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『私は負けない 「郵便不正事件」はこうして起きた』(村木厚子/中央公論新社)
検察・警察、相次ぐ冤罪・不祥事に薄い反省色 なぜ取り調べ「全事件」可視化に抵抗?
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20140504-00010004-bjournal-soci
Business Journal 5月4日(日)17時30分配信
取り調べの可視化や捜査・公判の在り方の見直しについて議論している法制審議会「新時代の刑事司法制度特別部会」で、これまでの議論を踏まえた事務局試案が提示された。注目されている可視化に関しては、一定の事件を対象に、身柄拘束されている被疑者の取り調べの全過程を録音・録画することを義務づける案が示された。しかし、対象事件を巡って、委員の意見は割れている。弁護士や民間の委員は、裁判員裁判に限定せず、他の事件を含めるよう求めているが、警察や検察関係の委員(OBを含む)、学者らが強く反対して、可視化をできるだけ限定的にしようとしている。その一方で、通信傍受の拡大や司法取引の導入など、捜査側が求めてきた事項が試案には大幅に盛り込まれた。冤罪を防止するために始まったはずの特別部会だが、その「初心」はどこかに置き去りにされているようである。
●生ぬるい法制審議会の試案
事務局試案では、対象事件として、裁判員裁判対象のみのA案と、裁判員裁判対象事件に加えて、身柄拘束されている全ての事件の検察官取り調べを録音・録画するB案が提示されている。
裁判員裁判となるのは、殺人、強盗致死傷、現住建造物等放火、身代金目的誘拐、危険運転致死など、最高刑が死刑または無期懲役刑となるごく一部の事件に限られている。平成24(2012)年中に起訴された人は全部で75,132人いたが、そのうち裁判員裁判対象者は1.9%の1,457人。A案を採用すると、裁判員裁判とならない98.9%の事件では、録音・録画が義務づけられないことになる。いわゆる痴漢冤罪や、4人が誤認逮捕され2人が虚偽の自白に追い込まれたPC遠隔操作事件、強姦・同未遂事件でやはり虚偽の自白に追い込まれた男性が懲役3年の実刑判決を受け服役を終えた後に真犯人が分かった氷見事件、警察が選挙違反をでっち上げた志布志事件などは、可視化の対象にならない。
B案を採用したとしても、警察は裁判員裁判対象以外は、録音録画が義務づけられない。殺人事件であっても、最初に被疑者を死体遺棄容疑で逮捕した場合は、肝心の初期供述が記録されないことになる。断ったり退席したりすることができにくい状況下で受けた「任意」取り調べも、現在の案では記録されない。冤罪事件の多くで、警察の取り調べの際に虚偽の「自白」に追い込まれており、「任意」の段階で「自白」させられた人も少なくないことを考えると、法制審特別部会の試案は、A案B案共に、冤罪防止策として、生ぬるすぎると言わざるをえない。
また、A案が採用となれば、特捜検察による事件が対象とならず、録音・録画大阪地検特捜部が厚労省局長だった村木厚子さん(現同省次官)を逮捕・起訴した郵便不正事件も対象外だ。そもそも法制審特別部会は、郵便不正事件をきっかけに作られた「検察の在り方検討会議」の提言を受けて、取り調べの可視化などの制度作りを議論するために作られた。この事件では、虚偽の証明書を作成した同省係長やそれを悪用した自称障害者団体幹部ら逮捕された被疑者だけでなく、「任意」の取り調べを受けた同省関係者たちも、村木さんを有罪にするための、事実と異なる調書を作成されていた。この事件からは、身柄拘束を受けている被疑者のみならず、参考人の取り調べの際にも、少なくとも録音記録は残しておくことの必要性が浮き彫りになった。
村木さんのようなケースが起きることを防ぐために始まった制度改革の議論なのに、村木さんの事件を排除するような制度を作ろうと言う人たちは、原点を忘れているとしか言いようがない。警察や検察は、もっと過去の間違いに学んでもらいたい。
●捜査当局が固執する取調官の裁量権
検察側によれば、裁判員裁判対象事件のほか、特捜部による独自捜査事件、被疑者が知的障害者・精神障害者である場合には、取り調べの録音・録画の試行を行っており、それを本格実施する、としている。つまり、検察側の裁量で行うので、義務化は勘弁してほしい、ということだ。
かつての対応に比べれば、検察のそうした姿勢は前進と言ってよいだろう。しかし、東電OL事件や袴田事件など、多くの冤罪事件で検察が行ってきた証拠隠しなどを思い起こせば、そして、その証拠隠しを今なお検察が反省をしていない現実を考えれば、検察官の裁量に頼る制度は危険すぎて、とても賛同できない。
本来は、すべての事件について、「任意」段階や参考人の取り調べも含めて、録音・録画を行うのを原則にすべきだろう。その原則は、最終的な提言の中で明記する必要がある。そのうえで、予算その他の事情ですぐに全事件を対象にできないならば、過渡的な措置として、現在可能な範囲で、できる限り対象事件を広げる努力をしてもらいたい。少なくとも、被疑者・弁護人が請求した場合は、捜査機関は録音・録画に応じる義務が生じる、という点は、盛り込まなければならない。
また、捜査に関わる可能性のある警察官すべてにICレコーダーを配り、目撃証言などは捜査の当初から、録音記録を録り、メモと同じように、裁判が終わるまで保管することにすべきだ。
冤罪を防ぐことは、事件の真相を解明するうえでも大切だ。特別部会は、その原点に立ち返って前向きな議論をやってもらいたい。
江川紹子/ジャーナリスト
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