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他国のために戦争に加わる集団的自衛権について、安倍晋三首相は15日、憲法解釈の変更で使えるようにする検討に入ると表明した。長谷部恭男・早稲田大教授(憲法)と杉田敦・法政大教授(政治理論)による連続対談は今回、国のあり方を急ぎ足で変えようとする安倍政権の姿勢から見える問題点について、語り合ってもらった。
■長谷部「『あご外れるほど』驚きの代物」 杉田「手品のようにすり替えている」
杉田敦・法政大教授 さて、ついに一歩が踏み出されました。「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(安保法制懇)が報告書を出し、安倍晋三首相は集団的自衛権の行使を検討すると表明しました。
長谷部恭男・早稲田大教授 英語で言うと、「ジョー・ドロッパー」ですね。
杉田 「あごが外れるほど驚きの代物」ですか。
長谷部 報告書も安倍さんの記者会見も、ジョー・ドロッパーの連続です。憲法前文や13条、「砂川判決」など自分たちに都合のいいところだけをつまみ食いし、これまで政府が「真っ黒」と言い続けてきたことを、条件をつければ「白」になると結論付けている。わけがわかりません。国民があごをはずしている隙に解釈変更してしまおうという作戦でしょうか。
杉田 確かに、まるで手品のように、集団的自衛権、集団安全保障、グレーゾーン事態、駆けつけ警護と、色々なカードを次々に見せている。あえて国民を混乱させている感じは否めません。彼らの主張は、とにかく急いで対策しなければならない。しかし憲法改正には時間がかかる。だから政府解釈の変更でやる。こういうことですね。しかし、なぜこれほど急がねばならないのか。
長谷部 そもそも早急に対処すべき安全保障上の問題が生じているというのは、第1次安倍内閣の時に出てきた話です。その後、数次の内閣では言われなくなり、それが今回また出てきた。安倍内閣ができると突如として安全保障上の緊急性が高まるんですね。
杉田 本当に集団的自衛権の行使が必要なら、憲法改正を提起し、国民的な大議論をすればいい。ところが安保法制懇座長代理の北岡伸一国際大学学長は「明治維新だってみんなでやったわけじゃない」と否定的です。一部のわかっている人間が決めればいいんだと。国民を説得しようとは、はなから考えていないかのようです。
長谷部 説得できるという自信もないのでは。
杉田 説得力のなさを、時間がないという話にすり替えている。昨年、安倍さんらが憲法96条の改正を提起した時は、主権者である国民の意思をより憲法に反映させるために、改正の発議要件を「衆参各院の総議員の3分の2以上の賛成」から「過半数」に緩めると説明していました。しかしそれが難しいとなったら一転、今度は国民の意見を聞く必要はない、閣議決定でこと足りるという。
集団的自衛権の問題は、一昨年の総選挙でも主な争点ではなかったし、参院選では争点化していなかった。それなのに選挙で勝った自分たちの考えが民意だと、強引にことを進めようとしている。小泉政権の郵政民営化より悪質です。
長谷部 集団的自衛権の行使は、自衛隊員を含む国民の生命に重大な不利益をもたらす可能性がある。国民的合意を得ずに進めていいはずがありません。
■長谷部「限定容認、意図的混同か」 杉田「中身問わぬ『決める政治』」
杉田 集団的自衛権の行使容認派がよりどころの一つにしているのが、憲法9条をめぐっては過去にも解釈を変更しているではないかという点です。憲法制定時には個別的自衛権を持っているとは想定していなかったが、自衛隊創設にあたって「放棄していない」と解釈を変えたという。
長谷部 吉田茂元首相の答弁が引き合いに出されますが、彼が当初言っていたのは日清・日露戦争のように、自衛と称して戦争をするのは許されないということです。「急迫不正の侵害」に対して実力を行使するという意味で自衛権を否定するのとは、全くレベルの違う話です。
杉田 安倍首相が唱える、いわゆる「限定容認論」はどう考えますか。
長谷部 被害国からの援助要請や、必要最小限の実力を行使するというのは、国際司法裁判所が明示している集団的自衛権行使の要件そのものです。これを超えると国際法違反です。
杉田 つまり、一般的な要件を再確認しているだけで、限定にも何にもならないということですね。
長谷部 日本が行使できないとされてきた集団的自衛権とは、国際社会の平和と安全という公益のために、自国の防衛と切り離して、他国に対する攻撃に対処する権利です。今回、それを行使できるようにする、ただし「我が国の安全に重大な影響を及ぼす可能性があるとき」に限るという。これでは、その時々で政府が「可能性がある」と判断すればそれまで。限定することにはならない。逆に、我が国の安全が本当に危険にさらされているなら、個別的自衛権で対処可能のはずです。違う話を意図的に混同しているのか、自分でも分からなくなっているのか。
杉田 まるで集団的自衛権という「シンボル」を勝ち取るために、これまでの憲法解釈を変更しようとしているかのようです。
長谷部 とにかく「集団的自衛権」と言いたいと。
杉田 安倍さんを含めて、「決められる政治」を追求していくと、中身はともかく決めればいいということになりがちです。そのために、憲法など権力へのブレーキは全部外せということになる。特定秘密保護法もその一環でしょう。
ちなみに北岡さんたちは、1990年代の政治改革論議の頃に、与党は一種の期限付き独裁を許されるべきだとしていました。次の選挙で審判を受けるのが唯一の「歯止め」だと。そういう民主政治観が今回の報告書や政権の態度にもつながっていると思います。
■杉田「世論につけ込みこわもて」 長谷部「日本、『怪物』にならぬよう」
長谷部 私は安倍政権の特徴は「急ぐ政治」だと思います。急いで決める政治。秘密法の基本構想を作ったのは民主党政権です。民主党政権は成立を急がなかった。安倍さんは急いだ。秘密法に関して世論が硬化した要因は、そこにあるのではないでしょうか。
杉田 いまの世論を考えると、北朝鮮による拉致問題と、中国との尖閣諸島の領有権問題が大きく影響している。これは、そもそも集団的自衛権の問題と関係ありませんが、心理的には結びついている。日本が「なめられている」からそういう問題が起きるので、集団的自衛権などでこわもてになれば、近隣諸国もおとなしくなるのではないかという素朴な感覚が底流にある。外務省筋や政権がそこにつけ込んでいます。
抑止力を持つべきだとの考え方を全否定はできませんが、「安全保障のジレンマ」と言われるように、強硬策がかえって緊張を高め、偶発的な危機につながりかねないことは歴史が証明しています。
長谷部 日本が自衛隊を出せば、中国は中国軍を出してくるだけの話です。哲学者のニーチェは「怪物と闘う者はそのために自身が怪物にならぬよう気をつけろ」と言っています。隣の「こわい国」と闘わなきゃと、立憲主義をかなぐり捨てて憲法解釈を変えれば、日本自身がおかしな国になってしまうでしょう。
■「土俵」のそもそも、問い続けたい
集団的自衛権の行使容認に向け検討を進める。政権がそう「土俵」を設定したら、そこに上がって論理的かつ批判的に検証する。メディアの大きな役割のひとつだ。ただ、ひとたび上がると、土俵のありよう自体を問う視点は持ちづらくなる。とりわけ、論点を一気に拡散させて「急ぐ」安倍政権のもとでは、そうなりがちだ。
北岡伸一氏ですら「正統性なんてあるはずがない」と言う、首相の私的諮問機関。その報告書をもとに、詐術的な言葉を操った首相の会見。秘密法に賛成した長谷部氏が「あごを外す」ほどゆがんだ土俵の上で、ひとの生死に直結する重大なことを決めていいのか。
じっくりと腰を据えて、こんな土俵の「そもそも」を問い続けたい。
(論説委員・高橋純子)
http://www.asahi.com/articles/DA3S11154342.html
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