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2014年5月26日
2013年7月29日、安倍晋三内閣の副総理である麻生太郎氏は都内で開かれた会合でこう述べた。
「ナチス政権下のドイツでは、憲法は、ある日気づいたら、ワイマール憲法が変わってナチス憲法に変わっていたんですよ。誰も気づかないで変わった。あの手口、学んだらどうかね」
安倍晋三氏は日本国憲法の解釈変更を強行しようとしているが、憲法解釈変更というより、憲法破壊行為である。
安倍晋三氏は、本来、憲法改定の意向を有している。
日本国憲法をどのように改定しようとしているのかは、自民党が提示した日本国憲法改正草案を見れば分かる。
改正ではなく改定であり、まったく別の新しい憲法を制定しようとするものである。
しかし、憲法改定のハードルは高い。
第96条が、改定要件を厳しく定めているからである。
そこで安倍晋三氏は、憲法改定のハードルを高く設定している第96条の改定を先行させようとした。
衆参両院で過半数の賛成を得れば、憲法改定を発議できるように、96条の改定を目論んだのである。
しかし、当然のことながら、安倍氏のこの目論見に対して、厳しい反発が一斉に噴出した。
安倍晋三氏は「立憲主義」という考え方を理解していなかったのだと思われるが、権力の暴走を防ぐため、憲法改定のハードルは通常、高く設定されている。
「硬性憲法」としているのが一般的である。
安倍氏の96条改定の目論見は粉砕された。
96条の改定が難しいとなると、憲法を全面的に書き換えて、別の憲法に作り替えることは容易なことではなくなる。
安倍政権与党は衆院で3分の2議席を確保しているが、参院では3分の2に届かない。
憲法改定は容易なことではないのだ。
この現実に気付いた安倍晋三氏がいま推進しているのか、憲法の条文を変えずに、「解釈」を変えてしまうという道である。
「道」とは言っても「正道」ではない。
「邪道」である。「蛇の道」の「蛇道」と言ってもよい。
その解釈変更も、正当な解釈を用いるというならまだ分かる。
しかし、逆立ちしても成り立ちようのない解釈を、「新解釈」として打ち出すというのだから、この政権はもはや「狂気の政権」というより他にない。
ここで登場するのが「ナチスの手口」である。
ナチスはワイマール憲法という、当時の世界では最も先進的との評価を受ける憲法が存在するなかで登場し、実質的にこの憲法を無力化、無効化していった。
「ナチス政権下のドイツでは、憲法は、ある日気づいたら、ワイマール憲法が変わってナチス憲法に変わっていたんですよ。誰も気づかないで変わった。あの手口、学んだらどうかね」
という発言の意味は不明な部分も多くある。
「ナチス憲法」というものが実在しないからである。
ヒトラーが政権を樹立して「全権委任法」を成立させ、ナチ党ヒトラーによる独裁が始動した。
これによりワイマール憲法は無力化され、ヒトラーのナチ党による一党独裁政治が始動したのである。
つまり、麻生氏発言は、実質的な独裁体制を構築して、現行憲法を実質無効化してしまう手法として、「ナチスの手口」に学んではどうかと提案したものと受け取ることができる。
そして、いま、安倍晋三氏が進めようとしているのは、これに近い。
憲法改定を正面から論じれば、強い反対論が噴出してしまうだろう。
衆参両院での3分の2以上の賛成を得て憲法改定を発議することも容易でない。
その現実を踏まえるなら、衆参多数勢力を確保する政権が、「憲法解釈」を変えてしまい、実質的に現行憲法を無力化してしまうことがよいのではないか。
実質的な憲法改定になる。
このような考えで、安倍氏が動いているように見える。
ドイツで、ワイマール憲法が実質無力化された直接の契機は、ヒトラー政権が1933年に全権委任法を成立させたことによる。
1932年に発生した国会炎上事件を利用して、共産党、社会民主党を無力化し、中間勢力を取り込んで、ヒトラー政権が全権委任法を成立させた。
これにより、ドイツの議会政治は実質的に終焉し、ナチ党の独裁が始動し、人類史上最悪の時代に突入していったのである。
全権委任法に対して反対したのは社会民主党だけだった。中央党、ドイツ人民党などの中間勢力も、ヒトラー政権の強権運営の脅威に晒されて、全権委任法の成立に賛成していった。
5月23日に開かれたシンポジウムで、弁護士で前衆議院議員の辻恵氏がいまの日本の状況と1933年のドイツの状況が重なることを指摘した。
一強多弱と表現される政治情勢のなかで、中間勢力が安倍自民党に引き込まれれば、安倍晋三独裁政治が出現してしまうことに、強い警鐘を鳴らしたのである。
辻氏は、集団的自衛権行使容認の憲法解釈変更を絶対に阻止する政治勢力を結集し、これを安倍政権与党に対峙する政治勢力として強大化することが必要であるとの見解を示した。
まったく同感である。
日本はいま、歴史的に最も重要な変節点に差し掛かっている。
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