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本書は、孫崎さんや山田正彦さんらを始めTPP阻止国民会議のメンバーの方々が各自の専門分野からTPPが網羅する29分野(貿易は5の分野に過ぎない)に関して執筆された最新の国内外のTPPの批判的研究の集成である。米議会のTPA(貿易促進法)のオバマへの授権無しにはTPPは頓挫するが、事前協議などとメディアが曖昧に呼称している並行協議で、其の内容自体は実現できることがパッケージ合意方式のために確定している。
現在、米帝は台湾でTPPの宣伝を大々的に展開し、中台サービス協定(中台FTAの一部)が、TPPへの入場料ではないなどという洗脳キャンペーンを行い、中国危機論を今度は利用して、TPPの内容と問題点を全く知らされていない台湾人民を騙している。関税の撤廃だけが、二国間FTAやTPPの問題の核心ではないのだが、大衆はミスリードされている。貿易協定といいつつも、TPPにしても貿易は五項目しかない。非貿易関税の領域こそが本丸なのである。だから、貿易協定という名称自体が本書でも疑問視され論議される。実際、ECFAも他のFTA同様に、欧米の主として米国の多国籍企業が、中国や台湾の身分を利用して暴利を貪れる構図であり、米帝としてはECFAが実は便利であるが、先の学生運動の影響で、それが頓挫しても、逆に中国脅威論を煽って、米台FTAとTPPを鵜呑みにさせようと画策している。これが、本書でもカバーされていない隣国の最新のTPP情勢である。日本と共通するのは、日本でも中国脅威論がTPP推進のプロパガンダに悪用されている。つまり、ナショナリズムでTPPに無知なままの国民を騙し、経済的な利益は無きに等しいどころかマイナスであるのに、日米友好という空言を「 国益 」 として喧伝し、TPPを鵜呑みにさせようとしている。このTPP宣伝の手口は、本書で指摘されている通りである。
Trans-Pasificとは、米帝にとって太平洋を跨ぐこと、太平洋を越えてアジアにキャッシュ・カウを確保し、アメリカの企業本位の制度改革を全面的に行うという事である。TPPは、米帝によるアジア太平洋地域の管理貿易政策であり、名称の自由貿易協定などではない。
さらに、其の反面、FTAやTPPもアメリカの国内法では実は無効であり、地方自治体にも適用されていないし、アメリカ自体の産業保護政策は維持されたままである。ISD条項の訴訟も、本書では、1994年のNAFTA以降、45件が記録されていることが判明し、アメリカ企業は2014年現在まで全勝であり、不敗体制が立証されている。ちなみに、ISD条項は世界2807の投資協定において、309の自由貿易協定に採用され、1989年から1999年の間で、1500近くに増え、激増し、2011年末で450件もISD訴訟があり、日本の30の協定にもISD条項は入っている。しかし、問題は、先進国同士の史上初の自由貿易協定であるNAFTAと米韓FTAのケースであり、TPPはまさにその発展形である。ここで、先進国同士に於けるISD条項の既成の訴訟事件との峻別は不可欠である。
TPPの始まりは、1985年の新自由主義政権中曽根とレーガンのMOSS協議(市場分野別個別協議)であり、対日経済構造への米帝の干渉である。次は、1989年の日米構造協議、2001年からの「成長の為の日米経済パートナーシップ」に基づく、米通商代表部の対日年次改革要望書であり、TPPは其の内容を全て実現するためのものである。例えば、郵政改革も、労働派遣法改正も、全ては日本の貯蓄資産と賃金を米国債購入や株式配当へ転化させる為というのが米帝ご要望の構造改革の黒い本質である。
TPPの問題となる各分野の標的:公立学校、学校給食、軽自動車、診療、公立病院、インターネットアクセスの自由、食品の成分表示、公共事業、新薬特許、安全審査、禁煙、地方及び中小企業の助成、育成、補助、保護などの業務政策一般、残留農薬規制、食品添加物の規制、エコカー補助金、農地及び自立した食糧生産、SPS(衛生植物検疫)、車検制度、ジェネリック薬品、種子などの特許、臨床データ、(ドイツが訴えられたように)脱原発、最低賃金法、中でも、金融と保険とサービスと映像メディアと通信とインターネット業務は米帝の未来を担う最重要項目(先端産業)である。標的は米帝にとっての衰退産業も先端産業も含む。これらにおける目的をISD訴訟で、NAFTAや米韓FTAでの既成事実の如く、相手国の政府を脅迫して全て受け入れさせるのである。
米帝は、TPP交渉で、多国籍企業の顧問500名程を参加させ、その草稿を作成した上に、さらに希望リストを貿易アドバイザーに登録されている多国籍企業600社以上に作成させビジネス化している。また、TPP交渉で採用されているパッケージ方式は各分野と全体でまず合意されてから、議論を進めていくという不合理な方式である。
TPPの影響評価は、農産物での関税全廃で主要農産物生産が42%衰退させられるが、アメリカの関税率は既に低く(0.5から2.5%)、日本の自動車の生産比率は75%がアメリカ現地での生産販売である。つまり、強欲経団連の自動車分野に於ける狙いは米韓FTAで立証済みのように、第三国への米帝を介した攻勢である。(トヨタは昨年、韓国で米産の輸入車としてカーオブザイヤーを受賞した)日本の対外輸出の品目で、自動車や家電は、GDP比で1.7%過ぎないのに、優遇されるのはおかしい。又、最大の盲点は日本に物品ルール以外に何も要求するものがないという事である。
特筆すべきは、TPPの本丸は知的財産権にあり、特許独占による各分野での覇権体制の確立の為に、米国の多国籍企業が希望リストを米通産省に提出している点である。またそれは、投資、国営企業、CD等の並行輸入禁止、法的損害賠償金、データ保護(医薬品の販売の為の審査に必要な臨床データの排他的独占に依り、ジェネリック開発販売までの特許期間を際限なく延長するため)、診断治療法、においや音への商標権、インターネットでの違反者のネット接続遮断、医療器械使用への特許料の付与など最大多数の項目及び広範囲に及ぶ。特に、米帝の特許ビジネスの覇権確立のために、途上国を含めたジェネリック薬品の恩恵が喪失される。もはや、純粋な貿易の分野を超えて医療の分野に干渉しているのは異常事態である。TPPは、際限のない特許ビジネスの拡大策なのである。それは、必需品から富裕層以外は疎外され、社会権を侵害されてしまう事を意味する。
川島氏は、こう指摘する。「非関税障壁と呼ばれる医療や各種保険、教育、法律等のサービス部門に関する日本の規制を取り除きたいというのが、アメリカの最大の狙いです。」(P.82)
つまり、知的財産権(ジェネリック薬品と医療器具と診療方法等の特許ビジネス上の問題)と混合診療と株式会社経営の病院の問題は全て一体化した事項なのである。ただの、貿易の関税云々の貿易の領域からは甚だしく逸脱している。これも、病院の株式会社化で、利益を金融商品へ転化するためである。米帝は、日本の社会構造を多国籍企業の株式や米国債購入へと傾注させるために全てを再構成しようとしている。
TPP第六条の貿易救済措置では、輸入制限は未来永劫一回しか許可されず、暫定的であり、危機に全く対処できなくなる。そして、スナップバック条項が、日本にも課せられ、米帝とのTPP協定に違反したと見なされたら、重課税による報復がなされる条項もTPPにはある。
又、国営企業の定義の拡大で、株式保有率に関係なく、政府が役員の決定権等を持っていれば、国営企業扱いされ、民間企業との待遇の画一化が要求される条項があり、もはや属国の傀儡政権を使って際限のない民営化をさせる手間が省けるのである。
中でも懸念するべきは、透明性に関する章で、海外の多国籍企業を法案可決の過程でコメントさせ、立法行為に干渉させる事を規定した条項があり、各分野に適用される。危険なのは、ISD条項だけではない。
さらに、この条項自体が元々司法権侵害な上に、ISD条項の濫訴防止制度がなく、間接収用や最低待遇基準で提訴可能なまま維持される。司法権の剥奪は、部分的であれ、主権独立の否定である。そして、剥奪された国は独立国でなく、属国へと転落する。TPP、ISD条項が司法権侵害であることは、2012年の政府報告で除去されたが、反対派はこれを強調せねばならない。
幾つかの最重要ポイントをここで纏めると、1)米帝はEUとのTTIP(大西洋経済連携協定)では、秘密主義ではなく、情報開示を認めている。TPPのようなブラックボックス協定とは正反対である。2)全米50州の州法や連邦法にFTAなどの国際協定遵守の義務はなく、強制力も効力もないという法的な甚だしい不平等がある。3)米とのFTA締結国は対米赤字が深刻であり、輸出は減少している。4)米国の市場の大部分は、TPPやFTAで除外される防衛分野である。5)NAFTAにしても、最初は貿易協定で、それから投資協定に変質し、最後に安全保障協定に変化した。6)米韓FTAで、韓国側は23:16:18:9の法規法令を変更させられたが、米国はゼロである。7)日本政府は、日米協議に関して多くを国民に知らせていない。例えば、アメ車を各種ごと5000台も簡易通関で輸入枠を投げ与えることを米側に一方的に通告したという。正に、ナショナリズムで偽装した売国行為である。全て不利な条件は、日本が一方的に言い出したと言う形で米側に解釈されている事が判明している。
では、このような米帝による非関税障壁分野から切り込み、最終的に他国の国家制度や慣習までも変更し、市場を完全に掌握しようとする新植民地主義=新自由主義に対して、他の選択肢はあるのか? それに関して、本書で岩崎氏が警句という形で言及されている。「グローバル化に対抗するものは、地域循環型とか地産地消、金融取引税による投機マネーの制限、あるいは社会民主主義、会社から恊働組合経営への転換等が考えられますが、ISDを入れる限りこれは全て吹っ飛んでしまいます。」(P.154)
TPP阻止国民会議の方々に感謝致します。本書は、全日本国民必読の書です。
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