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「外国人労働者・移民大量受け入れ」は時期尚早、日本人の低賃金化招く愚策である
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20140504-00000542-san-pol
産経新聞 5月4日(日)21時4分配信
■「人口問題」はもっと慎重に
日本において人口問題は、国家・産業の盛衰や食糧・住宅事情などに応じて、昔から論議を呼んできました。総じて戦前は過剰対策としてハワイやブラジルなどへの移民が奨励され、戦後の経済成長期は、産業間の移動と農漁村から商工業都市への移住が比較的機能してきたようです。
しかしここへきて、少子高齢化の行き着く先を短絡的に労働力不足に結び付けて、海外から労働者を招くとか、移民受け入れの法制化の提議までとみにかまびすしくなってきつつあり、いささか冷静さや長期展望施策を欠く尚早論が目立ってきています。
人口構造に関しては、静態・動態両学問を踏まえた人口理論と政治・経済・科学・文化各界の長期戦略が、総合的観点から打ち立てられるべきものだと考えます。総務省や厚生省の提示するほんの一部のデータだけを鵜呑みにし、しかも中身を読み違えているとしか思えないような論点を掲げて騒ぐだけのジャーナリズムや、それらに踊らされる一部政治家に、わが国の未来を託してよいのだろうか。特に「人口動態学」の専門家の提示する多角的観点からの諸々のデータをほとんど目にできないこと、さらにそうしたデータを対比分析した深みのある論評に出くわしたことがないことに、一抹の危惧を抱いています。
■「生産年齢人口」数値のとらえ方に大誤算あり
まず、生産年齢人口(15〜64歳)の取り上げ方に大きな誤謬があることを痛感します。1960年代には、中学卒で就業した人は半数はいたでしょうし、進学した人も8割は高校卒で就職していたでしょう。つまり15〜18歳の就業率は、ざっくり見ても9割近かったわけです。
ところが、きょうこのごろ、中卒後の高校進学者が90%以上、高卒後の大学(短大・専門学校含む)進学者が60%弱ともいいますから、同じ15〜18歳の就業率は、ざっくり見て約3分の1と激減しているのです。しかも、通年で55%にも及ぶ大学卒や中退者のうち何割かは就職浪人と称して、海外や遠隔地へ「自分探しの旅」に出たり、あるいは希望の職種に出合わないといってニートや家庭待機の道をゆく人も多く、あるいは、大学院進学や海外留学などの道を選んで、22歳を過ぎても就業していない人が急増しているといわれています。
また、64歳と言う区切りに関しても、60年代頃は、ほとんどの会社で55歳とか60歳定年でしたから、当時の実生産年齢は10年分もゲタをはいている、といっても過言ではないでしょう。
従って、もし昔と今と、より正確な数字で生産年齢を計算するなら、60年代は15〜57歳でカウントした数字と、現代なら20〜67歳で計算した数字を対比すべきだろうかと思われます。
実際に計算してみると、現代の方がかなり生産年齢人口の数字は大きいことがわかります。しかも10〜20年後を予測すると、60年代では女性の寿退社が多かったのに対し、これからは女性労働力(一説に数百万人の余力といわれています)がますます活用されていくでしょう。さらに、健康でもっと働き続けられる定年退職者も増えているので、そうした労働力(一説に1千万人以上)をもっと活用すれば、生産年齢人口は当面維持できると考えるのが妥当ではないでしょうか。
政治もジャーナリズムも、もっと現実に即した数字をとらえた上で冷静かつ知的な論議を展開していただきたいものです。
■人口減でも生産性は落ちない
一方、社会文化的な時代の転換にも留意すべきかと思います。産業別の労働力人口の移動を見ると、60年代は第一次産業から第二次産業への急激なシフトが起こりました。それに対し、現代では製造業の生産性向上や機械化の進展もあって、主要労働力が大きく第三次産業へとシフト中です。しかも、その過程で産業間の労働者過不足が一時的に生じています。つまり、人手を食う産業構造の時代から、製造ラインの自動化やロボット・IT機器の活用が進み、人手が効率化・高度化された時代への大きな流れを読み解いておく必要もあるのです。
また、人口が減少しても、1人あたりの生産性は落ちないという説が有力で、需要が減っても労働者1人当たりの価値は増し、賃金は安定し続けるともいわれています。人口減=消費減の結果、無理な生産増の必要性もなくなり、労働時間が短縮することで十分な余暇が発生し、逆に消費を増やす効果も考えられるのです。経済成長論者の仮定は、人口が多いと労働賃金を低く抑えることができるとしますが、それは、現代米国の悲劇でもある貧富格差を大きくするだけで、好ましい未来図ではなさそうです。
さらに、少子高齢化を社会保障面から問題視して、短絡的に「若者に過大な負担がかかる」との論議が多いようですが、これも疑問です。すでに論じてきたように、昔は15歳から(18歳からは大半が)働いて納税していたのに、今は20歳すぎまでほとんど就労しないわけで、負担どころか、60代でも元気で働き、納税している方々(一部は親)に(子が)養ってもらっているという逆転事象にこそ、注目すべきではないでしょうか。
■治安悪化、人権問題招く
こうした観点からみても医療介護分野とか、オリンピック特需対策などをあげ、安易な外国人労働者受け入れ拡大とか、一足飛びに大量移民受け入れ制度まで課題にするのは、あまりにも性急です。近視眼的な愚策で、長期的な観点から日本人の低賃金化まで強いるどころか、雇用をも奪ってしまうことになりかねません。ひいては治安の悪化、人権問題を招き、それが風俗文化や社会システムの崩壊につながる…といった国家的損耗を招く恐れもあります。こうしたことを事前に吟味することが重要です。
重大な影響が国柄にまで及びそうな政策こそ、国民を挙げての慎重な議論を重ねてからにしてほしいものです。東京が世界でも最大規模の都市でありながら清潔さと治安の良さ、加えて高い文化・文明力を評価されている裏には、日本特有の文化的同質性があることを忘れてはなりません。
カナダは「中国人締め出し」に
また、これまで移民を是として経済成長と雇用の弥縫策を講じてきた欧米先進諸国が、大きな岐路にさしかかっていることも指摘しておきましょう。所得や教育格差の拡大、貧民人口急増と社会福祉問題、宗教対立、治安悪化などが国家的命題にまで及んでいるのが現実です。英独仏における労働市場対策と移民制度見直しが功を奏し始めている一方で、スペイン・イタリアなど南欧の手遅れが社会問題を惹起し、経済まで損傷しているのが目立ちます。
このところ、もともと移民国家である米国やカナダでも新たな規制とか移民法修正が政治課題となりつつあります。たとえば語学力の検定や、申請条件を厳しく改定(投資額・財産保有額を高くし、居住歴を長く)するなど、移民対策を強化しています。特にこれまで移民に寛容だったカナダでは、急増する中国系移民(バンクーバー圏の18%、市内は29%が中国系とか)に対する国内反発が激化し、これまでフリーパスだった投資移民が、昨年度は申請の8割以上も却下されるなど中国人締め出しが表面化し、論議を呼んでいる始末です。
■「女性」がカギ
そのように禍根を将来に残すような大罪を犯す前に熟慮断行すべきことが多々あります。少子化に歯止めさえかかれば、人口減少の仮定論はまず崩れるわけですが、それ以前に、わが国では、労働生産性を上げてゆく施策すら十分に検討しているようには見受けられません。ましてや長期育児休暇制度と保育園や介護施設などの整備・充実による女性労働力の活用や、健康な高齢者の活用(米国では70歳まで雇用義務があります)など人事労政の抜本改革策も、話題に上るだけで具現化の施策がほとんど打たれていないのが現状ではないでしょうか。
特に、女性の活躍水準が国際的に極めて劣等なランク(世界経済フォーラムの男女格差報告で136カ国中の105位。管理職女性比率平均は2%前後)にあることを踏まえて、より柔軟な働き方を許容する方向へ導くことが急務といえましょう。
■人口減福祉のモデルはスイス・ドイツに
企業の生産サービス活力を維持するには、市場のみならず資本も働き手も海外の現場で求めるという方式も考慮すべきだと考えます。すでに円高対策としての海外進出がかなり進んでいる中、現在のビジネスモデルを見直し企業自らが変身することで、人口減に備えることも重要となってくるでしょう。
国内の社会システムの改良面からも、外国にすばらしい模範事例が増えてきています。たとえばスイスには、高齢者と身障者が一緒に暮らし、幼少児校、ホテル、イベント会場などが計画的に配置されている多世代複合型居住コミュニティがあります。ドイツにも高齢者と若い世代が趣味を共有したり育児をしたりして、支え合い交流できる集合住宅があります。これらに注目し学ぶべきでしょう。
従来の福祉といえば、身障者や高齢者の支援の拡充と分配だけが進められてきましたが、少子化で支え手となるべき世代が減少する中、多世代が地域の歴史・風習などを共有し、支え合う住まい方への関心が世界的に高まっていることにも注目すべきで、産業型福祉ビジネスの出番でもあります。政官民とマスコミ界の早期覚醒を期待・切望する次第です。(上田和男)
■上田和男(こうだ・かずお) 昭和14(1939)年、兵庫県淡路島生まれ。37年、慶応大経済学部卒業後、住友金属工業(鋼管部門)に入社。米シラキュース経営大学院(MBA)に留学後、45年に大手電子部品メーカー、TDKに転職。米国支社総支配人としてカセット世界一達成に貢献し、57年、同社の米ウォールストリート上場を支援した。その後、ジョンソン常務などを経て、平成8年(1996)カナダへ亘り、住宅製造販売会社の社長を勤め、25年7月に引退、帰国。現在、コンサルティング会社、EKKの特別顧問。
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