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どんなに長く働いても、成果で賃金が決まる制度の導入が決まった。働き手にとっては、「残業代ゼロ」で長時間労働を強いられる恐れがある。残業代を企業に負担させるのは、働き過ぎを防ぐ「歯止め」だ。「年収1千万円以上」に対象を限定するといっても、「いったん制度が始まれば対象は拡大する」との不安が働き手に広がっている。▼3面参照
大手金融機関で働く30代の男性は、今の年収が1千万円弱。想定される新制度の対象にもうすぐ届く。「残業という概念がなくなれば、会社が労働時間の管理をしなくなり、過労死が増える」と心配する。
今春の異動を機に「裁量労働制」という働き方に切り替わった。残業代はあらかじめ賃金に含まれ、仕事の内容により労使で想定した労働時間を超えても追加の残業代は出ない。
今の働き方では最も新制度に近い。上司からは同意書を手渡され、その場でサインを求められた。「断るなんて選択肢はなかった」。新制度は本人同意を条件とする見通しだが、経営側と比べ、働き手の力関係は弱いのが現実だ。
4月の給与明細を見て驚いた。毎日、午前8時から午後10時過ぎまで働き、週末も出勤した。労働時間は前の職場よりも70時間も延びた。月300時間を超えたのに、手取りはほぼ横ばい。休日手当が数千円ついただけだったからだ。
新制度では、休日手当すらつかない。「上司の決裁がなければ仕事も進まず、裁量といっても自分で労働時間なんてコントロールできない。単なる残業代不払い制度だ」と感じている。
国税庁の統計では、年収1千万円を超える給与所得者は、管理職も含めて全体の3・8%。金融業界に勤める人は高年収者が多く、新制度の対象になる人が比較的多いとみられる。
会社側は「具体的には検討していない」(大手生保)、「検討するだけの材料がない」(大手銀行)というが、働き手にとって「働き過ぎにつながる」との心配は尽きない。
大手IT企業で「裁量労働制」により働くシステムエンジニア(SE)の30代男性も、新制度について「長時間労働に歯止めがなくなる」と話す。
毎日、帰宅は夜12時過ぎ。残業時間は月100時間を超すが、会社には残業時間を短めに申告する。システム構築などひとつのプロジェクトを抱えると、その費用に同僚の人件費も含まれる。このため、深夜手当や休日手当が多額になるほど、プロジェクトの採算が悪化するからだ。人事評価の低下にもつながり、解雇される社員もいる。
小さな子どもがいるため、早く帰宅したいが、顧客の注文に応えるために仕事は増える一方だ。「残業をないものとすれば、時間あたりの生産性は上がるだろうが、働き過ぎを防ぐ解決にはならない。人件費を抑えたい企業側に都合がいい制度だ」と話す。
■「いずれは年収低い人も」
時間がたつにつれ、制度の対象がより年収の低い働き手に広がる、との心配も根強い。労働者派遣法でも、派遣労働者に任せられる仕事の範囲がどんどん拡大してきたからだ。
かつてコンビニ店長として働いていた清水文美さん(34)は「対象が広がるのは目に見えている。働く人の権利が奪われブラック企業ばかりになる」と心配する。
2007年、入社後9カ月で店長を任された。「管理職だから」と残業代は出ず、37日連続勤務などの長時間労働で体調を崩し、うつ病に。管理職として実態がない「名ばかり管理職」だとして未払い残業代を求めて提訴。勝訴はしたが、裁判は3年余りかかった。
「残業代や有給休暇など労働者に当然の権利も、実際に要求するのは難しい。『残業代ゼロ』が合法になれば、さらに声を上げられなくなる」。清水さんは訴える。(高橋末菜、岡林佐和)
http://www.asahi.com/articles/DA3S11185140.html
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