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世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第75回 日米安全保障条約第5条
http://wjn.jp/article/detail/2132820/
週刊実話 2014年5月22日 特大号
アメリカのオバマ大統領が来日し、尖閣諸島について、
「日米安全保障条約(以下、安保条約)第5条の適用範囲にある」
と、明言した。
これを受け、日本国内では「日本の外交的勝利」といった論調が目立つが、今ひとつ意味がわからない。何しろ、尖閣諸島が安保条約第5条の対象となるのは、自明の理であるためだ。
尖閣諸島は日本領であり、我が国の施政の下にある島々だ。当然、安保条約第5条の適用範囲である。それを疑ったことは、筆者とてない。
問題は、安保条約第5条そのものである。何しろ、この条約は、日本が軍事衝突や紛争に巻き込まれた際に、「自動的に米軍が参戦する」ことは規定していないのだ。
安保条約第5条は、以下の条文となっている。
『第5条 各締約国は、日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続に従って共通の危険に対処するように行動することを宣言する。』
ポイントは「自国の憲法上の規定及び手続に従って」という部分になる。
日本国民の多くが誤解しているように思うのだが、日米安保条約は、日本が軍事紛争に巻き込まれた際に、アメリカ軍が「自動的に参戦する」ことは定めていない。アメリカは、あくまで「自国の憲法上の規定及び手続きに従って」軍事介入するか、否かを「判断」することになる(何しろ、条文にそう書かれている)。
すなわち、アメリカが果たして、
「同盟国の辺境の無人島を守るために、核保有国(中国)を相手に軍事介入するのか?」
という疑問を、日本側は常に持っておかなければならないのだ。一国の安全保障を考えるとは、そういうことだ。
アメリカ大統領は、今更書くまでもないが、アメリカ陸海空軍や各州の州兵の最高司令官である。とはいえ、アメリカ合衆国憲法には、大統領一人の意志で戦争を始めることが可能な戦争権限を明示していない。
合衆国憲法第1条には、宣戦布告権が書かれている。アメリカ大統領は、連邦議会(上院、下院)で武力行使の権限を大統領に付与する決議案が可決された場合にのみ、宣戦布告が可能になる。
ベトナム戦争のように「なし崩し的」に軍事行動が始まり、泥沼化した戦争を経験したアメリカは、大統領を連邦議会が監視することを目的とした「戦争権限法」を制定したのだ。
一応、2カ月間のみは「戦時権限法」により、アメリカ大統領の権限のみで軍事行動がとれる。だが、アメリカ大統領は事後48時間以内に議会へ報告を義務付けられている。
さらに、60日以内に議会が大統領に武力行使権限を与えることを可決してくれなければ、軍事行動はストップする。
ちなみに、イラク戦争の際には、アメリカ議会は各種の条件を付けたものの、ブッシュ大統領に武力行使権限を与える法律が可決された。イラク戦争にしても、アメリカの「手続き」に基づいて始まったのである。
すなわち、尖閣有事の際にアメリカが軍事介入するか否かは、大統領の判断および議会の議決に依存するのである。
正直、筆者がアメリカの政治家であれば、たとえ同盟国日本であれ、無人島の防衛のために核保有国を相手取り、戦端を開くような決断はできない。何しろ、アメリカは「民主主義国」なのである。
話は変わるが、ウクライナはかつて「世界第3位」の核保有国だった。ソ連が崩壊し、数千発の核兵器がウクライナに残されたのである。
その後、'94年にウクライナは核不拡散防止条約(NPT)に加盟し、核を放棄する方針を決定した。国内の核弾頭は'96年までに、廃棄されるか、もしくはロシアへ移管された。大陸間弾道弾(ICBM)のサイロについても、地下構造にコンクリートが流し込まれ、使用不可能な状態にされたのである。
'94年12月、アメリカとイギリス、そしてロシアは、ブダペスト覚書により、ウクライナが核兵器を放棄したのと引き換えに、
「ウクライナの独立と領土、既存の国境線を尊重し、領土保全や政治的独立を損ねるような、脅し、軍事力の行使、経済的強制策について自制する」
と、明確に約束した。
そして、2014年3月。ロシアはクリミア半島を編入し、国境線の変更を行った。それに対し、アメリカは軍事力を行使することはなかった。
ウクライナが核兵器を放棄せず、世界第3位の核保有国のままだったならば、どうなっていただろうか。歴史に「もし」は許されないが、筆者の勝手な予想を書かせて頂くと、さすがにこれほど短期間でウクライナがクリミア半島を「奪われる」ことにはならなかったのではないか。ウクライナは核兵器の「放棄損」という話になってしまったわけだ。
いずれにせよ、世界は「条文がある」「条文にこう書かれている」「誰々が何々を約束したから、必ず守られる」などといった、ナイーブなものではない。
特に、中国や韓国は国際法を勝手に「解釈」し、自国の国益を追求しようとしてくる。そして、それこそがある意味で「グローバルスタンダード」であるという現実を、日本国民は理解しなければならない。
オバマ大統領は、来日時の記者会見で、日米安保に基づく防衛義務の範囲に尖閣諸島を含むとする米国の立場について「新しいものではない」と述べた。それはそうだろう。条文にきちんと「日本国の施政の下にある領域」と書かれている。日米安保の防衛義務範囲に尖閣諸島は含まれるというのが、元々のアメリカの立場なのだ。
右記会見の際に、ある記者が、
「中国が尖閣諸島に軍事侵攻した場合に米国は軍事力を行使するか?」
と、そのものズバリの質問をしたのだが、オバマ大統領は明確な回答を避けた。条文に「自国の憲法上の規定及び手続に従って」と書かれている以上、オバマ大統領が、
「尖閣諸島に中国が軍事侵攻した場合は、アメリカは軍事力を行使する」
と、断言できるはずがない。
いずれにせよ、日本はそろそろ「アメリカが○○と言った」「アメリカの××が○○といった」という、ある意味で属国的な安全保障確立路線を改める時期である。
アメリカ依存で全てが巧くいくような時代は、とっくに過ぎ去ったのだ。
三橋貴明(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、わかりやすい経済評論が人気を集めている。
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