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他国のために自衛隊の武力を使う集団的自衛権の行使などについて、安倍晋三首相は15日の会見で検討を明言した。しかしなぜ行使が必要なのか、首相の説明には様々な疑問が浮かぶ。五つの論点で読み解いた。▼1面参照
<1>若者らを救えない? 救援より他国警護中心か
「アジアでアフリカで、たくさんの若者たちがボランティアなどで地域の平和や発展のために活動している」「近くで活動するPKO要員もいる。しかし、彼らが突然、武装集団に襲われたとしても、自衛隊は彼らを救うことができない」
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安倍首相は会見で「年間1800万人が海外に出かける時代」と強調。パネルを示し、NGOの日本人ボランティアや他国の国連平和維持活動(PKO)の要員が、現地の武装集団に攻撃されても、PKOで派遣された自衛隊が警護できないと訴えた。
自衛隊の武器使用は憲法が禁じる海外での武力行使につながる恐れがあり、PKO協力法などで正当防衛や緊急避難などに限定されている。安倍内閣は集団的自衛権とは別に、PKOで派遣された自衛隊と他国部隊などとの連携をしやすくする狙いから、離れた場所にいる他国部隊や日本人を救援する際も武器が使えるよう法改正をめざす。
複数の国が連携することが多いPKOでは、自衛隊の武器使用基準が緩和されれば、日本人の救援よりむしろ他国部隊の警護の役割が多くなりそうだ。一方で自衛隊が戦闘行為に巻き込まれる危険性も増す。
ただ、自衛隊が現在参加するPKOはアフリカの南スーダンだけ。自衛隊員を除く現地の日本人は大使館員ら十数人。昨年12月に事実上の内戦状態となり、NGO関係者らは全員が退避している。首相が示す、PKO派遣の自衛隊が海外で民間人を救うケースがどの程度あるかは未知数だ。
<2>憲法前文まで根拠? 9条解釈変更、苦しい説明
「生命、自由、幸福追求に対する国民の権利を政府は最大限尊重しなければならない。憲法前文、13条の趣旨を踏まえれば自国の平和と安全を維持し、その存立を全うするために必要な自衛の措置をとることは禁じられていない。そのための必要最小限度の武力の行使は許容される」
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集団的自衛権の行使とは、日本が攻撃を受けていなくても、「密接な関係にある外国」を日本が守り、相手に反撃するものだ。歴代内閣は憲法9条に反すると解釈してきたが、安倍首相は、行使容認を求めた私的諮問機関の提言を「従来の政府の基本的な立場を踏まえた」と説明した。
首相が解釈変更の根拠として、1972年の政府解釈のうち憲法前文と13条を踏まえた「自国の平和と安全を維持し、その存立を全うするために必要な自衛の措置をとることは禁じられていない」との部分を引用。一方、72年解釈が「集団的自衛権の行使は憲法上許されない」とした部分には触れなかった。
首相は一方で、今月上旬の訪欧時に演説した際、9条の解釈変更について各国から支持を得たとアピール。「憲法が掲げる平和主義は守り抜いていく」と強調した。
ただ自民党は本来、前文も含めた憲法改正を志向する。戦争放棄を定めた9条と前文は憲法が掲げる平和主義の根幹で、一部を引用する姿勢は本来の憲法の理念とは相いれないものだ。
<3>邦人乗る米艦守れぬ? 米軍が救助、見えぬ現実性
「紛争国から逃れようとしているお父さんやお母さんや、おじいさんやおばあさん、子どもたち。彼らが乗る米国の船をいま私たちは守ることができない」「この議論は、国民の皆さま一人ひとりに関わる現実的な問題であります」
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安倍首相は米軍艦に母と子らが乗り込む姿を描いたパネルを示し、集団的自衛権を行使しないと「米艦を守れない」と強調した。
海外の日本人が危険に巻き込まれたケースは実際にあるが、米軍に救助された例は「聞いたことがない」(防衛省)という。民間機などで避難したケースでは、イラン・イラク戦争中の1985年、イランに取り残された日本人200人超がトルコ政府が手配した航空機で脱出した例がある。90年からの湾岸危機の時には、日本の市民団体が民間機約10機を手配し日本人ら約3千人を移送した。
自衛隊機や艦艇が日本人を紛争地域から退避させることは自衛隊法で規定されている。昨年のアルジェリアでのテロ事件を受けた法改正で、車両による陸上輸送も可能になった。
首相が会見で想定例としたのは、朝鮮半島の有事(戦争)とみられる。緊急時には自衛隊を派遣して在韓日本人を退避させることもありうるが、韓国側との調整が必要になる。「米軍は米国民の避難を優先するのでは」(政府関係者)との声もある。行使容認に慎重な公明党は個別的自衛権などで対応が可能との立場だ。同党の山口那津男代表は16日、首相が示した例について「実際のリアリティーがどれほどか、よく吟味すべきだ」と述べた。
<4>戦争に巻き込まれない? 参戦決断、迫られることも
「あらゆる事態に対処できるからこそ、そして対処できる(安全保障の)法整備によってこそ抑止力が高まり、紛争が回避され、戦争に巻き込まれることがなくなる」「各国と協力を深めていかなければならない。それによって抑止力が高まる」
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安全保障上の抑止力とは、防衛や反撃の能力を持つことで、相手国に攻撃を思いとどまらせる考え方だ。軍備を進めれば、攻撃を受ける危険性が減るとの考え方は東西冷戦時代を象徴するもので、軍事力の均衡を保つ効果が期待できる半面、際限のない軍拡競争につながる危険性がある。
首相は、集団的自衛権の行使容認で自衛隊の対処能力が向上し、「抑止力が高まる」と説明する。だが行使容認に慎重な公明党の山口代表は「圧倒的な軍事力をもつ米国と安保条約を結んでいる。日本に攻撃が加えられた場合は(米国が)対処することも条約で書かれている」と述べ、必要な抑止力は持っているとの認識を示す。
首相は、集団的自衛権を含めた法整備で「戦争に巻き込まれなくなる」と主張するが、行使は他国での戦争に日本が加わることだ。
これまでは日本が直接攻撃を受けた場合に反撃できる個別的自衛権のみが認められてきた。行使を容認し、米国などの支援要請を受ければ、日本は戦争参加の決断を迫られることとなる。参戦を前提とする集団的自衛権行使を認める理由に「抑止力」を挙げるのは矛盾した論理と言える。
<5>国民に信は問わない? 会見ではっきりと答えず
「衆院選でも参院選でも、国民の生命、財産、領土、領海は断固として守り抜いていく、その責任を果たしていかなければならないと申し上げてきた。(安保政策転換の)検討はこうした国民との約束を実行に移していくものだと確信している」
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自民党は集団的自衛権の行使について、12年衆院選で公約としたが、政権復帰後の13年参院選では総合政策集には入れたものの、公約には盛り込まなかった。
報道陣は会見で、この点を踏まえて、集団的自衛権の行使など安保政策の転換が一昨年の衆院選や昨年の参院選で大きな争点とならなかったと指摘。「衆院を解散して国民の信を問う考えはないか」と質問した。
安倍首相はこれに対し、「演説で国民の生命を守ると申し上げた」などと反論し、憲法解釈変更の検討を含めて「国民との約束を実行に移していく」と言い切った。一方で集団的自衛権の行使容認を争点に選挙で信を問うかについては、はっきり答えなかった。
明確な争点として示さなくても、国のかたちを変えるような重大な政策転換が可能となる――。こうした考えは、選挙でいったん民意を得た政権の権限を拡大解釈するもので、憲法が権力を縛る「立憲主義」にも反するものだ。首相が2月の国会答弁で「(憲法解釈の)最高の責任者は私だ。私たちは選挙で国民の審判を受ける」と語り、批判を浴びた姿勢とも重なる。
(鯨岡仁、渡辺丘、鶴岡正寛)
http://www.asahi.com/articles/DA3S11139724.html
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