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田原総一朗×郷原信郎 第3回 作り上げたストーリーを貫き通すために暴走する検察と司法記者たち(現代ビジネス)
http://www.asyura2.com/14/senkyo165/msg/661.html
投稿者 赤かぶ 日時 2014 年 5 月 20 日 13:03:15: igsppGRN/E9PQ
 

田原総一朗×郷原信郎【第3回】作り上げたストーリーを貫き通すために暴走する検察と司法記者たち
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/39287
2014年05月19日 現代ビジネス


WOWOW連続ドラマW「トクソウ」放送記念対談



⇒【第1回】はこちらからご覧ください。
 http://gendai.ismedia.jp/articles/-/39104
⇒【第2回】はこちらからご覧ください。
 http://gendai.ismedia.jp/articles/-/39232


■弁護士になるつもりが検察の世界へ


田原: 郷原さんは、司法試験を受けて検事になったということは、やっぱり検事や検察の世界に憧れていらっしゃったんでしょうか。なんで検事になったんですか?


郷原: 検察に入ったきっかけというのは、特別憧れとか使命感があって入ったわけではないんですよ。元々私は理科系の出身で会社勤めをしていて、それで180度方向転換しようと思って司法試験を受けて、何とか受かったので、最初は弁護士をやろうと思ったんですけどね。


ただ、私は若くて理科系出身だったということで珍しい人材だったんですね。それで検察の幹部が何とかして私を検察の世界に引きずり込もうとして、あの手この手を使ってきて、結局引きずり込まれてしまったということなんです。


田原: 「あの手この手」ってどんな手を使ったんですか?(笑)


郷原: たとえば、内定をもらって入る予定だった東京の弁護士事務所があったんです。ところが、司法修習生の時の私の検察教官というのが検察教官の筆頭で、検事正クラスの人だったんですが、私が行こうとしていた弁護士事務所のボス弁護士と話をして諦めさせたんですね。その代わりに他の修習生の紹介までしたそうです。それで私は行くところがなくなっちゃったので、仕方なく検察の世界に入ったわけです。


■警察が捜査し、最終的に起訴するかどうかを検察が判断する


田原: 検事になって、最初にスタートを切ったのはどこだったんですか?


郷原: 東京地検です。新任検事といって半分修行の身ですね。普通の事件の捜査も公判もやるんですが、先輩検事にいろいろ指導を受けながら経験を積んで、2年目から私は福岡地検小倉支部に行ったんですが、もうそこからは一人前扱いなんですよ。一人で普通に検事の仕事をするんです。


田原: 普通の検事の仕事ってどんな仕事ですか? たとえばどんな事件を扱うんですか?


郷原: たとえば覚醒剤、殺人、強盗……いろいろな事件がありますが、そういう一般事件をかなりの数をこなしました。


田原: 覚醒剤、強盗、殺人という一般事件は、まず警察が捜査をして逮捕するわけですね。逮捕をして取り調べをしたら、どういう段階で検事に渡すんですか?


郷原: 警察は容疑者を逮捕したら、48時間以外に検察に身柄を送らなければならないということになっています。そうしないと、身柄拘束が継続できないんです。それから先は検察官が取り調べをして、引き続き身柄を拘束する必要があるかどうかを判断して、勾留請求をした場合にはさらに10日とか20日とか長期間の身柄拘束が認められているんです。


田原: そうすると警察は48時間だけ取り調べをして、あとは検察に送るわけですね?


郷原: そうですね。それからあとは検察官の判断を仰がないといけないんです。そこから先は検察と警察が協力する形で、基礎的な取り調べは警察がやって、まとめのところは検察がやるということで捜査して、最終的に起訴するかどうかを検察官が判断するということです。


■事件のストーリーを書くのが検察の仕事


田原: そこなんですが、東大に佐藤誠三郎という教授がいて、彼の奥さんの佐藤欣子という人がやはり検事なんですが、彼女に「検事って一体どういう商売なんですか?」と聞いたら「小説家みたいなものですよ。ストーリーを書くんです」と答えたんです。


事件の因果関係については、なぜ彼が殺人を犯したのかということはわからないわけですね。警察も48時間しか取り調べができないから、よくわからない。そうすると検察は、「多分彼は、これこれこういう理由で殺人を犯したんだろう」というふうにストーリーを書くわけで、それが検察の仕事なんだ、と彼女が言っていたんだけど、やっぱりそういうものですか?


郷原: そうですね、そういう意味では、一から十まで被疑者に全部語ってもらってそれを調書にとるという単純な話じゃないんですよ。やはり自分なりに「こうではないか、ああではないか」というような問題意識を持って供述を聞いて、一つの仮説みたいなものを持ちながら調べていく場合が多いんですね。それはなぜかというと、客観的な証拠があるわけですから、その証拠に合う形で犯罪の全体像をイメージしていくことになるのです。


田原: そういう意味では、話題になったSTAP細胞の件と似ているんですね。STAP細胞の小保方さんも、これはこうなんだろうというストーリーや仮説を考えるわけですね。その仮説に則って実験をするというわけですが、STAP細胞の場合は、仮説に合わせた実験にインチキ、偽造があった。そういうことなんですね?


郷原: そういうことなんですが、一般の事件であれば比較的単純なものが多いわけです。一人で犯罪を決意して、それなりの動機があって、一人で犯罪を実行するということであれば、ストーリーも単純じゃないですか。ところがそれが企業犯罪や贈収賄、汚職事件ということになると、事件の全体像がどうしても複雑になってきます。


■問題は、仮説を真実として貫き通してしまうこと


田原: たとえば最近で言うと、袴田事件(※)というのがあって、これはもう死刑判決が下って50年……60年くらい長期間拘留されていたんですが、これがどうやら無罪だということになりました。個人の犯罪なのに、なんであんなことが起きるんですか?


郷原: あれはかなり昔の刑事事件ですし、そこで証拠の見方とか自白に至る経緯とか、いろいろな問題があったんだろうと思うんですね。事件が単純だとか複雑だとかいうことよりも、特定の殺人事件について「こいつが犯人だ」と判断するに至る過程自体にいろいろな問題があったんだと思うんですよ。


ただ、田原さんがおっしゃった「ストーリーを作る」という問題は、そういう単純な個人の事件よりも、特捜の事件の場合のほうが顕著になるわけです。というのは、特捜の事件ではたくさんの検事が共同捜査という形でチームで捜査をするんです。そうすると、何らかの具体的な仮説を立ててそれを目指して捜査をしていかないと、まとまらないんです。


ですから「この事件はこういうことなんじゃないか」という仮説を立てることは、今おっしゃったSTAP細胞の小保方さんのお話と同じように必要ではあるんです。ストーリーに基づく捜査はダメだとかとんでもないとよく言われるんですが、私はそれ自体が問題だと言っているんじゃないんですよ。



あくまで仮説は仮説なんです。仮説は客観的な証拠と比較してみて「これはおかしい」ということになれば、あるいは新たな証言が出てきて「これは違う」ということになれば、その仮説を一旦崩してもう一回作り直さなければならないんです。ところが、特捜部のこれまでの捜査の問題というのは、最初に作りあげた仮説については、途中で何があっても崩さずに、最終的にそれを真実だということにしてしまう。そこに問題があるということなんです。


たとえば大阪で起きた村木厚子さんの冤罪事件の問題ですが、大阪地検特捜部では、当初の仮説が崩れそうになったのにそれを崩されないようにしようと思った主任検事が証拠まで改竄したわけで、そこがいちばんの問題だったんですね。東京の特捜でもこれまで散々問題になってきたのは、一旦作り上げたストーリーに沿う調書を取るために無理な取り調べをやるということなんです。


※1966年に静岡県清水市で発生した強盗殺人放火事件、およびその裁判で死刑が確定していた袴田 巖元被告が判決の冤罪を訴え、2014年3月に死刑及び拘置の執行停止並びに裁判の再審が決定された事件。


田原: 厚生労働省に村木厚子さんという課長がいたんですが、それがある障害者団体を認可して不正を働いた疑いをかけられたという事件があったわけですね。


郷原: あの事件では、大阪地検が最初に「村木厚子が主導して虚偽の公文書を作成した」というストーリーを組み立てて、そのストーリーを立証するために証拠の改竄にまで手を染めたわけです。


■検察による精神的な拷問


田原: この場合、村木さんの上に部長がいて下に係長がいたんですが、その係長が「実は村木がやった」と自白しちゃったわけですね。なんであの係長はあんなことを言っちゃったんでしょう? あれは検察の拷問なんですかね?


郷原: 精神的な拷問ということですかね。有形力の行使というよりも、ずっと長期間拘束をして心理的に追い込んでいくわけですね。


田原: 僕はリクルート事件が起きたときに、江副浩正さんに具体的に聞いたんだけど、彼は「表向きは拷問なんかないことになっているけど、実はあるんだ」と言ってましたね。たとえば江副さんが椅子に座っていると、検事がいきなりデスクを足でボーンと蹴っ飛ばして、江副さんは椅子から転げ落ちるわけですね。あるいは「土下座をしろ」と強要して、「おまえがもし吐かないと、おまえの女房も逮捕するぞ、おまえの会社を潰してやるぞ」と脅したと言うんだけど、その程度のことは平気で言うんですかね?


郷原: まあ、いろいろな検事がいますから、なかにはそういうやり方をした検事もいるようですね。


田原: たとえば佐藤栄佐久という福島県知事が、2006年に贈収賄事件で取り調べを受けて、宗像紀夫さんが弁護人についたんですが、あの事件はひどい事件でしたよね。最終的には有罪になったんですが、賄賂の額がゼロだったんです。あれは佐藤栄佐久の弟が水谷建設に高いカネでモノを売って、それに佐藤栄佐久が噛んでいるという嫌疑をかけられたんですが、本人は最初それを否認しました。


そうしたら、彼は県知事ですから後援会があるんですが、あの事件に絡んで後援会の人が検察に追い詰められて2人も自殺しているんですよ。贈収賄の事実なんてないにもかかわらず、検察に追い込まれて、拷問されて、2人も自殺しているんです。そのうえで佐藤栄佐久は「もっと人が死んでもいいのか」と脅されて、そこで怯んでしまったんですね。このときは、後援会の人たちはどうやって追い込まれたんですかね?


郷原: やはり、普通は検察の捜査の対象にされた経験のない人がほとんどですから、そういう人たちにとって、家宅捜索を受けたり身柄を拘束されて連日取り調べを受けたりというのはまったく未経験の出来事で、大変な精神的プレッシャーにさらされているわけです。


そこで検事がさらに追い込むようなことを言うと、もう耐えられなくなるんですよ。それでも、そういうやり方で追い込まれないと言いたくないようなことを調べているんだから、本当のことであっても素直に自白なんてするわけがないだろう、というところから特捜の捜査は出発しているので、取り調べでそこまで徹底的に追い込むようなことをするわけですよ。


■原作のネタとなったゼネコン汚職事件


田原: 郷原さんは多分そういうことはやらなかったわけでしょう?


郷原: 私はそういうことがイヤだったから、特捜部と訣別したということはありますね。


田原: でも、訣別するまでに偉くなったということは、多少はそういうことをやったということじゃないんですか?(笑)


郷原: いやいや、私は偉くならなかったんですよ(笑)。特捜部には1年ちょっとしかいませんでしたから。1993年に公正取引委員会から帰ってきて東京地検の特捜部に所属したんですが、そのときにゼネコン汚職事件の捜査にも関わったんです。


田原: まさにこの本やドラマは、郷原さん自身が関わったゼネコン汚職を描いているんですが、あれはどういう事件だったんですか?


郷原: その事件の前に、金丸信の脱税事件というのがあるわけですが、あそこで突然金丸さんが脱税で逮捕されて……。


田原: あれも変な事件でしたよね。逮捕される前に金丸さんが佐川急便からカネを受け取ったということで、20万円の罰金でケリをつけていますよね。そこで国民が怒って、ペンキをバーンと投げたりするということがあったわけです。


郷原: たしか5億円の政治資金規正法違反でしたね。それで20万円の罰金で済ませるのか、ということで大騒ぎになったんですね。


田原: それでケリがついたと思ったら、そのあとに脱税で逮捕されたわけですが、これはどういうことだったんですか?



郷原: ゼネコンからいろいろな闇献金が金丸さんに渡っていた、そのお金が金丸さんの所得だ、と認定されて、それを申告していなかったということで、脱税の罪に問われたんですね。その脱税事件の捜査の過程で、検察はいろいろなゼネコンに捜索に入り、そこで宝の山を押収したと噂されていたわけです。そこで「特捜は、ゼネコンと政治家との間の癒着や腐敗について、いろいろなネタを仕込んだ。これからどこまで政界の捜査に切り込んでいくのか」という世間からの期待を一身に受ける形で捜査が始まったわけですね。


■「司法記者」というタイトルにした理由


田原: それで、おそらく郷原さんはその事件をネタにしてこの本を書かれたと思うんですが、僕なんかは当然タイトルは「特捜検事」のようなものになると思うんだけど、なんで「司法記者」というタイトルにしたんですか?


郷原: 私が「司法記者」というタイトルにしたのは、検察の世界もさることながら、検察が無茶な捜査や暴走捜査に駆り立てられていくのは、やはりメディアに煽られるからで、メディアが世論を煽ることで、検察に対する世の中の期待がどんどん膨らんでいくからなんです。たとえば「金丸事件で政界捜査につながるネタがたくさん入ったはずだ、特捜部は当然これから政界捜査に切り込んでいくんだ」ということを、新聞やテレビがどんどん書き立てて世論を煽っていくわけですね。


それを受けて検察は大捜査部隊を組織して、応援検事をたくさん集めて捜査を進めていくんですが、しかし実際に捜査して証拠が集まるかどうかなんて、やってみなければわからないわけです。本当に立件できる贈収賄の事実がある場合もあれば、ない場合もありますし、捜査だって行き詰まってしまう場合もあるし、結局のところは事件を捜査しようと思っても、そんな事実がまったく存在しないということもあり得るわけですね。


しかし、そうなってもメディアが一旦「政界捜査の方向に向かっていくのが当然だ」という方向で書いた以上、メディア全体の論調として「捜査をしたけれども何もありませんでした」では許さないわけですよ。そこで、「政界捜査に波及するのが当然だ」と書いて世の中をどんどん煽っていくわけです。それが特捜検察が暴走する原動力になっていく。ということで、まずメディアが検察に対する追い風を吹かせていく。


そして、そのような追い風を吹かせることに関して、検察からメディアの側に何か具体的なネタを流してリークをしたり、示唆を与えたりしてメディアが記事を書くこともあるわけです。そういう持ちつ持たれつの関係のなかで特捜検察の歪みが生じていって、一つ間違うととんでもない暴走が起きていくんです。


この小説ではそういう問題を主題にしたかったので、単に検察だけの問題ではなく司法メディアにも重大な問題があるということを訴えたかった。それで、「司法記者」というタイトルにしたんですね。


■理不尽で無茶な「特捜」に幻滅した主人公の平検事


田原: このドラマの基本的なストーリーは、検察に郷原さんみたいな織田という主人公がいて、彼は平検事なんですね。それで、本当は平検事は司法記者に話をしてはいけないことになっているんですが、ところがどうも検察のやっていることが無茶苦茶でこれには何か裏がありそうだ、ということに気づくわけです。あるゼネコンの人間が政治家に5000万円渡したということになっているけれども、本当は違うんじゃないか、と疑いを持つわけですね。


あんまりドラマのストーリーをバラしてしまうとよくないけど、実はそのカネはゼネコンの人間が自分の愛人に渡しただけなんじゃないか、それを検察が誤解して政治家に5000万円が渡っていると思って逮捕しようとしている、そのことを知っている織田が、その事実を佐々野という司法記者に話すんですね。


郷原: 元々その司法記者のほうも、「この検察の捜査はどこかおかしいんじゃないか」という問題意識を持っていて、それで平検事への取材が禁止されているにもかかわらず織田のところに夜回りに行くわけですね。


田原: なんで織田は、自分の所属している検察組織を裏切るような情報を司法記者に話すんですか?


郷原: 織田自身がそういう特捜の捜査のやり方に大変な反撥や不満を感じていたんですね。


田原: だけど織田は郷原さんと違って特捜検事になりたいという一心で検事になったわけでしょう? だったら特捜が今一生懸命にある大物政治家を狙って逮捕しようとしているのに、なんでそれを裏切るようなことをやるんですか?


郷原: 実際に特捜検事になってみて、織田は特捜に幻滅するわけですね。要するに、真実を追及していくんじゃなくて、自分たちが成果を挙げるためにストーリーを作り上げて、そのために本当に理不尽で無茶な取り調べをして、無理矢理ストーリーに合わせた調書をとっていって、調書さえとれればいいんだというような、そういう無茶な捜査をしていくわけですね。


■評価を得るためにまかり通っていた暴行


田原: この小説のなかでも、あの検事なら何とか吐かせられるとか、調書に署名させられるというのが検事の得点になる、というふうに書いてありますよね。


郷原: それが特捜検事の能力というか、評価につながっていくわけです。


田原: それをさせるためには、この小説によると、脅しや拷問に近いことをガンガンやると書かれていますが、そういうことは普通にやられているんですか?


郷原: 少なくとも、1990年代前半くらいまでの特捜部のなかでは、そういうことが決して珍しくなかったと思いますし、ゼネコン汚職事件のときには、検事の障害事件が起きていますね。取り調べ中に検事が被疑者に暴行を加えて重症を負わせるという事件が起こっています。殴ったり蹴ったりして、重症を負わせたんです。


田原: 殴る蹴るって、暴力団よりひどいじゃないですか。


郷原: あれは大変な事件だったので、その検事のやったことは問題になり、その検事が起訴されたんです。しかし実は、そういう乱暴な取り調べというのは、その検事だけの問題じゃなかったんです。ところが、検察はそれはその検事個人の問題だということで事件を片づけてしまいました。しかし、実はそういう事件が起きたのは、ゼネコン汚職事件の捜査や取り調べ全体に問題があったからであって、特捜はそれを反省しなければいけなかったのだし、やり方を変えなければいけなかったんです。


田原: だって、1人だけで殴る蹴るをやるわけがなくて、みんながやっているから俺もやらなければいけないと思ってやるわけでしょう?


郷原: しかもそのときに、主任検事や副部長、部長らの上司が調書をとることを期待しているわけですから。殴れとか蹴れと言っているわけではないけれども、あらゆる手段を使ってとにかく自白させろと要求しているわけで、上司がそれを求めているから、その期待を受ける形で現場の検事がそういう無茶なことまでやってしまうわけです。


他の検事の取り調べのなかでも同じようなことが起きていてもまったく不思議はないわけです。ところが、当時の検察組織はそれを全体的な問題として検証しようとはしなかったし、当時の司法マスコミもまったくの個人的な事件ということで収めてしまって、特捜全体の批判にはまったくつながらなかったんです。


■署名をせざるを得ないところまで徹底的に追い込む


田原: そういえば、女の子を強姦して殺したとされる足利事件(※)という冤罪事件がありましたよね。あの事件の被疑者が無罪になって釈放されたあと、僕は彼に僕の番組に出てもらったんですよ。それで「あなたは強姦殺人事件というとんでも事件で冤罪を着せられたけど、一体本当のところはどうだったんですか」と聞いたんです。


そうしたら、「実は私は自転車に乗って幼稚園に行って、そこで休んでいる女の子がいたから、それを自転車の後ろに乗せて川縁まで行って、そこで下ろしたんです」と言うので、僕は驚いて「あなた、それは検察が主張しているストーリーそのままじゃないですか」と言ったんです。


つまり、彼はもう無罪になっているのに、それまでに何百回も警察や検察から同じストーリーを無理矢理言わされてきたから、釈放されたあとでもその検察側が刷り込んだストーリーを言っているんですね。これは怖いですよね、だってそんな事実はないんですよ。それを警察や検察が彼を拷問してそんなストーリーを自白させたわけで、それなのに自分でもそれを事実だと思い込むようになってしまっているわけです。


郷原: ああいう事件では、そういう誘導に乗りやすいタイプの人というのがいて、頭のなかの記憶がすり替えられてしまうんですね。ただ、特捜の扱う事件はそういうものじゃないんですよ。やはり、企業人や政治家や政治家の秘書とか、そういう人たちというのはとことん抵抗するんですよ。事実に反することであれば、検察がとろうとしているストーリー通りの調書に署名なんかしないんです。


田原: でも、さっき名前の出た宗像さんは、「サラリーマンは弱い」と言っていましたよ。サラリーマン、とくに役員なんかは、普段は他人から怒鳴られたりすることはないから(笑)。


郷原: だから全然事実と違っていても最終的に署名をしてしまうんです。しかし、それは記憶を刷り込まれたからじゃなくて、署名をせざるを得ないところまで追い込まれるから、結果として調書が出来上がってしまうというだけのことなんです。


ですから公判で証人に呼ばれるとひっくり返すわけですね。「いや、そんなのは事実じゃないです」と。しかし、刑事訴訟法321条の1項2号で、承認が検事調書と相反する供述をした場合に検事調書を証拠にできるという日本の刑事訴訟法の規定があって、それで結局調書によってその事実が認定されていくというのが日本の調書裁判の問題なんです。


■正義を確信し、最後まで諦めない


田原: この小説の場合、鬼塚という副部長はどの辺で自分たちの作ったストーリーがおかしいと気づくんですか?


郷原: それは難しい質問ですね。というのは、言ってみれば、もうその事件に自分の検事生命を賭けているような人というのは、おそらく自分でも自分の頭のなかにそういうストーリーを刷り込んでいるんだろうと思うんですね。それはもう、「絶対こいつはもらっているんだ、こいつは悪い奴なんだ」と確信を持っているわけですよ。


ですから、仮にそのお金がそのときにはその政治家に渡っていなくても、「ちょっと時期が違うだけでどうせ同じようなことをやっているんだ、だからとにかく調書をとってしまって、この時期にお金が渡ったことにすればいいんだ」というような気持ちにもなってしまうんですよ。ですから鬼塚も最後まで自分が間違っているとは思っていないんじゃないですかね。


田原: ああ、そこまでいっちゃうものなんですか。「間違っていてもこのまま突っ走ろう」というのではないんですね?


郷原: だから三浦友和さんが演じているこの副部長も、どんな事実が出てきても最後まで諦めないんですよ。それは確信を持っているからなんですよ、かなりの部分、思い込みではあるんですが、でも本人的にはそれは確信なんですよ。それが正義だという確信に近いんです。


※1990年5月栃木県足利市にあるパチンコ店の駐車場から女児が行方不明になり、翌朝、近くの渡良瀬川の河川敷で遺体となって発見された。犯人として菅家利和が逮捕、起訴され、実刑が確定して服役していたが、遺留物のDNA型が彼のものと一致しないことが2009年5月の再鑑定により判明し、彼が無実だったことが明らかとなった。真犯人が検挙されていない未解決事件である。


田原: なるほど、そういうものですか。じゃあ、本物のゼネコン事件の捜査はなぜ失敗したんですか?


郷原: あれは失敗にはなっていないんじゃないですか?


田原: だって、一番の本星は逮捕できなかったじゃないですか。


郷原: それはその過程で、やろうとしていた自民党の有力政治家の事件が潰れたということはありましたが、最後は「この事件で政治家逮捕につながらなかったことを、あなたは許せますか、納得できますか」ということを新聞やテレビが大キャンペーンで世論を煽るわけですよ。


それで最後の最後になって、中村喜四郎さんが収賄でアッサリ逮捕されたんですが、一応特捜部はその使命を果たしたということになって終わったわけですから、あの事件は成功したということになっているんじゃないですかね。


■1000万円の授受で政治生命が絶えた中村喜四郎


田原: 中村喜四郎なんて可哀相ですよ、本当は犠牲者ですよね。僕は彼に取材したんだけど、埼玉土曜会事件ですか、あれで彼は1000万円もらったんですが、本人が「要らない」と言ったら金丸信が「いや、もらっておけよ」と言ったんでしょう?


郷原: これは私が3年、4年くらい前に出した『検察が危ない』という本にも書いたことなんですが、あの事件では表向きは「公取に告発させないように中村代議士が公取委委員長にプレッシャーを掛けた」ということで、ゼネコンから1000万円の謝礼をもらったということになっています。


ゼネコンの談合事件が公取から検察に告発されないようにするために、彼が公取の委員長に「告発しないでくれ」という働き掛けをして、その謝礼に1000万円もらった斡旋収賄だということになっていて、不正の働き掛けをして謝礼の賄賂をもらったという事件で起訴されたわけです。しかし、実は私はその埼玉土曜会事件を公正取引委員会への出向検事として担当した当の本人なんです(笑)。


私はそのとき、公取の出向検事だったんです。ですから、なぜあの事件が告発されなかったのかという内幕は全部知っています。『検察が危ない』なかにも報道などで表に出ている範囲のことは書いていますが、一言で言うと検察が告発をさせなかったわけで、検察のほうが告発を受けつけなかったんですよ。最終的にはそういう検察の判断で、それを受けて公取が自主的に自ら告発を断念するということになったんです。


告発ができなかったのは検察の判断だったし、公取の側からしたら告発したかったのにできなかったということであって、そこで中村喜四郎代議士が間に入ってチョコチョコ何を言おうと関係なかったということなんですよ。


検察は自分たちが独禁法の告発事件に非常に冷淡な態度をとって告発さえさせなかったことを棚に上げて、最後は他にろくなネタもなかったものだから、この中村喜四郎代議士へ渡った1000万円を政界汚職の大事件に仕立て上げて自分たちの面子を守ったわけです。


田原: たった1000万円の授受で、中村喜四郎は政治生命が事実上絶たれてしまったんですよね。


郷原: あの事件の証拠関係がどうのこうのとか、斡旋収賄罪が成立するかどうかという問題は別として、その間の経過を考えてみると、あのやり方はあまりにも理不尽じゃないか、こんなやり方はちょっとどうなのか、ということを私は疑問に思ったんです。


以下、第4回へ続く



連続ドラマW 「トクソウ」
日曜夜10:00放送 WOWOWプライムで放送中



田原総一朗(たはら・そういちろう)
1934年滋賀県生まれ。早稲田大学文学部卒業。岩波映画製作所、東京12チャンネル(現・テレビ東京)を経て1977年フリーに。現在は政治・経済・メディア・コンピューター等、時代の最先端の問題をとらえ、活字と放送の両メディアにわたり精力的な評論活動を続けている。


郷原信郎(ごうはら・のぶお)
1955年島根県松江市生まれ。弁護士。東京大学理学部卒。東京地検特捜部、長崎地検次席検事、法務省法務総合研究所総括研究官などを経て、2005年より桐蔭横浜大学法科大学院教授、06年弁護士登録。08年郷原総合法律事務所開設(現・郷原総合コンプライアンス法律事務所)。関西大学客員教授、公正入札調査会議委員(国交省、防衛省)、産業構造審議会商務流通情報分科会安全小委員会委員(経産省)、横浜市コンプライアンス外部委員なども務める。由良秀之のペネームで出版した『司法記者』をはじめ、『独占禁止法の日本的構造』『コンプライアンス革命』『思考停止社会』『特捜検察の終焉』『銀行問題の核心』など著書多数。


 

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コメント
 
01. 2014年5月20日 13:28:02 : qSc0zm83A6
日本の司法制度はおかしい。

日本国憲法の三権分立は、司法の独立に関する部分が、主要国の憲法と比較して極めて不十分である。



02. パラノイア 2014年5月20日 19:08:48 : 5cZmKXh9BZOYo : MqXJme0BqI
出たな、偉大なガス抜きカップル。
自覚あるの?ないの?w

03. 2014年5月20日 19:43:46 : 2f4eqyymkM

 >出たな、偉大なガス抜きカップル。

 うふふふ

 そうだね〜〜〜

 デモでさへ 体制側のお金をもらってたなんて話がある

 ===

 共産党が 最大の ガス抜き団体ではないかな〜〜〜

 共産党の 弁護士も ひどい 

 彼らは 韓国人の味方ではないかと 感じることもある
 
 ===

 ま〜〜 安倍自身の先祖 そのものが 大昔の百済(韓国)だと思える

 のだけど
 

[32削除理由]:アラシ


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