目には今回の改革は真剣だと映る。
GPIFは初めから外資系優位を想定していたわけではない。13年4月に運用委託を公募すると、国内外の約60社が名乗りをあげ、約1年にわたる選考過程が始まった。運用部長の陣場隆(54)は当初「日本株運用だから国内勢が多くなる」と予想していた。
GPIFには譲れない一線がある。「唯一の使命は運用で国民の年金を増やすこと」。選考が進むにつれて、運用成績がぱっとしない国内勢は姿を消す。海外勢は「独自の運用スタイルを守り、日本株投資で優秀な成績をあげている」。シカゴ、テキサス、シンガポール……。世界の運用会社を訪問し、面談を繰り返した陣場は痛感した。
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「有識者会議で改善を求められている状況ではあるが、我々がさぼってきたわけではないことを理解いただきたい」。GPIFの運用戦略を練る調査室長の清水時彦(51)は14年4月、金融関連のセミナーで聴衆にこう訴えた。
政策研究大学院大教授の伊藤隆敏(63)が座長を務める公的年金改革の有識者会議は13年11月に報告書を公表。国債中心の運用の見直しを筆頭に改革案を提示した。株式運用では東証株価指数(TOPIX)のみだった運用指標(ベンチマーク)を多様化し、新しい指数の採用を求めた。
「運用効率を上げるにはTOPIX偏重を脱するしかない」。有識者会議の提言を待つまでもなく、GPIF内部では清水を中心に議論を重ねていた。13年7月に外部に調査を依頼。14年4月、資本効率に着目した「JPX日経インデックス400」を含む新指数に沿った運用を開始した。
内なる改革を上回る規模とスピードで、政治からの圧力が押し寄せる。株価を命綱とする安倍政権にとって、株式比率の引き上げを柱とするGPIF改革は成長戦略の目玉だ。しかし年金運用という本来の目的を外れ、目先の株価対策に使われるなら、将来に禍根を残すことになりかねない。(敬称略)
http://www.nikkei.com/article/DGXNASGD1204T_S4A610C1SHA000/?dg=1
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