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憲法記念日の日テレ「主従逆転」ニュースは誘導では? 大型連休中のテレビ報道の「あれれ?」(その3)
http://bylines.news.yahoo.co.jp/mizushimahiroaki/20140506-00035082/
2014年5月6日 21時55分 水島宏明 | 法政大学教授・元日本テレビ「NNNドキュメント」ディレクター
5月3日の憲法記念日のテレビのニュースを見て「あれれ?」と感じたことがいくつかあった。
この日のニュースでは「護憲」と「改憲」のそれぞれの立場の団体の集会が行われました、と伝えるのが毎年の恒例行事だ。
「NHKのニュース7」もそれぞれの立場の市民団体が集会を行ったというニュースを伝えた。
ネットに残るニュース原稿を引用すると以下の2つのニュースの合わせ技だ。
大事なことは、「護憲」の集会が先にあって、次に「改憲」の集会と続くのがNHKニュースのバランス感覚だということだ。
憲法を守る立場の団体が集会(NHK)
5月3日 17時17分
憲法を守る立場の団体が集会 憲法記念日の3日、憲法を守る立場の団体が東京の日比谷公会堂で集会を開き、およそ3700人が参加しました。 この中で、憲法学者で学習院大学大学院教授の青井未帆さんが「憲法を変えることは将来にわたって国の姿を変えることになるため、厳しい要件が課せられている。他国を攻撃し、若者が命を落とすような日本にしてしまう決定は、1内閣の解釈だけで責任が取れる問題ではない」と述べ、憲法解釈の変更による集団的自衛権の行使容認を批判しました。 また、ジャーナリストの津田大介さんは「声高に反対するだけでなく、集団的自衛権を行使しなくても日本を守れることを淡々と指摘することが大切だ」と訴えました。 このあと参加者は、東京・銀座でデモ行進を行い、横断幕を掲げて「今の憲法を生かそう」などと訴えました。 集会に参加した30歳の女性は、「子や孫の世代にも戦争をしてほしくないので集団的自衛権が行使されないようにしてほしいです」と話していました。
出典:NHK NEWS WEB
憲法改正を求める集会(NHK)
5月3日 17時41分
憲法記念日の3日、憲法改正を求める立場の団体が都内で集会を開き、「憲法と現実の間に大きなずれが生じている」として、憲法を速やかに改正するよう訴えました。 憲法改正を求める立場の「新しい憲法をつくる国民会議」が東京・新宿区で開いた集会には、およそ400人が参加しました。 憲法学者で平成国際大学の高乗正臣副学長が集団的自衛権と憲法9条について講演し、「条文を変えずに解釈で集団的自衛権を容認しようとすることには無理がある。政府は9条の改正を正面から打ち出し、自衛隊を国防軍に位置づけることを国民に問うべきだ」と述べました。 集会では、このあと「時代は急速に変化していて、憲法と現実との間に大きなずれが生じている。解釈で補う方法は限界にきている」などとして、速やかな憲法改正を求める決議を採択しました。 参加した72歳の男性は、「憲法改正の機が熟してきたと思い、久しぶりに参加しました。国民の手で憲法を改正するべきだと思います」と話しました。
出典:NHK NEWS WEB
現時点において改正されていない形の憲法が国家の最高法規として存在する以上、「護憲」が主となり、「改憲」が従という順番で並べて報道するのが自然な形の報道のセオリーでNHKの「ニュース7」のバランス感覚はごく真っ当だと感じる。
ところが5月3日の各社のニュースをチェックしてみて驚いた。
憲法記念日に憲法問題を扱わないというニュース番組が続出していたのだ。
フジテレビは昼と夕のニュースともに憲法記念日の集会などをまったく扱わず。
テレビ朝日は昼ニュースでは扱わず。夕方ニュースでは政党の声だけごく短く伝えたにとどまった。
日本テレビでは昼ニュースはなし。
夕方の「news every.サタデー」では報道したが、その見出しのつけ方には驚いた。
「憲法記念日の今日、憲法改正をめぐって、賛成派と反対派の市民団体などがそれぞれ集会を開きました」というのがスタジオのアナウンサーが読み上げたリード文で、タイトル(見出し)は「憲法改正めぐり“賛成派”と“反対派”が集会」だ。
憲法改正めぐり“賛成派”“反対派”が集会(日テレ)
< 2014年5月3日 17 憲法記念日の3日、憲法改正をめぐって賛成派と反対派の市民団体などがそれぞれ集会を開いた。 東京・新宿区で開かれた憲法改正を求める集会には自民党、日本維新の会、それにみんなの党の議員が出席し、改正の必要性を訴えた。 自民党・船田憲法改正推進本部長「あらゆる角度から憲法の中身、憲法の問題点を眺め回して、変えるべきところは変える、直すべきところは直す、これが私たちの正しい憲法に対する態度だ」 集会では、「憲法改正に向け、一層の努力をしていく」と決議した。 また、東京・千代田区では安倍首相と親交がある小説家の百田尚樹氏も出席する別の集会も開かれ、憲法改正の早期実現を求めた。百田氏は講演で、「日本も世界も大きく激変したのにもかかわらず、憲法を67年間、一度も変えてないのはありえない」などと訴えた。 一方、憲法改正に反対する市民団体なども合同で集会を開いた。参加者らは「憲法9条を壊すな」と訴え、安倍政権が進める憲法解釈の変更による集団的自衛権の行使容認は断じて認めることはできないなどとするアピールをまとめた。 共産党・志位委員長「安倍政権の狙いは、集団的自衛権の行使、多国籍軍への参加、この二本柱で、海外で戦争をする国をつくろうと。海外で戦争をする国をつくるなんてことは絶対に許してはならない」 また、社民党の吉田党首も、「解釈改憲も明文改憲も許すことはできない」と強調した。
出典:日テレNEWS24
前述のNHK「ニュース7」でも使った「護憲派」と「改憲派」という区分とよく比べてみてほしい。
日本テレビは「改憲派」を憲法改正への「賛成派」とし、「護憲派」を憲法改正への「反対派」と主従を逆転させた。
一般的に人は「賛成派」にはポジティブな印象を持ちがちだ
他方で「反対派」にはネガティブな印象を持ちやすい。
これでは「憲法改正」への賛成派が世の流れで、こちらを支持せよと暗黙にいわんばかりの報道だ。
これは世論の「誘導」を狙ったような”区分”とも言えるのではないか。
昨年の参議院選挙では「ねじれ解消かどうかが争点」と報じたテレビ局が世論を誘導した疑いがあるが、今回も同様に人々を憲法改正「賛成」へとやわらかく誘導することにつながるのではないか。
言うまでもなく、ニュースの言葉づかいはなるべく「客観的」「公正中立」というのが鉄則のはずだ。
そうした報道のセオリーがこうしたちょっとしたニュースでも守られていない。
NHKの「ニュース7」のように、護憲」が主となり、「改憲」が従の順番で報道するのが正しい報道のセオリーのはずだ。
それなのに日本テレビは見出しから「主従を逆転」させた。
「こちらが世の流れですよ」と誘導するかのような報道だと評価できる。
報道のセオリー違反というだけではない。
国論を二分するデリケートな問題なのに、視聴者にまったく説明せずにこうした報道を人知れず行っているのが”姑息”に感じる。
まるで国民が気づかぬ間に進めようとする「解釈改憲」に通じる姿勢だ。
変えるなら視聴者に向かって堂々と宣言してから変えてほしい。
なぜ、百田尚樹氏が?
しかも自民党幹部や共産党、社民党の党首がそれぞれの主張した言葉を紹介しただけでなく、安倍首相と親交が深い小説家・百田尚樹氏の言葉を紹介した。
「日本も世界も大きく激変したにも関わらず、憲法を67年間一度も変えないのはありえない」
「人間のくず」というような過激な発言でNHKの放送委員としての適格性を疑われるなど物議を醸している百田氏。日テレはなぜこの憲法記念日に行われた様々な集会のニュースで政治家以外の声として百田氏の発言だけ特別扱いで報道したのだろう。不自然すぎる扱いだ。
日テレによる百田氏の不自然な起用は他にもある。3月9日の東日本大震災から3年の特別番組では進展しない原発事故への対策などを紹介した取材VTRの後でゲストコメンテーターの百田氏に「大空襲も10年で復興したから、本気出せば10年で復興できます」と言わせている。廃炉まで最低40年かかるというのに、安倍首相にも通じる根拠なき楽観論を示した。
この人物の発言を番組の大事な場面でさりげなくはさみこむ日テレの最近の報道。
彼のような発言を入れるならば違う立場の発言も入れるのが鉄則だが、憲法記念日のニュースでも彼は政治家以外で出てきた唯一の有識者だった。
これでは日本テレビに世論を誘導する意図があるのでは、と勘ぐられても仕方あるまい。
水島宏明
法政大学教授・元日本テレビ「NNNドキュメント」ディレクター
1957年生まれ。東大卒。札幌テレビで生活保護の矛盾を突くドキュメンタリー 『母さんが死んだ』や准看護婦制度の問題点を問う『天使の矛盾』を制作。ロン ドン、ベルリン特派員を歴任。日本テレビで「NNNドキュメント」ディレク ターと「ズームイン!」解説キャスターを兼務。『ネットカフェ難民』の名づけ 親として貧困問題や環境・原子力のドキュメンタリーを制作。芸術選奨・文部科 学大臣賞受賞。2012年から法政大学社会学部教授。
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