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以下は救援新聞5月25日号記事より転載。
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可視化、証拠開示後退
法制審特別部会 「試案」の危険な中身
自白調書に依存した取り調べのあり方を見直すために審議している法制審議会の特別部会で、制度設計に関する「事務当局試案」が出されました。冤罪を防ぐ取り調べの可視化が骨抜きにされる一方、盗聴などの警察の捜査権限の拡大や、新たに冤罪を作る司法取引の導入などの動きが強まっています。試案の問題点を検証します。
「自白に頼りすぎるのは中性の名残」と国連で批判されるほど、自白偏重の日本の刑事司法。ウソの「自白」により多くのえん罪事件が生まれています。
2011年に、取り調べに依存した捜査・公判のあり方を見直すため、法務大臣の諮問機関(専門家などが審議し意見を答申する機関)である法制審議会「新時代の刑事司法制度特別部会」で議論が続けられています。4月30日、26回目の会合が開かれ、これまでの議論をまとめた「事務当局試案」が、法務省から出されました。 ※事務当局試案
可視化は限定
この試案では、取り調べの可視化(録音・録画)について、捜査機関が取り調べを記録することが義務づけられています。しかし、対象となる事件については、裁判員裁判対象事件に限定するA案と、A案の事件に加えて検察官が取り調べをする全事件を対象とするB案が提示されています。
裁判員裁判の対象となる事件は、殺人や放火などの重大犯罪で、裁判になる事件の3%にすぎません。無実の市民4人が威力業務妨害罪などで誤認逮捕された12年のパソコン遠隔操作事件や、12人全員が無罪となった03年の志布志事件は対象になりません。特別部会の委員を務める村木厚子さんが被害にあった郵便不正事件も対象外です。
痴漢冤罪事件も対象になりません。多くの痴漢冤罪事件では、犯行を立証する証拠がないため、捜査機関は、被疑者の「自白」を求めて、長期間にわたって勾留し、生活を破壊し疲弊させ、ウソの「自白」調書を作ろうとします。こうした事件のほうが、自白偏重の不適切な取調べが横行しているにもかかわらず、試案はその現実に目を向けようとしていません。
しかも、可視化を義務づけているものの、「記録すれば被疑者が十分な供述をできないと認めるとき」など、広い例外規定を設け、例外の適用も捜査機関が判断します。
また、特別部会のもう一つの大きなテーマだった捜査機関が所有する証拠の全面開示については、検察官が保管する証拠の一覧表(リスト)のみの開示の義務付けにとどまりました。しかも、「捜査に支障が生ずるおそれ」などがあると検察官が判断した場合は、そのリストさえ開示しなくてもいいとされています。結局、取調べの可視化も証拠の開示も骨抜きにされています。
捜査側の権限強化
新たな冤罪、市民監視の強化
一方試案では、司法取引の導入や、盗聴(通信傍受)対象事件の拡大など、捜査機関の権限をこれまで以上に強化する案を提示しています。
試案では、警察や検察の公判に協力すれば、減刑や刑が免責される司法取引の導入を認めています。自白すれば罪が減刑されたり、取調べを受けている被疑者が他人の犯罪の事実について知っていることを供述すれば、自分の裁判を不起訴にしてもらえるなどの便宜が図られます。捜査機関が自分たちに有利な供述を引き出すために悪用する危険性があります。
11年に再審開始決定が出た福井女子中学生殺人事件では、逮捕されていた被疑者が、減刑を目論んで前川さんを犯人とするウソの供述をしてます。11年に再審無罪となった布川事件でも、「犯行を認めなければ死刑だ」と脅され、「自白」をさせられています。
さらに問題なのは盗聴捜査の大幅拡大です。盗聴法(通信傍受法)では、警察の捜査における盗聴は、薬物犯罪や銃器犯罪など4つの犯罪に限定されていました。試案では、傷害、窃盗、詐欺、恐喝など、幅広く14の犯罪の盗聴捜査の適用を認めています。また、盗聴時の通信業者の立ち会いをなしとすることも認めており、無限定にチェックなしで盗聴捜査を許すことになります。個人のプライバシーが侵害されるだけでなく、市民運動の監視に悪用される恐れもあります。
再び供述依存
もともと、この特別部会が発足した当時の法務大臣の諮問は、「取調べ及び供述調書に過度に依存した捜査・公判のあり方の見直し」ということでした。しかし、司法取引などの導入で、よりいっそう供述に依存した捜査がおこなわれることになる反面、その供述を記録する取調べ可視化は全く機能しないのです。
この試案をもとに特別部会が答申を出せば、実際の法改正に向けた動きがはじまります。国民救援会は、法制審議会が冤罪をなくすという原点に立ち戻って議論を再検討するよう要求しています。
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