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法務省試案では取り調べは可視化できない
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ニュース・コメンタリー (2014年05月03日) ビデオニュース・ドットコム
国連の拷問禁止委員会で「中世」とまで酷評される日本の刑事司法制度。その改革を議論している法務省の諮問機関に4月30日、法務省から最終答申の試案が提示された。この諮問機関は司法関係者が多数を占めることもあり、よほど世論の反発が無い限り法務省の試案がそのまま最終答申に反映される可能性が高い。
この試案は刑事司法の改革を議論している「捜査と公判の在り方を見直す法制審議会」の特別部会に、事務局を務める法務省から最終答申のたたき台として提示されたもの。警察及び検察に対して取り調べの録音・録画の原則義務づけが謳われており、一見本気で可視化を進める意図があるようにも読める内容となっている。
実際、マスコミ報道でも「可視化義務づけ」などこれを評価する見出しが躍っている。
しかし、古くから取り調べの可視化を提唱し続けている指宿信成城大学法学部教授は、この試案で可視化が進むかどうかについて疑問を呈する。それは試案が原則として可視化を謳っているものの、様々な例外が設けられており、しかも例外を適用するかどうかの判断が警察、検察側に委ねられているからだ。
確かに試案では取り調べの可視化について、逮捕から起訴までの全過程で録音録画を行うよう義務付ける案が提示されている。しかし、まずその大前提として、裁判員裁判のみを対象とするA案と、検察官の取り調べについては身柄を拘束する事件すべてを対象とするB案との2案が出される中、検察や警察関係者がB案に反対の意見を表明しているため、最終的にはA案の裁判員裁判の対象事件のみが可視化の対象となる可能性が高い。
これは例えば本審議会の委員を務める村木厚子厚労次官が冤罪被害にあったような郵便不正事件や、同じく委員を務める周防正行氏が監督した映画「それでもボクはやってない」のテーマとなった痴漢事件、またそもそも今回の制度改革が必要とされたきっかけとなった志布志事件や4人の誤認逮捕と2人の無実の被疑者の自白まで生み、現在公判が進む遠隔操作ウイルス事件などは、いずれも可視化の対象にならないことを意味している。そもそも裁判員裁判の対象となる事件は、起訴された全事件の3%に過ぎない。
また、司法改革の大きな論点の一つだった検察による証拠開示の義務づけについても、試案では日弁連などが求めていた証拠の全面開示ではなく、証拠一覧、つまり証拠そのものではなく、そのリストの開示に止まっている。しかも、この点についても、録音録画同様、検察官は「犯罪の証明又は犯罪の捜査に支障が生じる恐れがある」時は一覧を開示しなくていいとなっており、リストすら開示されない可能性もある。
いずれも事実上の無限裁量を警察や検察に認めるもので、改革どころか改悪である。これでは典型的な「総論賛成、各論反対、実質ゼロ」どころか、実質マイナスの火事場泥棒である。
今回の試案では可視化以外の部分では、盗聴対象事件の拡大や自白や証言を得やすくするための司法取引や刑の軽減制度など、あたかも可視化や証拠開示で譲歩したことの交換条件として、数々の捜査権限の拡大が謳われている。可視化や証拠開示も実質ゼロか、むしろ捜査権限の拡大に寄与するような内容で、その上、更に捜査権限の拡大を図ろうとしているというのだから、その厚顔無恥ぶりにはまったく驚きである。
今回刑事司法のあり方を議論している法制審議会の特別部会はそもそも元警察幹部や検察幹部などの利害当事者が多数派を占めるお手盛り有識者会議だ。そのような会議の人選を許している自民党政権も、またそのようは根本的な問題を指摘せずにデタラメな試案を法務省側の意図に沿ってもっともらしく報じているマスコミも、一体全体日本の司法制度が本当にこのままでいいと考えているのだろうか。それとも彼らもまた利害当事者ということなのだろうか。
法制審議会特別部会に提出された刑事司法改革案の試案の中身とその背景について、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が指宿教授と議論した。
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