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(政々流転)村木厚子・厚生労働事務次官 ぶれない、苦しいときも
http://www.asahi.com/articles/DA3S11128648.html
2014年5月11日05時00分 朝日新聞
◇村木厚子・厚生労働事務次官(58歳) 「夢中に、一生懸命」歩み続ける
女性の活用は安倍政権の金看板だ。人口が減り、女性の力なしで日本の展望は開けない。時代の要請に導かれ、厚生労働官僚の村木厚子(58)は史上2人目の女性事務次官に就いた。様々な問題の対応に追われる日々だが、気負いはない。優しさと強さを併せ持つ自然体で女性キャリアの新たなモデルを作り、次の世代へと引き継ぐ。
「今のあり方で、人の命や人生が損なわれている状況は私にとって耐え難い」。刑事事件の取り調べの可視化を検討している4月30日の法制審議会部会。「支障が大きい」と抵抗する警察や検察に村木は決然と反論した。
厚生労働省局長だった2009年6月、身に覚えのない郵便不正事件で逮捕され、164日間勾留された。10年9月の無罪判決で復職、昨年7月、2期上の先輩を飛び越し次官に抜擢(ばってき)された。11年6月からは冤罪(えんざい)事件の当事者として法制審部会の委員も務める。
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検察の追及に屈せず、管理職の97%が男性の霞が関でトップに就いた村木は、男顔負けのバリキャリ女性と思われがちだ。97年に、女性初の事務次官となった旧労働省の松原亘子はこのタイプに近いが、村木はまるで違う。
いつも穏やかで相談に乗ってくれるお母さんのような存在――。男女を問わず同僚や知人の評判は共通する。キャリア官僚だからと大上段に構えず、国家論を大仰に語ることもない。女性や障害者が働きやすい世の中にしたいと、必死に取り組むうちに、組織の頂点にたどりついていた。幼なじみは「目の前の仕事をこつこつやる姿勢は変わらない。どこまで出世するかなんて話したこともない」と振り返る。4月の入省式では「仕事でつらい時、家族のことで困った時、SOSは早く出しましょう」と新人を気遣った。
かつて村木は母校の創立記念誌に記した。「好きなこと、夢中になれることを一生懸命やれば、とても強くなれる」。村木の歩んだ道そのものだ。
民間企業ばかりか、中央省庁でも女性キャリア採用がほとんどなかった78年、高知大から旧労働省に入った。男女差別がなく、結婚や出産をしても働き続けられると思ったからだ。
29歳で長女を出産、産後6週間で復帰した。育児休暇の法施行はその7年後だ。地方勤務は2歳の娘と2人で赴任。長期海外出張では、初対面の保育ママに娘を1カ月間預けた。「足りない時間はお金で買った」は省内の語り草で、娘2人の保育には年300万円以上かかった。仕事は厳しかったがやりがいがあり「苦しいのは一時。何とかなる」と自分に言い聞かせた。後輩女性たちはその姿に勇気づけられた。
一度決めたらぶれない。障害保健福祉部企画課長だった03〜05年、障害者自立支援法をまとめた。それ以前の障害者支援費制度は、深刻な財源不足に陥っていた。安定した制度に改めるのが自分の役割と思い定めた。だが、障害者に1割負担を求め激しい反発を招き、反対派が連日厚労省を囲んだ。
「法案が成立しなければ、サービスを受けられず困る障害者がたくさん出てしまう」。夜昼構わず集会に出向き、説得に奔走した。部下だった男性は振り返る。「厳しい状況でも愚痴一つ言わず逃げなかった。この人のために頑張ろう、と思わせる上司だった」
その後の政権交代で1割負担は事実上撤回されたが、安定財源が確保され、障害福祉サービス全体の予算はこの10年で2倍以上に拡大した。
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今春、村木は肝いりの人事をした。省内の連絡調整を担う各部局総務課などの筆頭課長補佐32人の1人に、子育て中の女性を起用した。長時間労働で責任も重く、女性キャリアが多い厚労省ですら男性が占めてきたポストだ。
男女に能力差はないが、出産・育児で職場を離れると男性との経験差が生じる。そう痛感してきたから、後に続く女性たちにあえて厳しい経験を積ませ、励ます。「もっと自信を持って。チャンスから逃げないで」。今年度から省庁の採用の3割は女性になる。
それでも安倍政権に「広告塔」として利用されているのではないか? そう問うと、「次官は歯車の一つ。チームで仕事をする官僚組織で良いパスを回せるかが大事」と自らの信条をのぞかせた。そして、働き続けようとする中で苦労も楽しみに変えてきた官僚人生のゴールを前にこう言った。「引退したら『育ばあ』になりたい。ここまで働けたのは娘の協力があってこそ。恩返ししないと怒られる」=敬称略(石松恒)
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