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三匹のおっさん記者、東京地検特捜部を語る 第1回 なぜ、検察は猪瀬直樹を逮捕できないのか
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/38868
2014年06月01日(日) 週刊現代 :現代ビジネス
村串栄一(むらくしえいいち)
元東京新聞記者
'48年、静岡県生まれ。司法記者クラブキャップなどを歴任し、東京新聞編集委員に。現在はフリージャーナリストとして取材、執筆を行う。主な著書に『検察秘録』『がんと明け暮れ 記者が綴る10年の記録』などがある
村山治(むらやまおさむ)
朝日新聞記者
'50年、徳島県生まれ。毎日新聞の社会部記者を経て、'91年に朝日新聞に転じる。バブル崩壊以降の政界事件や大型経済事件の報道に関わる。主な著書に『特捜検察vs.金融権力』『検察 破綻した捜査モデル』などがある
小俣一平(おまたいつぺい)
元NHK記者
'52年、大分県生まれ。司法キャップ、社会部担当部長などを歴任し、現在、東京都市大学教授、出版社『弓立社』代表。「坂上遼」の筆名で、『ロッキード秘録 吉永祐介と四十七人の特捜検事たち』など
かつて「最強の捜査機関」と呼ばれた特捜部は、なぜ凋落してしまったのか。「栄光の時代」の検事を追っかけ、鎬を削った「伝説の司法記者」が取材秘話を明かしつつ、特捜検察の病巣を鋭く指摘する。
■今も続く田中角栄の呪縛
小俣 政界汚職や大型経済事件を摘発してきた東京地検特捜部は、設立以来のどん底にあると思います。
われわれ3人は特捜部の取材に長くかかわってきたわけですが、過去の特捜部の捜査を改めて見つめ直すことで、低迷の原因と特捜部再生の手がかりが見つかるかもしれませんね。
村山 いま、現職の法務省や検察の幹部らと、かつての特捜事件の話をすると、人によっては「そんな話をして、どんな意味があるんですか」って露骨に嫌な顔をするんですよね(苦笑)。
村串 いまと昔じゃ特捜部を取り巻く環境が違うんだから、昔話をしても仕方がないというわけでしょう。
村山 ええ。ひと昔前までは、贈収賄などを立件するための重要な武器として、検察が作成した供述調書に裁判所は大きな信頼を寄せていました。しかし、裁判所の供述調書に対する見方が厳しくなり、かつての「かち割って(関係者を自白させて)どこまでも進む」型の特捜捜査が難しくなっています。
小俣 特捜部に対する裁判所のスタンスが変化したのは事実ですが、なぜここまで低迷したのかという経緯を押さえておかないと、これからの展望も見えてこないと思うんです。そこで振り返ってみると、特捜部が停滞していたのはこれが初めてじゃないんですね。私が最初に検察担当になったのが'84年、ちょうど今から30年前ですが、当時も特捜部は低迷していました。
村山 村串さんも'84年で、私が検察担当になったのは'85年。3人ともほぼ同時期ですね。
村串 当時の特捜部は、'76年にロッキード事件※1を摘発してから、自民党最大派閥を抱えたままの田中角栄元総理を相手にした裁判で壮大な消耗戦を強いられていた。だから、とても他の大型事件を手がける余裕はなかった。
小俣 そこに危機感を持ったのが当時、東京地検特捜部の副部長だった石川達紘※2さん。「このままでは特捜部の足腰が弱る」ということで、小さな事件の掘り起こしをコツコツ始めた。それが撚糸工連、リクルート、東京佐川急便、金丸信氏の脱税、ゼネコン汚職、大蔵省接待汚職といった「特捜検察栄光の時代」に結びついていきました。
※1 米ロッキード社の航空機の売買をめぐる国際汚職事件。田中角栄元総理が、5億円の受託収賄の罪で起訴された
※2 '89年に東京地検特捜部長に就任。金丸信脱税事件、ゼネコン汚職でも捜査の指揮を執った。現在は弁護士
■小沢一郎に負けた特捜部
村山 '83年10月に一審実刑判決が下り、'85年2月に角栄氏が病気で倒れて当事者能力を失ったことで、ロッキード事件は事実上、勝負がついた。だから、政界捜査に乗り出すことが可能になった面もあります。ただ、「栄光の時代」といっても、供述調書に頼る捜査が抱える問題は当時から垣間見えていました。
それがようやく顕在化したのが、厚生労働省の局長だった村木厚子さんを逮捕した郵便不正事件※3でした。大阪地検特捜部の検事が村木さんの部下の供述を誘導したことが明らかになり、さらに証拠を改竄していたことまで発覚。その上、元民主党代表の小沢一郎氏をめぐる陸山会事件※4で、特捜検察の本丸・東京地検特捜部の検事が元秘書の供述と異なる捜査報告書を作ったことが明るみに出て、特捜検察はとどめを刺された。
小俣 特捜検察の黄金時代を間近で見ていた私たちにしてみれば、本当に今昔の感に堪えません。
だけど、権力者の周りに不可解なカネの流れがあったら、それを解明するのが特捜部の役割です。そういう意味では、徳洲会事件で猪瀬直樹・前東京都知事が徳洲会から5000万円の資金提供を受けていた疑惑を、贈収賄容疑で捜査しないのは国民が納得しませんよ。以前の検察だったらカネの流れを絶対に捜査していたと思うんですが。
村山 間違いなくやっていたでしょうね。副知事時代、東京電力に病院の売却を迫った猪瀬氏に都知事選出馬直前、徳洲会側から5000万円が渡り、その後、徳洲会は東電病院の入札に参加しようとしている。外形的事実は、徳洲会側が猪瀬氏に副知事として、あるいは近い将来の知事としての、なんらかの職務権限行使を期待して資金提供したことを疑わせる。
「かつての特捜なら、猪瀬氏以外の関係者の供述を固めて贈収賄での起訴を目指したでしょうね」と言う検察の幹部もいます。だけど、いまはもうそういう捜査手法が通じる時代ではなくなった。
村串 裁判員制度などの司法改革が始まった頃から、検察は変わってきました。一般市民が法廷に入ってきたことで、裁判官はそれまで仲良し≠セった検察と距離を置き始めた。
裁判自体も供述調書偏重主義から法廷での口頭主義へ変わってきたわけですよ。調書の中身を丁寧に吟味して判断をするようになってきました。
村山 贈収賄は、金品の授受に加え、政治家の事件の場合などは、贈った側のお願いごと、つまり請託の事実を証明しなければならない。多くは密室での出来事ですから、供述なしでは立証できないんです。ところが近年、これまでの捜査手法が通用しなくなり、関係者の供述を得にくくなった。
※3 '09年、郵便料金の割引制度の不正利用に関与したとして関係者を摘発。村木氏は無罪が確定。逆に主任検事や元特捜部長らが逮捕される異例の事態に発展した
※4 小沢氏の政治資金管理団体「陸山会」による不動産取引をめぐる事件。元秘書に有罪判決が下ったが、検察審査会に強制起訴された小沢氏は無罪に
政治家側が巧妙になってきたこともあります。職務権限のある政治家が直接、請託を受け、贈賄側からカネを取ることはまずない。カネを受け取るとしても、職務権限がなくなってから。ダミー会社を噛ませたりするようにもなった。そうなるとカネの流れが発覚しても、そのカネの趣旨が見えにくくなってきます。
村串 贈収賄での立件が難しくなってきたから、'00年以降に特捜部が政治家を摘発した事件というのは、政治資金規正法違反がほとんどです。
小俣 それでは徳洲会事件はどうなるんですかね。簡単な借用書1枚で、初対面の相手から5000万円もの大金が提供されたことについて、国民はいまも不審に思っているはずです。
■キーワードは「トリ」だ!
村串 贈収賄でやるかどうかは別にして、公職選挙法違反で告発されているわけだから、少なくともそちらでは起訴、不起訴の結論を出さざるを得ない。そこで不起訴となったら、今度は検察審査会※5に回されて、「起訴相当」という判断が出る可能性もある。
村山 ええ、普通の市民感覚を持つと期待されている検察審査会が「起訴すべき」と判断する可能性は大きい。そういう見通しがあるのに不起訴でいいのか、と現場の検事は悩んでいるのではないでしょうか。
小俣 特捜部が「最強の捜査機関」と言われる理由の一つは、政治家や官僚の汚職、大型経済事件を摘発できる唯一の捜査機関だからです。汚職や経済犯罪捜査は警視庁捜査二課もフィールドにしていますけど、扱う事件の規模が違います。
それだけに特捜部の動向には、われわれ記者も常に目を光らせていなければならないから、社会部の中でもある意味、司法記者クラブは特別扱いされました。
それを象徴するエピソードとして私が印象深く覚えているのが、'85年の8月13日だったと思いますが、当時の特捜部長だった山口悠介さん※6に誘われた山登りです。
村串 ああ、行ったなあ。谷川岳だっけ。
小俣 そうです。山登りが好きだった山口さんは、記者を誘って時々山登りツアーをやっていた。司法記者クラブに加盟している全社が参加したと思います。
村山 前日の8月12日は、御巣鷹山に日航ジャンボ機が墜落した日です。私はちょうど当直勤務の日でした。夕方、クラブから社に戻る途中で連絡が入り、そのまま現場に行った。13日朝、山腹の墜落現場を確認し、遺体の確認作業などの取材をしました。
村串 ああいう大きな事故が起こると、社会部の記者は総出で取材に当たるわけだけど原則、司法記者クラブは温存されるんだよね。裁判所や検察の動きを見ておくことが何にもまして大事だということで。
※5 無作為に選ばれた11名の有権者が、検察官の不起訴判断が妥当か審査する制度
※6 '84年に東京地検特捜部長となり、リッカー事件や撚糸工連事件などの指揮を執る。'99年死去
小俣 私は「こんなときに山登りなんかしていていいのかな」と思って、上司に相談したんです。
そうしたら「司法クラブは事故取材に回らなくていい。お前たちにとって重要なのは特捜部の動きをウォッチすること。特捜部長が行くところにはどこにでもついていけ」と言われました。もちろん、山登りのすぐ後に現地入りしましたけど。
村串 ただ、山登りについていったからといって、特捜部長が水面下で捜査を進めている事件について話すわけでもないんだよな。
小俣 あの頃はたしかリッカー事件※7がいつ弾けるか、という時期でした。それに関する情報を山口さんがポロッとこぼすのではないかと期待していたわけです。
しかし、その水面下で特捜部は、その後の「栄光の時代」につながる事件を密かに捜査していたんです。
村串 撚糸工連事件※8だね。その前段にオシドリシャツ事件があったはずだ。
小俣 そうです。世間的にはまったく有名ではないけど、特捜部にとって大きな転機になる事件でした。当時、国は中小企業の経営合理化を後押しするため、一定の要件を満たした企業には「高度化資金」という低利融資を行っていた。それに目を付けた墨田区の『オシドリシャツ』という会社の社長が、書類を偽造して高度化資金をだまし取ったという事件です。特捜部はこの事件の構図を解明することで、高度化資金の仕組みを悪用する手口を学んでいった。
撚糸工連事件では、特捜部が'86年に横手文雄、稲村佐近四郎という二人の代議士を在宅起訴するんですが、国会議員の汚職摘発はロッキード事件以来10年ぶりで、特捜部にとっては歴史的な事件でした。その入り口となったのがこのオシドリシャツ事件です。
村山 当時、私も司法クラブに移ってきたばかりで、なかなか情報が取れなくて苦労しました。ただ、特捜部が何かをやっていることはわかった。で、あちこち聞いて回っているうちに、「トリ」というキーワードが浮かび上がってきた。小俣さんと一緒に「今度は『トリ』らしいな」なんて言い合っていたよね。
小俣 そうでしたね。私は「これは鶏肉に関する事件かもしれない」と思いこんで、当時浅草にあった食鳥協会という鶏肉の業界団体に取材に行ったんです。そうしたら途中でポケベルが鳴ったので会社に連絡したら、「おい、特捜部が摘発したぞ」と。私は「ええ、鶏肉関係の収賄事件じゃないかと思うんですが」なんて答えたら、「お前、トリ違いだよ。オシドリシャツって言ってるぞ」って(笑)。
■検察の「リーク」はあるのか
村串 あれはヒラ検事が掴んできた端緒を、副部長の石川さんが「小さな事件捜査の積み重ねが大事」と捜査させた。そしたら、上に伸びる材料が出てきて、撚糸工連事件につながっていったんだよな。
※7 ミシンメーカー・リッカー社の経営陣による粉飾決算事件。'85年に東京地検特捜部が旧経営陣5名を逮捕
※8 '85年、撚糸工連が元課長を横領などで東京地検に告訴。二人の代議士を含め、9名が起訴される大事件となった
不況に喘ぐ繊維業界が国の制度を悪用して補助金詐欺に手を染めるというのは、オシドリシャツも撚糸工連事件も同じ構図だった。その延長線上に政治家の姿も捉えた。一つの事件に次の展開を見る特捜部の手法は伝統的なものだけど、あれは見事だった。
小俣 オシドリシャツ事件では、ライバルにものすごいスクープを抜かれたんです。後に産経新聞の副社長になった名雪雅夫さん(故人)が、贈賄側と収賄側とが向かい合って浴衣姿かなにかで宴会をやっている写真を1面で掲載した。事件記者をやめたくなるくらい打ちのめされました。
村串 それにしても、二人はどこで「トリ」って聞いてきたの?
小俣 たぶん検事に探りを入れたら「トリだよ、トリ」なんて言われたんじゃなかったかな。こっちを煙に巻くつもりだったのかも。
村山 検事も守秘義務があるから、事件の中身についてはなかなかしゃべりませんからね。
小俣 でも世の中には、「検察は自分たちに都合のいい世論を作るために、マスコミに捜査情報をリークして記事を書かせている」という見方をする人がいますよね。この「リーク」について、お二人はどういう意見を持っていますか?
村串 事前に報道されたら事件が潰れちゃうというケースはいっぱいありますよね。だから基本的に検察は捜査情報を秘匿します。われわれはそこになんとかして食い込んでいって、情報を取るのが仕事です。
一方で、特捜部というのはある意味で「花形セクション」ですからね。そこに属している検事が、自分たちのやっていることをアピールしたい気持ちを持っているのも間違いない。
もう一つ言えば、検察も情報を持っている記者からネタを取りたいという意識もある。そこでバーターで情報をやり取りするということはあり得るよね。
小俣 特捜担当の記者はネタを取るのが仕事だから、そのために検察にすり寄っていくことはあったけど、私たちに共通しているのは基本的には「反権力」という気持ちがあったことですよね。みんな学生運動に足を突っ込んでいた経験があるから、剥き出しの権力である検察に対してクールに見ているところもあった。
村山 検察は、まさに国家権力の中枢ですからね。個々の検事は優秀で親切な人も少なくないけど、組織としては基本的には「居丈高」なイメージが強い。
村串 クラブの記者は副部長以上に取材することは認められているけれど、ヒラの検事に直接取材するのはご法度だった。ヒラ検事に当たっているのがバレると出入り禁止になる。だけど一線のヒラ検事に取材しないと情報なんか取れないから、バレないようにやる。
小俣 気の利いた副部長になると、正月2日に自宅で開く新年会に呼んでくれたりしましたよね。そこにはヒラ検事も来ていて、それとなく接触する機会を設定してくれた。
■検事と記者の「幸せな時代」
村山 でも、おおっぴらにヒラ検事と話せるチャンスなんてそれくらい。だいたい、「リーク」というのは、主に捜査対象になった政治家が、検察やマスコミを批判するときに使う言葉じゃないですか。取材合戦の末に勇み足で、不確かな記事を書いたのなら批判されても仕方ないけど、司法記者が検察を情報源として報道すること自体にはなんら問題はありません。
われわれは検察から得た情報だけで記事を書くわけじゃないですからね。情報を裏打ちするために関係者の取材を重ねてはじめて記事にしている。そこで、検察側が意図的に流した情報かどうかのチェックもするわけです。
小俣 猪瀬氏が徳洲会側から5000万円の資金提供を受けていた事実は、昨年11月22日に朝日新聞が放ったスクープですが、あれも「朝日は検察のリークでこの記事を書いた」と批判する人もいた。
村山 担当した記者たちが聞いたら怒りますよ。関係者の証言でがっちりと固めた、いい記事です。
あの記事とは関係のない一般論を言えば、情報源の秘匿という大原則のもと、報道する公益のほうが保秘より大きい、と説得して情報を得るのが検察担当記者の仕事です。
小俣 最近の検察リーク批判について言えば、ネットメディアを中心に活躍する若手のジャーナリストが「大マスコミは当局のリークの尻馬に乗って……」と主張することも多い。そんなことを言うんだったら、彼らも特捜検事のところを取材すればいいんです。
ベストセラー作家の麻生幾さんが週刊誌の契約記者だった頃、私のところに検察情報を聞きに来ていたんです。でも彼の持っているネタって面白いものが多かったから、「直接検事のところを回ったほうがいいよ。週刊誌の記者だから検事を夜回りできないなんていうことはないんだから」と言ったことがあります。
そうしたら本当に回りだしたみたいで、そのうちに私が知らない話まで取ってきていました。検察ってそういう世界なんですよ。
村山 検事も情報がほしいから、週刊誌の記者だろうがフリーランスだろうが、優秀な人は大事にします。そういう人たちから得た情報で、大きなパズルのピースが埋まることだってあるからね。それこそ小俣さんも村串さんも、現役時代はアニマルのごとく検察官のところを回っていたよね。
村串 いやいや、検事の帰りを待ちくたびれて、相手の家の玄関前で寝ちゃうほどガッツがあったのは小俣さんくらいじゃないの?
小俣 ああすれば、私を起こさないと家に入れませんからね。でも冬は辛かったなぁ(笑)。
まぁ、たしかにわれわれの頃は「幸せな時代」だったかもしれません。そんな現場の話を通じて、次回からは特捜検察の「光と影」について話していくとしましょうか。(次号に続く)
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