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慶大名誉教授・小林節氏「解釈改憲は憲法ハイジャック」(下)
http://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/150288
2014年5月19日 日刊ゲンダイ
「裏口入学はダメ」と一喝/(C)日刊ゲンダイ
平和憲法改正に執念を燃やす安倍政権が昨年、憲法改正手続きを定めた96条を先行改正しようとした時に「裏口入学はダメだ」と叩き潰したのが、この人だ。学会の重鎮の怒りに、さしもの安倍首相も方向転換せざるを得なくなったのだが、そこで持ち出してきたのが閣議決定による解釈改憲で、限定的に集団的自衛権を認めてしまおうという“禁じ手”だ。度重なる安倍のデタラメに重鎮の怒りが再び、爆発!
――96条改正を引っ込めたと思ったら、今度は解釈改憲で9条を骨抜きにしようとしていますね。いろいろな限定、条件を付けて、集団的自衛権を行使できるようにしようとしている。
安倍政権は錯乱しているとしか思えません。まず、大前提として、憲法は国家権力を縛るものなのです。縛られる国家権力の中で一番強いのが内閣ですよ。その内閣が閣議決定で憲法解釈を変えて、憲法の精神をひとひねりしようとするなんて、あり得ないことです。この行為自体が憲法違反、「憲法ハイジャック」だと思います。
――まず、解釈改憲という手法がおかしいと。しかも、変えようとしている中身が現行憲法の根幹、平和憲法の破壊です。慎重な公明党を納得させるためにさまざまな限定を付けようとしていますが、条件を付ければいいってもんじゃありません。
他国には許可なしに行かないとか、必要最低限とか、いろいろ条件を付けようとしていますが、その場しのぎの詭弁(きべん)です。いくら内閣が言葉で約束したって、後の内閣が「事情が変わった」「条件を変える」と言えば、それまででしょう。政治家は「信じてください」って言いますが、信じられません。権力者は信じられないから憲法があるんですよ。歴史を振り返ってごらんなさい。権力者を信じてロクなことはなかったでしょう。我々国民が唯一、安心出来るのは憲法なんです。だから、どうしても集団的自衛権を行使したいのであれば、国会で熟議し、3分の2以上の賛成を得て、国民にも資料を配り、議論を促し、国民投票に問うて、憲法を変えればいいのです。
■想定されている事態は個別的自衛権で対応できる
――限定の中身を見てみると、個別的自衛権で対応できるようなことばかりに見えますが、専門的にはどうでしょうか?
北朝鮮と韓国が戦争を始めれば、米国も当事者になる。当然、在日米軍基地が狙われるので、これはすなわち、日本の個別的自衛権の話になります。太平洋で米軍と自衛隊が一緒に訓練をしている時に米軍が攻撃されれば、これも日本が攻撃されたのと同じです。訓練をしている先生と生徒がいて、先生がやられれば生徒も攻撃されたことになる。物流を支える海の廊下、シーレーンが攻撃されても、日本の自衛で対応できます。グアムに向けてミサイルを撃たれた場合はどうか。我々の領空に危険物を投げ込まれたのですから、警察権を行使し、除去すればいい。害虫駆除と一緒です。つまり、今、議論されていることはいずれも個別的自衛権を拡大して対応できるのです。そのように対応すれば、個別的自衛権以外に自衛隊は使えないのですからおのずと歯止めになる。しかし、集団的自衛権という大風呂敷を広げたら、原理的にはどこへでも出ていけますよ、ということになってしまう。
――集団的自衛権を限定するよりも、個別的自衛権を拡大する方が安全、安心ということですね。
集団的自衛権というのは国際慣習法上の概念で、同盟関係の国がどこかで戦火に巻き込まれたら、無条件に助けに入るというのが本質です。つまり、本当に集団的自衛権を認めるというのであれば、片務契約である日米安保条約も双務契約に変えて、日本も米国を助けに行く義務を負わなければいけない。そんな覚悟がありますか? 私はそんな覚悟を持ちたくない。日本の同盟国は世界中、敵だらけじゃないですか? キリスト教とイスラム教は歴史的な戦争をやっている。武器の質量で劣るイスラム側はゲリラ作戦を展開し、それを米国はテロ犯罪だと批判する。その米国と一緒に戦うようになれば、東京で9・11が起こり得るのです。
――自民党の高村副総裁は最高裁の砂川判決を持ち出して、集団的自衛権は認められているのだと言っていましたね。今、行われている議論はあまりにもとっぴで驚かされます。
高村議員は弁護士ですが、裁判の大原則を忘れています。裁判所の判決というのは、当該事件について、個別的に判断を下すものです。砂川裁判は在日米軍基地内に立ち入ったデモ隊を裁いたもので、その際に在日米軍の合憲性が問われたのです。米国が集団的自衛権を行使するために在日米軍を置いていることが、日本国憲法9条で禁じている戦力に相当するかどうかが問われたもので、日本の集団的自衛権の有無とは関係ない。さらにこの判決で最高裁判所は統治行為論に立ち、「日米安全保障条約のように高度な政治性を持つ条約については、一見してきわめて明白に違憲無効と認められない限り、その内容について違憲かどうかの法的判断を司法は下すことはできない」として判断から逃げたのです。最高裁が逃げた判例で、最高裁から集団的自衛権のお墨付きを得たという理屈はおかしい。集団的自衛権の議論を見ていると、いくつものデタラメが複雑に何重にも絡み合っているので、呆れています。
▽こばやし・せつ 1949年生まれ、65歳。都立新宿高を経て慶大法学部卒。法学博士、弁護士。慶大教授を経て現名誉教授。「朝まで生テレビ!」などに出演。憲法、英米法の論客として知られる。「白熱講義! 日本国憲法改正」など著書多数。
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